3期25話カイノノ
未来は変えられる
ジンがオルペウスの腕輪から解放されて、一年が過ぎた。
と言っても、俺やルークやフリーセルたちのように腕輪が壊れて解放されたわけではない。既にオルペウスと一体になっていたジンの意識は、オルペウスが消滅すると次第に薄れていった。早すぎる死。オルペウスではなくジンとして最期を迎えたことに関しては良かったけれど、いつか見た幻影のようにルークやレイツェルとジンを囲んでパズルをすることは結局叶わなかった。
それから俺は高校三年生になり、学園では自然と仲間たちと天才テラスに集まり、週末には愚者のパズルの解放依頼をこなす日々を送っている。ルークは相変わらずPOG管理官として働いていて、レイツェルはクロスフィールド学院高等部に編入したと聞いた。
でも、今からでも、ジンとの約束を果たせるとしたら…。
「カイトー、夕食できたよ。…何してるの?」
どれくらいの時間、没頭していたのだろう。耳馴染みのある声に顔を上げると既に制服から私服に着替えて俺を呼びに来たノノハがいた。ノノハも高校三年生になっても相変わらず俺のお目付け役らしく、平気でお互いの家を行き来している。机の前で考え込んでいた俺を見て興味を惹かれたのか、すぐ近くまでやって来て手元を覗き込むノノハ。そんな彼女に俺は今まで向き合っていた紙をひらひらと見せながら、端的に説明する。
「あぁ、組み木パズルの設計図だよ。ジンに『パズルを作ってくれ』って頼まれてたからな」
そう、これがジンとの約束。
今さら遅いかもしれないけれど、と付け加えるとノノハは柔らかく微笑んで首を横に振った。
「ううん。ジンさん、喜ぶよ。きっと楽しんでくれると思う」
ジンさんとの約束だもの、約束は守らないとね、と付け加えて笑うノノハ。半ば茶化すような口調なのは、いつぞやの俺のセリフを覚えていてそっくりそのまま返したせいだろう。ノノハとの約束はこれまで何度も破っているだけに内心ばつの悪さを感じながらも、それとは別に彼女のセリフにはふと引っかかった言葉があった。
パズルを楽しむ――。
その言葉で、俺の心にはあの日交わしたもう一つの約束がよみがえった。それはオルペウスの出題した神のパズル「時の迷路」の中で交わした約束。
『いつか絶対、二人でパズル解こうな!』
もちろんあれはオルペウスの見せた幻影であり、俺の望み通りノノハが自力でパズルを解き続けたことでPOGのソルヴァーにまでなったパラレルワールドのノノハで、今目の前にいるノノハに訊いてもそのことは何も知らないだろう。自分がパズルを解く喜びよりも俺がパズルを解く姿を見る喜びを選んだから、今の彼女がいる。だから過去は変えなかったし、今さら過去を変える方法も無いけれど。
だが、未来は変えられる。
「ノノハ」
名前を呼び、彼女と向き合う。いつもより真剣な声に気付いたのか、ノノハもまっすぐに俺を見つめてきた。
一呼吸置いて、告げる。
「このパズルができたら、解いてくれねぇか。解き方は教えるから…昔みたいに、一緒にパズルしようぜ」
彼女が体調を崩してパズルが一切解けなくなった、あの事件の前のように。
あるいは、「時の迷路」で消えてしまった続きのように。
ジンに向けたパズルではあるけれど、同時にノノハに解く喜びを与えられるパズルにしたいと、俺はこの時強く思った。
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ジンがオルペウスの腕輪から解放されて、一年が過ぎた。
と言っても、俺やルークやフリーセルたちのように腕輪が壊れて解放されたわけではない。既にオルペウスと一体になっていたジンの意識は、オルペウスが消滅すると次第に薄れていった。早すぎる死。オルペウスではなくジンとして最期を迎えたことに関しては良かったけれど、いつか見た幻影のようにルークやレイツェルとジンを囲んでパズルをすることは結局叶わなかった。
それから俺は高校三年生になり、学園では自然と仲間たちと天才テラスに集まり、週末には愚者のパズルの解放依頼をこなす日々を送っている。ルークは相変わらずPOG管理官として働いていて、レイツェルはクロスフィールド学院高等部に編入したと聞いた。
でも、今からでも、ジンとの約束を果たせるとしたら…。
「カイトー、夕食できたよ。…何してるの?」
どれくらいの時間、没頭していたのだろう。耳馴染みのある声に顔を上げると既に制服から私服に着替えて俺を呼びに来たノノハがいた。ノノハも高校三年生になっても相変わらず俺のお目付け役らしく、平気でお互いの家を行き来している。机の前で考え込んでいた俺を見て興味を惹かれたのか、すぐ近くまでやって来て手元を覗き込むノノハ。そんな彼女に俺は今まで向き合っていた紙をひらひらと見せながら、端的に説明する。
「あぁ、組み木パズルの設計図だよ。ジンに『パズルを作ってくれ』って頼まれてたからな」
そう、これがジンとの約束。
今さら遅いかもしれないけれど、と付け加えるとノノハは柔らかく微笑んで首を横に振った。
「ううん。ジンさん、喜ぶよ。きっと楽しんでくれると思う」
ジンさんとの約束だもの、約束は守らないとね、と付け加えて笑うノノハ。半ば茶化すような口調なのは、いつぞやの俺のセリフを覚えていてそっくりそのまま返したせいだろう。ノノハとの約束はこれまで何度も破っているだけに内心ばつの悪さを感じながらも、それとは別に彼女のセリフにはふと引っかかった言葉があった。
パズルを楽しむ――。
その言葉で、俺の心にはあの日交わしたもう一つの約束がよみがえった。それはオルペウスの出題した神のパズル「時の迷路」の中で交わした約束。
『いつか絶対、二人でパズル解こうな!』
もちろんあれはオルペウスの見せた幻影であり、俺の望み通りノノハが自力でパズルを解き続けたことでPOGのソルヴァーにまでなったパラレルワールドのノノハで、今目の前にいるノノハに訊いてもそのことは何も知らないだろう。自分がパズルを解く喜びよりも俺がパズルを解く姿を見る喜びを選んだから、今の彼女がいる。だから過去は変えなかったし、今さら過去を変える方法も無いけれど。
だが、未来は変えられる。
「ノノハ」
名前を呼び、彼女と向き合う。いつもより真剣な声に気付いたのか、ノノハもまっすぐに俺を見つめてきた。
一呼吸置いて、告げる。
「このパズルができたら、解いてくれねぇか。解き方は教えるから…昔みたいに、一緒にパズルしようぜ」
彼女が体調を崩してパズルが一切解けなくなった、あの事件の前のように。
あるいは、「時の迷路」で消えてしまった続きのように。
ジンに向けたパズルではあるけれど、同時にノノハに解く喜びを与えられるパズルにしたいと、俺はこの時強く思った。
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