Phi-Brain
恋愛ビギナー
ノノハの家、割り当てられた俺の部屋。幼い頃から高校生になった現在までもう長いこと居候しているから、今さら「割り当てられた」なんて表現をするのも変なくらいすっかり馴染んでいる。いつも通り部活をして、いつも通り帰って、いつも通り夕食をいただいて…そしていつも通り、俺とノノハは各々の部屋へ入った。ここからは完全にプライベートな時間で、お互い宿題をするなりパズルを解くなり好きにしている。
しかし今日はそのどちらもする気が起きなくて、ばたりとベッドに突っ伏した。
「あー…」
思っていたより情けない声が出た。理由はほとんど予測がついている。ただ、未だにそれを認めたくない気持ちもある。だからこうして悩んでいるんだ。
ノノハとの距離感が掴めない、なんて。
事の発端はあの合コンだった。
それまでは、モテないパズル部員たちの前で恋人ごっこを演じれば即興で話を合わせて冗談に乗ってくれた。他の女子に言ったらセクハラだの失礼だのと非難されそうな発言も、ノノハになら言っても平気だし、実際お咎めなしで許してくれていた。そんな彼女の態度も相まって、パズル部員のあいつらも俺とノノハがそういう関係ではないと知っているのに毎回揺さぶられるほど、俺たちの関係は客観的に見ても恋人に近かったはずだ。
それなのに。
「……」
ごろりと仰向けになり、左手を天井の照明にかざして見つめる。合コンの時ノノハの肩に触れて、振り払われた手だ。普段軽口を叩き合う俺たちにしては珍しく、お互いの行動を誉めて、いい感じの空気だと思ったのに拒絶された。
『カイトには似合わないよ』
あの時の言葉がまだ心に刺さっている。
あれ以来、俺はノノハに「恋愛ごっこ」を提案しなくなった。仲間の恋人になりそうだった女の子たちが全員亡くなったのにそういうからかいをするのもどうかと思うから…というのは体のいい言い訳で。
本音は、あの時のように攻めて拒否されるのが怖い。
今まで冗談なら受け入れてくれたぶん、真剣に告白して「そんなつもりじゃなかった」と言われるのが怖い。俺には似合わないという一言だけでこんなに響くのに、それ以上拒絶されたらどうなってしまうのか。居候がどうこうという問題ではなく、俺自身の心が。
「…ははっ、初心者かよ」
乾いた笑いが漏れる。今まであいつらをモテないモテないと笑ってきたのに俺が手こずってどうすんだ。「真剣な恋は初めてです」なんて柄じゃない。俺らしくない。
らしくない、はずなんだけど。
「……」
左手を降ろし、次に見たのは右手首。こちらはルークとの対決の時、手錠でノノハと繋がれた手だ。あの時は俺も謎を解くのに必死で、ただ事件を終わらせたい一心で、意識していなかったけれど…
あの時の俺たちの呼吸はぴったり合っていた。俺が謎を解き、ノノハは分からないながらもついてくる。ルークの脅しに対しても、ノノハは不安を隠しきれない一方でパニックにはならず、むしろ俺のぶんの不安も請け負い、俺はノノハのことも守るためにより頭を働かせる。まるでそうするのが当たり前のように。ずっとそうしてきたかのように。
あんな事件はもう二度と起きてほしくないけれど、あれが「日常の一部」だったら、俺たちの関係はもっと変わっていたのだろうか。
「…どんな俺だったら、惚れてくれた?」
呟いた言葉は俺以外誰にも聞かれずに消えていく。今の俺が生きる世界には、その答えは存在しないのかもしれない。
fin.
(「最期のパズル」のカイトは序盤なかなかチャラい(ノノハ限定)&変態っぽい(ノノハ限定)ですが、話が進み事件が深まるにつれてアニメのカイノノっぽい関係性になっていっていると思います。)
2017/01/24 公開
ノノハの家、割り当てられた俺の部屋。幼い頃から高校生になった現在までもう長いこと居候しているから、今さら「割り当てられた」なんて表現をするのも変なくらいすっかり馴染んでいる。いつも通り部活をして、いつも通り帰って、いつも通り夕食をいただいて…そしていつも通り、俺とノノハは各々の部屋へ入った。ここからは完全にプライベートな時間で、お互い宿題をするなりパズルを解くなり好きにしている。
しかし今日はそのどちらもする気が起きなくて、ばたりとベッドに突っ伏した。
「あー…」
思っていたより情けない声が出た。理由はほとんど予測がついている。ただ、未だにそれを認めたくない気持ちもある。だからこうして悩んでいるんだ。
ノノハとの距離感が掴めない、なんて。
事の発端はあの合コンだった。
それまでは、モテないパズル部員たちの前で恋人ごっこを演じれば即興で話を合わせて冗談に乗ってくれた。他の女子に言ったらセクハラだの失礼だのと非難されそうな発言も、ノノハになら言っても平気だし、実際お咎めなしで許してくれていた。そんな彼女の態度も相まって、パズル部員のあいつらも俺とノノハがそういう関係ではないと知っているのに毎回揺さぶられるほど、俺たちの関係は客観的に見ても恋人に近かったはずだ。
それなのに。
「……」
ごろりと仰向けになり、左手を天井の照明にかざして見つめる。合コンの時ノノハの肩に触れて、振り払われた手だ。普段軽口を叩き合う俺たちにしては珍しく、お互いの行動を誉めて、いい感じの空気だと思ったのに拒絶された。
『カイトには似合わないよ』
あの時の言葉がまだ心に刺さっている。
あれ以来、俺はノノハに「恋愛ごっこ」を提案しなくなった。仲間の恋人になりそうだった女の子たちが全員亡くなったのにそういうからかいをするのもどうかと思うから…というのは体のいい言い訳で。
本音は、あの時のように攻めて拒否されるのが怖い。
今まで冗談なら受け入れてくれたぶん、真剣に告白して「そんなつもりじゃなかった」と言われるのが怖い。俺には似合わないという一言だけでこんなに響くのに、それ以上拒絶されたらどうなってしまうのか。居候がどうこうという問題ではなく、俺自身の心が。
「…ははっ、初心者かよ」
乾いた笑いが漏れる。今まであいつらをモテないモテないと笑ってきたのに俺が手こずってどうすんだ。「真剣な恋は初めてです」なんて柄じゃない。俺らしくない。
らしくない、はずなんだけど。
「……」
左手を降ろし、次に見たのは右手首。こちらはルークとの対決の時、手錠でノノハと繋がれた手だ。あの時は俺も謎を解くのに必死で、ただ事件を終わらせたい一心で、意識していなかったけれど…
あの時の俺たちの呼吸はぴったり合っていた。俺が謎を解き、ノノハは分からないながらもついてくる。ルークの脅しに対しても、ノノハは不安を隠しきれない一方でパニックにはならず、むしろ俺のぶんの不安も請け負い、俺はノノハのことも守るためにより頭を働かせる。まるでそうするのが当たり前のように。ずっとそうしてきたかのように。
あんな事件はもう二度と起きてほしくないけれど、あれが「日常の一部」だったら、俺たちの関係はもっと変わっていたのだろうか。
「…どんな俺だったら、惚れてくれた?」
呟いた言葉は俺以外誰にも聞かれずに消えていく。今の俺が生きる世界には、その答えは存在しないのかもしれない。
fin.
(「最期のパズル」のカイトは序盤なかなかチャラい(ノノハ限定)&変態っぽい(ノノハ限定)ですが、話が進み事件が深まるにつれてアニメのカイノノっぽい関係性になっていっていると思います。)
2017/01/24 公開
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