BO-BOBO
時間稼ぎ
もう、限界だ。
先程までの激しい戦闘でボロボロな上に、担がれて投げ捨てられた痛みが全身に響いている。真拳を使うどころか、うつ伏せの状態から姿勢を変えることも、腕を動かすことさえも痛みが伴う。
それなのに相手はまったく疲れていない。百年前の世界とは比べ物にならない強さの敵だ。こんなんじゃ、三大権力者の一人が聞いて呆れる。
「動かなくなっちまったな。死んだか?」
「おいおい、生け贄なんだから殺すなよ」
宇治金TOKIOや覇凱王よりも小さな体をした袋が口々に言い合う。その中でも年長者らしい風貌の袋が、一歩前に出て言った。
「なぁに、大丈夫だろ。ほら」
瞬間、脇腹に激痛が走る。蹴られたのだと気付いたのは、痛みの後だった。体が小さいぶん足も小さく、万全の態勢なら衝撃も感じないはずなのに、今はそれすらも受け止めきれない程消耗していたことを思い知る。
「ぐっ…!」
痛みに耐えかねて思わず声を漏らすと、親父姿の袋は得意気に笑った。
「ほらな。まだ生きてるだろ」
「なんだ、死んだふりかよ。何なら本当に死ぬくらい痛めつけてやろうか?」
死んだふりも何も、本当に動けない。しかしそんな弁解をする暇もなく、三つの袋がそれぞれ蹴りを入れてくる。腹から喉へ、血の味が広がってきた。
そんな様子を見ていた三つ目の男が、しばらくしてから諌めるように口を挟む。
「そのへんにしておけ、力の無駄遣いだ。それに寄ってたかって男ばかり痛めつけるな、それはLOVEの専門だ」
「あら、人聞き悪いわね。私はもっといい男が好みなのに」
LOVEと呼ばれた女は、わざとらしく溜め息をついて歩み寄ってくる。そして俺の前でしゃがむと、得体の知れない物を触るかのように指でつんつんとつついた。蹴られた瞬間の激痛は収まったが、代わりに鈍い痛みが断続的に襲ってくる。
「LOVEの場合は『いい男』と書いて『筋肉質の男』と読むんだろ」
おもちゃを取られた気分なのだろう。袋のうちの一つがつまらなそうに言った。LOVEはそれを意に介さず、むしろ調べるかのように筋肉のつく部位を順番につついていく。
「だってこの子、クリムゾンよりひ弱なんだもん。ハロンオニといい勝負ってトコかしら」
「お前、無いとは思うけど味方までコレクションにするなよ」
三つ目の男が半ば引いたような声色で釘を差した。そういえば地上での戦闘の最中、こいつがクリムゾンと名乗っていた気がする。ハロンオニとかいう奴は見ていないが、こいつらが四天王のうちの三人なのだから、ハロンオニは残りの一人だろう。
やがて気が済んだのか、地味な攻撃の手が止んだ。立ち上がる気配がする。こつりこつりとヒールの音が遠ざかる。その方向は…右側。嫌な予感がする。
「私はそれよりも、この女から始末したいわ。男なら私の闇拳で支配できるけど、女は邪魔なのよねぇ」
ヒールの音が止まると同時に、その口から残酷な声がした。
『この女』が誰を示しているのかは明白だ。痛みで首も動かせず、見ることもできないが、俺の右隣で同じように倒れている彼女。俺と共に戦って同じように傷だらけになった、俺の部下。
「なぁに、その睨んだ目。這いつくばってもう戦えないのに、もっといじめてほしいのかしら」
その挑発は俺に向けられたものではない。見えないがおそらく、レムが奴らに反抗的な視線を向けているのだ。もう戦えないとしても気持ちだけは屈しない、と言わんばかりに。
「…い…っ!?」
「痛いでしょう、つらいでしょう?顔に触られるだけで痛むのに、これ以上抵抗できるのかしら?」
レムの小さな悲鳴と、それに重ねるように響く敵の声。下卑た笑い。
彼女の苦しむ声は聞きたくなかった、のに。
「…きゃあっ!?」
瞬間、甲高い声が響いた。それはレムのものではなく、驚いた敵のもの。
何ということはない。レムに触れている忌まわしい指先を、ポリゴンに変えてやっただけだ。だがLOVEは不意討ちなど予想外だったらしく、熱いものに触れた時のように手を引っ込める。
残念ながら力が続かずすぐに剥がれてしまったけれど、それは良い牽制になったらしい。LOVEだけでなく他の奴らも一瞬怯む。
「コイツ、やっぱり力を隠していたか!」
袋たちは気が動転したかのように、止めていた蹴りを再度強めてきた。それを左手で払うようにして、同時にポリゴンを放つ。しかしそれはすんでの所でかわされてしまった。俺も決して力を隠していたわけではなく、咄嗟に湧き上がっただけだ。力の差は歴然で、今戦っても悪あがきにしかならないだろう。
それでも、あいつらがレムに触れることだけは許せなかった。
「レム、生きてるか」
「…っ、はい…」
ポリゴンで蹴散らしたことで、敵は俺たちから少しだけ距離を取った。これなら小声で意志疎通が図れる。痛む体に鞭打ってレムのほうを見ると、痛みを耐える弱々しい声とは違い、凛とした視線と目が合った。こいつらを地上に解放してはいけない、という正義感は今も変わらずにある。
だとしたら、最悪の事態は防げるかもしれない。
「這ってでもいいから、ワープ装置に乗れ。地上に危険を知らせろ」
端的に告げた最後の作戦。
しかし彼女の瞳は戸惑いの色を隠せずに揺れた。
「ら、ランバダ様は…」
「俺はこいつらを倒す」
「でも、その傷…!」
今にも泣きそうな、悲痛な表情。
だが、彼女が言い終わる前に俺は言葉を重ねた。
「俺が戦ってるうちに行け。命令だ」
言い終わると同時に、頭上に何かを投げられた気配。咄嗟の判断で庇うようにレムの上に覆い被さる。背中を爆風が掠めてヒリヒリ、ズキズキ、痛い。思わず顔をしかめると、腕の中の温もりがより一層悲痛な叫びを上げた。
「嫌ぁ…っ!!やっぱり私も、」
「…っ。いいから、逃げろ」
優しく、言えただろうか。
掠れる声で絞り出すように言ったそれだけが、今の俺の願いだった。
もう動けないはずなのに、さっきはレムを守ろうと反射的に技が出た。それならきっと、もう少しだけならこんなボロボロの体だって動くはずだ。いや、ここで動かなければ守れない。
決意して、ゆらりと立ち上がる。そしてレムを助け起こすと、ワープ装置のほうへ向けて背中をとん、と押した。その行動で袋たちは察したらしく、驚きどよめいた。
「あの傷で立ち上がった!?」
「しまった、逃がすつもりか!?」
「狼狽えるんじゃねぇ!底が知れるぞ!」
「だが、立ち上がるだけで精一杯のはずだ。勝機はこちらにある」
「おとなしく倒れておけば苦しまずに済むのに、本当バカな男よね」
冷静なクリムゾンとLOVEの言葉はその通りだ。俺もレムには「倒す」と宣言したが、今から倒せるとは思っていない。相討ちも難しく、道連れも狙いにくい。そんな高望みをするつもりはない。
だからせめてレムが地上に出るまでの間、すべての攻撃を受け切る。
腕を真横に開き、レムと裏四天王との間に立ち塞がった。それは予想通り盛大な挑発になったようで、まずは俺から倒すべく一斉に攻撃を始めてきた。それらに耐えられるように歯を食い縛る、一瞬前にそっと独り言を残して。
「レム。俺がいなくても、居眠りすんじゃねぇぞ」
「ランバダ様ぁ…っ!!」
爆撃と轟音の中、遠くで泣き叫ぶ声が聞こえる。戻りたいと訴える声。いつもだらしなくて俺に怒られて、今回も俺につきあって傷だらけになったのに、どこまでも優しい部下。最後まで、手のかかる奴だ。
「振り向くんじゃねぇ、さっさと行け!!」
喉が焼ける。全身から血が滲む。それでも叫ぶ。
頼むから、振り向かないでくれ。
カッコ悪い姿は見せたくないから。
せめて最後くらい『良い奴』として、お前の記憶に残りたいから。
「…チッ、一人逃がしたか」
クリムゾンの悔しそうな声を聞いた瞬間、安堵と激痛が体中を駆け巡った。
力が途絶えたのだ。
「っ…、…ぐぁぁぁあ…っ!!」
自分の悲鳴を最後に、意識はそこで途切れた。
fin.
(原作で確実にランレムファンが増えた闇皇帝編。あくまでも当サイトの解釈ってことで挑戦してみました。どう頑張ってもシリアス。そして攻撃を全部受けさせるという鬼畜仕様。)
2016/11/12 公開
もう、限界だ。
先程までの激しい戦闘でボロボロな上に、担がれて投げ捨てられた痛みが全身に響いている。真拳を使うどころか、うつ伏せの状態から姿勢を変えることも、腕を動かすことさえも痛みが伴う。
それなのに相手はまったく疲れていない。百年前の世界とは比べ物にならない強さの敵だ。こんなんじゃ、三大権力者の一人が聞いて呆れる。
「動かなくなっちまったな。死んだか?」
「おいおい、生け贄なんだから殺すなよ」
宇治金TOKIOや覇凱王よりも小さな体をした袋が口々に言い合う。その中でも年長者らしい風貌の袋が、一歩前に出て言った。
「なぁに、大丈夫だろ。ほら」
瞬間、脇腹に激痛が走る。蹴られたのだと気付いたのは、痛みの後だった。体が小さいぶん足も小さく、万全の態勢なら衝撃も感じないはずなのに、今はそれすらも受け止めきれない程消耗していたことを思い知る。
「ぐっ…!」
痛みに耐えかねて思わず声を漏らすと、親父姿の袋は得意気に笑った。
「ほらな。まだ生きてるだろ」
「なんだ、死んだふりかよ。何なら本当に死ぬくらい痛めつけてやろうか?」
死んだふりも何も、本当に動けない。しかしそんな弁解をする暇もなく、三つの袋がそれぞれ蹴りを入れてくる。腹から喉へ、血の味が広がってきた。
そんな様子を見ていた三つ目の男が、しばらくしてから諌めるように口を挟む。
「そのへんにしておけ、力の無駄遣いだ。それに寄ってたかって男ばかり痛めつけるな、それはLOVEの専門だ」
「あら、人聞き悪いわね。私はもっといい男が好みなのに」
LOVEと呼ばれた女は、わざとらしく溜め息をついて歩み寄ってくる。そして俺の前でしゃがむと、得体の知れない物を触るかのように指でつんつんとつついた。蹴られた瞬間の激痛は収まったが、代わりに鈍い痛みが断続的に襲ってくる。
「LOVEの場合は『いい男』と書いて『筋肉質の男』と読むんだろ」
おもちゃを取られた気分なのだろう。袋のうちの一つがつまらなそうに言った。LOVEはそれを意に介さず、むしろ調べるかのように筋肉のつく部位を順番につついていく。
「だってこの子、クリムゾンよりひ弱なんだもん。ハロンオニといい勝負ってトコかしら」
「お前、無いとは思うけど味方までコレクションにするなよ」
三つ目の男が半ば引いたような声色で釘を差した。そういえば地上での戦闘の最中、こいつがクリムゾンと名乗っていた気がする。ハロンオニとかいう奴は見ていないが、こいつらが四天王のうちの三人なのだから、ハロンオニは残りの一人だろう。
やがて気が済んだのか、地味な攻撃の手が止んだ。立ち上がる気配がする。こつりこつりとヒールの音が遠ざかる。その方向は…右側。嫌な予感がする。
「私はそれよりも、この女から始末したいわ。男なら私の闇拳で支配できるけど、女は邪魔なのよねぇ」
ヒールの音が止まると同時に、その口から残酷な声がした。
『この女』が誰を示しているのかは明白だ。痛みで首も動かせず、見ることもできないが、俺の右隣で同じように倒れている彼女。俺と共に戦って同じように傷だらけになった、俺の部下。
「なぁに、その睨んだ目。這いつくばってもう戦えないのに、もっといじめてほしいのかしら」
その挑発は俺に向けられたものではない。見えないがおそらく、レムが奴らに反抗的な視線を向けているのだ。もう戦えないとしても気持ちだけは屈しない、と言わんばかりに。
「…い…っ!?」
「痛いでしょう、つらいでしょう?顔に触られるだけで痛むのに、これ以上抵抗できるのかしら?」
レムの小さな悲鳴と、それに重ねるように響く敵の声。下卑た笑い。
彼女の苦しむ声は聞きたくなかった、のに。
「…きゃあっ!?」
瞬間、甲高い声が響いた。それはレムのものではなく、驚いた敵のもの。
何ということはない。レムに触れている忌まわしい指先を、ポリゴンに変えてやっただけだ。だがLOVEは不意討ちなど予想外だったらしく、熱いものに触れた時のように手を引っ込める。
残念ながら力が続かずすぐに剥がれてしまったけれど、それは良い牽制になったらしい。LOVEだけでなく他の奴らも一瞬怯む。
「コイツ、やっぱり力を隠していたか!」
袋たちは気が動転したかのように、止めていた蹴りを再度強めてきた。それを左手で払うようにして、同時にポリゴンを放つ。しかしそれはすんでの所でかわされてしまった。俺も決して力を隠していたわけではなく、咄嗟に湧き上がっただけだ。力の差は歴然で、今戦っても悪あがきにしかならないだろう。
それでも、あいつらがレムに触れることだけは許せなかった。
「レム、生きてるか」
「…っ、はい…」
ポリゴンで蹴散らしたことで、敵は俺たちから少しだけ距離を取った。これなら小声で意志疎通が図れる。痛む体に鞭打ってレムのほうを見ると、痛みを耐える弱々しい声とは違い、凛とした視線と目が合った。こいつらを地上に解放してはいけない、という正義感は今も変わらずにある。
だとしたら、最悪の事態は防げるかもしれない。
「這ってでもいいから、ワープ装置に乗れ。地上に危険を知らせろ」
端的に告げた最後の作戦。
しかし彼女の瞳は戸惑いの色を隠せずに揺れた。
「ら、ランバダ様は…」
「俺はこいつらを倒す」
「でも、その傷…!」
今にも泣きそうな、悲痛な表情。
だが、彼女が言い終わる前に俺は言葉を重ねた。
「俺が戦ってるうちに行け。命令だ」
言い終わると同時に、頭上に何かを投げられた気配。咄嗟の判断で庇うようにレムの上に覆い被さる。背中を爆風が掠めてヒリヒリ、ズキズキ、痛い。思わず顔をしかめると、腕の中の温もりがより一層悲痛な叫びを上げた。
「嫌ぁ…っ!!やっぱり私も、」
「…っ。いいから、逃げろ」
優しく、言えただろうか。
掠れる声で絞り出すように言ったそれだけが、今の俺の願いだった。
もう動けないはずなのに、さっきはレムを守ろうと反射的に技が出た。それならきっと、もう少しだけならこんなボロボロの体だって動くはずだ。いや、ここで動かなければ守れない。
決意して、ゆらりと立ち上がる。そしてレムを助け起こすと、ワープ装置のほうへ向けて背中をとん、と押した。その行動で袋たちは察したらしく、驚きどよめいた。
「あの傷で立ち上がった!?」
「しまった、逃がすつもりか!?」
「狼狽えるんじゃねぇ!底が知れるぞ!」
「だが、立ち上がるだけで精一杯のはずだ。勝機はこちらにある」
「おとなしく倒れておけば苦しまずに済むのに、本当バカな男よね」
冷静なクリムゾンとLOVEの言葉はその通りだ。俺もレムには「倒す」と宣言したが、今から倒せるとは思っていない。相討ちも難しく、道連れも狙いにくい。そんな高望みをするつもりはない。
だからせめてレムが地上に出るまでの間、すべての攻撃を受け切る。
腕を真横に開き、レムと裏四天王との間に立ち塞がった。それは予想通り盛大な挑発になったようで、まずは俺から倒すべく一斉に攻撃を始めてきた。それらに耐えられるように歯を食い縛る、一瞬前にそっと独り言を残して。
「レム。俺がいなくても、居眠りすんじゃねぇぞ」
「ランバダ様ぁ…っ!!」
爆撃と轟音の中、遠くで泣き叫ぶ声が聞こえる。戻りたいと訴える声。いつもだらしなくて俺に怒られて、今回も俺につきあって傷だらけになったのに、どこまでも優しい部下。最後まで、手のかかる奴だ。
「振り向くんじゃねぇ、さっさと行け!!」
喉が焼ける。全身から血が滲む。それでも叫ぶ。
頼むから、振り向かないでくれ。
カッコ悪い姿は見せたくないから。
せめて最後くらい『良い奴』として、お前の記憶に残りたいから。
「…チッ、一人逃がしたか」
クリムゾンの悔しそうな声を聞いた瞬間、安堵と激痛が体中を駆け巡った。
力が途絶えたのだ。
「っ…、…ぐぁぁぁあ…っ!!」
自分の悲鳴を最後に、意識はそこで途切れた。
fin.
(原作で確実にランレムファンが増えた闇皇帝編。あくまでも当サイトの解釈ってことで挑戦してみました。どう頑張ってもシリアス。そして攻撃を全部受けさせるという鬼畜仕様。)
2016/11/12 公開
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