BO-BOBO

冬の日の攻防

窓の外は、真冬。
風に吹かれて小雪が舞い、それらは地面に着いても消えずに辺りを白く染めようとしていた。
明け方には窓の結露が凍っていて、部屋の内側にまで冷気が伝わってきた程だ。今ではそれもだいぶ溶けているが、それでも窓辺の気温はまだまだ低い。

「今日は冷えますね」

仕事の休憩がてら外の様子を覗いた俺に対し、自分の席について厚手の毛布にくるまったままのレムが言う。彼女が横になっていないだけマシだが、椅子に座ったまま毛布を肩からかけて、腕はもちろん足も体育座りで毛布の中にしまって、首から上だけを出している姿はまるで雪だるまだ。
部屋の中は暖房が効いているからそこまで大袈裟にする必要もないのだが、彼女は朝起きた時から毛布を手放そうとしない。

「寒いならもっと着込んだらどうだ」
「んー…でも、毛布のおかげでだいぶ温かいです」

へにゃりと笑うレムは余程その温かさが気に入ったのか見るからに幸せそうで、呑気な奴だと思った。
さすがに彼女もいつもの格好では寒いので袖のあるものを羽織っていたのは確認済みだが、もっと何か着るという選択肢は無いらしい。それよりは毛布にくるまっていたい、というのが本音のようだった。それはレムらしいといえばらしい、が。

「お前、まさかそうやって毛布を手放さないのを正当化する気か」
「ん、いや…そういうわけじゃ、ないです…けど…」

そう言いながらも瞼が下りて、頭がゆっくりと項垂れて、言葉が途切れていく。あぁほらもう、お約束の展開だ。

「おい、寝るな!」
「あ、すみませんランバダ様…。毛布だって意識したらつい…」

まだ寝惚け半分なのか、レムはとろんとした眼差しで謝罪する。せっかく起きたのにこれじゃあ、寒くて布団から出られないのと同じではないか。レムが何の前触れもなく眠くなるのは今に始まったことではないが、少しは眠気に抗う素振りを見せてほしいと思ってしまう。まぁ期待するだけ無駄なんだが。

「眠くなるんだったら、その毛布奪ってやろうか」
「わーっダメですダメです!凍え死んじゃいます!」
「死なん。暖房ついてるし、そもそも凍え死ぬような場所ならむしろ寝るほうが危険だろ」

俺だって別に本気で奪おうとしたわけじゃない。ただ冗談で言っただけなのに、レムは毛布を一層ぎゅっと握り締めた。というか、そんな睨むように見つめられても、まったく凄みがないんだが。

「…じゃあ奪わないから、手くらい出して仕事しろ。読むのはともかくとしても、字を書くのは難しいだろう」
「うー…。でも、寒い…」
「お前なぁ…」

やり取りが堂々巡りになるのを予感して、溜め息をついた。寒くて仕事の進みが遅いのは他の隊員も同じだったが、それでもやらなければ溜まっていくばかりだ。眺めているだけでは書類は減らない。
どうしたものかと考えて…ふと、妙案が浮かんだ。思わずにやりと口角が上がる。
そのまま窓辺から離れてレムのほうへ歩み寄ると、嫌な予感でもしたのか彼女は顔を引きつらせたままこちらを凝視している。が、もう遅い。

椅子の上で動けないレムにじゅうぶん近付いて、至近距離で一度彼女の瞳を覗く。
そして、真正面から毛布ごと包み込んだ。

「…えっ、ランバダ様!?」

混乱したような声が耳のすぐ近くで聞こえたけれど、その中に拒絶の色は無い。ついでに言うと毛布の向こうから俺を押し戻す気配も無い。

「…寒い」
「え?」
「窓の近くにいたら冷えた。温まらせろ」

彼女の後頭部に手を当てて抱き寄せ、理由になっているのかも分からない理由を囁く。レムの表情は見えないが、彼女の耳が真っ赤になっているのが視界の隅に入って、自然と気持ちが満たされていくのが分かった。毛布に阻まれて彼女自身の柔らかさは感じ取りにくいが、これはこれで悪くない。

「だっ、誰か来るかもしれませんよ…!?」
「まだ休憩時間だ。誰も来ない」
「し、仕事…!」
「どうせ今すぐにはしないんだろ?」

どれも否定してやれば、レムは「あー」だの「うー」だの言葉にならない呻き声を上げた後、観念したのか大人しくなった。
きっとこれなら休憩が終わっても、彼女が寝てしまうことはないだろう。あれだけ真っ赤になっていたんだ、今更「寒い」は通用しない。眠くて毛布にくるまろうものなら、今の状況を思い出して勝手にドキドキしていればいい。毛布越しの温もりを微かに感じながら、俺は喉の奥でくつくつと笑った。



fin.

(たぶんこれ、ドキドキして眠れないけど仕事も捗らないパターンだ。)

2018/01/26 公開
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