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君専用の愛言葉
気持ちのこもったプレゼントを渡すことが、いかに難しいか。今日一日、タイミングをさんざん掴み損ねて俺は痛感した。
自室のベッドの上で仰向けに寝転びながら、一人考える。
まだ幼い頃、俺はノノハにキューブパズルのキーホルダーをあげたことがある。当時の俺は、パズルは一人で解くから面白いと信じていて、ノノハにもその楽しさを知ってほしいと思ったからだ。
『悔しかったら解いてみなー!』
あの言葉は、負けず嫌いの彼女をパズルに挑戦させるための言葉だった。
それなのに…いつのまにか、そういった類の言葉は照れ隠しの文句になり、意地を張るためのものに成り下がっていた。
…ノノハは、憶えてるかな。
憶えては、いるだろうな。記憶力抜群の彼女のことだから、それは愚問というものだ。
ただ、幼い頃の拙い頭で精一杯考えた優しい気持ちからの言葉と、最近の何も考えずについ言ってしまう意地っ張りな言葉、その二つがノノハの中では区別されず一緒にされている可能性は否定できない。
「…やっぱ、素直になるしかねぇよな」
結論を自分に言い聞かせて起きる。机の上に置かれたままの綺麗な包みは、あの時と渡す相手は同じでも目的は正反対。決意してその包みを手に取り立ち上がると、ちょうど部屋の扉が開いた。
「カイトー、夕飯できたよ。行こう?」
「ノノハ」
何も知らずいつも通りの幼馴染みに、あの時のように向き合う。昔は同じくらいの目線だったのに今はノノハのほうが少し小さく、それが俺に遠回りしてきた時間の長さを思わせる。
「これ、プレゼント。ノノハにやるよ」
「どうしたの突然。…開けていい?」
「あぁ」
やはり、昔のようにプレゼントと聞いてすぐ喜ぶわけではないらしい。当然だよな、パズルのできないノノハにパズルを贈って怒らせて、意図を伝えきれなかったのは他でもない俺なのだから。だが期待してくれるところは変わっていない。それが俺を少し安心させた。
一方のノノハは丁寧に包みを開いて中身を取り出し、第一声は…
「可愛い!…けど、あれ?ん?」
最初に喜び、次に戸惑い。
どうやって使うのかと疑問が浮かんでいる彼女に、俺は説明する。
「それ、からくり箱っていうんだ。箱全体がパズルになってて、解けば箱が開いて中の物が取り出せるって仕組みだ」
…俺がノノハへの贈り物に選んだのはからくり箱。デザインは女の子らしくファンシーなものにしたから、第一印象ではノノハも気に入ってくれたようだった。しかし、戸惑いは何だかんだ言ってもパズルだという点にあるようで。
「まぁカイトのことだから、パズルじゃないかなーとは思っていたけどね」
そう言って、困ったように笑うノノハ。
俺は小さく拳を握ると、素直になるため口を開いた。
このパズルは、ノノハを困らせるために贈ったわけではない。
昔のように、一人で解いてほしくて贈ったわけでもない。
「ノノハ。…俺は、ノノハがこのパズルを一人で解けるようになるまで、一緒にいてやるよ」
このパズルは、約束の証。
パズルの苦手なノノハ専用の、最上級の約束の証だ。
「ありがとう、カイト」
幸せそうな笑顔に変わったノノハを見て、俺は改めて彼女を守る覚悟を固めた。
fin.
前サイト10000hit記念リクエスト。御坂セイラ様へ。
2014/03/07 公開
気持ちのこもったプレゼントを渡すことが、いかに難しいか。今日一日、タイミングをさんざん掴み損ねて俺は痛感した。
自室のベッドの上で仰向けに寝転びながら、一人考える。
まだ幼い頃、俺はノノハにキューブパズルのキーホルダーをあげたことがある。当時の俺は、パズルは一人で解くから面白いと信じていて、ノノハにもその楽しさを知ってほしいと思ったからだ。
『悔しかったら解いてみなー!』
あの言葉は、負けず嫌いの彼女をパズルに挑戦させるための言葉だった。
それなのに…いつのまにか、そういった類の言葉は照れ隠しの文句になり、意地を張るためのものに成り下がっていた。
…ノノハは、憶えてるかな。
憶えては、いるだろうな。記憶力抜群の彼女のことだから、それは愚問というものだ。
ただ、幼い頃の拙い頭で精一杯考えた優しい気持ちからの言葉と、最近の何も考えずについ言ってしまう意地っ張りな言葉、その二つがノノハの中では区別されず一緒にされている可能性は否定できない。
「…やっぱ、素直になるしかねぇよな」
結論を自分に言い聞かせて起きる。机の上に置かれたままの綺麗な包みは、あの時と渡す相手は同じでも目的は正反対。決意してその包みを手に取り立ち上がると、ちょうど部屋の扉が開いた。
「カイトー、夕飯できたよ。行こう?」
「ノノハ」
何も知らずいつも通りの幼馴染みに、あの時のように向き合う。昔は同じくらいの目線だったのに今はノノハのほうが少し小さく、それが俺に遠回りしてきた時間の長さを思わせる。
「これ、プレゼント。ノノハにやるよ」
「どうしたの突然。…開けていい?」
「あぁ」
やはり、昔のようにプレゼントと聞いてすぐ喜ぶわけではないらしい。当然だよな、パズルのできないノノハにパズルを贈って怒らせて、意図を伝えきれなかったのは他でもない俺なのだから。だが期待してくれるところは変わっていない。それが俺を少し安心させた。
一方のノノハは丁寧に包みを開いて中身を取り出し、第一声は…
「可愛い!…けど、あれ?ん?」
最初に喜び、次に戸惑い。
どうやって使うのかと疑問が浮かんでいる彼女に、俺は説明する。
「それ、からくり箱っていうんだ。箱全体がパズルになってて、解けば箱が開いて中の物が取り出せるって仕組みだ」
…俺がノノハへの贈り物に選んだのはからくり箱。デザインは女の子らしくファンシーなものにしたから、第一印象ではノノハも気に入ってくれたようだった。しかし、戸惑いは何だかんだ言ってもパズルだという点にあるようで。
「まぁカイトのことだから、パズルじゃないかなーとは思っていたけどね」
そう言って、困ったように笑うノノハ。
俺は小さく拳を握ると、素直になるため口を開いた。
このパズルは、ノノハを困らせるために贈ったわけではない。
昔のように、一人で解いてほしくて贈ったわけでもない。
「ノノハ。…俺は、ノノハがこのパズルを一人で解けるようになるまで、一緒にいてやるよ」
このパズルは、約束の証。
パズルの苦手なノノハ専用の、最上級の約束の証だ。
「ありがとう、カイト」
幸せそうな笑顔に変わったノノハを見て、俺は改めて彼女を守る覚悟を固めた。
fin.
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2014/03/07 公開
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