1期天才テラス組クリスマス
スペシャルな心をどうぞ
普段とは違うおしゃれなグラスにシャンメリーを注ぎ、いつもお世話になっている食堂のおじさんに頼んで作ってもらった特別メニューを並べる。テーブルの隅々に置かれた手のひらサイズのツリーと、テラスの脇に飾られた大きなツリーに明かりを点けて、クリスマスソングを流せば、ほら…
「それじゃあ、メリークリスマス!」
素敵なパーティーの始まり始まり。
乾杯もそこそこに食事にがっつくのはいつもの二人、カイトとギャモン君。いくら毎日競争しているからって、今日くらいはゆっくり食べたらいいのに…味、ちゃんとわかるのかしら。
一方のアナとキューちゃんは落ち着いて食べているかと思えば、アナは競争する二人の絵を描いているし、キューちゃんは新しい機械でカイトを調べている。
…うん、天才(という名の変人)がクリスマスくらいは普通の学生らしく過ごしてくれると期待した私が甘かった。風景と食事が豪華になっただけで、いつもと何も変わらない。予想はしていたけれど、ちょっと落胆した、そんな時。
「ノノハ、メリークリスマス!」
天才たちの騒ぎの中からそっと抜け出して私に駆け寄り、あらためてクリスマスの挨拶をしてくれたのは、意外にもキューちゃんだった。彼はそのまま腕に抱いていた大きな箱を私に差し出す。
「え、私に?カイトじゃなくて?」
「うん、カイトにはさっき機能を向上させた監視メカを取り付けさせてもらったから大丈夫。こっちは正真正銘、ノノハへのプレゼント」
「ちょっと待て、いつの間に俺に付けたんだよ!?つーか俺にそんなプレゼントいらねぇし!」
「まぁまぁ落ち着いてカイト、脳波が乱れてるよ。それよりノノハのために作った発明品なんだ、受け取ってよノノハ」
キューちゃんはカイトの抗議をさらりと受け流す。突然のプレゼントにびっくり…というより、その箱の大きさにびっくり。何が入ってるんだろう…まさかカイトみたいに監視メカとかじゃないわよね?
「開けてもいい?」
「もちろん」
承諾を得て丁寧に包装紙を取る、と…中に入っていたのはたくさんの調理器具。定番の物からあると便利な物まで多種多様だ。
「ノノハと言えばやっぱりスイーツだと思ったんだ。どうかな?」
少し不安そうに尋ねるキューちゃん。私のことを思って選んでくれたのがすごく伝わってくるプレゼントに、不満なんてまったく無い。
「ありがとう、キューちゃん」
「悪夢だ…」
…カイトが隣でうなだれていたことは、気にしないでおこう。
「アナもプレゼントあげるー♪」
キューちゃんに続いて今度はアナが、にっこりと笑ってプレゼントを差し出した。ラッピングのリボンがバラの花の形に結ばれている。
「アナもくれるの?ありがとう!」
「早く開けてみて♪」
「えっ…綺麗なラッピングなのに、なんか勿体ないな」
「いいからいいから。リボンならアナがまた結んであげるよ?」
そこまで言うなら…。アナの言葉に甘えてラッピングをほどくと、入っていたのはオレンジ色の小さなボトル。柑橘系の香りがするフレグランスだ。
「アナもお揃いー!アナは苺の香りなんだな!」
同じデザインの、ピンク色のボトルを取り出して見せるアナ。お揃いはちょっと照れくさいけれど、もしかしたらアナは内心こういうのに憧れていたのかもしれない。
「ありがとう、アナ」
「ううん。メリークリスマス、ノノハ」
「…アナって男だよね?僕たち五人で会うようになってからどんどん女らしくなってる気がするけど」
後ろのほうで、キューちゃんの言葉にカイトとギャモン君がうんうんと頷いた。
二人の意見が合うなんて珍しい…と思ったのもつかの間、ギャモン君がカイトよりも一歩前に出る。
「…おっ俺様からもプレゼントだ!」
こういうパーティーに慣れていないのか、少し緊張した動作でギャモン君が差し出したのは、小さな水色の箱。
開けてみると、中にはキラキラと光るシルバーのブレスレット。怖そうな見た目のギャモン君からは想像できないような、シンプルで控えめなデザイン。試しに左手に付けてみたところ、愛用の腕時計ともよく合っている。
「アナが思うに、すっごく純粋で綺麗ー!」
「本当だね。ありがとう、ギャモン君」
「お、おうっ」
お礼を言うと、照れたように顔をそむけるギャモン君。
「…わかりやすいよな、ギャモンって」
「よく言えばベタ、悪く言えばウブだね」
「うるせぇなお前らは!」
野次を飛ばすカイトとキューちゃんに対してギャモン君は顔を真っ赤にして怒るけれど、どうしてそんなに反発するのかしら…男の子だから?
ギャモン君の行動に疑問符を浮かべつつも再度左手を上げてプレゼントに見とれていると、カイトがその視界を遮るようにして、赤いリボンのかかった袋を目の前に差し出した。
「ほらよ」
素っ気ない口調と態度で手渡されたそれを開けると、そこに入っていたのは白くてふわふわしたシュシュ。√幼稚園に通っていた時から変わっていないそのチョイスに、思わず顔がほころぶ。
「…結ばねぇのか?」
「え?…あっ、うん」
カイトも私も、昔のまま。変わったことと言えば、一人で髪を結べるようになったこと、かな。いつものヘアゴムの代わりにカイトのくれたそれでポニーテールを結い直す。
「よく似合ってるよノノハ!」
「ノノハ、雪の妖精みたいにピュアだと思うな」
「ケッ。バカイトのくせに良い贈り物するじゃねぇか」
キューちゃん、アナ、ギャモン君がそれぞれ感想を述べる。なんだか少し照れくさい、けれど。
「ありがとね、カイト」
「…おー」
一見冷めたような、だけど温かい返事が聞こえた。
カイト、ギャモン君、アナ、キューちゃん。クリスマスだろうと関係なくパズルに興じていたはずの天才たちが本当はプレゼントを準備していたことに、楽しんでくれていることに胸の奥がじんわりと温かくなる。その温かさを噛みしめながら、私は明るく宣言する。
「じつは…私からも、皆にプレゼントがあります!」
「…まさか、ノノハスイーツとか言うんじゃねぇだろうな」
さすがカイト、やたら拒否反応を起こすだけあって鋭い…。
「ま、まぁ、一つはそれだけどね…」
「本当!?やった!」
「アナ、ノノハのクリスマスケーキ食べたい!」
「仕方ねぇ。俺も食べてやるか」
「はぁ!?何だよそれ、俺が食べれねぇの知ってて大量に作ってきたのか!?」
喜ぶキューちゃん・アナ・ギャモン君とは打って変わって、不服そうなカイト。
…でも、これも本当は予想通り。
「カイトがそう言うと思って…。はい、カイトにプレゼント!」
「…へっ?」
そう、これが私の本当の計画。きょとんとした顔のカイトにプレゼントを渡す。
「えっと、これは…」
「マフラー。ほら、カイトは長袖になっても首まわりが寒そうだなぁって」
「…どーも」
動揺したままお礼を言うカイト。プレゼント作戦、大成功!
…すると。
「えーっ、カイトだけずるーい!」
頬を膨らませて素直に羨ましがるキューちゃん。アナとギャモン君はケーキを食べていて何も言わないけれど、こちらの様子を気にしているのが視線でわかる。
心配しないで、もちろん準備済みだよ。
「はい、これはキューちゃんのぶん」
「えっ、いいの!?ありがとう!」
キューちゃんに渡したのは冬用のふかふかした帽子。早速かぶってみる彼は年相応の反応で、見ていて微笑ましい。
「はい、これはギャモン君に」
「っ!?お、おう…サンキュー、ノノハ」
まったくの予想外といった反応のギャモン君。彼にプレゼントしたのは手袋。時々バイクで通学するって言ってたけど冬は風が冷たいだろうから、これを選んだんだ。
「そしてアナ!はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとうノノハ」
相変わらずにこにこ穏やかなアナに渡したのは、イヤーマフ。もしかして着けたら動物たちとの会話が難しくなっちゃうかな…と不安だったけれど、アナいわく「小鳥さんたちとのお喋りは耳で聞くんじゃなく心で通じ合う」そうなので、これからも使ってくれるみたい。
皆が皆、笑顔で、幸せで。
そんなクリスマスが、ゆっくりと過ぎていくのでした。
fin.
2011/12/25 公開
普段とは違うおしゃれなグラスにシャンメリーを注ぎ、いつもお世話になっている食堂のおじさんに頼んで作ってもらった特別メニューを並べる。テーブルの隅々に置かれた手のひらサイズのツリーと、テラスの脇に飾られた大きなツリーに明かりを点けて、クリスマスソングを流せば、ほら…
「それじゃあ、メリークリスマス!」
素敵なパーティーの始まり始まり。
乾杯もそこそこに食事にがっつくのはいつもの二人、カイトとギャモン君。いくら毎日競争しているからって、今日くらいはゆっくり食べたらいいのに…味、ちゃんとわかるのかしら。
一方のアナとキューちゃんは落ち着いて食べているかと思えば、アナは競争する二人の絵を描いているし、キューちゃんは新しい機械でカイトを調べている。
…うん、天才(という名の変人)がクリスマスくらいは普通の学生らしく過ごしてくれると期待した私が甘かった。風景と食事が豪華になっただけで、いつもと何も変わらない。予想はしていたけれど、ちょっと落胆した、そんな時。
「ノノハ、メリークリスマス!」
天才たちの騒ぎの中からそっと抜け出して私に駆け寄り、あらためてクリスマスの挨拶をしてくれたのは、意外にもキューちゃんだった。彼はそのまま腕に抱いていた大きな箱を私に差し出す。
「え、私に?カイトじゃなくて?」
「うん、カイトにはさっき機能を向上させた監視メカを取り付けさせてもらったから大丈夫。こっちは正真正銘、ノノハへのプレゼント」
「ちょっと待て、いつの間に俺に付けたんだよ!?つーか俺にそんなプレゼントいらねぇし!」
「まぁまぁ落ち着いてカイト、脳波が乱れてるよ。それよりノノハのために作った発明品なんだ、受け取ってよノノハ」
キューちゃんはカイトの抗議をさらりと受け流す。突然のプレゼントにびっくり…というより、その箱の大きさにびっくり。何が入ってるんだろう…まさかカイトみたいに監視メカとかじゃないわよね?
「開けてもいい?」
「もちろん」
承諾を得て丁寧に包装紙を取る、と…中に入っていたのはたくさんの調理器具。定番の物からあると便利な物まで多種多様だ。
「ノノハと言えばやっぱりスイーツだと思ったんだ。どうかな?」
少し不安そうに尋ねるキューちゃん。私のことを思って選んでくれたのがすごく伝わってくるプレゼントに、不満なんてまったく無い。
「ありがとう、キューちゃん」
「悪夢だ…」
…カイトが隣でうなだれていたことは、気にしないでおこう。
「アナもプレゼントあげるー♪」
キューちゃんに続いて今度はアナが、にっこりと笑ってプレゼントを差し出した。ラッピングのリボンがバラの花の形に結ばれている。
「アナもくれるの?ありがとう!」
「早く開けてみて♪」
「えっ…綺麗なラッピングなのに、なんか勿体ないな」
「いいからいいから。リボンならアナがまた結んであげるよ?」
そこまで言うなら…。アナの言葉に甘えてラッピングをほどくと、入っていたのはオレンジ色の小さなボトル。柑橘系の香りがするフレグランスだ。
「アナもお揃いー!アナは苺の香りなんだな!」
同じデザインの、ピンク色のボトルを取り出して見せるアナ。お揃いはちょっと照れくさいけれど、もしかしたらアナは内心こういうのに憧れていたのかもしれない。
「ありがとう、アナ」
「ううん。メリークリスマス、ノノハ」
「…アナって男だよね?僕たち五人で会うようになってからどんどん女らしくなってる気がするけど」
後ろのほうで、キューちゃんの言葉にカイトとギャモン君がうんうんと頷いた。
二人の意見が合うなんて珍しい…と思ったのもつかの間、ギャモン君がカイトよりも一歩前に出る。
「…おっ俺様からもプレゼントだ!」
こういうパーティーに慣れていないのか、少し緊張した動作でギャモン君が差し出したのは、小さな水色の箱。
開けてみると、中にはキラキラと光るシルバーのブレスレット。怖そうな見た目のギャモン君からは想像できないような、シンプルで控えめなデザイン。試しに左手に付けてみたところ、愛用の腕時計ともよく合っている。
「アナが思うに、すっごく純粋で綺麗ー!」
「本当だね。ありがとう、ギャモン君」
「お、おうっ」
お礼を言うと、照れたように顔をそむけるギャモン君。
「…わかりやすいよな、ギャモンって」
「よく言えばベタ、悪く言えばウブだね」
「うるせぇなお前らは!」
野次を飛ばすカイトとキューちゃんに対してギャモン君は顔を真っ赤にして怒るけれど、どうしてそんなに反発するのかしら…男の子だから?
ギャモン君の行動に疑問符を浮かべつつも再度左手を上げてプレゼントに見とれていると、カイトがその視界を遮るようにして、赤いリボンのかかった袋を目の前に差し出した。
「ほらよ」
素っ気ない口調と態度で手渡されたそれを開けると、そこに入っていたのは白くてふわふわしたシュシュ。√幼稚園に通っていた時から変わっていないそのチョイスに、思わず顔がほころぶ。
「…結ばねぇのか?」
「え?…あっ、うん」
カイトも私も、昔のまま。変わったことと言えば、一人で髪を結べるようになったこと、かな。いつものヘアゴムの代わりにカイトのくれたそれでポニーテールを結い直す。
「よく似合ってるよノノハ!」
「ノノハ、雪の妖精みたいにピュアだと思うな」
「ケッ。バカイトのくせに良い贈り物するじゃねぇか」
キューちゃん、アナ、ギャモン君がそれぞれ感想を述べる。なんだか少し照れくさい、けれど。
「ありがとね、カイト」
「…おー」
一見冷めたような、だけど温かい返事が聞こえた。
カイト、ギャモン君、アナ、キューちゃん。クリスマスだろうと関係なくパズルに興じていたはずの天才たちが本当はプレゼントを準備していたことに、楽しんでくれていることに胸の奥がじんわりと温かくなる。その温かさを噛みしめながら、私は明るく宣言する。
「じつは…私からも、皆にプレゼントがあります!」
「…まさか、ノノハスイーツとか言うんじゃねぇだろうな」
さすがカイト、やたら拒否反応を起こすだけあって鋭い…。
「ま、まぁ、一つはそれだけどね…」
「本当!?やった!」
「アナ、ノノハのクリスマスケーキ食べたい!」
「仕方ねぇ。俺も食べてやるか」
「はぁ!?何だよそれ、俺が食べれねぇの知ってて大量に作ってきたのか!?」
喜ぶキューちゃん・アナ・ギャモン君とは打って変わって、不服そうなカイト。
…でも、これも本当は予想通り。
「カイトがそう言うと思って…。はい、カイトにプレゼント!」
「…へっ?」
そう、これが私の本当の計画。きょとんとした顔のカイトにプレゼントを渡す。
「えっと、これは…」
「マフラー。ほら、カイトは長袖になっても首まわりが寒そうだなぁって」
「…どーも」
動揺したままお礼を言うカイト。プレゼント作戦、大成功!
…すると。
「えーっ、カイトだけずるーい!」
頬を膨らませて素直に羨ましがるキューちゃん。アナとギャモン君はケーキを食べていて何も言わないけれど、こちらの様子を気にしているのが視線でわかる。
心配しないで、もちろん準備済みだよ。
「はい、これはキューちゃんのぶん」
「えっ、いいの!?ありがとう!」
キューちゃんに渡したのは冬用のふかふかした帽子。早速かぶってみる彼は年相応の反応で、見ていて微笑ましい。
「はい、これはギャモン君に」
「っ!?お、おう…サンキュー、ノノハ」
まったくの予想外といった反応のギャモン君。彼にプレゼントしたのは手袋。時々バイクで通学するって言ってたけど冬は風が冷たいだろうから、これを選んだんだ。
「そしてアナ!はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとうノノハ」
相変わらずにこにこ穏やかなアナに渡したのは、イヤーマフ。もしかして着けたら動物たちとの会話が難しくなっちゃうかな…と不安だったけれど、アナいわく「小鳥さんたちとのお喋りは耳で聞くんじゃなく心で通じ合う」そうなので、これからも使ってくれるみたい。
皆が皆、笑顔で、幸せで。
そんなクリスマスが、ゆっくりと過ぎていくのでした。
fin.
2011/12/25 公開
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