3期25話カイノノ

過去の君から未来の君へ

※第11話の途中から。レイツェル視点。





久しぶりに√学園を訪れると、一歩進むごとに荷物が揺れて危なっかしい人間がいた。高等部女子の制服、手首にはピンク色の腕時計。高く積まれた荷物に隠れて顔は見えないけれど、女子でこの量を運ぼうとするのはノノハくらいしかいないはず。そう思って近寄り助けると、彼女はとても驚いた表情を見せた。
それもそうね、私はフリーセルたちと同じクロスフィールド学院に転校したってカイトやルークあたりから聞いてるはずだもの。私もノノハの荷物を一つ持って歩きながら、ここに来た経緯を簡単に説明する。本当に簡単に、機密事項は省きながら。

ルークが私たちを呼び出したのはノノハに説明した通り、私が転校して無事慣れたかの確認もあるけれど…本当の目的は、彼女のサポート。
カイトがジンと約束して作ったパズルはノノハに解いてもらうそうだけど、ノノハはパズルが解けない。
一応カイトが旅立つ前に、ジンに捧げるパズルの試作品という名目で様々な組み木パズルをノノハに解かせたらしいけれど、試作品と完成品はまったく同じではないから、試作品を解いた時の記憶をそのまま使って解くことはできないように作られているそうだ。POGに属する軸川ソウジや姫川エレナの報告では、ノノハではないファイ・ブレインの子どもたちが解くとしても苦戦しそうな難易度の高いパズルで、ノノハの気持ちは持ち直してきているが解けるかは別問題…とルークは言っていた。
その上で、解き方を丸ごと教えない程度に彼女を支えてほしいというのがルークの意見だった。フリーセルは以前カイトとノノハに救われていて、二人と親しいから。そして私はジンのことを知っており、カイトとも神のパズルで戦ったから。「カイトがノノハに解かせるパズル」と「カイトがジンに捧げるパズル」、その両面からカイトがパズルを作った時の思考を探ろうというわけだ。
…もちろんうまくいく保障なんてないから、私はまずノノハに現状を尋ねた。ルークは知略を巡らせているみたいだけど、要はノノハが自力でパズルを解ければいいのだから。

「…解くよ。どれだけ時間がかかっても、必ず」

真剣そのものといった声のノノハは、私の次の問いにも怯まず答えた。カイトのためだけでなく皆のため、自分のために解くのだと。



その凛とした姿を、私は既に見たことがある。
神のパズルの中、カイトのおかげで偽りの世界から戻って来れてもなお抜け出せなかった、オルペウスの呪縛。それを消し去ってくれた、一人のソルヴァー。
カイトが自分の変えたかった過去だと呟いた、「過去を変えたらあり得たかもしれない今」。



カイトは過去を変えなかった。
だけどそのソルヴァーに会ったことで、今パズルが解けない彼女にも本来は神のパズルに挑むほどのポテンシャルがあると分かったから。だから、過去のノノハの思いを今、パズルに託して未来のノノハへ届けたのだ。

「…あなた、やっぱり…」

カイトの大切な人みたいだと思っていたけれど、やっぱりそうね。
パズルを解く動作は一人でも実は一人じゃないと考えるところは、オルペウスの世界でも現実でも、やっぱり変わらないわね。

「え?」
「ううん、なんでもない」

いくらカイトと鏡合わせの私でも、代わりになんて言ってあげない。それに神のパズルの話をしてもきっとノノハは混乱して、すぐには信じられないだろうから。
だけど、一つだけヒントをあげるとしたら。



「パズルを解く時、人は誰かと一緒なの」



カイトがパズルに託した気持ちを、私はノノハの言葉を借りて伝える。
神のパズルでの出来事なんて見ていないノノハは一瞬よく分からない顔をしたけれど、じんわりと、心のどこかでは覚えているかのように満たされた表情へと変わっていく。

「ありがとう、レイツェル」

カイトの名前を呼ぶ時と同じ優しいトーンで紡がれた私の名前に、私は嬉しくなって微笑んだ。



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