3期25話カイノノ
繰り返さないために
「ほら、窪みにこのピースを入れて…」
「こ、こう?」
「あー待った、全部入れる前にこのピースを引っかける」
「えっ!?ちょっと待ってよカイト…!」
愚者のパズルの解放依頼が無い、のどかな休日の夕方。俺は夕食の用意ができたと部屋まで呼びに来たノノハを捕まえて、ジンとの約束だったパズルの試作品第一号を彼女に解かせていた。パズル日和だとか何だとか、適当な理由をつけて。
解かせているのは手に収まるサイズの、いわばスタンダードな組み木パズル。…になるはずだが、ノノハの手にかかるとアナも理解できないであろう芸術品に仕上がってしまう。決してノノハの馬鹿力で粉々にされるという意味ではなく、単にパズルが苦手だから変な所にピースをはめたり引っかけたりして、最終的には両手に収まりきらないサイズの謎の立体が出来上がるのだ。もちろん幾何学的な立体とは程遠い。
最初こそ自由に遊ばせていたものの、そんな彼女の様子を見かねて結局小出しにヒントを与えたところ…もはやヒントどころか俺が正解を言ってノノハがパズルを動かす形になり、今に至る。
これ、俺が解くところをノノハに見せたほうが早かったんじゃないか…?
パズルに触りたくて仕方ない両手をポケットに入れてごまかし、ふと浮かんだ考えを即座に否定する。
確かにノノハは記憶力抜群だから、俺が解くのを一度見せれば覚えて再現できるだろう。それはオルペウス・オーダーとの戦いの合間に南の島でパズルの特訓をした時のことでも明らかだ。
…でも、それでも俺は、ノノハの手でパズルを動かして解いてほしい。それだけは妥協してはいけない。
もっとも、俺の指示でパズルを動かすだけでは、未知のパズルに出会った時に動かし方が分からないノノハに戻るだけだから、本当の意味で「解いた」とは言えないけれど。
「カイト、次は?」
「ん?次は…って、もうほとんどできてるじゃねぇか。最後に残りのピースをその穴にはめて完成」
「こうね?…すごーい、私にもできたー!」
俺の思いなど露知らず、ノノハは無邪気に完成を喜ぶ。大きな目をキラキラさせて組み木パズルを見つめるその様子は昔と全く変わらなくて、同い年だが微笑ましい気持ちになる。もしかしてジンも俺たちにパズルを教えた時、こんな気持ちだったのだろうか。自分が解くのも楽しいけれど、人に解いてもらうのも悪くないと思えるような、そんな気持ち。
「まぁ、今はほとんど俺が答え言ったようなもんだけど。じゃあ今度は、」
今度はノノハ一人で解いてくれよ――。
無意識のうちに出そうになった言葉を、俺はギリギリのところで飲み込む。
記憶力に頼ってもいいから――。
復習のつもりで――。
…どれも違う。一般的には反復練習が大切かもしれないが、ノノハの場合はそうじゃない。
体調を崩し、パズルの解き方を忘れて落ち込む、幼いノノハが脳裏によぎる。あの時は良かれと思って一人で解かせ、結果としてノノハを悲しませた。さらにはそれに耐えきれず、自分がノノハの分も解くと約束した。
あの過去を繰り返さないために、俺がすべきことは…
「…カイト?」
ハッとして我に返ると、先程解いた組み木パズルを手にしたまま俺を見る高校生のノノハ。俺が途中で話さなくなったのを不思議に思っている、そんな表情だ。
「いや、何でもねぇ。今度また別の試作品も解いてくれよ」
「カイトが教えてくれるならね」
「…あぁ」
どことなく歯切れの悪い返事になったが、彼女は気付いていないらしい。嬉しそうに笑ったまま、「夕飯温め直さないと。カイトも早く来てよね!」と言い残して俺の部屋を後にした。
すっかり日の傾いた部屋。ノノハの足音が去っていくのを確認してから、俺は携帯を取り出し、操作して耳に当てる。少しのコール音の後…繋がった。
「ルーク、頼みがある。……」
.
「ほら、窪みにこのピースを入れて…」
「こ、こう?」
「あー待った、全部入れる前にこのピースを引っかける」
「えっ!?ちょっと待ってよカイト…!」
愚者のパズルの解放依頼が無い、のどかな休日の夕方。俺は夕食の用意ができたと部屋まで呼びに来たノノハを捕まえて、ジンとの約束だったパズルの試作品第一号を彼女に解かせていた。パズル日和だとか何だとか、適当な理由をつけて。
解かせているのは手に収まるサイズの、いわばスタンダードな組み木パズル。…になるはずだが、ノノハの手にかかるとアナも理解できないであろう芸術品に仕上がってしまう。決してノノハの馬鹿力で粉々にされるという意味ではなく、単にパズルが苦手だから変な所にピースをはめたり引っかけたりして、最終的には両手に収まりきらないサイズの謎の立体が出来上がるのだ。もちろん幾何学的な立体とは程遠い。
最初こそ自由に遊ばせていたものの、そんな彼女の様子を見かねて結局小出しにヒントを与えたところ…もはやヒントどころか俺が正解を言ってノノハがパズルを動かす形になり、今に至る。
これ、俺が解くところをノノハに見せたほうが早かったんじゃないか…?
パズルに触りたくて仕方ない両手をポケットに入れてごまかし、ふと浮かんだ考えを即座に否定する。
確かにノノハは記憶力抜群だから、俺が解くのを一度見せれば覚えて再現できるだろう。それはオルペウス・オーダーとの戦いの合間に南の島でパズルの特訓をした時のことでも明らかだ。
…でも、それでも俺は、ノノハの手でパズルを動かして解いてほしい。それだけは妥協してはいけない。
もっとも、俺の指示でパズルを動かすだけでは、未知のパズルに出会った時に動かし方が分からないノノハに戻るだけだから、本当の意味で「解いた」とは言えないけれど。
「カイト、次は?」
「ん?次は…って、もうほとんどできてるじゃねぇか。最後に残りのピースをその穴にはめて完成」
「こうね?…すごーい、私にもできたー!」
俺の思いなど露知らず、ノノハは無邪気に完成を喜ぶ。大きな目をキラキラさせて組み木パズルを見つめるその様子は昔と全く変わらなくて、同い年だが微笑ましい気持ちになる。もしかしてジンも俺たちにパズルを教えた時、こんな気持ちだったのだろうか。自分が解くのも楽しいけれど、人に解いてもらうのも悪くないと思えるような、そんな気持ち。
「まぁ、今はほとんど俺が答え言ったようなもんだけど。じゃあ今度は、」
今度はノノハ一人で解いてくれよ――。
無意識のうちに出そうになった言葉を、俺はギリギリのところで飲み込む。
記憶力に頼ってもいいから――。
復習のつもりで――。
…どれも違う。一般的には反復練習が大切かもしれないが、ノノハの場合はそうじゃない。
体調を崩し、パズルの解き方を忘れて落ち込む、幼いノノハが脳裏によぎる。あの時は良かれと思って一人で解かせ、結果としてノノハを悲しませた。さらにはそれに耐えきれず、自分がノノハの分も解くと約束した。
あの過去を繰り返さないために、俺がすべきことは…
「…カイト?」
ハッとして我に返ると、先程解いた組み木パズルを手にしたまま俺を見る高校生のノノハ。俺が途中で話さなくなったのを不思議に思っている、そんな表情だ。
「いや、何でもねぇ。今度また別の試作品も解いてくれよ」
「カイトが教えてくれるならね」
「…あぁ」
どことなく歯切れの悪い返事になったが、彼女は気付いていないらしい。嬉しそうに笑ったまま、「夕飯温め直さないと。カイトも早く来てよね!」と言い残して俺の部屋を後にした。
すっかり日の傾いた部屋。ノノハの足音が去っていくのを確認してから、俺は携帯を取り出し、操作して耳に当てる。少しのコール音の後…繋がった。
「ルーク、頼みがある。……」
.