1期天才テラス組クリスマス

マイナスとプラスの流転

俺様の放課後の過ごし方は主に三つある。
一つは、ゲーセンに行くパターン。メダルを使うゲームなら簡単に荒稼ぎできるし、最近はアントワネットもとい姫川エレナとパズルゲームで対戦することもよくある。
一つは、バイクで適当に走り回るパターン。その目的は新作の知恵の輪を探しに行くためだったり、風を感じて嫌なことを忘れるためだったり、まぁ様々だ。
残りの一つは、食堂の天才テラスに行くパターン。バカイトの相手は疲れるものの、少なくともパズル部に入るよりは良い仲間が揃っている。それにここで過ごしていれば高確率でノノハと帰れるオプション付きだ。もれなくあのバカも付いてくるのが難点だが。

そして今日の気分は三つ目の過ごし方。カイトがいるとノノハだけでなくキュービックやアナも集まってくるから、また賑やかになるな…なんて思いながら、レッドカーペットの敷かれた階段をゆっくりと上がっていく。
しかし、予想に反してそこにいたのはノノハ一人。用務員のオヤジから借りてきたであろう大きな脚立に乗り、手には折り紙で作ったような輪っかの飾り。

「…何してんだ?」
「クリスマスパーティーの準備だよ。ほら、この間皆でやろうって言ったでしょ?」

あぁ、そういえばそんな話もあった気がする。正直あの時はいつもの大食い対決に夢中だったから適当に聞き流していたが。

「他の奴らはどこ行ったんだよ」
「カイトは軸川先輩に呼ばれて学園長室へ。キューちゃんは研究室でツリーのライトの調整、アナは美術室でもっと飾りを作るって言ってたよ。見て見て、この飾りもアナが作ってくれたんだ」

そう言って、ノノハは長く繋がった輪っかを見せる。なるほど、確かに綺麗なグラデーションになるよう繋げられている。普段は奇抜で理解不能なものを作っているアナだが今回はノノハにもわかるようなデザインにしたようだ、それはそれでちょっと気に食わねぇが。
しかし、それ以上に気になるのはノノハの今の状況。彼女が運動神経抜群なのは知っているし、脚立から落ちることは無いと思うが…制服のまま、つまり短いスカートのまま作業して大丈夫なのか?

「…あーもう見てらんねぇ!俺様がやってやる!」
「え?」
「だから、俺が高い所の飾り付けを手伝うっつってんだよ。俺のほうが背ぇ高いだろ」
「本当!?ありがとう!」

笑顔で礼を言うノノハ。やっぱりかわいいな、なんて考えていると…

「じゃあ私はキューちゃんのところに行ってツリーを持ってくるね」
「えっ、ちょっ…」

ノノハは止める暇もなく行ってしまった。


…って、これじゃあ働き損じゃねぇか!
ノノハがいて一緒に準備するのならメリットは大いにあったが、一人虚しく飾り付け、しかも報酬無しなんて俺様のポリシーに反する。
だがちょっと待てよ、ノノハが戻ってきた時に何も作業が進んでいなかったら?怒るか呆れるか…とにかく好印象でないことだけは確かだ。それはまずい。そう結論づけて黙々と飾り付けを進める。
それにしてもこれ、よくできてるよな。アナが芸術の才能を持っていることは聞いていたが、この飾りは細部まで丁寧に作られていて、なんつーか…「ノノハを喜ばせよう!」って感じだし。これから持ってくるツリーもキュービックが作ったとか言ってたから、きっとノノハのために苦心して作ったもので当然のように綺麗だろうし。カイトの野郎は…何か作ったとは聞いてねぇが、そもそもカイトとの会話がきっかけで今回のパーティー開催に至ったらしいし。そう考えると俺、何もしてねぇな…。
いつのまにか輪っかの飾り付けも終盤になり、はぁ、とため息をついた瞬間。

「お疲れ様、ギャモン君」

その言葉と共に、脚立に掛けていた手にヒヤリと冷たい感触。

「っ!?」

それが缶ジュースの冷たさだと気付いた瞬間にはもう遅く、脚立からうっかり手を離した俺は床に背中を打ち付けた。
痛い、というかカッコ悪い。

「ギャモン君、大丈夫!?」
「痛ってぇ…いきなり何すんだ!」
「だから言ったでしょノノハ、作業中で危ないって」
「ごめんごめん、早く渡したくてつい…。飾り付け頑張ってくれたお礼にジュース買ってきたんだ。ハイ、ギャモン君」

一緒に来たキュービックの忠告を無視してまで渡したかったというそれは、真っ赤な缶のコーラ。なんだ…ノノハの奴、ちゃんとわかってんじゃん。

「あ…サンキュ」

慣れない展開に戸惑いながらも、缶を開けて一口飲む。炭酸の爽やかな感覚が勢いよく口の中に広がった。

「…あーっ!ギャモンずりーぞ!」

突然響いた声に目を向けてみれば、そこにいたのは大門カイト。学園長室からちょうど今戻って来たらしい。

「ずるいとは何だバカイト!働かざる者食うべからずだ」
「働かなかったんじゃねぇ、呼び出されて働けなかったんだよアホギャモン!」

このバカ…相変わらず負けず嫌いでぎゃんぎゃん煩い奴だ。埒が開かないと判断した俺は優越感を感じながら、もう一度コーラを飲んだ。



fin.

2011/12/25 公開
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