Phi-Brain
リンゴの魔法と夜の始まり
天才テラスでのハロウィンパーティーがお開きになった頃には、日はもう傾きつつあった。スクールバスから降りて夕焼けに染まった周囲を見回せば、いくつかの店先に飾られたジャック・オ・ランタンには早くも灯りがともされている。そしてその近くには今夜開催される仮装行列イベントの貼り紙。お化けや怪物をモチーフにした行事だ、本来ならばむしろこれからが本番だろう。俺たちは√学園の食堂を会場にしていたからあまり遅くならないうちに終えてしまったけれど。
帰宅するにあたっていつもの制服に着替え直したノノハが、ぐーっと伸びをして言う。
「あー楽しかったぁ!あのメンバーだしスイーツ食べてパズルして終わりかと思ってたのに、まさか軸川先輩があんなゲームを用意してたなんてね」
「あぁ。『アップル・ボビング』だっけ?先輩らしいといえばらしいけどな」
並んで歩きながら思い返すのは、つい数時間前の出来事だ。
…☆…
皆がパズルやスイーツに夢中になっている中で真っ先に気付いたのはイワシミズ君だった。
「危険、危険」
「ほぇ?」
「イワシミズ君、どうしたの?」
アナが口にカップケーキをくわえたまま顔を上げ、キュービックがイワシミズ君に駆け寄る。POGやオルペウス・オーダーが健全な組織として建て直され、マスターブレインもエニグマを失って勢いを無くした今、『危険』と称されるような心当たりは無いけれど、まさか新たな敵でも現れたのか。そんな緊張がテラス全体に走ったが、イワシミズ君の視線の先を見てそれは思い違いだとすぐに分かった。
怯えるイワシミズ君が自身のモニターに映したのは、階下にいる軸川先輩…と、水の入った大きなタライ。
「おいイワシミズ、危険ってまさかあの水のことかぁ?」
「危険、危険。ギャモン、変人。危険、危険」
「もー…あれくらいの量の水、危険でも何でもないから!」
「つーか今さりげなく俺様のことを変人って言ったな!?」
「ははっ、いいじゃないか。ミイラ男の姿で抗議しても説得力が無い上に、それこそ変人みたいだ」
防水仕様だというのに水が苦手なイワシミズ君をキュービックが落ち着かせる傍らで、理不尽に絡まれて怒るギャモンをルークが宥めている。いや、ルークのそれは日頃白玉だのプードルだのと言われる仕返しも含まれていそうな口調だが。
そうこうしてる間にも軸川先輩の準備は進んでいたらしく、アナがテラスの欄干から飛び降りんばかりの勢いで身を乗り出し、下にいる先輩へと叫ぶ。
「ソウジー!水ばっしゃーん!?」
「わわっ、アナ危ないから!えーっと、そこにたくさん浮いてるのは…リンゴ?」
「あぁ。皆降りておいで、ハロウィンの伝統あるゲームの始まりだよ」
今にも落ちそうなアナを後ろから抱きしめる形で止めたノノハ。その状況に俺たちがツッコミを入れるよりも先に、先輩がにこやかに誘いの言葉をかける。顔が見えるように仮面をずらしてはいるけれど、ミノタウロスの仮装をしてそんなことを言うものだから一気に怪しく感じられる。そして先輩の隣にある水の張られたタライには、ノノハの言う通り真っ赤なリンゴがいくつも浮かんでいた。どう見ても不気味な儀式が始まりそうな雰囲気だが、ピノクルとダウトはそれを見て納得したように階段へと歩みを進めた。
「なるほど。アップル・ボビングかな」
「ほう、意外と本格的だな」
二人に続いてミゼルカとメランコリィもそれぞれの席から立ち上がる。笑みを浮かべて足取りも軽やかな二人の様子から不気味な儀式ではないことは分かったが、それ以上のことははっきりしない。それはノノハも同じだったようで、ようやく落ち着いたアナを解放すると、階段を降りようとするミゼルカに駆け寄って呼び止める。
「ねぇ、アップル・ボビングって?」
「イギリスのハロウィンでは定番のゲームよ。水に浮かぶリンゴを、手を使わずに口だけで取れたら願いが叶うと言われているの。『ダック・アップル』と言われることもあるわ」
「ま、クロスフィールド学院にいた頃は皆それほど仲良しこよしでもなかったから、大門カイトやフリーセルが知らなくても仕方ないのかもしれませんけど?」
ミゼルカの前を歩くメランコリィが歯に衣着せぬ物言いで付け足した。オルペウス・オーダーの皆の後を追おうとしたフリーセルはそこに含まれる毒気に一瞬怯んだけれど、メランコリィの屋敷へ行った時のことを思い返せばそれは「フリーセルが知らなくても特別驚かない」という気遣いの裏返しのようでもある。実際、クロスフィールド学院のハロウィンは今の天才テラスのパーティーのように有志が集まって楽しむ程度のものだったし、仮に学校行事並みに大規模になったとしても当時一人ぼっちだった俺やフリーセルは入っていけなかっただろうから。メランコリィに遠慮して立ち尽くすフリーセルの肩にぽんと手を乗せて、俺たちも行こうと促す。
「まぁまぁ。今までがどうであれ、今日楽しめばいいじゃねぇか」
「カイト…。そうだね、君の言う通りだ」
緊張が取れたようにふっと微笑んだフリーセルの後ろで、呆然と見ているだけのレイツェルの手をエレナが優しく取ったのが見えた。ハロウィンの仮装も相まって、まるで魔女が警戒心の強い黒猫をそっと導くような光景だ。
「そうよ。レイツェルも行きましょ?」
「えっ、私も!?」
「アナが思うにー、皆でばっしゃーん!」
今度はアナがレイツェルの背中を押すようにしながら、はしゃいだ声を上げる。そのセリフを聞いて怪訝な顔をしたのはイワシミズ君の近くにいたキュービックだ。階段を降りていく俺たちを止めるまではいかないものの、自分自身は参加したくない様子で異議を唱える。
「えーっ、どう見ても濡れそうなんだけど…」
「危険、危険」
「おいおいマジかる?」
「文句言わずに来る!願いが叶うなんてロマンチックじゃない。ね?ギャモン君」
イワシミズ君に続いてギャモンも静観を決め込むつもりでいたようだけど、それはノノハが許さなかった。降りかけていた階段をわざわざ駆け上がって戻り、ギャモンのすぐそばで説得にかかる。ったく、ほっときゃいいのに。
「ノノハ、ミイラ取りがミイラになるんじゃねぇぞー?」
「うるせぇ、誰がミイラだ!」
「お前だよどう見ても!自分の格好見ろよ!」
「うぐっ…」
ノノハに忠告したはずが噛みついてきたギャモンにツッコミを返すと、ギャモンはさらに返す言葉を探しながら立ち上がった。そしてそのまま階段のほうへと歩きながら言う。
「…そんなに言うなら受けてやんよ、そのアップル何とかっていう勝負!」
「何でそうなるんだよ!?つーか勝負じゃねぇし!」
「はいはい二人ともケンカしない!」
ノノハも階段を降りながらすかさず止めに入る。だが、下で待っていた軸川先輩はそうでもないようで。
「別にいいんじゃないかな、これを勝負にしても。どうでしょう、ルーク管理官?」
「構わないよ。…さてと、僕たちも下に行こうか、ビショップ」
「はい、ルーク様。階段にはお気をつけください」
テラスの上と下とで業務連絡のようなやり取りが行われる。どうしてルークに尋ねる必要があるのか…という疑問を俺たちが挟む前に、ルークはキュービックのほうを向いてそっと言葉をかけた。
「君もどうだい?上の階は確かに安全だけど、下の階にいるほうが見やすいだろう?」
「そんなに言うなら…。でも僕は見るだけだからね?」
「危険、危険」
「イワシミズ君、それはもういいから」
尚も危険だと主張するイワシミズ君を呆れ混じりで宥めて、キュービックも渋々階段を降りる。この時点でイワシミズ君の言葉を真剣に受け止める人は誰もいなかった。
「…さっきミゼルカ君も説明してくれたけど、あらためて。このゲームは水に浮いているリンゴを口だけで取る。手を使うのはルール違反だから、手は後ろに組んでおくかタライの縁を持つだけにしてね」
大きなタライの周りを取り囲んで立つ俺たちに向かって、軸川先輩がルールを説明する。タライの円周は俺たち男子高校生が六人ほどぐるりと並んでも窮屈ではないくらいで、まさに業務用(何の業務に使うかは分からないが)の特大サイズといった具合だ。
「それにしても、こんなに大きなタライよく見つけたわね…」
これから挑戦する俺たちの一歩後ろで、レイツェルが困惑を隠しきれずに呟く。その素朴な疑問を拾ったのはレイツェルの隣に立つルークだった。
「あぁ。それはね、POGジャパンから借りてきたんだ」
「皆様の評判が良ければ、POGジャパンが運営する『東京パズルランド』の来年のハロウィンにて、イベントの一つとして採用する予定です」
「つまり俺たちはお試しってわけかよ…」
ビショップの補足説明を聞いて、俺の左にいたギャモンがあからさまにげんなりとした表情になった。しかし軸川先輩にとってはその反応も予想通りらしく、特に動じることもなく笑顔のままでギャモンを宥める。
「まぁそんな堅苦しく考えなくても、楽しめたかどうかで判断してくれればいいから」
「そうそう。それにお試しとは言うものの、れっきとしたハロウィンパーティーの余興ですわよ?楽しまなかったら何かにとり憑かれるかも、なんて!」
「はぁあ!?」
先輩に便乗してここぞとばかりにメランコリィがギャモンをからかう。上機嫌なメランコリィの笑い声に重なりながら、今度はノノハがしみじみと呟く。
「それにしても不思議よね、お化けがこの世に来る日なのにこのゲームでは『願いが叶う』だなんて」
「思うに、リンゴは神聖なもの」
「そうだとしても、お菓子をくれないといたずらするような悪い霊がいる時に願い事なんて、弱点をさらすようなものじゃないか」
アナに続いて意見を述べたキュービックはいまいち納得いかないようだが、それすらも軸川先輩は飄々とした笑顔でかわし説明を続けていく。
「制限時間や挑戦する回数は特に決めていなかったけれど、カイト君とギャモン君の勝負のこともあるし、まずは五分くらいで区切ろうか」
「ズルすんじゃねぇぞ」
「しねぇよ!お前こそすんなよ」
「それじゃあ、ゲーム・スタート!」
開始を告げる先輩の声と同時に俺とギャモンは水辺に顔を近付け、相手より先にリンゴを取るべく奮闘する。ただのゲームだろうとコイツにだけは負けたくないからだ。しかし水にぷかぷかと浮くリンゴは、下手に触れれば目の前から遠くへ流れていったり、口元から一旦沈んで頭の先で浮かび上がったり、なかなか取りにくい。隣をちらりと見ればギャモンも同じ状況のようで百面相を繰り広げている。そんな様子を俺のちょうど向かい側で見てしまったフリーセルは少し及び腰になった、けれどその後ろに忍び寄る小さい影。
「フリーセル。私の代わりに取りなさい」
「えぇっ!?なんで僕が…」
「だって濡れたくないんですもの。取れなかったら承知しませんわよ?」
せっかくアリスの格好をしているのに、腰に手を当て命令する姿はまるでハートの女王だ。水面から顔を上げて呑気にそんなことを思っていると、フリーセルの隣の水面がばしゃりと揺れた。そちらへ視線を移せば、顔から水を滴らせながらも口にはしっかりとリンゴをくわえているダウト。
「ダウト君、なかなか早いね」
「すごいじゃないダウト!」
「ふっ。この程度、訳もない」
軸川先輩とミゼルカの称賛の声を受けて、ダウトはどこか誇らしげだ。ピノクルも意外そうに目を丸くしてダウトへ言葉をかける。
「ダウト上手いねー。君はこういう俗っぽいの、嫌いそうだと思ってたけど。もしかしてやったことがあるのかい?」
「伝統的な余興ならばと挑戦したことは何度かある。その時は今ほどすんなりとはいかなかったがな」
ダウトは先程くわえたリンゴを手に持ち、ピノクルとミゼルカのほうを向いて淡々と答える。その時タイミングが良いのか悪いのか、軸川先輩が「あっ」と思い出したように声を上げた。
「そうそう、言い忘れてたけどこのゲームは恋占いにも使われることがあるんだ」
「…はぁっ!?」
驚いた声はダウトではなくピノクルのものだった。むしろダウト本人は何も言わないまま、ばつが悪そうに視線をさまよわせている。そしてミゼルカもまた、ちらちらとダウトを見たり目を伏せたりしながら落ち着かない様子で立っている。そんな似た者同士の態度が周りにどう見えたかなど言うまでもなく。
「ギャモン!頑張って取るのよ!」
「フリーセル!取って私の願いを叶えなさい!」
「僕もアップル・ボビングに挑戦してみようか。絆の強さなら負けないよ、カイトーっ!」
「いけませんルーク様、濡れてしまいます!」
おいおい、なんだそりゃ。
途端に応援に熱が入ったエレナとメランコリィ、そして変なスイッチが入ったらしいルークとそれを止めるビショップの声を聞き、呆れながらノノハのほうを見ればぎょっとした表情を見せる彼女。
「えっ、私も応援する!?か、カイトー…?」
「バーカ、いらねーよ!」
「え、あ…はは、そうよねー」
勘違いをごまかして笑うノノハに再度呆れていると、俺の隣、ギャモンのいるほうとは反対側にすっと人影が伸びてきた。水面に映るピンク色の髪は紛れもなくレイツェルだ。
「恋占いだっていうなら、私が有利かもね?」
「えっ、レイツェル参加するの!?」
「いいぞー、レイレイー!」
先程とは違う意味でぎょっとしているノノハの隣で、アナは心底楽しそうに応援する。性別を考えるならアナとレイツェルの立場は逆じゃないか、というツッコミをする者は残念ながらいない。そしてレイツェルの立ち位置がちょうど近かったせいもあるのか、ピノクルが遠慮がちに尋ねる。
「レイツェル、好きな人いたの…?」
「もちろん。ジンよ」
「あ、そう…」
自信たっぷりに答えたレイツェルに対し、ピノクルは「それはアリなのか」と複雑な表情を浮かべた。しかし不意に聞こえたメランコリィの言葉で彼ははっと我に返る。
「フリーセル、本当下手ねー。私が誘導してさしあげますわ」
「待ってメランコリィ、やり過ぎだよ!フリーセルが溺れる!」
意地でもリンゴを取りたかったのかフリーセルの後頭部に手を当て始めるメランコリィを見て、ピノクルが咄嗟に駆け寄り彼女にストップをかけた。それでようやくフリーセルも解放されたらしく、息を整えながら二人のほうを向く。
「はぁ、はぁ…ありがとう、ピノクル」
「大丈夫かい、フリーセル?」
「むー…。まったく、だらしがありませんわ」
「ごめんね、メランコリィ。君のために取ろうと思ったんだけど…」
「なっ…!ずるいですわよ、フリーセル!」
「えっ!?何か気に障ること言ったっけ!?」
相変わらずメランコリィにはタジタジなフリーセルとなぜか突然そっぽを向くメランコリィ、そして置いてけぼりのピノクルを見て、俺の隣にいたレイツェルが小さく微笑んだ。しかしそれも一瞬のことで、すぐにレイツェルはリンゴを求めて水面へ顔をつける。俺もギャモンとの勝負の途中だ、負けられない。目の前のリンゴに狙いを定めて水面に顔を近付けた、瞬間。
「ぶはっ!?」
「きゃあっ!?」
嫌な音と共に左から飛んできた水しぶき。エレナは反射的に飛び退いて無事だが、犯人は間違いなく息の続かなくなったギャモン。
「ギャモン、邪魔すんじゃねぇ!」
「うっせぇな、俺様の知ったこっちゃねぇよ!」
互いに水を滴らせながら言い争っていると、アナが何か閃いたようにタライの周りの一人分空いている場所へと寄ってきた。そして無邪気な眼差しでタライの中を見つめて言う。
「アナが思うにー、これがアップルティーだったら楽しそう!」
「それはダメー!」
「ほぇ?イワりんも良いって言ってるよ?」
「危険、危険」
「危険だって言うならなんで紅茶の茶葉を持って降りてきてるのさー!?」
キュービックの言葉通り、あれほど危険だと主張していたイワシミズ君はゆっくりと階段を降り始めていた。そしてその手にはパーティーで使ったアップルティーの茶葉が握られている。
悪気の一切無さそうなアナと悪い冗談を覚えてしまったイワシミズ君を慌てて止めるキュービック。その後ろではこんな状況でもなお参加したがるルークとそれを止めようとするビショップ。目の前には相変わらずうるさいギャモンとさすがに我慢ならなくなってギャモンを咎めるエレナ。収拾つかない事態を何とか落ち着けようとするノノハは助けを求めて俺に視線を送ってきたけれど、俺にだってどうしようもできない。オルペウス・オーダーは落ち着いているものの、気まずさと恥ずかしさの混ざった何とも形容しがたい雰囲気に包まれている。そしてそんな中でも黙々とアップル・ボビングに挑戦していたレイツェルは、やっとの思いでくわえたリンゴを手に取り嬉しそうだ。もはや恋占いも勝負もいたずらもまぜこぜになった空間を見ながら、軸川先輩が困ったように笑った。
「…『恋占いに使われる』っていうのは、あらかじめリンゴに相手の名前を書いて行うものだから今回は正直関係ないんだけど…皆楽しそうだから、これはこれでまぁいいか」
…☆…
「…盛り上がったけどフリーセル君もギャモン君もずぶ濡れだし、もっとタオル用意しておけばよかった」
「まぁ、仮装してただけまだ良かったんじゃねぇの。あれで着替えが無かったら結構悲惨だったけどな」
終わってみればあの混沌とした状況も『盛り上がった』の一言で済むのだから現金なものだ。なんだかんだ言っても幸せそうな幼馴染みの横顔をちらりと盗み見て、俺はふと思いついたように言う。
「…そういえばあのコスプレはどうした?」
「え?今日着たのならこの袋に、」
「そうじゃなくて。ずっと前に悪魔だか何かの格好してただろ、あれはどうしたんだよ」
パズルのヒントを与えるように少しずつ言葉を並べていくと、ノノハは意外にもすぐに何のことか理解したようで顔を赤らめた。それだけで俺の求める解答にたどり着いたことが見てとれる。
「あっ、あれは、カイトを励ます会のためのもので…っ、今回は違うかなーって、ね?」
「ふーん、そっか」
歩みを止めてたどたどしく話すノノハに対し、俺は平静を装って答える。正直あの格好で皆の前に出てこられても困るけれど。
夕焼けは次第に暗闇に溶けていき、そこかしこに置かれたジャック・オ・ランタンの灯りが一層怪しく揺らめく。楽しい思い出と少しのいたずら心をそこに滲ませながら、ハロウィンの夜は更けていった。
fin.
(アップル・ボビング、日本ではまだマイナーなハロウィンの遊びだけど絶対ソウジは知ってると思う。)
2017/10/31 公開
天才テラスでのハロウィンパーティーがお開きになった頃には、日はもう傾きつつあった。スクールバスから降りて夕焼けに染まった周囲を見回せば、いくつかの店先に飾られたジャック・オ・ランタンには早くも灯りがともされている。そしてその近くには今夜開催される仮装行列イベントの貼り紙。お化けや怪物をモチーフにした行事だ、本来ならばむしろこれからが本番だろう。俺たちは√学園の食堂を会場にしていたからあまり遅くならないうちに終えてしまったけれど。
帰宅するにあたっていつもの制服に着替え直したノノハが、ぐーっと伸びをして言う。
「あー楽しかったぁ!あのメンバーだしスイーツ食べてパズルして終わりかと思ってたのに、まさか軸川先輩があんなゲームを用意してたなんてね」
「あぁ。『アップル・ボビング』だっけ?先輩らしいといえばらしいけどな」
並んで歩きながら思い返すのは、つい数時間前の出来事だ。
…☆…
皆がパズルやスイーツに夢中になっている中で真っ先に気付いたのはイワシミズ君だった。
「危険、危険」
「ほぇ?」
「イワシミズ君、どうしたの?」
アナが口にカップケーキをくわえたまま顔を上げ、キュービックがイワシミズ君に駆け寄る。POGやオルペウス・オーダーが健全な組織として建て直され、マスターブレインもエニグマを失って勢いを無くした今、『危険』と称されるような心当たりは無いけれど、まさか新たな敵でも現れたのか。そんな緊張がテラス全体に走ったが、イワシミズ君の視線の先を見てそれは思い違いだとすぐに分かった。
怯えるイワシミズ君が自身のモニターに映したのは、階下にいる軸川先輩…と、水の入った大きなタライ。
「おいイワシミズ、危険ってまさかあの水のことかぁ?」
「危険、危険。ギャモン、変人。危険、危険」
「もー…あれくらいの量の水、危険でも何でもないから!」
「つーか今さりげなく俺様のことを変人って言ったな!?」
「ははっ、いいじゃないか。ミイラ男の姿で抗議しても説得力が無い上に、それこそ変人みたいだ」
防水仕様だというのに水が苦手なイワシミズ君をキュービックが落ち着かせる傍らで、理不尽に絡まれて怒るギャモンをルークが宥めている。いや、ルークのそれは日頃白玉だのプードルだのと言われる仕返しも含まれていそうな口調だが。
そうこうしてる間にも軸川先輩の準備は進んでいたらしく、アナがテラスの欄干から飛び降りんばかりの勢いで身を乗り出し、下にいる先輩へと叫ぶ。
「ソウジー!水ばっしゃーん!?」
「わわっ、アナ危ないから!えーっと、そこにたくさん浮いてるのは…リンゴ?」
「あぁ。皆降りておいで、ハロウィンの伝統あるゲームの始まりだよ」
今にも落ちそうなアナを後ろから抱きしめる形で止めたノノハ。その状況に俺たちがツッコミを入れるよりも先に、先輩がにこやかに誘いの言葉をかける。顔が見えるように仮面をずらしてはいるけれど、ミノタウロスの仮装をしてそんなことを言うものだから一気に怪しく感じられる。そして先輩の隣にある水の張られたタライには、ノノハの言う通り真っ赤なリンゴがいくつも浮かんでいた。どう見ても不気味な儀式が始まりそうな雰囲気だが、ピノクルとダウトはそれを見て納得したように階段へと歩みを進めた。
「なるほど。アップル・ボビングかな」
「ほう、意外と本格的だな」
二人に続いてミゼルカとメランコリィもそれぞれの席から立ち上がる。笑みを浮かべて足取りも軽やかな二人の様子から不気味な儀式ではないことは分かったが、それ以上のことははっきりしない。それはノノハも同じだったようで、ようやく落ち着いたアナを解放すると、階段を降りようとするミゼルカに駆け寄って呼び止める。
「ねぇ、アップル・ボビングって?」
「イギリスのハロウィンでは定番のゲームよ。水に浮かぶリンゴを、手を使わずに口だけで取れたら願いが叶うと言われているの。『ダック・アップル』と言われることもあるわ」
「ま、クロスフィールド学院にいた頃は皆それほど仲良しこよしでもなかったから、大門カイトやフリーセルが知らなくても仕方ないのかもしれませんけど?」
ミゼルカの前を歩くメランコリィが歯に衣着せぬ物言いで付け足した。オルペウス・オーダーの皆の後を追おうとしたフリーセルはそこに含まれる毒気に一瞬怯んだけれど、メランコリィの屋敷へ行った時のことを思い返せばそれは「フリーセルが知らなくても特別驚かない」という気遣いの裏返しのようでもある。実際、クロスフィールド学院のハロウィンは今の天才テラスのパーティーのように有志が集まって楽しむ程度のものだったし、仮に学校行事並みに大規模になったとしても当時一人ぼっちだった俺やフリーセルは入っていけなかっただろうから。メランコリィに遠慮して立ち尽くすフリーセルの肩にぽんと手を乗せて、俺たちも行こうと促す。
「まぁまぁ。今までがどうであれ、今日楽しめばいいじゃねぇか」
「カイト…。そうだね、君の言う通りだ」
緊張が取れたようにふっと微笑んだフリーセルの後ろで、呆然と見ているだけのレイツェルの手をエレナが優しく取ったのが見えた。ハロウィンの仮装も相まって、まるで魔女が警戒心の強い黒猫をそっと導くような光景だ。
「そうよ。レイツェルも行きましょ?」
「えっ、私も!?」
「アナが思うにー、皆でばっしゃーん!」
今度はアナがレイツェルの背中を押すようにしながら、はしゃいだ声を上げる。そのセリフを聞いて怪訝な顔をしたのはイワシミズ君の近くにいたキュービックだ。階段を降りていく俺たちを止めるまではいかないものの、自分自身は参加したくない様子で異議を唱える。
「えーっ、どう見ても濡れそうなんだけど…」
「危険、危険」
「おいおいマジかる?」
「文句言わずに来る!願いが叶うなんてロマンチックじゃない。ね?ギャモン君」
イワシミズ君に続いてギャモンも静観を決め込むつもりでいたようだけど、それはノノハが許さなかった。降りかけていた階段をわざわざ駆け上がって戻り、ギャモンのすぐそばで説得にかかる。ったく、ほっときゃいいのに。
「ノノハ、ミイラ取りがミイラになるんじゃねぇぞー?」
「うるせぇ、誰がミイラだ!」
「お前だよどう見ても!自分の格好見ろよ!」
「うぐっ…」
ノノハに忠告したはずが噛みついてきたギャモンにツッコミを返すと、ギャモンはさらに返す言葉を探しながら立ち上がった。そしてそのまま階段のほうへと歩きながら言う。
「…そんなに言うなら受けてやんよ、そのアップル何とかっていう勝負!」
「何でそうなるんだよ!?つーか勝負じゃねぇし!」
「はいはい二人ともケンカしない!」
ノノハも階段を降りながらすかさず止めに入る。だが、下で待っていた軸川先輩はそうでもないようで。
「別にいいんじゃないかな、これを勝負にしても。どうでしょう、ルーク管理官?」
「構わないよ。…さてと、僕たちも下に行こうか、ビショップ」
「はい、ルーク様。階段にはお気をつけください」
テラスの上と下とで業務連絡のようなやり取りが行われる。どうしてルークに尋ねる必要があるのか…という疑問を俺たちが挟む前に、ルークはキュービックのほうを向いてそっと言葉をかけた。
「君もどうだい?上の階は確かに安全だけど、下の階にいるほうが見やすいだろう?」
「そんなに言うなら…。でも僕は見るだけだからね?」
「危険、危険」
「イワシミズ君、それはもういいから」
尚も危険だと主張するイワシミズ君を呆れ混じりで宥めて、キュービックも渋々階段を降りる。この時点でイワシミズ君の言葉を真剣に受け止める人は誰もいなかった。
「…さっきミゼルカ君も説明してくれたけど、あらためて。このゲームは水に浮いているリンゴを口だけで取る。手を使うのはルール違反だから、手は後ろに組んでおくかタライの縁を持つだけにしてね」
大きなタライの周りを取り囲んで立つ俺たちに向かって、軸川先輩がルールを説明する。タライの円周は俺たち男子高校生が六人ほどぐるりと並んでも窮屈ではないくらいで、まさに業務用(何の業務に使うかは分からないが)の特大サイズといった具合だ。
「それにしても、こんなに大きなタライよく見つけたわね…」
これから挑戦する俺たちの一歩後ろで、レイツェルが困惑を隠しきれずに呟く。その素朴な疑問を拾ったのはレイツェルの隣に立つルークだった。
「あぁ。それはね、POGジャパンから借りてきたんだ」
「皆様の評判が良ければ、POGジャパンが運営する『東京パズルランド』の来年のハロウィンにて、イベントの一つとして採用する予定です」
「つまり俺たちはお試しってわけかよ…」
ビショップの補足説明を聞いて、俺の左にいたギャモンがあからさまにげんなりとした表情になった。しかし軸川先輩にとってはその反応も予想通りらしく、特に動じることもなく笑顔のままでギャモンを宥める。
「まぁそんな堅苦しく考えなくても、楽しめたかどうかで判断してくれればいいから」
「そうそう。それにお試しとは言うものの、れっきとしたハロウィンパーティーの余興ですわよ?楽しまなかったら何かにとり憑かれるかも、なんて!」
「はぁあ!?」
先輩に便乗してここぞとばかりにメランコリィがギャモンをからかう。上機嫌なメランコリィの笑い声に重なりながら、今度はノノハがしみじみと呟く。
「それにしても不思議よね、お化けがこの世に来る日なのにこのゲームでは『願いが叶う』だなんて」
「思うに、リンゴは神聖なもの」
「そうだとしても、お菓子をくれないといたずらするような悪い霊がいる時に願い事なんて、弱点をさらすようなものじゃないか」
アナに続いて意見を述べたキュービックはいまいち納得いかないようだが、それすらも軸川先輩は飄々とした笑顔でかわし説明を続けていく。
「制限時間や挑戦する回数は特に決めていなかったけれど、カイト君とギャモン君の勝負のこともあるし、まずは五分くらいで区切ろうか」
「ズルすんじゃねぇぞ」
「しねぇよ!お前こそすんなよ」
「それじゃあ、ゲーム・スタート!」
開始を告げる先輩の声と同時に俺とギャモンは水辺に顔を近付け、相手より先にリンゴを取るべく奮闘する。ただのゲームだろうとコイツにだけは負けたくないからだ。しかし水にぷかぷかと浮くリンゴは、下手に触れれば目の前から遠くへ流れていったり、口元から一旦沈んで頭の先で浮かび上がったり、なかなか取りにくい。隣をちらりと見ればギャモンも同じ状況のようで百面相を繰り広げている。そんな様子を俺のちょうど向かい側で見てしまったフリーセルは少し及び腰になった、けれどその後ろに忍び寄る小さい影。
「フリーセル。私の代わりに取りなさい」
「えぇっ!?なんで僕が…」
「だって濡れたくないんですもの。取れなかったら承知しませんわよ?」
せっかくアリスの格好をしているのに、腰に手を当て命令する姿はまるでハートの女王だ。水面から顔を上げて呑気にそんなことを思っていると、フリーセルの隣の水面がばしゃりと揺れた。そちらへ視線を移せば、顔から水を滴らせながらも口にはしっかりとリンゴをくわえているダウト。
「ダウト君、なかなか早いね」
「すごいじゃないダウト!」
「ふっ。この程度、訳もない」
軸川先輩とミゼルカの称賛の声を受けて、ダウトはどこか誇らしげだ。ピノクルも意外そうに目を丸くしてダウトへ言葉をかける。
「ダウト上手いねー。君はこういう俗っぽいの、嫌いそうだと思ってたけど。もしかしてやったことがあるのかい?」
「伝統的な余興ならばと挑戦したことは何度かある。その時は今ほどすんなりとはいかなかったがな」
ダウトは先程くわえたリンゴを手に持ち、ピノクルとミゼルカのほうを向いて淡々と答える。その時タイミングが良いのか悪いのか、軸川先輩が「あっ」と思い出したように声を上げた。
「そうそう、言い忘れてたけどこのゲームは恋占いにも使われることがあるんだ」
「…はぁっ!?」
驚いた声はダウトではなくピノクルのものだった。むしろダウト本人は何も言わないまま、ばつが悪そうに視線をさまよわせている。そしてミゼルカもまた、ちらちらとダウトを見たり目を伏せたりしながら落ち着かない様子で立っている。そんな似た者同士の態度が周りにどう見えたかなど言うまでもなく。
「ギャモン!頑張って取るのよ!」
「フリーセル!取って私の願いを叶えなさい!」
「僕もアップル・ボビングに挑戦してみようか。絆の強さなら負けないよ、カイトーっ!」
「いけませんルーク様、濡れてしまいます!」
おいおい、なんだそりゃ。
途端に応援に熱が入ったエレナとメランコリィ、そして変なスイッチが入ったらしいルークとそれを止めるビショップの声を聞き、呆れながらノノハのほうを見ればぎょっとした表情を見せる彼女。
「えっ、私も応援する!?か、カイトー…?」
「バーカ、いらねーよ!」
「え、あ…はは、そうよねー」
勘違いをごまかして笑うノノハに再度呆れていると、俺の隣、ギャモンのいるほうとは反対側にすっと人影が伸びてきた。水面に映るピンク色の髪は紛れもなくレイツェルだ。
「恋占いだっていうなら、私が有利かもね?」
「えっ、レイツェル参加するの!?」
「いいぞー、レイレイー!」
先程とは違う意味でぎょっとしているノノハの隣で、アナは心底楽しそうに応援する。性別を考えるならアナとレイツェルの立場は逆じゃないか、というツッコミをする者は残念ながらいない。そしてレイツェルの立ち位置がちょうど近かったせいもあるのか、ピノクルが遠慮がちに尋ねる。
「レイツェル、好きな人いたの…?」
「もちろん。ジンよ」
「あ、そう…」
自信たっぷりに答えたレイツェルに対し、ピノクルは「それはアリなのか」と複雑な表情を浮かべた。しかし不意に聞こえたメランコリィの言葉で彼ははっと我に返る。
「フリーセル、本当下手ねー。私が誘導してさしあげますわ」
「待ってメランコリィ、やり過ぎだよ!フリーセルが溺れる!」
意地でもリンゴを取りたかったのかフリーセルの後頭部に手を当て始めるメランコリィを見て、ピノクルが咄嗟に駆け寄り彼女にストップをかけた。それでようやくフリーセルも解放されたらしく、息を整えながら二人のほうを向く。
「はぁ、はぁ…ありがとう、ピノクル」
「大丈夫かい、フリーセル?」
「むー…。まったく、だらしがありませんわ」
「ごめんね、メランコリィ。君のために取ろうと思ったんだけど…」
「なっ…!ずるいですわよ、フリーセル!」
「えっ!?何か気に障ること言ったっけ!?」
相変わらずメランコリィにはタジタジなフリーセルとなぜか突然そっぽを向くメランコリィ、そして置いてけぼりのピノクルを見て、俺の隣にいたレイツェルが小さく微笑んだ。しかしそれも一瞬のことで、すぐにレイツェルはリンゴを求めて水面へ顔をつける。俺もギャモンとの勝負の途中だ、負けられない。目の前のリンゴに狙いを定めて水面に顔を近付けた、瞬間。
「ぶはっ!?」
「きゃあっ!?」
嫌な音と共に左から飛んできた水しぶき。エレナは反射的に飛び退いて無事だが、犯人は間違いなく息の続かなくなったギャモン。
「ギャモン、邪魔すんじゃねぇ!」
「うっせぇな、俺様の知ったこっちゃねぇよ!」
互いに水を滴らせながら言い争っていると、アナが何か閃いたようにタライの周りの一人分空いている場所へと寄ってきた。そして無邪気な眼差しでタライの中を見つめて言う。
「アナが思うにー、これがアップルティーだったら楽しそう!」
「それはダメー!」
「ほぇ?イワりんも良いって言ってるよ?」
「危険、危険」
「危険だって言うならなんで紅茶の茶葉を持って降りてきてるのさー!?」
キュービックの言葉通り、あれほど危険だと主張していたイワシミズ君はゆっくりと階段を降り始めていた。そしてその手にはパーティーで使ったアップルティーの茶葉が握られている。
悪気の一切無さそうなアナと悪い冗談を覚えてしまったイワシミズ君を慌てて止めるキュービック。その後ろではこんな状況でもなお参加したがるルークとそれを止めようとするビショップ。目の前には相変わらずうるさいギャモンとさすがに我慢ならなくなってギャモンを咎めるエレナ。収拾つかない事態を何とか落ち着けようとするノノハは助けを求めて俺に視線を送ってきたけれど、俺にだってどうしようもできない。オルペウス・オーダーは落ち着いているものの、気まずさと恥ずかしさの混ざった何とも形容しがたい雰囲気に包まれている。そしてそんな中でも黙々とアップル・ボビングに挑戦していたレイツェルは、やっとの思いでくわえたリンゴを手に取り嬉しそうだ。もはや恋占いも勝負もいたずらもまぜこぜになった空間を見ながら、軸川先輩が困ったように笑った。
「…『恋占いに使われる』っていうのは、あらかじめリンゴに相手の名前を書いて行うものだから今回は正直関係ないんだけど…皆楽しそうだから、これはこれでまぁいいか」
…☆…
「…盛り上がったけどフリーセル君もギャモン君もずぶ濡れだし、もっとタオル用意しておけばよかった」
「まぁ、仮装してただけまだ良かったんじゃねぇの。あれで着替えが無かったら結構悲惨だったけどな」
終わってみればあの混沌とした状況も『盛り上がった』の一言で済むのだから現金なものだ。なんだかんだ言っても幸せそうな幼馴染みの横顔をちらりと盗み見て、俺はふと思いついたように言う。
「…そういえばあのコスプレはどうした?」
「え?今日着たのならこの袋に、」
「そうじゃなくて。ずっと前に悪魔だか何かの格好してただろ、あれはどうしたんだよ」
パズルのヒントを与えるように少しずつ言葉を並べていくと、ノノハは意外にもすぐに何のことか理解したようで顔を赤らめた。それだけで俺の求める解答にたどり着いたことが見てとれる。
「あっ、あれは、カイトを励ます会のためのもので…っ、今回は違うかなーって、ね?」
「ふーん、そっか」
歩みを止めてたどたどしく話すノノハに対し、俺は平静を装って答える。正直あの格好で皆の前に出てこられても困るけれど。
夕焼けは次第に暗闇に溶けていき、そこかしこに置かれたジャック・オ・ランタンの灯りが一層怪しく揺らめく。楽しい思い出と少しのいたずら心をそこに滲ませながら、ハロウィンの夜は更けていった。
fin.
(アップル・ボビング、日本ではまだマイナーなハロウィンの遊びだけど絶対ソウジは知ってると思う。)
2017/10/31 公開
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