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お出かけは二人で

天気良し、身だしなみも良し、準備万端。
少し早めに待ち合わせ場所へ行くと、仲良しの猫友が擦り寄ってきた。ごめんね、今日は用事があって皆と遊べないの。それは、アナにとって大切な用事。

「アナ、お待たせ!」

元気に駆けるスニーカーの音。走るたびにゆらゆら揺れるポニーテール。普段と違うのは彼女が私服だということ、そしてカイトたちがいないこと。

「ノノハ、おはよう♪」

今日は、ノノハとアナのデートの日。



「ごめんね、遅くなっちゃって…」

苦笑いを浮かべながら息を整えるノノハ。アナが少し早く来ただけで、ノノハは待ち合わせの時間ちょうどに到着。ノノハが謝ることないのにな。
なんて思っていたら、あれ?向こうの木の陰で、何かが動いたような…もしかして。

「ノノハ、今朝何かあった?」
「…じつは昨日、カイトから『明日は日曜だけど用事があるから寝過ごしたらまずい、起こしに来い』って連絡があって…。それでカイトを起こしてきたんだけど、今度は公園でギャモン君と√幼稚園の子どもたちに会っちゃって」

なるほど。アナが思うに、ノノハは子どもたちを無下にはできないから、ってことなのかな。なんとか理由をつけて急いで来たノノハは気付いていないみたいだけど、カイトもギャモンも…間接的にはおそらくキュービックも、そう簡単には引き下がらないはず。
でも、それはアナだって同じなんだな。

「それじゃあ行こっか、ノノハ♪」
「うん!」






最初にアナたちが来たのは美術館。
有名な画家の個展が開かれてて友達にチケットを貰ったから、ってノノハが誘ってくれたのがそもそも今日のデートの始まりだったんだ。

「うわぁー、へぇー、おぉー!」
「アナ、感心してばかりだね」
「ノノハは楽しくない?」
「ううん、私もなかなか来れないから新鮮。それにアナが楽しそうでよかったよ」

そう言って微笑むノノハ。スポーツが得意な彼女だけど頭も良いって聞いたことがあるし、実際に知的なこの空間にも自然体で溶け込んでいる。

「ねぇアナ、私この絵好きだな」

ノノハはある一枚の絵の前で歩みを止めると、振り返ってアナに話す。素直に気持ちが表現された、ノノハにぴったりな絵。アナもこの絵の気持ちをノノハに教えてあげたい、けれど。

「ちょっと待ってノノハ、後ろにゴミが付いてる。…はい、取れた」

ノノハが着ているパーカーのフードに隠れたそれを取って、近くのゴミ箱へ。
わずかに赤く点滅する、本来ならばカイト監視用に作られた機械…アナの目はごまかせないよ、キュービック?

「あっ…ありがとう、アナ」
「どういたしまして♪」

何も知らない彼女へにっこりと笑みを返す。
まずは一安心、だね。






続いて、お昼ご飯。
たまたま見かけたファーストフード店に寄って、ハンバーガーとジュースでちょっと休憩。

「ねぇねぇ、ノノハのオレンジジュース、一口ちょうだい?」
「もちろん。アナのミルクティーも飲んでいい?」
「うん♪」

二種類の物を頼んで、時々交換。これも二人だからできること。だけど、アナの狙いはそれだけじゃないんだな。
ノノハがアナの飲み物に口をつけた、瞬間。

「あぁぁっ!?何やってんだ!?」

他人の迷惑はお構い無しにガタリと立ち上がって叫ぶ人物が一人。

「えっ…ギャモン君!?」
「…ガリレオ?」

突然のギャモンの登場に驚くノノハ、…の声に重なった、もう一つの声。ギャモンを称号で呼ぶ、淡いブルーの帽子をかぶったロングヘアーの女の子。

「えっ、エレナさん!?」

ノノハはまたもやびっくり。でも、アナが思うにここまでくれば作戦成功。
…じつはアナたちが入ったのは、例の如く仕事を抜け出してきたエレナがいるお店。窓際にいた彼女を偶然見つけて、咄嗟にこのお店にしたんだ。
だって、そうすれば…

「アントワネット!?何でテメーがここに…って、今はそれどころじゃねぇ。おいアナ、何すました顔してノノハの飲み物を…!」
「ちょっと、この私を『それどころじゃない』って本当に失礼!」
「横入りすんじゃねぇ!話がややこしくなるから黙ってろ!」

「…ギャモン君とエレナさん、なんだかんだでお似合いだよね!?」
「アナが思うに、そっとしておいたほうがいいかも」
「うんうん!次行こう、アナ」

…ね?作戦成功。






次にやって来たのは、お菓子作りの材料がたくさん揃ったお店。ノノハは慣れたように材料を選んでいく。

「…でも、本当にここでよかったの?」
「うん。アナはもっとノノハのことを知りたかったから」

だから、アナはノノハがいつもお買い物してる場所をリクエストしたんだ。
棚に並んだ商品を見るようにしながら窓際へ行き、大きな声で宣言。

「思うに、楽しみなんだな。ノノハスイーツ」
「あはは、ありがとうねアナ。それじゃあ私、会計してくる!」

照れたように会計へ向かうノノハを見送ってから、そっと窓の外を確認すると…
やっぱりね。『ノノハスイーツ』という言葉にまで過剰反応する、残りの一人が青ざめた顔で固まっている。この様子だと、しばらく彼は動けないかも。

「アナ。買い物終わったよ、行こう?」
「うん♪」

…ごめんね、カイト。






こうして、ようやく本当に二人きり。…ノノハはずっと二人だけだと思ってたみたいだけどね。
これでアナもノノハにお願いができる。心の中でこっそり深呼吸して…



「…アナ、ノノハのおうちに行きたい!」



「えっ、私の家?」
「うん。思うに、ノノハがスイーツ作りするところを描きたいんだな。…ダメ?」
「ううん、そんなことないよ!嬉しい!」

ダメ元で聞いてみると、返ってきたのは了承の返事。
ノノハの優しさに甘えすぎかな?…でも、ほっぺを赤くするノノハを見る限り、ノノハが快諾してくれたのは単なる優しさだけじゃないはず。

「それじゃあ、行こっか」
「…うん!」

どちらからともなく手をとって、歩幅を合わせて歩き出す。
アナが思うに、本当のデートはこれからだよね。



fin.

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2012/01/08 公開
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