Phi-Brain
僕たちの青春
さあさあさあ…と上から下へ絶えず降り続ける水は、触らなくてもそばにいるだけで心地よい。涼しげな水音を奏でる噴水は、以前僕がいたクロスフィールド学院の校庭や学生寮の前にもあったけれど、√学園のそれは建物から少し離れた広場にあるため昼休みでも割と静かで、それゆえパズルに集中するのにはうってつけの空間だ。そこには今日も、僕を含めたいつもの四人が揃っている。
「ジンから昨日出されたパズル、結構難しいよな…?」
「学校にいる時は『真方先生』じゃなかった?カイト」
「あー、でも俺は『ジン』の方が呼び慣れてるからなぁ」
カイトは少しだけ困った顔をしてから、パズルの書かれた紙を指で摘まんでぺらぺらと振ってみせた。√学園の制服を着てはいるものの、衣替えの期間が終わっても半袖ではなく長袖のワイシャツを捲って着ている。そして頭には青いサングラス。自由な校風とはいえイヤリングなどの華美なアクセサリーは校則で禁止されているため、サングラスはどうなのか気になるところではある。
僕に諫 められたせいか、カイトは組み木パズルを両手で弄っているルークの方を向いて尋ねた。
「なぁ、ルークだってそうだろ?」
「ジンの呼び方に関してはね。パズルに関してなら僕はもう解けたけど」
「えっマジかよ!?」
眼鏡の奥の目を細めて余裕の笑みを浮かべるルークは、生徒会長らしく半袖のワイシャツをさらりと着こなしていた。一方のカイトは分かりやすく頬を引きつらせている。
僕は√学園に来てから真方先生を知ったけれど、カイトとルークは幼い頃に真方先生と出会っており当時からパズルを教えてもらっていたらしい。そしてこの√学園で再会してからは、真方先生には僕たち三人の所属するパズル部の顧問をしてもらっている。カイトが示したリトゥンパズルも昨日パズル部で宿題として出されたものだ。
ただ、真方先生のパズルはなかなかにハイレベルなものばかりだから、カイトが特別落ちこぼれているわけではない。むしろカイトは全日本パズル選手権では必ず三位に食い込む実力の持ち主だ。もっとも、同じ大会で僕は二位だしルークは必ず優勝を掻 っ攫 っていくけれど。
そんなわけでパズルに関しては僕たちはライバル同士。でも普段の学生生活では今のように、何かと集まっては一緒に弁当を食べたり他愛もない話をしながらパズルをしたりする最高の友人同士だ。
そして、よく一緒にいるメンバーの中にはもう一人。
「はいはい、カイトも放課後までには解くんでしょう?ご飯も食べ終わったことだし、昼休みに集中するんじゃなかったのー?」
「ん?あーそうだった。よーし、すぐに解いてやるぜーっ!」
カイトに声をかけて彼を俄然やる気にさせたのは、カイトの幼馴染みで僕たちの同級生の井藤ノノハ。カイトはパズルに夢中になるあまり他のことが疎かになりやすいから、しっかり者のノノハが何かと世話を焼いているらしい。カイトの家族とも仲が良くカイトが弁当を忘れた時などにはノノハが届けている場面も時々見かける。
でも最近は僕たちもその恩恵を受けているから、言うなればパズル部のマネージャーのような存在だ。ノノハ自身はパズルにはあまり参加しないが理解を示してくれて、いつも僕たちを近くで見守ってくれている。
彼女は早速パズルに取りかかろうとするカイトに、徐 に片方の手のひらを見せて制止した。
「ちょっと待ってカイト、その前に!」
「ん?何だよ?」
カイトが顔を上げたのと同時に、僕とルークもノノハの方を見る。こういう時に何が出てくるか、実は三人とも大体見当がついているのだけど、「それ」の種類については毎日少しずつ変わるから飽きることはない。
彼女は底の浅いバスケットを両手で持つと被せてあった布を外し、僕たちに見えるように傾けてみせた。そこには綺麗に並んだ焼き菓子が覗いている。
「じゃーん!今日のデザートはマドレーヌ!」
「おっ、いいな!」
真っ先に反応したのはカイトだった。同い年である僕たち四人の中で誕生日が最も早いはずなのに、無邪気さというか幼さはたぶんカイトが一番だと思う。嬉しいことがあると素直に喜ぶところも、それを指摘すると怒るところも。今だってマドレーヌを受け取った後は僕たちが腰掛けている噴水の縁にごろんと横になって、まるで行儀の悪い子どもみたいだ。デザートの前ではパズルも後回しらしく、その紙はまたポケットに戻っていった。
「脳は大量のエネルギーを消費するからね。甘いものはパズルのお供にうってつけだ」
カイトに続いてルークもバスケットの中のマドレーヌへ手を伸ばす。どこか冷淡な印象で常に落ち着いている彼も、ノノハの作ってくるスイーツを意外と楽しみにしている一人だ。伸びてきたカイトの足をうまく避けて座り直し、持っていた組み木パズルを置いてからマドレーヌを味わう。
「僕もひとつ貰っていいかい?」
「もちろん!」
最後に僕が尋ねれば、ノノハは嬉しそうに答えてバスケットを向けてくれた。幼馴染みのカイトだけでなくルークも貰ったんだ、本当はわざわざ改めて尋ねる必要はない。でもこのやり取りのおかげで僕だけに向けたノノハの笑顔が見られるのだから、つい僕はいつも訊いてしまう。
そんな事は知らないだろうノノハに僕も微笑みかけて、マドレーヌを受け取りに行く…が。
「…ねぇカイト。そうやって寝転ぶの、やめてくれないかな?」
横になったカイトがとにかく邪魔だ。僕が膝立ちで少し進んでからカイトの足のそばに左手を突いて、それでようやく右手がノノハのバスケットに届いた。同じ噴水の周りにいるのになんだか妙に遠い。
それなのにカイトは全く気付かない様子で僕に訊き返してくる。
「え?なんで?」
「いや、君が起きてくれればもう少しノノハとの距離が近くなって、こんな風に伸びなくてもいいんだけど」
「ふーん」
「カイト、ちゃんと聞いてた!?」
聞き流す気満々の返事に思わずツッコミを入れる。するとカイトではなくルークが、しみじみと呟いた。
「…そういえば、噴水ではいつもこの並びだな。自然とノノハさんが遠くなるというか」
「えっ、私?」
「気のせいだろ」
突然名前を出されたことにノノハは驚くけれど、カイトはどこ吹く風といった様子でマドレーヌを頬張っている。全く興味がないのか、それとも。
そんな二人をルークはじっと見た後、表情を変えずに淡々と言う。
「たまにはちょっと席替えしてみようか」
「そうだね。幼馴染みだからって毎回ノノハの隣に座る必要はないんだし。いいよね、ノノハ?」
「え?うん、私はいいけど…」
ノノハに笑いかけながら確認すると、彼女は急な話の展開に不思議そうにしながらも了承してくれた。一方、不満をあらわにしたのはカイトだ。さっきはあれほど言っても寝転んだままだったのに、がばりと起き上がって叫ぶ。
「はぁああっ!?なんでだよ、弁当食い終わったし今更変わっても大して時間も意味もねぇだろ!」
「意味ならあるさ。少しの間だろうとノノハの隣で過ごせるんだから」
突然怒り出したカイトに真っ向から反論してやれば、彼はすぐに返す言葉を失った。ぐうの音も出ない代わりに表情だけで、まだ納得がいかないのだと主張してくる。そこへルークが追い討ちのように一言。
「限られた時間の中でノノハさんと過ごすことは、僕たちにとっては有意義なことだからね。カイトにとって意味がないならちょうどいい」
「なっ、別に俺はそういうわけじゃ…」
カイトはノノハの方を一度ちらりと見た後、口の中でもごもごと言葉を転がしている。幼馴染みがずっと隣にいるわけではないことを今更実感したような、だけど「取られたくない」と正直に言うのにはまだ抵抗があるような様子で、おそらく適切な言葉を探している最中だ。
しかし僕もルークも、カイトが答えを見つけるまで待つつもりはなかった。
「フリーセル、君はそっちから回って。僕はカイトに場所を譲ってもらうから」
「分かった」
「は!?おい、どういう事だよ生徒会長さんよぉ!?」
ほとんど勝手に決められた配置にカイトが突っかかる。が、そんなことでたじろぐルークではない。事務作業のように淡々と説得を試みる。
僕はそれを少し離れて見やりながら、指示通り噴水をぐるりと回ってノノハの隣を確保した。そしてようやく手作りのマドレーヌを一つ貰う。
ノノハは突如周りで始まった椅子取りゲームに少し困惑していたらしく、左側に座った僕にほっとした表情を向け、それから彼女の右側で争う二人を少し気にしつつ訊いてきた。
「えーっと、つまりこれはどういう状況…?」
「ふふっ、ごめんねノノハ。皆きっと君のことが大好きだからさ」
「へ…はひいっ!?」
にっこりと笑って言えば、ノノハは驚きのあまり裏返った声を出した。大きな目、綺麗な肌、すらりと細身な女の子らしい体型、そしていつも長い髪を下ろしているノノハはとても可愛いのに、彼女はそんな自分の魅力に気付いていない。そんなところもノノハらしい…と思っていると、突然カイトの慌てたような声が聞こえる。
「あっおい!?俺は違ぇからな!?」
どうやら「ノノハのことが大好きな皆」の中に自分も含まれていたことが気に食わなかったようだ。僕はそれを笑顔で受け流して告げる。
「そうそう。言い忘れてたけど僕もルークと同じくもう解けてるんだ、真方先生のパズル」
「へぇ、さすがフリーセル」
「はぁ!?それを先に言えよ!見てろよ、今すぐ解いてお前ら二人とも追い越してやるからなーっ!?」
「え、ちょっと!?さっきのはどういう意味!?ていうか皆なんで普段の会話に戻ってるの!?」
素直に認めてくれるルーク、急に劣勢に立たされて焦るカイト、そしてたじろぐノノハ。皆と過ごす今が面白くて楽しくて、僕は笑顔のままマドレーヌを口に運ぶ。
パズルと最高の友人とスイーツ、時々恋心。これが僕たちの青春だ。
fin.
(3期18話で映った噴水でのワンカットから。恋心に薄々気付きながらも素直じゃないカイト、お母さんではなくマネージャー気質のノノハ、この世界でも結託したホワイトヘアーズ。「ドちてき!√学園」は恋愛攻略ゲームです(嘘)。)
2018/09/09 公開
さあさあさあ…と上から下へ絶えず降り続ける水は、触らなくてもそばにいるだけで心地よい。涼しげな水音を奏でる噴水は、以前僕がいたクロスフィールド学院の校庭や学生寮の前にもあったけれど、√学園のそれは建物から少し離れた広場にあるため昼休みでも割と静かで、それゆえパズルに集中するのにはうってつけの空間だ。そこには今日も、僕を含めたいつもの四人が揃っている。
「ジンから昨日出されたパズル、結構難しいよな…?」
「学校にいる時は『真方先生』じゃなかった?カイト」
「あー、でも俺は『ジン』の方が呼び慣れてるからなぁ」
カイトは少しだけ困った顔をしてから、パズルの書かれた紙を指で摘まんでぺらぺらと振ってみせた。√学園の制服を着てはいるものの、衣替えの期間が終わっても半袖ではなく長袖のワイシャツを捲って着ている。そして頭には青いサングラス。自由な校風とはいえイヤリングなどの華美なアクセサリーは校則で禁止されているため、サングラスはどうなのか気になるところではある。
僕に
「なぁ、ルークだってそうだろ?」
「ジンの呼び方に関してはね。パズルに関してなら僕はもう解けたけど」
「えっマジかよ!?」
眼鏡の奥の目を細めて余裕の笑みを浮かべるルークは、生徒会長らしく半袖のワイシャツをさらりと着こなしていた。一方のカイトは分かりやすく頬を引きつらせている。
僕は√学園に来てから真方先生を知ったけれど、カイトとルークは幼い頃に真方先生と出会っており当時からパズルを教えてもらっていたらしい。そしてこの√学園で再会してからは、真方先生には僕たち三人の所属するパズル部の顧問をしてもらっている。カイトが示したリトゥンパズルも昨日パズル部で宿題として出されたものだ。
ただ、真方先生のパズルはなかなかにハイレベルなものばかりだから、カイトが特別落ちこぼれているわけではない。むしろカイトは全日本パズル選手権では必ず三位に食い込む実力の持ち主だ。もっとも、同じ大会で僕は二位だしルークは必ず優勝を
そんなわけでパズルに関しては僕たちはライバル同士。でも普段の学生生活では今のように、何かと集まっては一緒に弁当を食べたり他愛もない話をしながらパズルをしたりする最高の友人同士だ。
そして、よく一緒にいるメンバーの中にはもう一人。
「はいはい、カイトも放課後までには解くんでしょう?ご飯も食べ終わったことだし、昼休みに集中するんじゃなかったのー?」
「ん?あーそうだった。よーし、すぐに解いてやるぜーっ!」
カイトに声をかけて彼を俄然やる気にさせたのは、カイトの幼馴染みで僕たちの同級生の井藤ノノハ。カイトはパズルに夢中になるあまり他のことが疎かになりやすいから、しっかり者のノノハが何かと世話を焼いているらしい。カイトの家族とも仲が良くカイトが弁当を忘れた時などにはノノハが届けている場面も時々見かける。
でも最近は僕たちもその恩恵を受けているから、言うなればパズル部のマネージャーのような存在だ。ノノハ自身はパズルにはあまり参加しないが理解を示してくれて、いつも僕たちを近くで見守ってくれている。
彼女は早速パズルに取りかかろうとするカイトに、
「ちょっと待ってカイト、その前に!」
「ん?何だよ?」
カイトが顔を上げたのと同時に、僕とルークもノノハの方を見る。こういう時に何が出てくるか、実は三人とも大体見当がついているのだけど、「それ」の種類については毎日少しずつ変わるから飽きることはない。
彼女は底の浅いバスケットを両手で持つと被せてあった布を外し、僕たちに見えるように傾けてみせた。そこには綺麗に並んだ焼き菓子が覗いている。
「じゃーん!今日のデザートはマドレーヌ!」
「おっ、いいな!」
真っ先に反応したのはカイトだった。同い年である僕たち四人の中で誕生日が最も早いはずなのに、無邪気さというか幼さはたぶんカイトが一番だと思う。嬉しいことがあると素直に喜ぶところも、それを指摘すると怒るところも。今だってマドレーヌを受け取った後は僕たちが腰掛けている噴水の縁にごろんと横になって、まるで行儀の悪い子どもみたいだ。デザートの前ではパズルも後回しらしく、その紙はまたポケットに戻っていった。
「脳は大量のエネルギーを消費するからね。甘いものはパズルのお供にうってつけだ」
カイトに続いてルークもバスケットの中のマドレーヌへ手を伸ばす。どこか冷淡な印象で常に落ち着いている彼も、ノノハの作ってくるスイーツを意外と楽しみにしている一人だ。伸びてきたカイトの足をうまく避けて座り直し、持っていた組み木パズルを置いてからマドレーヌを味わう。
「僕もひとつ貰っていいかい?」
「もちろん!」
最後に僕が尋ねれば、ノノハは嬉しそうに答えてバスケットを向けてくれた。幼馴染みのカイトだけでなくルークも貰ったんだ、本当はわざわざ改めて尋ねる必要はない。でもこのやり取りのおかげで僕だけに向けたノノハの笑顔が見られるのだから、つい僕はいつも訊いてしまう。
そんな事は知らないだろうノノハに僕も微笑みかけて、マドレーヌを受け取りに行く…が。
「…ねぇカイト。そうやって寝転ぶの、やめてくれないかな?」
横になったカイトがとにかく邪魔だ。僕が膝立ちで少し進んでからカイトの足のそばに左手を突いて、それでようやく右手がノノハのバスケットに届いた。同じ噴水の周りにいるのになんだか妙に遠い。
それなのにカイトは全く気付かない様子で僕に訊き返してくる。
「え?なんで?」
「いや、君が起きてくれればもう少しノノハとの距離が近くなって、こんな風に伸びなくてもいいんだけど」
「ふーん」
「カイト、ちゃんと聞いてた!?」
聞き流す気満々の返事に思わずツッコミを入れる。するとカイトではなくルークが、しみじみと呟いた。
「…そういえば、噴水ではいつもこの並びだな。自然とノノハさんが遠くなるというか」
「えっ、私?」
「気のせいだろ」
突然名前を出されたことにノノハは驚くけれど、カイトはどこ吹く風といった様子でマドレーヌを頬張っている。全く興味がないのか、それとも。
そんな二人をルークはじっと見た後、表情を変えずに淡々と言う。
「たまにはちょっと席替えしてみようか」
「そうだね。幼馴染みだからって毎回ノノハの隣に座る必要はないんだし。いいよね、ノノハ?」
「え?うん、私はいいけど…」
ノノハに笑いかけながら確認すると、彼女は急な話の展開に不思議そうにしながらも了承してくれた。一方、不満をあらわにしたのはカイトだ。さっきはあれほど言っても寝転んだままだったのに、がばりと起き上がって叫ぶ。
「はぁああっ!?なんでだよ、弁当食い終わったし今更変わっても大して時間も意味もねぇだろ!」
「意味ならあるさ。少しの間だろうとノノハの隣で過ごせるんだから」
突然怒り出したカイトに真っ向から反論してやれば、彼はすぐに返す言葉を失った。ぐうの音も出ない代わりに表情だけで、まだ納得がいかないのだと主張してくる。そこへルークが追い討ちのように一言。
「限られた時間の中でノノハさんと過ごすことは、僕たちにとっては有意義なことだからね。カイトにとって意味がないならちょうどいい」
「なっ、別に俺はそういうわけじゃ…」
カイトはノノハの方を一度ちらりと見た後、口の中でもごもごと言葉を転がしている。幼馴染みがずっと隣にいるわけではないことを今更実感したような、だけど「取られたくない」と正直に言うのにはまだ抵抗があるような様子で、おそらく適切な言葉を探している最中だ。
しかし僕もルークも、カイトが答えを見つけるまで待つつもりはなかった。
「フリーセル、君はそっちから回って。僕はカイトに場所を譲ってもらうから」
「分かった」
「は!?おい、どういう事だよ生徒会長さんよぉ!?」
ほとんど勝手に決められた配置にカイトが突っかかる。が、そんなことでたじろぐルークではない。事務作業のように淡々と説得を試みる。
僕はそれを少し離れて見やりながら、指示通り噴水をぐるりと回ってノノハの隣を確保した。そしてようやく手作りのマドレーヌを一つ貰う。
ノノハは突如周りで始まった椅子取りゲームに少し困惑していたらしく、左側に座った僕にほっとした表情を向け、それから彼女の右側で争う二人を少し気にしつつ訊いてきた。
「えーっと、つまりこれはどういう状況…?」
「ふふっ、ごめんねノノハ。皆きっと君のことが大好きだからさ」
「へ…はひいっ!?」
にっこりと笑って言えば、ノノハは驚きのあまり裏返った声を出した。大きな目、綺麗な肌、すらりと細身な女の子らしい体型、そしていつも長い髪を下ろしているノノハはとても可愛いのに、彼女はそんな自分の魅力に気付いていない。そんなところもノノハらしい…と思っていると、突然カイトの慌てたような声が聞こえる。
「あっおい!?俺は違ぇからな!?」
どうやら「ノノハのことが大好きな皆」の中に自分も含まれていたことが気に食わなかったようだ。僕はそれを笑顔で受け流して告げる。
「そうそう。言い忘れてたけど僕もルークと同じくもう解けてるんだ、真方先生のパズル」
「へぇ、さすがフリーセル」
「はぁ!?それを先に言えよ!見てろよ、今すぐ解いてお前ら二人とも追い越してやるからなーっ!?」
「え、ちょっと!?さっきのはどういう意味!?ていうか皆なんで普段の会話に戻ってるの!?」
素直に認めてくれるルーク、急に劣勢に立たされて焦るカイト、そしてたじろぐノノハ。皆と過ごす今が面白くて楽しくて、僕は笑顔のままマドレーヌを口に運ぶ。
パズルと最高の友人とスイーツ、時々恋心。これが僕たちの青春だ。
fin.
(3期18話で映った噴水でのワンカットから。恋心に薄々気付きながらも素直じゃないカイト、お母さんではなくマネージャー気質のノノハ、この世界でも結託したホワイトヘアーズ。「ドちてき!√学園」は恋愛攻略ゲームです(嘘)。)
2018/09/09 公開
22/91ページ