BO-BOBO
果報者
ここ最近の俺の一日は、レムを起こすところから始まる。
「レム。朝だぞ、起きろ」
カーテンを開けたくらいでは目覚めない彼女に声をかけて、他の人ならば多少乱暴だと感じるくらいに揺すってやるとようやく覚醒したらしく、レムの目が半分だけ開いて俺の姿を捉えた。
「うーん…。あれ、ランバダ様…いつBブロックから来たんですか?」
「それは百年前の話だ」
百年前といっても、体も能力も変に老化せずそのままタイムスリップしたようなもので百年経った感覚は無いから、正確には「コールドスリープ装置に入る前」のことだが。
その頃は広い帝国を複数のブロックに分け、そこに小隊を配置して反乱などが起こらないように管理していた。俺はBブロックの隊長として、レムはDブロックの隊長として、普段はそれぞれの区域で仕事をする。しかし各ブロックの情報を共有し足並みを揃えるために、隊長格だけで集まる会議や報告会が時折開かれていた。レムが今寝ぼけて言ったのはきっとその頃の記憶だ。当時からコイツは放っておくと、自身の真拳の影響もあって数日間平気で眠るし、それで会議を忘れるなんてこともしょっちゅうだった。だから、俺が会議へ向かう時に一応Dブロックへ寄ってレムを拾っていく、という流れがいつからかできていた。
それがコールドスリープ後の今の生活でも、下手に受け継がれてしまったらしい。同じ場所とはいえ百年も経つと経済や文化が随分変わっているかもしれない、それだと世界の支配以前に生きていく上で困るから慣れるまでは…という名目で隊長格が一緒に過ごすようになったはいいが、そのせいで毎日起床係をやることになるとは誰が想像しただろうか。
「あー…そういえば今は百年後でしたね…Zzz…」
「おい、安心して二度寝するな」
「…ふぇ?今、私もう一回寝てました…?」
「そう聞く時点で意識飛んでるだろうが」
…とはいえ、自堕落な生活を少しでも人間らしいリズムに改善させることができるのだから、この係が絶対嫌だというほどでもない。
特にコイツは隙あらば寝ようとするから目が離せない。寝ていたくてぐずったり暴れたりするタイプではないだけまだマシか。百年前からもう何度したか分からないやり取りをしていると、不意にレムがふにゃりと笑った。
「えへへ…私、幸せ者ですね」
「何が」
「だって、遠くにいるはずのランバダ様が近くにいて、目が覚める時そばにいるんですから…」
寝惚け声の柔らかいトーンのまま放たれた言葉。まるで「そばにいるのが幸せ」だと言わんばかりのそれを認識した瞬間、途端に顔が熱を持った。つい条件反射で目を逸らし片手で自分の口元を押さえて、火照りを悟られないようにとの思考が働く。
ちらりと横目で見れば、レムは相変わらず何度寝か分からない眠りに入っていきそうな穏やかな表情だ。何も考えていないが故の言葉なのか、それとも確信犯か。あるいはその中間で、普段考えていることだが照れるから言わないようにしていたものが無意識のうちに流れ出たのか。レムの意図が分からなければ、俺もどう返すべきか考えられない。
「…お前、それどういう意味で言ってんだ」
あくまでも、確認。
心の中で言い聞かせて、平静を保つ。
「意味…?んー…?…あっ」
寝起きのはっきりしない頭で数秒考えた後、何かに気付いた彼女は、変わらずとろんとした口調で告げた。
「『果報は寝て待て』ですかね…」
…さっき不覚にも動揺してしまったこととか、それから心臓がうるさいこととか、そのくせ本人はまったく気にしていなくて無自覚なこととか、なんだか色々と恥ずかしくもあり悔しくもあり。再びすやすやと寝息をたて始めるレムに、俺は捨て台詞のような宣戦布告を囁いてやった。
「…はっきり目ぇ覚めたら、覚悟しとけよ」
fin.
(Q.最後の「覚悟」って何の覚悟? A.ご想像にお任せします。)
2017/01/26 公開
ここ最近の俺の一日は、レムを起こすところから始まる。
「レム。朝だぞ、起きろ」
カーテンを開けたくらいでは目覚めない彼女に声をかけて、他の人ならば多少乱暴だと感じるくらいに揺すってやるとようやく覚醒したらしく、レムの目が半分だけ開いて俺の姿を捉えた。
「うーん…。あれ、ランバダ様…いつBブロックから来たんですか?」
「それは百年前の話だ」
百年前といっても、体も能力も変に老化せずそのままタイムスリップしたようなもので百年経った感覚は無いから、正確には「コールドスリープ装置に入る前」のことだが。
その頃は広い帝国を複数のブロックに分け、そこに小隊を配置して反乱などが起こらないように管理していた。俺はBブロックの隊長として、レムはDブロックの隊長として、普段はそれぞれの区域で仕事をする。しかし各ブロックの情報を共有し足並みを揃えるために、隊長格だけで集まる会議や報告会が時折開かれていた。レムが今寝ぼけて言ったのはきっとその頃の記憶だ。当時からコイツは放っておくと、自身の真拳の影響もあって数日間平気で眠るし、それで会議を忘れるなんてこともしょっちゅうだった。だから、俺が会議へ向かう時に一応Dブロックへ寄ってレムを拾っていく、という流れがいつからかできていた。
それがコールドスリープ後の今の生活でも、下手に受け継がれてしまったらしい。同じ場所とはいえ百年も経つと経済や文化が随分変わっているかもしれない、それだと世界の支配以前に生きていく上で困るから慣れるまでは…という名目で隊長格が一緒に過ごすようになったはいいが、そのせいで毎日起床係をやることになるとは誰が想像しただろうか。
「あー…そういえば今は百年後でしたね…Zzz…」
「おい、安心して二度寝するな」
「…ふぇ?今、私もう一回寝てました…?」
「そう聞く時点で意識飛んでるだろうが」
…とはいえ、自堕落な生活を少しでも人間らしいリズムに改善させることができるのだから、この係が絶対嫌だというほどでもない。
特にコイツは隙あらば寝ようとするから目が離せない。寝ていたくてぐずったり暴れたりするタイプではないだけまだマシか。百年前からもう何度したか分からないやり取りをしていると、不意にレムがふにゃりと笑った。
「えへへ…私、幸せ者ですね」
「何が」
「だって、遠くにいるはずのランバダ様が近くにいて、目が覚める時そばにいるんですから…」
寝惚け声の柔らかいトーンのまま放たれた言葉。まるで「そばにいるのが幸せ」だと言わんばかりのそれを認識した瞬間、途端に顔が熱を持った。つい条件反射で目を逸らし片手で自分の口元を押さえて、火照りを悟られないようにとの思考が働く。
ちらりと横目で見れば、レムは相変わらず何度寝か分からない眠りに入っていきそうな穏やかな表情だ。何も考えていないが故の言葉なのか、それとも確信犯か。あるいはその中間で、普段考えていることだが照れるから言わないようにしていたものが無意識のうちに流れ出たのか。レムの意図が分からなければ、俺もどう返すべきか考えられない。
「…お前、それどういう意味で言ってんだ」
あくまでも、確認。
心の中で言い聞かせて、平静を保つ。
「意味…?んー…?…あっ」
寝起きのはっきりしない頭で数秒考えた後、何かに気付いた彼女は、変わらずとろんとした口調で告げた。
「『果報は寝て待て』ですかね…」
…さっき不覚にも動揺してしまったこととか、それから心臓がうるさいこととか、そのくせ本人はまったく気にしていなくて無自覚なこととか、なんだか色々と恥ずかしくもあり悔しくもあり。再びすやすやと寝息をたて始めるレムに、俺は捨て台詞のような宣戦布告を囁いてやった。
「…はっきり目ぇ覚めたら、覚悟しとけよ」
fin.
(Q.最後の「覚悟」って何の覚悟? A.ご想像にお任せします。)
2017/01/26 公開
26/40ページ