Phi-Brain

Brain Diver

石柱が環状に並ぶグレートヘンジと、その周りを取り囲むように置かれたいくつもの幾何学的な立体。昔から佇む黒い巨石と最近出現した白い人工建造物のコントラストは、こちらがうっかり気を抜くとそのまま吸い込まれてしまいそうな、不気味な美しさを放っている。
風が吹き抜ける小高い丘の上から、今回解くパズルを見下ろして思いを馳せる。最近出現したほうはともかく、グレートヘンジには個人的に思い入れがあった。

ここは幼い頃、クロスフィールド学院に留学していた間よく遊びに来ていた場所。ジンやルークと過ごした場所だ。

今はもう、そんな綺麗な思い出は手放してしまったけれど。
ルークが研究施設の大人に見つかり強制連行された後、俺にはジンの旅に同行するという選択肢もあったのだが、俺はそれを拒んだ。その結果ジンは一人で神のパズルに挑み、心と記憶を無くしてしまった。現在POGのトップとなったルークはジンを保護したが、同時に俺に対して憎しみを抱いている。
どうしてジンについていなかったのか、それができたのはカイトただ一人だったのに――再会を果たした塔の中でルークが俺に向けて発した言葉が、心に重く絡みつく。綺麗だった思い出はその瞬間、黒く塗り潰されたのだ。



ルークやジン…大切な人たちの人生を狂わせたパズルが憎い。
人殺しのパズルなんか大嫌いだ。
パズルなんか、なくなってしまえばいい。

だから俺は、すべてのパズルを解く。
俺がすべて解いてしまえばパズルはこの世から無くなり、パズルに伴う犠牲は生じなくなる。パズルのせいで誰かが他の誰かの思惑に操られることもない。
パズルを解くことが、この世界に対する俺の復讐だ。



決意こそすれど、特別張り切るでもなく俺は淡々とパズルを解き進める。
グレートヘンジだけならばヒントとなる記号に気を付けて進めば後はただの迷路と同じであり、最後まで崩壊のトラップを発動させずに解くことができる。だが、あの頃には無かった周りの幾何学的な建造物もこのパズルの一部とするならば難易度は格段に上がる。あの立体はおそらく巨大な組み木パズル。そしてこのパズルは、迷路を解き進めると同時に組み木パズルを手元の携帯端末で操作してバラバラのピースにしなければならない。迷路と組み木パズル、一度に二つのパズルを解く思考が求められる。さらに厄介なことに、組み木パズルの形はどれも同じだが置いてある向きは異なっている。つまり最初に外れるピースの位置を見極めて動かさなければならない。
腕輪が光る。このパズルの様々な進め方の可能性が脳裏に浮かんでは、その先の未来が存在しない手詰まりの選択肢が消えていく。残った可能性のその先の未来を見るために、思考はさらに加速する。
それを繰り返すことで、やがて可能性はひとつに絞られる…

その瞬間。





『できたぁ!私にもパズルできたー!!』

ここにあるものと同じ形の組み木パズルを握って、幼馴染みが笑っている。

遠い過去の記憶。
そうだ…俺はこの巨大組み木パズルの仕組みを知っている。これから解くパズルの最初のピースがエキセントリックな動きをすることも、俺は既に知っている。
最後のピースをはめる仕掛けに驚き感動した彼女が、笑う。





「…解けた」

解放されたグレートヘンジの周りに浮かぶ白いピースの数々。だがそれらに背を向けて、俺は思考をさらに加速させる。もっと速く、もっと深く。
未来を見ようとして一瞬見えた過去を、再び手繰り寄せるために。
懐かしい声を、再び聞くために。

ノノハ

感情を込めて呼んだはずの名前は、音にならずに消えた。あぁそうか、感情が無くなったということは俺はまたファイ・ブレインに近付いたのか。そのことに今さら嬉しさも寂しさも感じない。
彼女の残像が脳の奥深くに沈んでいく。パズルが解けなくなったと言う彼女から笑顔が消える。綺麗だった思い出がまた一つ、パズルによって黒く塗り潰されていく。
パズルの解けない彼女が望む未来はパズルが存在する世界か、それともパズルがすべて解かれた世界か。今となっては、本人に確認することもできないけれど。

それでも俺は戦い続ける、パズルの解けない君が探し求めている答えになれるまで。



fin.

(題名と場面は1期OPから。)

2017/05/08 公開
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