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微熱と休息

コールドスリープから目覚めて以降、私たちの周りでは短期間にたくさんの事が起こった。
毛の国の生き残りであるボーボボさんとの戦闘、毛狩り隊の新皇帝決定戦、そして闇の奴らとの死闘。そのどれもを私はランバダ様のすぐ近くで越えてきた。
もちろんずっと戦い詰めというわけではなくて、合間には休息を取る機会もあったけれど…それでも百年の眠りの直後、一年どころか数か月も経たないうちに、私たちを取り巻く状況は目まぐるしく変わっていった。
だから、なのかもしれない。彼の些細な変化に気付けたのは。



ランバダ様は今日、旧毛狩り隊の皆と会おうとはしなかった。
私は例によって遅い時間に起床したのでルブバからの又聞きだけど、ランバダ様は今朝、食事を手短に済ませて、仕事は自室でするからと言い残して行ったらしい。別にランバダ様の単独行動自体は珍しくなくて、百年前もそういうことは往々にしてあったから、その時は私も気に留めなかった。
…だけど。それから少し経って、書類に判を貰おうとランバダ様の部屋を訪れた時、私は違和感を覚えた。

「ランバダ様?」

机に向かう彼の背中に呼びかければ聞こえてはいるらしく、仕事をする手は止まる。けれど、こちらを見ようとはしない。
少し素っ気ないその様子は、彼を恐れる隊員やあまり親しくない者から見れば、普段と何も変わらないように映るだろう。せいぜい「今日は少し機嫌が悪いのかな、そっとしておこう」と思う程度で、それは隊員たちにとってある意味普段通りとも言える。
だけど私が感じたのは、それらとは明らかに違っていた。うまく説明できないけれど彼の纏っている空気感が、雰囲気が、怒りや不機嫌とは別種のもののような気がする。

「…書類はそこに置いておけと言っただろう。後で見る」

名前を呼んだのに一向に話し出そうとしない私に、これ以上待っても時間の無駄だと判断したのか、ランバダ様はベッドの方を指だけで示した。つられて目線を向ければ、これまでにも何人かの隊員が訪れたのか、綺麗に整えられた布団の上に報告書や資料が並べて置いてある。
この状況だけを見れば、余程仕事が溜まっていて、机の上に置き場所が無いからそうしたようにも見える…けれど。

「ランバダ様、もしかして体調が優れないんですか…?」

それはほとんど直感のようなものだった。布団の子としての第六感とでも言うべきか。
だけどそんな曖昧なものでなくても、考えてみればここ最近は連日のように戦闘続きだったのだ。それも百年前とは段違いの強さの相手ばかりと。ランバダ様は強いけれど、ずっと気を張っていたことで知らないうちに疲労が積み重なっていたとしても不思議ではない。
この話題を出せばプライドの高い彼は余計かたくなになるから、本人に進言するつもりはないけれど…先日の生け贄盤だって全くの無関係とは言えないはずだ。あれはいわば闇の奴らの封印を解く鍵の役割。後遺症とまではいかなくても、それなりの代償が後を引いている可能性は十分にある。
そして、あの時彼をそうさせてしまったのは紛れもなく私で。もう済んだことで今更どうしようもないとしても、いまだ拭えない後悔がじんわりと胸の奥に広がる。
持ってきた書類が手の中でくしゃりと歪みそうになって、そこでようやく我に返って私はそれを先程言いつけられた位置に下ろした。そうしてみても、嫌な予感までは手放せなくて残ったまま。

「…別に大したことない」

ランバダ様は相変わらず、こちらを見ずに言葉だけを返す。けれど私の問いかけに対して全否定ではない、むしろ濁したような物言いに胸騒ぎがした。
これは布団の子として、眠りに関する真拳を扱う者として譲れない局面だ。今度は語気を強めて尋ねる。

「昨晩、ちゃんと寝ましたか?」
「少しは寝たからいいだろう」
「少し、なんですか?」
「まぁ…色々とやることがあったからな」

ランバダ様は言いながら、ゆるりと首を動かした。彼の視線の先には仕事で使う山積みの書類。
だけど、それはミスリードだ。確かに私たちCブロック以下の隊長とランバダ様とでは実力も立場も段違いで、その分処理する案件も多いかもしれないけれど、それでも彼が夜中までずっと仕事をするなんてことは滅多になかった。だから原因は仕事ではなくて他のこと…例えば、宇治金TOKIOとゲームで対戦するためにレベルを上げているとか、おそらくそういった類いのものもあるのだろう。
だからといってそれが、彼を放っておく理由にはならないけれど。寝不足の要因が生け贄盤だけでなく複合的なものだとしても、そこに寝不足という事実がある以上、見過ごすことはできない。

「駄目ですよ、夜はちゃんと寝ないと!」
「うるさい、昼でも寝てる奴に言われたくない」
「それはそうですけど!」

正論で返されて思わず言い淀むけれど、ここで引き下がるわけにはいかないとすぐに思い直す。元気な時なら私の居眠りと彼の夜更かしでおあいこだけど、今はそうではないのだから。

「爆睡真拳奥義、魔歌布団!」

こうなったら、何が何でもランバダ様に休んでもらわなければ。
少々手荒な真似も辞さないつもりで、素早く真拳の構えを作る。選択したのは「布団で熟睡する」という意味ではこの上なく最適な技。もちろん威力は弱めて睡殺まではいかないようにして、ただし代わりに捕獲には全力を注ぐ。
どこからともなく出現させた布団で彼をくるんだ、瞬間。

「…ふん」

こちらの意図なんかお見通しだったようで、彼は自身の周囲にメテオ・ポリゴンを降らせた。自殺行為にも見える技の使い方なのに的確なコントロールはさすがランバダ様と言うべきか、綺麗に布団だけを射抜いて消滅させる。

「見ての通り、真拳は出せるから業務に支障はない」

ランバダ様は澄ました顔で淡々と宣言する。確かに今の技には十分すぎるほどの余力が感じられた。もし仮に奇襲が起こっても戦えるし問題ないということか。
しかしその直後、彼が気だるそうに頬杖をついたのを私は見逃さなかった。

「ランバダ様!」
「いちいち騒ぐな。少しふらつくだけだ、座って仕事をする分には平気だろう」

反射的に駆け寄った私に、彼は煩わしそうな視線を投げて答えた。だけど強がりな口調とは裏腹に纏っている空気感はずっと変わらない。頬杖だって、よく見ると指先がこめかみを押さえていて、まるで頭痛のありかを探っているかのようだ。
それに…無意識なのか、先ほどランバダ様が口を滑らせた言葉。

「ふらつくって…」

それって危険信号では。
ますます不安になって覗き込むけれど、ランバダ様は私の動く気配を察して、隠し事でもするみたいに顔を背けてしまう。

「…ランバダ様。こっちを向いてください」
「何で」
「何でも、です!」

理由なんて心配だからに決まっている。闇雲に叫べば、彼は少し驚きつつも渋々こちらに上体を向けてくれた。
真正面から見たランバダ様の瞳は、心なしかわずかに潤んでいる気がする。熱が上がる前兆だろうか。
嫌な予感に突き動かされて、気が付けば体が動いていた。

「ちょっとだけ、失礼しますね」

何を、とは伝えないまま彼の額に手を差し入れ、前髪を掻き上げる。
そして、静かに自分の額を合わせた。
私がここまでするとはさすがに予期していなかったのか、一瞬彼の呼吸が止まる。緊張が走った気配を間近で感じる。でもそれ以上に伝わってくる、熱。感じ取るまでもなく、熱い。

「なっ、おい、レム…!?」
「ほら、私よりも熱いです。明らかに熱、ありますよね?」

少し離れて、きちんと焦点を合わせて問いかける。それでもランバダ様は認めたくないのか、目を伏せて言い訳のように零す。

「このくらい、ただの微熱だ」
「微熱でも、もっと上がる前に休みましょう。仕事なら皆で割り振ればすぐに終わりますから!今は休息が第一です!」

きっぱりと言い切ってランバダ様の手から書類を取り上げれば、彼は意外そうにこちらを凝視してきた。すぐに取り返そうと動く気配はないものの、代わりに黙って見定めようとしているのが伝わってくる。
日頃の行いと言われればそれまでだけど、そんなに私は頼りないと思われていたのか。内心で苦笑しながら、だけど彼を安心させるように微笑んでみせる。

「私だってこれでも旧毛狩り隊Dブロック隊長ですよ?急ぎの仕事とそうでもない仕事、隊員でもできそうな仕事の区別くらいはつきます」

さてと、宣言したからにはやり遂げなければ。照れくささを隠してくるりと体の向きを変えると、彼から離れるようにして手つかずの書類が並ぶベッドに座り、文字通り腰を据えて取り掛かる。実は書かれてある内容をよく見ずにランバダ様から奪い取ってしまったので、まずは改めてじっくりと目を通していく。
途中「お前の場合は隊員を育てるためというより、自分が寝るためじゃないのか…?」という声が聞こえてきたけれど、今回は聞こえないふりをさせてもらった。一応図星だけど、ここで弱みを見せたらランバダ様はまた意固地になるだろうから。

「うーん、これはランバダ様以外だとハンペン様にお願いした方が良さそう…。あっ、でもこっちは隊長格ならほとんど処理できそうです!」

言いながら、手の空いていそうなメンバーを思い浮かべて簡単に割り振っていく。
特に重要な案件はハンペン様にお願いして、この辺りの仕事はルブバとジェダ様に頼んで、一部は私も引き受けて…そういえば今日は宇治金TOKIOもいたはず。

「そうだランバダ様、皆に手伝いをお願いしに行くついでに、何か口当たりの良い物持ってきますね!かき氷なら宇治金時とそれ以外の味、どちらが良いですか?」

きっと宇治金TOKIOに現状を伝えれば、彼は張り切って差し入れをしたがるだろう。それも十中八九、宇治金時の差し入れを。だけどランバダ様が今それを食べたいかは分からないし…一応先にランバダ様の希望を聞いておいて、もし宇治金時の気分ではないなら、宇治金TOKIOが準備する前に丁重にお断りしないと。
そんな想定をして問いかけると、ランバダ様はとうとう観念したようにはぁ、と溜め息をついた。

「…やっぱり少し休ませてくれ」
「もちろんです!私、よけますね!」

ランバダ様の結論になんだか私の方が嬉しくなって、ベッドの上にあった残りの書類も手早くまとめる。せっかく分類してあったのに一緒くたになってしまったのはご愛嬌、だけどそんなことよりも優先されるべきはランバダ様の休息!
結局かき氷の味についての返答は無かったけれど、それが彼の答えなのかもしれない。休んでいる時に「宇治金時でございます」なんて入ってこられても追い返されるだけだろうし、宇治金TOKIOにはそれとなく伝えておこう、と脳内のやることリストに加える。
…けれど。

「そのままでいい」
「えっ?」

予想外の返答に言葉が詰まる。…でも、このままだと彼が寝る場所も狭いままでは?と、彼の意図が読めずに疑問符が回り始めた、その時。
ランバダ様は隣に並んで座ったと思ったら、ことり、とこちらに倒れるように横になった。
一瞬何が起きたか分からなくて動きが止まる。…いや、実際動けない。太ももに感じる鈍い重さ。素肌を撫でる髪のくすぐったい感触、彼の頬の柔らかな温度。向こうを向いたまま寝転がったランバダ様の横顔は、何もおかしなことなど無いと言わんばかりに素知らぬ表情だけど。彼の頭が私の膝の上に乗っている、この体勢は、まさか。

「えっ、あのっ、ランバダ様!?待ってください、私まだよけてませんよ!?」
「あぁ」
「『あぁ』じゃなくて!これはっ、どういう…!?」
「ん…」

これは、俗に言う膝枕では!?
しかし、その単語を意識すればするほどパニックに陥る私とは対照的に、ランバダ様は答えるのも面倒だと言いたげな相槌を返すばかり。それが余計に私の脳内を混乱させていく。
どうしよう、どうすればいいの!?というかこの格好、色々とまずい気がする…!?
格好といっても別に私はおかしな服装をしているわけではなく普段通りで、それが良いとか悪いとか今まで気にしたことはなかった。しいて言うならジェダ様みたいな鎧はお昼寝しづらそうだから軽装を好んで着るくらいで、それに真拳の特性上活発に動くバトルスタイルでもないから急な戦闘で不便を感じたこともない。正直、周りの目がどうこうという指摘もピンと来ていなかったのが本音だ。そんなの眠ってしまえば、そして眠らせてしまえば些末な事柄でしかないのだから。
だけど、今。こんな体勢では、ショートパンツから伸びた素足に彼の体温が、肌の感触が、意識した途端に今度はわずかな息遣いさえも、否応なく伝わってくる。ランバダ様から時々言われる忠告の意味を、今こんな形で唐突に理解してしまった。
心臓の鼓動が速くなる。恥ずかしくてたまらないのに、彼が脅し文句でよく使う「屈辱的」とは真逆なように思えて、そう感じている自分に戸惑う。じたばたと身悶えしたくなる衝動に駆られるけれど、そんなことをすればせっかく横になったランバダ様に悪いという気持ちも捨てきれなくて…満足に頭も働かないまま、せめてもの抵抗で放ったのは布団の子らしからぬ言葉。

「駄目ですよ、お布団で休まないと疲れは取れないです!」
「お前がいい」
「は…」

開けた口から声にならない空気が漏れる。それすら熱い気がして、慌てて持っていた書類を口元に当てて隠した。それでも顔の方へと熱が昇ってくるのは止められない。
ランバダ様のことだから、我を通すにしても「お前も布団だろう」とか、そんな理屈を並べられると思ったのに。それなのに流し目でちらりと見上げられて、そんなことを言われてしまって…どうしよう。ランバダ様が大変な時なのに、この体勢だってやっぱり恥ずかしくて慣れないのに、どうしようもなく嬉しい。
そうしている間にもランバダ様はまた顔を背けてしまった。再び彼の頬がぴたりと当てられる感触…やっぱり、平熱よりも少し熱い。

「冷たくて、気持ち良いから…」

ランバダ様は向こうをぼうっと見つめて、うわ言のように理由を述べる。そこで初めて、引き金は私が引いてしまったのだと気付いた。
さっき、私が額をくっつけてしまったから。一瞬でも彼の高熱を奪って、平熱の心地よさを分け与えてしまったから。
とはいえ私だって今ので体温が上がった気がしているのに、それでも冷たく感じるなんて…ランバダ様はランバダ様で、私とは違う意味で相当参っているのかもしれない。ようやくそこまで思い至ると、私一人の恥ずかしさよりも彼を休ませてあげたい気持ちの方に天秤は傾いた。

「…分かりました。その代わり、ちゃんと休んでくださいね?」
「ん…」

それまでよりも幾分か落ち着いて了承の返事を告げれば、ランバダ様は安心したように目を閉じた。
割り振った仕事を頼みに行くことも、差し入れを持ってくることも、全て後回しになってしまったけれど仕方ない。せっかくだから書類を置いて尋ねる。

「ランバダ様。帽子、取ってもいいですか?」
「あぁ」
「頭、撫でてもいいですか?」
「…勝手にしろ」

目を瞑ったまま返される言葉に、熱のせいかほんのりと赤みを帯びた横顔に、今度は無性にいとおしさがこみ上げてくる。
どちらも普段の彼なら絶対にさせてくれないことだ。子ども扱いされているみたいで気に食わないというのが主な理由で、きっと無理に実行しようとすれば冷たく鋭い睨みで牽制されるのに…今は気を許してくれているのかも、なんて思うのはさすがに自惚れ過ぎだろうか。
帽子をそっと取って、脇に置く。さっき前髪を掻き上げた時は良くも悪くも無我夢中だったけれど、今度は少しの緊張を抱いて黒髪に触れる。
くように何度か撫でていると、新皇帝決定戦でのことがふと心に浮かんだ。私を逃がして一人で奴らに捕まったランバダ様。生け贄盤に囚われた時、激しい戦闘の後だというのに彼は眠るように穏やかな顔をしていた。その時の姿が今の様子と重なって、温かい感情の中に切ない思いが混ざり出す。

「ランバダ様。いつも守っていただいて、ありがとうございます」
「お前、今それを言うのか…人が弱ってる時に…」

ランバダ様は目を閉じたまま、困ったような声音で呟いた。弱っている時に言われても説得力がないと言いたいのだろう。それを分かった上で、私はあえて言葉を続ける。

「ランバダ様は強いですよ、とっても。…だからこそ、無理はしないでほしいんです」
「無理も何も、こんな風邪ごときで…」
「ふふ、やっぱり風邪だったんですね」

思わず笑みを零せば、ランバダ様は罰が悪そうに口を引き結ぶ。最初は恥ずかしかったこの体勢も、こうして見るとランバダ様の方が無防備だ。

「…咳は出ていないが、移すと良くないだろう。だから部屋に籠っていただけで、別に無理はしていない」
「そうだったんですね。…移すといけないなら私、離れましょうか?」
「いい。そんなの今更だ」

短い返答と同時に、私の膝にランバダ様の指先がそっと当てられる。控えめに触れるだけなのに主張が伝わってくるその動作を、果たして彼は自覚しているのか。
だけどこれ以上意地悪な質問をすると彼が意地を張ってしまうのも分かっているから、私は知らないふりをして話の続きを述べる。

「今回に限った話じゃありません。ランバダ様は強いですけど、一人で突き進むのだけが強さじゃないと思うんです。大変な時は、皆を頼ってもいいんですよ」
「……」
「ルブバも宇治金TOKIOもジェダ様も、それから他の隊員たちも、皆ランバダ様を慕っていますから。ランバダ様は不服かもしれませんけど、ハンペン様だって上司として気にかけてくださっていますし。だから、全部一人で抱えないでください」
「…なぁ、レム」
「はい?」
「お前は?」
「もちろん、私もです。お慕い申しております」
「そうか…」

ふっと楽になったみたいに、ランバダ様の表情が緩んだのが見て取れた。熱はまだ引かないけれど、このまま安静にしていれば重症化せずに済みそうだ。

「コールドスリープが終わって、せっかく無事でまた会えたんです。百年前に私たちが夢見ていた平和とは違う形かもしれないですけど…ランバダ様が治って仕事が落ち着いたら、また一緒にどこか遊びに行きましょう。…ランバダ様?」

呼びかけてみても返事は無くて、規則正しい寝息だけが聞こえる。どうやら完全に眠ってしまったらしい。
膝の上には鈍い重さと温もりが乗ったまま。少し休むだけならともかく、これから何時間もここを占拠されては足が痺れてしまいそうだ。このままでは仕事だって片付かないし、そもそも私は布団の子であって枕ではないはずなんだけど…なんて悪態は胸の内にしまっておく。
服装の話ではないけれど、重さや身体的負担が気になるのなら私だって眠ってしまえば済むことだ。どんな体勢でもすぐに眠りにつける自信はある。それに、本当に嫌なら相手をそっと退けるなりこの機会に睡殺するなりもできる。寝てしまって無防備な相手なら尚更。
だけど、それをしないのは。

「もう…聞いてますか?ランバダ様」

溜め息混じりに問いかけても返答は無し。浅い眠りの時でも聴覚は働いているというけれど、これは深い眠りに入ったということでいいのかしら。
慎重に確認してから…改めて安心しきった横顔を見下ろして、囁くように本心を打ち明けた。
――気付いてほしい。でも、今は気付かないで。

「いくら私が布団の子だからって…私の膝を枕にしていいのは、ランバダ様だけなんですからね」



fin.

1200hit記念リクエスト。シアン様へ。

2019/06/23 公開
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