BO-BOBO
アメジスト
「ランバダ様、見てください!」
レムは見るからにウキウキした様子で駆け寄ってくると、胸元できゅっと握っていた両手を開いてみせた。
俺が見るとも見ないとも言わないうちから話を進めようとするレムに少し呆れてみせながらも、仕方がないから目線だけでなく体ごと彼女の方に向ける。確かに先ほど不可解そうにはしたが、別に拒否するつもりは最初から無い。
レムの嬉しそうな顔から彼女の手のひらへ視線を移すと、そこには深い紫色の石があった。
「えへへ、アメジストです!」
「…パワーストーンって奴か?」
「はい!」
あまり詳しくはないが、以前何かの本で読んだことがあり、俺もその見た目と名前は知っていた。
拾ってきたにしては綺麗な光沢があって角も丸められている。よって、雑貨屋かそういう石の専門店で売られていたものだろう…と予想を立てていると。
「実はさっき買い物に行った時、一目惚れして買ってきたんです!いくつか種類があって迷ったんですけど、これが綺麗かなって思って…」
レムがぺらぺらと答えを喋り始めた。そうかよかったな、としか言えないような内容をレムは俺に一通り話して聞かせる。適当に相槌を打ちながら聞き流そうかと途中までは思っていた、が。
「実はこれ、枕元に置くと安眠効果があるらしいんですよ!」
レムのその一言で、俺は全てを察した。
一目惚れしたとは言っていたが、この効果に釣られて即座に購入を決めたに違いない。今度こそ本当に呆れてレムを見たが、彼女自身は俺の視線に気付かず手元の紫色を眺めている。
「…お前はそんなの無くても眠れるだろう」
正直、パワーストーンよりも彼女の持つ真拳のほうが睡眠導入効果は目に見えて高い。安眠効果は分からないが、いつもレムがなかなか起きないことを踏まえると快眠なのだろう。戦闘用のスリープワールドはまた違うが、真拳の副作用とも言っていい普段の彼女の眠りはいつも幸せそうだ。
だが、レムは首を横に振る。
「いいんです。私、本当はこの色に惹かれたんですよ」
「は、」
言葉が続かない。
レムに限って、安眠効果以外のところが決め手になるとは思わなかった…いや、それよりも。
色って。
「ふふ。ランバダ様と同じ色です」
レムはその言葉の意味を分かっているのかいないのか、変わらずにこやかに告げる。ただの偶然だと言い聞かせて考えないようにしていた事柄が無理やり前面に引っ張り出されて、レムの手にある紫色から目を逸らす。
「別に、俺は…お前が寝てたら、遠慮なく起こすんだが」
「分かってます。でもやっぱり、この色を見ると落ち着くんですよ。…もちろん、ランバダ様のことも、です」
レムは言葉を選ぶようにゆっくり言った直後、へにゃりと顔を崩して照れ笑いを浮かべた。心なしか頬が赤く染まっていて、その様子がなんだか可愛らしく見えた気がして。
俺は帽子を若干目深にかぶり直して、顔を背ける。
「あー…まぁ、落ち着きすぎて仕事中に寝るんじゃねぇぞ」
「え…あ、はい、できる限りは…」
「できる限りかよ」
急に返事の怪しくなったレムにもう一度目を向ける。同じ笑いでも今度は苦笑するレムとその手に乗った石をちらりと見てから、俺はまた日常へと戻っていった。
fin.
(スキボタンが押されたお礼に載せていたもの。)
2018/08/05 公開、2022/07/31 収納
「ランバダ様、見てください!」
レムは見るからにウキウキした様子で駆け寄ってくると、胸元できゅっと握っていた両手を開いてみせた。
俺が見るとも見ないとも言わないうちから話を進めようとするレムに少し呆れてみせながらも、仕方がないから目線だけでなく体ごと彼女の方に向ける。確かに先ほど不可解そうにはしたが、別に拒否するつもりは最初から無い。
レムの嬉しそうな顔から彼女の手のひらへ視線を移すと、そこには深い紫色の石があった。
「えへへ、アメジストです!」
「…パワーストーンって奴か?」
「はい!」
あまり詳しくはないが、以前何かの本で読んだことがあり、俺もその見た目と名前は知っていた。
拾ってきたにしては綺麗な光沢があって角も丸められている。よって、雑貨屋かそういう石の専門店で売られていたものだろう…と予想を立てていると。
「実はさっき買い物に行った時、一目惚れして買ってきたんです!いくつか種類があって迷ったんですけど、これが綺麗かなって思って…」
レムがぺらぺらと答えを喋り始めた。そうかよかったな、としか言えないような内容をレムは俺に一通り話して聞かせる。適当に相槌を打ちながら聞き流そうかと途中までは思っていた、が。
「実はこれ、枕元に置くと安眠効果があるらしいんですよ!」
レムのその一言で、俺は全てを察した。
一目惚れしたとは言っていたが、この効果に釣られて即座に購入を決めたに違いない。今度こそ本当に呆れてレムを見たが、彼女自身は俺の視線に気付かず手元の紫色を眺めている。
「…お前はそんなの無くても眠れるだろう」
正直、パワーストーンよりも彼女の持つ真拳のほうが睡眠導入効果は目に見えて高い。安眠効果は分からないが、いつもレムがなかなか起きないことを踏まえると快眠なのだろう。戦闘用のスリープワールドはまた違うが、真拳の副作用とも言っていい普段の彼女の眠りはいつも幸せそうだ。
だが、レムは首を横に振る。
「いいんです。私、本当はこの色に惹かれたんですよ」
「は、」
言葉が続かない。
レムに限って、安眠効果以外のところが決め手になるとは思わなかった…いや、それよりも。
色って。
「ふふ。ランバダ様と同じ色です」
レムはその言葉の意味を分かっているのかいないのか、変わらずにこやかに告げる。ただの偶然だと言い聞かせて考えないようにしていた事柄が無理やり前面に引っ張り出されて、レムの手にある紫色から目を逸らす。
「別に、俺は…お前が寝てたら、遠慮なく起こすんだが」
「分かってます。でもやっぱり、この色を見ると落ち着くんですよ。…もちろん、ランバダ様のことも、です」
レムは言葉を選ぶようにゆっくり言った直後、へにゃりと顔を崩して照れ笑いを浮かべた。心なしか頬が赤く染まっていて、その様子がなんだか可愛らしく見えた気がして。
俺は帽子を若干目深にかぶり直して、顔を背ける。
「あー…まぁ、落ち着きすぎて仕事中に寝るんじゃねぇぞ」
「え…あ、はい、できる限りは…」
「できる限りかよ」
急に返事の怪しくなったレムにもう一度目を向ける。同じ笑いでも今度は苦笑するレムとその手に乗った石をちらりと見てから、俺はまた日常へと戻っていった。
fin.
(スキボタンが押されたお礼に載せていたもの。)
2018/08/05 公開、2022/07/31 収納
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