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それでも、女の子
ノノハは運動神経抜群だ。
それは運動部から助っ人を頼まれるときだけでなく、体育の授業でも遺憾なく発揮されている。もっとも、ノノハ自身はある程度手加減しているようだが…それでも他のクラスメートたちはノノハがいると本気で取り組む。ノノハが敵だろうと味方だろうと、上手とか下手とか関係なく。
だから、例えばバスケでノノハの予想外のところからボールが飛んでくることだって、無いわけではない。彼女もそれはわかっていたし、普段なら咄嗟に避けるとかキャッチするとか、何らかの対応ができる、のに。
それなのに今日はいつのまにか靴のひもが緩んでいたらしく、それを踏んでバランスを崩した彼女の頭めがけて、ボールは無情にも向かってくる。
そして次の瞬間、響いた悲鳴。騒然となる女子のコート。その中で、ノノハが倒れている光景。
…そんな忌まわしき先程の出来事を、天才テラスでノノハの到着を心待ちにしている三人に話したところ「すぐに彼女が運ばれた病院へ行こう」と全員の意見が一致。ギャモンのバイクとキュービックの機械を使って病院へ駆けつけ、現在に至る。
「ノノハ、大丈夫かな…。カイトは同じクラスでしょ、先生から何か聞いてない?」
「…体育の先生は『命に別状は無い、念のため検査しに行くだけだ』って言ってたけど」
「じゃあ、どうしてノノハが病院に運ばれるの?アナが思うに、それだけ危ないってこと…?」
「だからそれは、もしものことがあったらマズいから医者の判断を聞こうってだけだって…」
「もしものことって…縁起でもないこと言うなよバカイト」
「っ、悪い…」
「……」
またしても沈黙。
誰かが不安を口にして、それに対して俺は先生やクラスメートから聞いたことを代弁して、でも不信まみれの情報に説得力なんか無くて。待合室では、さっきからずっとこの繰り返しだ。
…その時。
「あれ、皆どうしたの?」
突如聞こえた声…それは、紛れもなく皆が待ち望んでいた彼女のもので。
振り向くと、きょとんとした表情のノノハがいた。
「ノノハ…!?お前、頭打ったってのに普通に歩いて大丈夫なのかよ!?」
「うん、平気だよ?さっき診てもらったけど、すぐに濡れタオルで冷やしたから軽度で済んだし、もう動いてもいいって」
なんだよ…俺たちの心配は杞憂だったってことか。
ホッと胸を撫で下ろして、もう一度顔を上げる、と…
「ノノハ、その髪…」
「…え?」
さっきはそれどころじゃなくて気にしていなかったが、改めて見るとノノハは珍しくポニーテールをほどいている。
おそらく診察のために髪を下ろし、そのままにして来たのだろうが…そのおかげで、先程まで不安で煩かった俺の心臓は今、別の理由で煩くなる。コイツは大量破壊スイーツを作る奴で、容赦なく関節技を決める奴で、俺にとってはただの幼馴染みだっていうのに。
…というか、ノノハが髪を下ろしたところを見るのって、もしかして初めてだったか?
昔からコイツはポニーテールって決まってたし、朝に俺を起こしに来る時はもう既に準備万端だし…どんなに記憶をたどってみてもロングヘアーのノノハはいない。
まさかと思い、さりげなく隣を盗み見ると、案の定ギャモンはわかりやすく顔を赤らめているし、アナとキュービックも興味津々といった様子でノノハを見つめている。幼馴染みの俺でさえ見たことがないのだからコイツら三人も初めて見るのでは、という予想は見事に当たったらしい。
「ちょっとどうしたの皆、黙ってぼんやりして…」
当の本人だけは相変わらず、自分が原因だとはまったく気付いていないけどな。
「ノノハ、アナよりも髪長いかもー」
「ねぇノノハ、オカベ君で長さを測ってもいい?こんな機会は滅多にないからね」
「あっ、何どさくさに紛れてノノハの髪触ってやがんだぁ!?病み上がりでかわいそうだろ!」
「そういうギャモンこそ、大声出して他の患者の迷惑だよね」
「アナが思うに、病院は静かにしたほうがいいんだな」
「お前らが言うんじゃねぇよ!」
「もう、皆落ち着いて。私は平気だから、皆で帰ろう?…ほら、カイトも早く!」
さっきまでの重苦しい空気はどこへやら、無事だとわかるとすぐ賑やかになる三人と、それをなだめるノノハ。またいつもの日々が戻ってきたと思うと嬉しい半面、少々不安でもあり。
「ったく…心配かけんな」
彼女の横を通り過ぎる瞬間に小さくそう呟いて、その長い髪をわしゃわしゃとかき乱してやった。
fin.
前サイト5000hit記念リクエスト。sizuka様へ。
2012/01/04 公開
ノノハは運動神経抜群だ。
それは運動部から助っ人を頼まれるときだけでなく、体育の授業でも遺憾なく発揮されている。もっとも、ノノハ自身はある程度手加減しているようだが…それでも他のクラスメートたちはノノハがいると本気で取り組む。ノノハが敵だろうと味方だろうと、上手とか下手とか関係なく。
だから、例えばバスケでノノハの予想外のところからボールが飛んでくることだって、無いわけではない。彼女もそれはわかっていたし、普段なら咄嗟に避けるとかキャッチするとか、何らかの対応ができる、のに。
それなのに今日はいつのまにか靴のひもが緩んでいたらしく、それを踏んでバランスを崩した彼女の頭めがけて、ボールは無情にも向かってくる。
そして次の瞬間、響いた悲鳴。騒然となる女子のコート。その中で、ノノハが倒れている光景。
…そんな忌まわしき先程の出来事を、天才テラスでノノハの到着を心待ちにしている三人に話したところ「すぐに彼女が運ばれた病院へ行こう」と全員の意見が一致。ギャモンのバイクとキュービックの機械を使って病院へ駆けつけ、現在に至る。
「ノノハ、大丈夫かな…。カイトは同じクラスでしょ、先生から何か聞いてない?」
「…体育の先生は『命に別状は無い、念のため検査しに行くだけだ』って言ってたけど」
「じゃあ、どうしてノノハが病院に運ばれるの?アナが思うに、それだけ危ないってこと…?」
「だからそれは、もしものことがあったらマズいから医者の判断を聞こうってだけだって…」
「もしものことって…縁起でもないこと言うなよバカイト」
「っ、悪い…」
「……」
またしても沈黙。
誰かが不安を口にして、それに対して俺は先生やクラスメートから聞いたことを代弁して、でも不信まみれの情報に説得力なんか無くて。待合室では、さっきからずっとこの繰り返しだ。
…その時。
「あれ、皆どうしたの?」
突如聞こえた声…それは、紛れもなく皆が待ち望んでいた彼女のもので。
振り向くと、きょとんとした表情のノノハがいた。
「ノノハ…!?お前、頭打ったってのに普通に歩いて大丈夫なのかよ!?」
「うん、平気だよ?さっき診てもらったけど、すぐに濡れタオルで冷やしたから軽度で済んだし、もう動いてもいいって」
なんだよ…俺たちの心配は杞憂だったってことか。
ホッと胸を撫で下ろして、もう一度顔を上げる、と…
「ノノハ、その髪…」
「…え?」
さっきはそれどころじゃなくて気にしていなかったが、改めて見るとノノハは珍しくポニーテールをほどいている。
おそらく診察のために髪を下ろし、そのままにして来たのだろうが…そのおかげで、先程まで不安で煩かった俺の心臓は今、別の理由で煩くなる。コイツは大量破壊スイーツを作る奴で、容赦なく関節技を決める奴で、俺にとってはただの幼馴染みだっていうのに。
…というか、ノノハが髪を下ろしたところを見るのって、もしかして初めてだったか?
昔からコイツはポニーテールって決まってたし、朝に俺を起こしに来る時はもう既に準備万端だし…どんなに記憶をたどってみてもロングヘアーのノノハはいない。
まさかと思い、さりげなく隣を盗み見ると、案の定ギャモンはわかりやすく顔を赤らめているし、アナとキュービックも興味津々といった様子でノノハを見つめている。幼馴染みの俺でさえ見たことがないのだからコイツら三人も初めて見るのでは、という予想は見事に当たったらしい。
「ちょっとどうしたの皆、黙ってぼんやりして…」
当の本人だけは相変わらず、自分が原因だとはまったく気付いていないけどな。
「ノノハ、アナよりも髪長いかもー」
「ねぇノノハ、オカベ君で長さを測ってもいい?こんな機会は滅多にないからね」
「あっ、何どさくさに紛れてノノハの髪触ってやがんだぁ!?病み上がりでかわいそうだろ!」
「そういうギャモンこそ、大声出して他の患者の迷惑だよね」
「アナが思うに、病院は静かにしたほうがいいんだな」
「お前らが言うんじゃねぇよ!」
「もう、皆落ち着いて。私は平気だから、皆で帰ろう?…ほら、カイトも早く!」
さっきまでの重苦しい空気はどこへやら、無事だとわかるとすぐ賑やかになる三人と、それをなだめるノノハ。またいつもの日々が戻ってきたと思うと嬉しい半面、少々不安でもあり。
「ったく…心配かけんな」
彼女の横を通り過ぎる瞬間に小さくそう呟いて、その長い髪をわしゃわしゃとかき乱してやった。
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2012/01/04 公開
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