BO-BOBO

心の傷にそっと触れて

レムと、喧嘩をした。

きっかけは本当に些細なことで、いつもなら少し注意して終わる程度のことなのに、苛ついていた俺は思わず余計なことまで口走ってしまったのだ。いわゆる、八つ当たり。
結局レムが「もういいです!」と叫んで仕事場を出ていき、その一部始終を見ていたハンペンからも「頭を冷やせ」と言われる始末。
不服ながらも水飲み場に行き、冷たい水で顔を洗うと、ようやく落ち着いて…同時に、後悔。さすがの俺も反省した。
だがすぐに謝りに行く気にもなれず、そのまま仕事場に戻って夜遅くまで書類を整理していたのだが…そのせいで今、俺はレムの部屋の前にいる。今日のノルマ以上の仕事をしたせいで、レムが担当していた書類のミスを見つけてしまったのだ。よりによって、どうしてこのタイミングで…。

そんなわけで俺はレムの部屋の前に佇んだまま、未だその扉を開けずにいる。
なんというか、気まずい。部下への説教も、その後の対応の仕方も、慣れているはずなのに。
だがこのままでは埒があかない。そう思い直して、静かに扉をノックする。返事は、無い。意図的に無視しているのか、それともいつものように眠っているのか。

「レム、入るぞ」

一言断ってから扉を開ける。薄暗い灯りの中で目を凝らすと、ベッドの上で布団もかけずに熟睡している彼女の姿があった。髪が濡れたままという状況からして、おそらく風呂に入った後すぐにベッドに倒れこんだのだろう。

「ったく、布団もかけず髪も乾かさずに寝やがって…風邪ひくぞ」

彼女の横に腰掛けて、まだ湿っているその髪をそっと撫でる。サラサラとした指通り。乾かさないまま寝ると髪が傷むとはよく言うけれど、彼女は例外らしい。

「……ごめん、なさい…」

ふいに聞こえた小さな声。起こしてしまったかと内心焦った、が、どうやら単なる寝言。コイツは夢の中で、先程のことを謝っているのだろうか。聞こえるかどうかはともかくとして、返事をしようとした、その時。

「…お父さん、お母さん…ごめんなさい……布団の子、なのに…」

その言葉と共に、レムの目の縁から涙がうっすらと滲み出ているのがわかった。
…そういえばコイツ、幼い頃に親から虐待を受けてたって言ってたっけか。確か、純正な布団の子なのに人を眠らせられない…なんて理由で。

「…ごめんなさい…」

レムの謝罪の言葉は、なおも続く。
…もしかして、幼い頃もずっとこうしていたのだろうか。
レムは何も悪くないのに、人間だから仕方のないことなのに、ずっと罪悪感を抱えて。ひたすら謝って。

コイツは任務中でも平気で寝るし、仮にも隊長格のくせに無防備で危なっかしいしで、俺もつい叱ってしまうけれど…

「…しばらく説教は控えるか」

明日の朝は余裕を持って起こしに来よう。普段のように怒鳴るんじゃなく、たまには優しく起こしてやろう。
一人で勝手に決意すると、もう一度彼女の髪の指通りを感じた後、俺は静かに部屋を出たのだった。



fin.

(14巻のオーラ・オブ・ポリゴンでぶわぁってなったランバダの髪にたぎって書いた話。逆にレムは髪を乾かさずに寝ちゃいそうだし、ランバダが面倒見ればいいよ!)

2011/11/04 公開
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