Phi-Brain
秘密の作戦
朝日は雲一つない空をゆっくりと昇っていく。今日は気持ちの良い快晴だ。急いで身支度を済ませて台所へ行くと、私は早速計画のための準備を始めた。色とりどりのフルーツ、瓶に入って輝くジャム、大小様々なボウル、泡立て器とゴムベラ、細かい作業をする時のためのスプーン。冷蔵庫を覗くと、昨日焼いたパウンドケーキはしっとりと馴染んで落ち着いていた。ほっと一安心して頷くと、玄関から控えめにノックの音が届いた。ナイスタイミング。
「おはよう。どうぞ入って入って」
「おはようございまーす!」
「お邪魔します…」
「パズルのお兄ちゃんはー?」
「もう!パズルのお兄ちゃんには秘密って約束でしょ!」
「うるせーな、分かってるよ!」
「はいはい、ケンカしないの。カイトは部屋でまだ寝てるかパズルしてるんじゃないかな?」
扉を開いて招き入れると、子どもたちは仲良く揃って台所へ向かう。この地でカイトがパズルを教えている子どもたちだ、やっぱりカイトの様子は気になるみたいだけど、これからの作戦のこともあって皆ひそひそ声になっている。その様子を微笑ましく思いながら、私はテーブルの周りに集まった子どもたちに指示を出す。
「はーい、今日はカイトの誕生日です!最後の仕上げ、皆はケーキをおいしそうに飾りつけてください!」
「おーっ!」
カイトからパズルが出題された時のように目を輝かせながら、子どもたちは思い思いにデコレーションの案を出していく。無計画に乗せていくのではなくまずはケーキを観察して、どんなふうに進めていけば綺麗な形になるか考える姿はまるでパズルを解いているみたいで、小さくてもただの友達ではなくパズル仲間なんだと実感する。私もすぐにクリームを泡立てて準備すると、子どもたちはひらめいたように声を上げた。
「クリームの下にフルーツを隠そうか!」
「だったらジャムでモールス信号のメッセージを作ろうよ!」
「上に並べるフルーツをこの前やったハノイの塔みたいにするのはどう!?」
「あのー、時間もないからあんまり凝りすぎないでね…?」
訂正、パズル仲間というよりパズルバカに近くなっていた。やんわりと注意するとようやく意見がまとまったみたいで、ケーキがみるみるうちに彩られていく。
やがて完成したそれに銀色のクロッシュをかぶせて隠し、ワゴンに乗せるとカイトの部屋の前まで静かに移動。数年前、カイトが神のパズルに挑む前にした演出とそっくりだ。今の状況はあの時ほど緊迫してはいないけれど、カイトにはやっぱり皆で作ったスイーツをおいしく食べてほしいから。
「いい?3、2、1で開けたら出発よ?」
扉に手をかけて最後の確認をすると、ワゴンを押す子どもたちも揃ってこくりと頷いた。私が勢いよく扉を開けると同時に皆が部屋の真ん中までワゴンを押して走っていき、カイトをサプライズでお祝いする計画だ。深呼吸してカウントを始める。
作戦実行まで、3、2、1。
「カイト、お誕生日おめでとう!」
fin.
2017/04/27 公開
朝日は雲一つない空をゆっくりと昇っていく。今日は気持ちの良い快晴だ。急いで身支度を済ませて台所へ行くと、私は早速計画のための準備を始めた。色とりどりのフルーツ、瓶に入って輝くジャム、大小様々なボウル、泡立て器とゴムベラ、細かい作業をする時のためのスプーン。冷蔵庫を覗くと、昨日焼いたパウンドケーキはしっとりと馴染んで落ち着いていた。ほっと一安心して頷くと、玄関から控えめにノックの音が届いた。ナイスタイミング。
「おはよう。どうぞ入って入って」
「おはようございまーす!」
「お邪魔します…」
「パズルのお兄ちゃんはー?」
「もう!パズルのお兄ちゃんには秘密って約束でしょ!」
「うるせーな、分かってるよ!」
「はいはい、ケンカしないの。カイトは部屋でまだ寝てるかパズルしてるんじゃないかな?」
扉を開いて招き入れると、子どもたちは仲良く揃って台所へ向かう。この地でカイトがパズルを教えている子どもたちだ、やっぱりカイトの様子は気になるみたいだけど、これからの作戦のこともあって皆ひそひそ声になっている。その様子を微笑ましく思いながら、私はテーブルの周りに集まった子どもたちに指示を出す。
「はーい、今日はカイトの誕生日です!最後の仕上げ、皆はケーキをおいしそうに飾りつけてください!」
「おーっ!」
カイトからパズルが出題された時のように目を輝かせながら、子どもたちは思い思いにデコレーションの案を出していく。無計画に乗せていくのではなくまずはケーキを観察して、どんなふうに進めていけば綺麗な形になるか考える姿はまるでパズルを解いているみたいで、小さくてもただの友達ではなくパズル仲間なんだと実感する。私もすぐにクリームを泡立てて準備すると、子どもたちはひらめいたように声を上げた。
「クリームの下にフルーツを隠そうか!」
「だったらジャムでモールス信号のメッセージを作ろうよ!」
「上に並べるフルーツをこの前やったハノイの塔みたいにするのはどう!?」
「あのー、時間もないからあんまり凝りすぎないでね…?」
訂正、パズル仲間というよりパズルバカに近くなっていた。やんわりと注意するとようやく意見がまとまったみたいで、ケーキがみるみるうちに彩られていく。
やがて完成したそれに銀色のクロッシュをかぶせて隠し、ワゴンに乗せるとカイトの部屋の前まで静かに移動。数年前、カイトが神のパズルに挑む前にした演出とそっくりだ。今の状況はあの時ほど緊迫してはいないけれど、カイトにはやっぱり皆で作ったスイーツをおいしく食べてほしいから。
「いい?3、2、1で開けたら出発よ?」
扉に手をかけて最後の確認をすると、ワゴンを押す子どもたちも揃ってこくりと頷いた。私が勢いよく扉を開けると同時に皆が部屋の真ん中までワゴンを押して走っていき、カイトをサプライズでお祝いする計画だ。深呼吸してカウントを始める。
作戦実行まで、3、2、1。
「カイト、お誕生日おめでとう!」
fin.
2017/04/27 公開
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