BO-BOBO
幸せに酔う
※ランレムの飲酒シーンあり。
※甘い。話の途中でいちゃついてる。
※シリアス。誕生日とレムの過去にまつわる話。
苦手な方はご注意ください。
レムを深夜に呼び出すことはほとんどない。
いくら旧毛狩り隊の仲間だとしても礼儀というものがあるし、そもそもアイツはよく寝る。昼間だろうと夜中だろうと隙あらば眠りに落ちている。その上、昼に寝たから夜は目が冴えるなんてことは一切なく、夜は夜できっちり眠る。昼夜逆転なんて言葉はアイツからは近いようでいて最も遠い言葉かもしれない。
それを承知の上で、それでもこんな時間に呼び出したのは、ひとえに「明日」という日が特別な日であるからに他ならなかった。
自室の外、廊下の方から控えめな足音が聞こえる。普段よりもゆっくりとした、躊躇うような足取り。
俺はそれに気付くとグラスを正面のテーブルに置き、時計を見た。8月22日、11時52分。約束の時間を正確に決めていたわけではなく、ただ日付が変わる前にという大雑把なものだったが、ちょうど良い頃合いだ。
「ランバダ様…?」
ノックの音と共に顔を覗かせた彼女は、まさに先程まで思い浮かべていた――俺が呼び出した相手、レムだった。
視線を正面に戻し「あぁ」とだけ返せば、レムは了承を得たとすぐに理解して、素直に部屋へ入ってくる。阿吽の呼吸とでもいうべきか、この辺の感覚は百年の眠りの後に積み重ねた一年間が表れているようで、俺としてはなかなか悪くない。
二人掛けのソファーの空白に、レムがちょこんと収まる。隣同士、互いの視線は交わらない。ちらりとこちらを窺う気配はしたが、それもすぐに逸らされてしまった。
「寝過ごさなかったんだな」
「はい。色々考えてたら、その、眠れなくて…」
視線を彷徨わせながら答えるレムに、呆れるでもなく意外に思うでもなくただ、そうだろうな、と思った。
正直なところ、レムが寝入って約束をすっぽかすなら、俺は別にそれでも良かった。この時間を、彼女が何の心配もなく眠って過ごせるのならそれが一番だ。
けれど、実際はそうもいかないだろうと予想できたから。だから誘った。
何でもない風を装って密かに隣を見やれば、彼女は浮かない顔で虚空を見つめている。まるでコールドスリープ計画の直前のようだ、あの時と今では周りの状況も二人の関係性も変わっているけれど。
「…お前も飲むか」
テーブルに置かれた小瓶に手を伸ばす。言いながらグラスに液体をついで、彼女の目の前に差し出してみる。
今までそんなことはしてこなかったからか、レムはあからさまに驚いた表情をした。
「えっ、いえいえ!私はまだ飲めないですし!」
「時間」
「え?」
きょとんとまばたきを一つしたレムに、俺は時計のある方を指し示す。時刻は0時を回り、日付が変わっていた。
8月23日、未明。
「誕生日、おめでとう」
こんな言葉、百年前の俺にはどうにもむず痒くて柄じゃなかったけれど。…今でも、宇治金TOKIOやハンペンのように浮かれて祝うのは不得手だけれど。
それでも今回は特別だ。二十歳という節目でもあるし、目の前のコイツにぐらいだったら、言ってやってもいい気がした。
「あ、ありがとうございます…」
余程意外だったのか、困惑気味に返されたお礼の返事。妙に照れくさくなって視線を逃がすと、先程酒をついだグラスが視界に入った。再度確認するつもりで言葉を投げる。
「…飲みたくないってんなら、強制はしないが」
「あ…。じゃあ、少しいただきますね」
答えて、レムは素直にグラスを受け取った。物珍しそうに液体を観察した後、わずかに覚悟を決めて口に含む。
少しして、飲み込んだらしい彼女は神妙な面持ちで小首を傾げた。
「不味くはないですけど…なんだか、不思議な味がしますね。全体は甘いのにちょっとだけ苦いというか…消毒液っぽい?」
「まぁ、アルコールだからな」
一応初めてだろうからと気を遣って、度数低めで甘味の強いものを用意したのだが。ほとんどジュースのようなそれでさえ、レムは含まれる微量のアルコールの味を感じ取ったらしい。
この様子では、彼女がビールやワインの味に慣れるのはまだまだ先だろうな。そんなことを頭の片隅で考えながら、俺もグラスを傾けて中身を呷 る。甘ったるい。
「お酒を飲むと眠りが浅くなるって言いますしね。眠りに入る時は早く寝付けるんですけど、深い眠りにはならないとか…」
「よく知ってるな」
「それは…布団の子、ですから」
きっと普段の会話だったら、互いに何も気に留めず流れていったそれ。
だが、こんな日だ。世間一般では生まれてきてくれたことを祝うと同時に「産んでくれた両親に感謝する日だ」なんて言われる日。
決まり文句の間に挟まれた一瞬の沈黙に、俺は気付いた。…気付いてしまった。
「レム」
俯いた彼女の名前を呼ぶ。
咄嗟に顔を上げてしまって取り繕い損ねたレムの表情には、やっぱり沈鬱さがまとわりついていて――見ていられなくて、これ以上彼女の傷つく言葉を言わせたくなくて。
気が付けば自身の口で、彼女の唇を塞いでいた。
「ん…っ」
息が続かないのか、レムの鼻に抜ける声がすぐ近くで聞こえる。すがるような甘い響き。余裕を失いながらも必死に受け入れようとしてくれる姿に、ぞくぞくとした背徳感が押し寄せる。
だが、そんなので解放してやれるほど俺は優しくない。むしろレムの抱えた辛い記憶を上書きするみたいにもっと激しく、苦しくしてやる。
甘噛みして、角度を変えて、また味わって。
ひとしきり戯れたところでようやく離れると、レムは放心状態でぼうっとこちらを見つめてきた。潤んだ瞳、上気した頬、唾液で濡れた唇。扇情的な光景に再び食らいつきたくなる衝動を抑えながら、彼女が息を整えるのを待つ。
「もう…ランバダ様、酔ってますか?」
「これぐらいで俺が酔うわけないだろ」
突然で驚きはしたものの嫌がってはいないことに、内心ほっとする。だがその一方で、酔った勢いみたいに扱われるのは心外だ。思わず反論すれば、レムはますます不思議そうな顔をする。
「じゃあ、どうして…」
「お前が考えていることなんか、大体分かるさ」
たった一言。それだけで、レムは気まずそうに目を伏せた。見透かされたと思っているのかもしれない。
実際は見透かすも何も、レムの表情と態度を見ていれば、そして以前聞いた彼女の過去と今日という日を鑑みれば、それだけでほとんど予想はつくが。
「…誕生日だから、色々考えてしまうのは分かる」
レムの肩がびくりと跳ねる。途端に瞳が怯えの色を帯びる。
触れられたくない話題に踏み込んだことを悟って、それでも引き返すことはできない。
「お前が旧毛狩り隊に入る前に色々あったことも、聞いた範囲でしかないが知っている。…でも、百年経ったんだ」
激しくした先程のキスとは対照的に、今度はレムの後頭部に優しく手を当てて、腕の中に閉じ込めるように掻き抱く。そうでもしないと彼女がどこかへ逃げていきそうな予感がした。
「体感では、百年前の出来事がついこの間のことのように思えるかもしれない。俺だってそうだ。だが、百年も経てば周りは変わる。お前を苦しめていた奴らだって、もういないんだ」
残酷なことを言っている自覚はある。
レムの場合、「苦しめていた奴ら」が同時に「本来は安らぎになるべき、身近な奴ら」だったのだから。相手がどう思っていたとしても、レムの方には少なからず情が残っている。そんな中で「もういない」ことを突き付けられて、手放しに喜べるほどレムの気持ちの整理はついていない。こんな日なら尚更だ。
分かっていて、それでも願わずにいられないのは。
「…そんな辛い顔をするくらいなら、『布団の子』なんて名乗らないでくれ」
嫌な思い出を、今すぐに忘れろとは言わない。布団の子であることを捨てろ、とも言えない。そんなことができないのは分かっていた。布団の子であることは、どんなに辛い思い出が付随しようともレムのアイデンティティで、レム本人が大切にしたがっていることだから。
ただ、「布団の子であること」で彼女が無闇に傷つくのなら、こんな日まで律儀に抱えていてほしくはなかった。
「今日だけは…そんなのは百年前に置いてきたことにして、ただの『レム』として、居てほしい」
布団の子なんて肩書きも、もっと言うなら旧毛狩り隊Dブロック隊長なんて立場も、今は必要ない。ただのレムとして、笑って居てほしい。…できれば、俺のそばで。
さすがにそこまでは口にしないけれど、慎重に言葉を選んで伝える。話題が話題だからどうしても傷ついてしまうかもしれないけれど、なるべく傷つけないように。
ふいに、腕の中の彼女がくすりと声を漏らした。
「…お酒を飲んでも飲まなくても、結局眠れないのなら、どちらも大して変わらないですよね」
言葉に含まれる真意を一瞬では掴みきれなくて、ゆっくりと上体を離してレムを視界に入れる。
二十歳になったばかりのレムは、ついさっきまでは物思いに耽って抱えた感情に押し潰されそうな子どもだったのに、今は晴れやかで可憐で…それでいて、どこか大人びた笑みを湛 えていた。
「ねぇ、ランバダ様。私は…どうせ眠れないのなら、楽しい方がいいです。だから、もう少し一緒に飲みませんか?」
あぁ、これではまるで。
「…なんで、お前が慰める側みたいになってんだよ」
苦笑混じりに指摘すれば、レムはまたふんわりと微笑む。悔しいが、俺がずっと見たかった顔だ。
「嬉しかったんです、ランバダ様の思いが聞けて。ランバダ様は布団の子としてじゃなくて、『私』を見てくれているんだって分かって、嬉しくて幸せで…なんて、自惚れ過ぎですかね?」
「そこで確認するのは狡いだろ、お前」
自惚れ過ぎ、なんて予防線を張ってはいるけれど、そのほとんどはさっき俺が伝えた言葉だ。それを今更こんな訊き方をされて、撤回するわけにもいかないだろう。元々取り消すつもりなんてないが。
それに、色々思うところがあったって、結局は誕生日に変わりないのだ。レムの生まれた大切な日。
「まぁ誕生日なんだから、思う存分酔っておけばいいんじゃねーか?」
いくらでも付き合ってやるよ、と脅しのように囁いて顔を近付ければ、はにかんだ笑顔の直後、レムの両腕が俺の首元へと回された。
fin.
(ボーボボ無印や真説でランレムの年齢は明かされていなかったと思うのですが(見落としがあったらすみません)、ふわり1巻5話でレムが19歳と明言されていたこと、ビュティを見る限りふわりの年齢=無印の年齢であること、そして真説は無印の1年後であることから「無印のレムも19歳で、真説では20歳なのでは!?」という発想から生まれた真説レム誕生日+ランレム飲酒ネタ。レムの過去は原作漫画寄りにしています。ランバダの年齢は不明ですが、レムより少し年上~同い年(その場合もレムより誕生日早いからセーフ)だろうという認識。ポリゴン真拳に「ワインレッド・ジュース(液を浴びたらポリゴンになる技)」ってワインに見せかけた思いっきりジュースがあるけど知らない。)
2019/08/23 公開
※ランレムの飲酒シーンあり。
※甘い。話の途中でいちゃついてる。
※シリアス。誕生日とレムの過去にまつわる話。
苦手な方はご注意ください。
レムを深夜に呼び出すことはほとんどない。
いくら旧毛狩り隊の仲間だとしても礼儀というものがあるし、そもそもアイツはよく寝る。昼間だろうと夜中だろうと隙あらば眠りに落ちている。その上、昼に寝たから夜は目が冴えるなんてことは一切なく、夜は夜できっちり眠る。昼夜逆転なんて言葉はアイツからは近いようでいて最も遠い言葉かもしれない。
それを承知の上で、それでもこんな時間に呼び出したのは、ひとえに「明日」という日が特別な日であるからに他ならなかった。
自室の外、廊下の方から控えめな足音が聞こえる。普段よりもゆっくりとした、躊躇うような足取り。
俺はそれに気付くとグラスを正面のテーブルに置き、時計を見た。8月22日、11時52分。約束の時間を正確に決めていたわけではなく、ただ日付が変わる前にという大雑把なものだったが、ちょうど良い頃合いだ。
「ランバダ様…?」
ノックの音と共に顔を覗かせた彼女は、まさに先程まで思い浮かべていた――俺が呼び出した相手、レムだった。
視線を正面に戻し「あぁ」とだけ返せば、レムは了承を得たとすぐに理解して、素直に部屋へ入ってくる。阿吽の呼吸とでもいうべきか、この辺の感覚は百年の眠りの後に積み重ねた一年間が表れているようで、俺としてはなかなか悪くない。
二人掛けのソファーの空白に、レムがちょこんと収まる。隣同士、互いの視線は交わらない。ちらりとこちらを窺う気配はしたが、それもすぐに逸らされてしまった。
「寝過ごさなかったんだな」
「はい。色々考えてたら、その、眠れなくて…」
視線を彷徨わせながら答えるレムに、呆れるでもなく意外に思うでもなくただ、そうだろうな、と思った。
正直なところ、レムが寝入って約束をすっぽかすなら、俺は別にそれでも良かった。この時間を、彼女が何の心配もなく眠って過ごせるのならそれが一番だ。
けれど、実際はそうもいかないだろうと予想できたから。だから誘った。
何でもない風を装って密かに隣を見やれば、彼女は浮かない顔で虚空を見つめている。まるでコールドスリープ計画の直前のようだ、あの時と今では周りの状況も二人の関係性も変わっているけれど。
「…お前も飲むか」
テーブルに置かれた小瓶に手を伸ばす。言いながらグラスに液体をついで、彼女の目の前に差し出してみる。
今までそんなことはしてこなかったからか、レムはあからさまに驚いた表情をした。
「えっ、いえいえ!私はまだ飲めないですし!」
「時間」
「え?」
きょとんとまばたきを一つしたレムに、俺は時計のある方を指し示す。時刻は0時を回り、日付が変わっていた。
8月23日、未明。
「誕生日、おめでとう」
こんな言葉、百年前の俺にはどうにもむず痒くて柄じゃなかったけれど。…今でも、宇治金TOKIOやハンペンのように浮かれて祝うのは不得手だけれど。
それでも今回は特別だ。二十歳という節目でもあるし、目の前のコイツにぐらいだったら、言ってやってもいい気がした。
「あ、ありがとうございます…」
余程意外だったのか、困惑気味に返されたお礼の返事。妙に照れくさくなって視線を逃がすと、先程酒をついだグラスが視界に入った。再度確認するつもりで言葉を投げる。
「…飲みたくないってんなら、強制はしないが」
「あ…。じゃあ、少しいただきますね」
答えて、レムは素直にグラスを受け取った。物珍しそうに液体を観察した後、わずかに覚悟を決めて口に含む。
少しして、飲み込んだらしい彼女は神妙な面持ちで小首を傾げた。
「不味くはないですけど…なんだか、不思議な味がしますね。全体は甘いのにちょっとだけ苦いというか…消毒液っぽい?」
「まぁ、アルコールだからな」
一応初めてだろうからと気を遣って、度数低めで甘味の強いものを用意したのだが。ほとんどジュースのようなそれでさえ、レムは含まれる微量のアルコールの味を感じ取ったらしい。
この様子では、彼女がビールやワインの味に慣れるのはまだまだ先だろうな。そんなことを頭の片隅で考えながら、俺もグラスを傾けて中身を
「お酒を飲むと眠りが浅くなるって言いますしね。眠りに入る時は早く寝付けるんですけど、深い眠りにはならないとか…」
「よく知ってるな」
「それは…布団の子、ですから」
きっと普段の会話だったら、互いに何も気に留めず流れていったそれ。
だが、こんな日だ。世間一般では生まれてきてくれたことを祝うと同時に「産んでくれた両親に感謝する日だ」なんて言われる日。
決まり文句の間に挟まれた一瞬の沈黙に、俺は気付いた。…気付いてしまった。
「レム」
俯いた彼女の名前を呼ぶ。
咄嗟に顔を上げてしまって取り繕い損ねたレムの表情には、やっぱり沈鬱さがまとわりついていて――見ていられなくて、これ以上彼女の傷つく言葉を言わせたくなくて。
気が付けば自身の口で、彼女の唇を塞いでいた。
「ん…っ」
息が続かないのか、レムの鼻に抜ける声がすぐ近くで聞こえる。すがるような甘い響き。余裕を失いながらも必死に受け入れようとしてくれる姿に、ぞくぞくとした背徳感が押し寄せる。
だが、そんなので解放してやれるほど俺は優しくない。むしろレムの抱えた辛い記憶を上書きするみたいにもっと激しく、苦しくしてやる。
甘噛みして、角度を変えて、また味わって。
ひとしきり戯れたところでようやく離れると、レムは放心状態でぼうっとこちらを見つめてきた。潤んだ瞳、上気した頬、唾液で濡れた唇。扇情的な光景に再び食らいつきたくなる衝動を抑えながら、彼女が息を整えるのを待つ。
「もう…ランバダ様、酔ってますか?」
「これぐらいで俺が酔うわけないだろ」
突然で驚きはしたものの嫌がってはいないことに、内心ほっとする。だがその一方で、酔った勢いみたいに扱われるのは心外だ。思わず反論すれば、レムはますます不思議そうな顔をする。
「じゃあ、どうして…」
「お前が考えていることなんか、大体分かるさ」
たった一言。それだけで、レムは気まずそうに目を伏せた。見透かされたと思っているのかもしれない。
実際は見透かすも何も、レムの表情と態度を見ていれば、そして以前聞いた彼女の過去と今日という日を鑑みれば、それだけでほとんど予想はつくが。
「…誕生日だから、色々考えてしまうのは分かる」
レムの肩がびくりと跳ねる。途端に瞳が怯えの色を帯びる。
触れられたくない話題に踏み込んだことを悟って、それでも引き返すことはできない。
「お前が旧毛狩り隊に入る前に色々あったことも、聞いた範囲でしかないが知っている。…でも、百年経ったんだ」
激しくした先程のキスとは対照的に、今度はレムの後頭部に優しく手を当てて、腕の中に閉じ込めるように掻き抱く。そうでもしないと彼女がどこかへ逃げていきそうな予感がした。
「体感では、百年前の出来事がついこの間のことのように思えるかもしれない。俺だってそうだ。だが、百年も経てば周りは変わる。お前を苦しめていた奴らだって、もういないんだ」
残酷なことを言っている自覚はある。
レムの場合、「苦しめていた奴ら」が同時に「本来は安らぎになるべき、身近な奴ら」だったのだから。相手がどう思っていたとしても、レムの方には少なからず情が残っている。そんな中で「もういない」ことを突き付けられて、手放しに喜べるほどレムの気持ちの整理はついていない。こんな日なら尚更だ。
分かっていて、それでも願わずにいられないのは。
「…そんな辛い顔をするくらいなら、『布団の子』なんて名乗らないでくれ」
嫌な思い出を、今すぐに忘れろとは言わない。布団の子であることを捨てろ、とも言えない。そんなことができないのは分かっていた。布団の子であることは、どんなに辛い思い出が付随しようともレムのアイデンティティで、レム本人が大切にしたがっていることだから。
ただ、「布団の子であること」で彼女が無闇に傷つくのなら、こんな日まで律儀に抱えていてほしくはなかった。
「今日だけは…そんなのは百年前に置いてきたことにして、ただの『レム』として、居てほしい」
布団の子なんて肩書きも、もっと言うなら旧毛狩り隊Dブロック隊長なんて立場も、今は必要ない。ただのレムとして、笑って居てほしい。…できれば、俺のそばで。
さすがにそこまでは口にしないけれど、慎重に言葉を選んで伝える。話題が話題だからどうしても傷ついてしまうかもしれないけれど、なるべく傷つけないように。
ふいに、腕の中の彼女がくすりと声を漏らした。
「…お酒を飲んでも飲まなくても、結局眠れないのなら、どちらも大して変わらないですよね」
言葉に含まれる真意を一瞬では掴みきれなくて、ゆっくりと上体を離してレムを視界に入れる。
二十歳になったばかりのレムは、ついさっきまでは物思いに耽って抱えた感情に押し潰されそうな子どもだったのに、今は晴れやかで可憐で…それでいて、どこか大人びた笑みを
「ねぇ、ランバダ様。私は…どうせ眠れないのなら、楽しい方がいいです。だから、もう少し一緒に飲みませんか?」
あぁ、これではまるで。
「…なんで、お前が慰める側みたいになってんだよ」
苦笑混じりに指摘すれば、レムはまたふんわりと微笑む。悔しいが、俺がずっと見たかった顔だ。
「嬉しかったんです、ランバダ様の思いが聞けて。ランバダ様は布団の子としてじゃなくて、『私』を見てくれているんだって分かって、嬉しくて幸せで…なんて、自惚れ過ぎですかね?」
「そこで確認するのは狡いだろ、お前」
自惚れ過ぎ、なんて予防線を張ってはいるけれど、そのほとんどはさっき俺が伝えた言葉だ。それを今更こんな訊き方をされて、撤回するわけにもいかないだろう。元々取り消すつもりなんてないが。
それに、色々思うところがあったって、結局は誕生日に変わりないのだ。レムの生まれた大切な日。
「まぁ誕生日なんだから、思う存分酔っておけばいいんじゃねーか?」
いくらでも付き合ってやるよ、と脅しのように囁いて顔を近付ければ、はにかんだ笑顔の直後、レムの両腕が俺の首元へと回された。
fin.
(ボーボボ無印や真説でランレムの年齢は明かされていなかったと思うのですが(見落としがあったらすみません)、ふわり1巻5話でレムが19歳と明言されていたこと、ビュティを見る限りふわりの年齢=無印の年齢であること、そして真説は無印の1年後であることから「無印のレムも19歳で、真説では20歳なのでは!?」という発想から生まれた真説レム誕生日+ランレム飲酒ネタ。レムの過去は原作漫画寄りにしています。ランバダの年齢は不明ですが、レムより少し年上~同い年(その場合もレムより誕生日早いからセーフ)だろうという認識。ポリゴン真拳に「ワインレッド・ジュース(液を浴びたらポリゴンになる技)」ってワインに見せかけた思いっきりジュースがあるけど知らない。)
2019/08/23 公開
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