Phi-Brain

ハロウィン・ティーパーティー

ハロウィンの日に張り切るのは、幽霊や小さな子どもたちだけではないらしい。
放課後で人の少ない食堂の中でも一際見晴らしの良い場所・天才テラスの椅子に腰かけ、ついでに頬杖もついて、目の前の変わり様をぼんやりと眺める。俺の視界の中ではノノハが一人、てきぱきとお菓子を並べていた。それだけを見れば昼食後のいつもの光景…なのだが。

「おいノノハ、なんだよその格好」
「えー?何に見える?」

箱からプリンを出す手を止め、ご丁寧にもくるりと一回転。さっきまで制服で授業を受けていたはずの彼女はついさっき更衣室で着替えてきたらしく、緑と黄色のチェック柄のショートパンツに上はオレンジ色のボタンの付いた黄色いノースリーブという出で立ちになっていた。おい、これってもしかして…

「…渋柿?」
「ふんっ!」
「痛だだだ…っ!ギブギブ、かぼちゃだろ…!?」

容赦なく関節技をかけてきたノノハに呆気なく敗北宣言をすると、ノノハはむすっとした表情のままで俺を解放した。くそ、浮かれてるノノハに水を差してやろうと思ったのに返り討ちに遭うとは。
ま、本当のところなぜノノハがこんな格好をしているか理由は分かっていた。数週間前、フリーセルから「久しぶりに来日するからぜひ会おう」と連絡があったのだ。そして皆の都合のつく日が十月の最終日となり…そこからのノノハの行動は早かった。せっかくハロウィンの日に集まるのだから歓迎会を仮装パーティーにしようと言い出し、参加者に仮装してくるよう頼み、自らも衣装を用意し、もちろんノノハスイーツも手を抜かず…。さんざん買い物に付き合わされたから、正直なところ今更新鮮味はない。

「…つーか、なんでわざわざハロウィンパーティーなんだよ。普通にノノハスイーツ食ってパズルするだけでいいだろ?」
「いいじゃない、楽しそうで。そういえばカイト、衣装は?」
「持ってねーよ」

普段着られないようなコスプレに近い服を、この日のためだけに用意する気はない。それはノノハも分かっているはずだ。
…そんなことを思ったけれど、もしかしたら逆効果だったかもしれない。ノノハは乗り気でない俺を責めるでもなく、にっこりと笑って、

「カイト、Trick or Treat」
「…はぁ?」
「だーかーらー、トリック・オア・トリート!」
「……」

ハロウィンの名文句、強いて訳すなら「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」。だがパーティーのお菓子はノノハ頼みだった俺には、選択権はない。嫌な汗が背中を伝う。対するノノハは笑顔を崩すことなく、たくさんある荷物の中から一つの紙袋を差し出した。

「はい、カイトはこれ着てね♪」
「確信犯かよ…」
「大丈夫、着替えなくても上着脱いでベスト羽織るだけだから!」
「ったく…」
「あ、小物もちゃんと身に付けてよ」
「うるせーな、分かってるよ!」

溜め息を一つついて、おとなしく紙袋の中の衣装を身に纏う。黒地に白のボーダーが肋骨のように見えなくもないベスト、ドクロを可愛らしくデフォルメしたデザインの帽子。それだけならガイコツの仮装なのに、小分けのノノハスイーツが入ったかごはなぜかジャック・オ・ランタンを模したものになっている。ガイコツなのにカボチャのかご?どちらかというとノノハが持ったほうがしっくり来る気がする。

「これ、ノノハの持ち物じゃねぇの?」
「いいの。カイトが持ってて」

ノノハはこちらを振り向くでもなく、今度はクッキーを皿に並べ始めた。パステルカラーのアイシングが施された面が見えるように一枚ずつ整えていく。腹に入れば同じなのによくやるよなぁ、なんて思っていると。

「うわぁ、ノノハスイーツの良い香りなんだな!」
「ノノハスイーツ、美味シソウ」
「食事機能が無いのによく言うよ。イワシミズ君は見てるだけだからね!」
「悪いなノノハ、一人で準備させちまって」

ぞろぞろと賑やかなメンバーが天才テラスに訪れる。黒いマントを羽織って服に赤黒い絵の具を付けた吸血鬼のアナ、キュービックのような白衣を着たイワシミズ、つぶらな瞳の狼の帽子をかぶったまったく怖くない狼男のキュービック、そして顔こそ見えるものの体は包帯だらけでミイラ男になったギャモン。

「アナやイワシミズはともかく、よくお前ら仮装する気になったな」
「あ?ガイコツのコスプレをしてる奴に言われたかねぇよ」
「なんだとぉ!?」

ギャモンと額を突き合わせて睨む傍らで、ノノハの明るい声がする。

「わぁ、キューちゃん可愛い!」
「可愛いって言うな!元々は僕が吸血鬼のはずだったのに、土壇場でアナに変えられたんだから!」
「だって吸血鬼のキューたろうってキューキューづくしで面白くないよ?」
「僕は別に面白くなくてもいいんだけど」
「え、じゃあキューちゃんのこの帽子は?」
「アナが勝手に…」
「作ったんだな。キューたろうに似合うと思って」
「もう、少しは反省してよ!」
「似合ッテルヨ、ドクトル」
「もー!イワシミズ君までー!」

キュービックの嘆き声に、ケンカも忘れてつい同情する。よく見るとキュービックは狼の帽子以外は比較的フォーマルな服装をしていて、黒いマントを羽織れば確かに吸血鬼っぽくなりそうだ。アナが狼男、というのもそれはそれでどうかと思うが。アナだと狼男というより狼女に間違えられそうだという意味で。

「ふふっ。もう少し待ってね、今準備するから…あっ」

パーティー準備を再開しようとしたノノハは、ふと俺のほうを見た途端不自然に言葉を途切れさせた。
突然、後ろから肩に手を置かれる。

「やぁ。久しぶりだね、大門カイト君」

変声器を通した独特の声、神出鬼没で気付かなかった気配。まさかと思い振り向くと、見覚えのある不気味な仮面。

「みっ、ミノタウロス…!?」

どうしてお前が、と訊こうとするも驚きで声が出ない。ミノタウロスに初めて会ったあの時、地下の動く迷路に一緒に挑んだノノハも言葉にならないようだった。
…すると。

「ふふっ、僕だよ。驚かせてごめんね」

人間の声に戻ったかと思うと仮面を脱いで、あっさり正体を明かす。中にいたのは、

「…軸川、先輩…?」
「どうだった?ミノタウロスの仮装は」
「え、仮装…?」
「あぁ。定番のものは皆と重なるかと思って、これにしたんだ。ほら」

軸川先輩はいつものように微笑むと、手に持っていたボイスレコーダーを見せる。再生すると先程の『やぁ。久しぶりだね、大門カイト君』が流れた。つまり軸川先輩が変声器で直接喋っていたのではなく、真相はミノタウロスの声を事前に録ってきていた、ということらしい。じゃあそもそもミノタウロスの正体は何なんだ、と訊きたいところだがきっとまた笑顔で流されるから追求できないけれど。

「普通そこまでしますか…?」
「なーんだ。私、先輩がミノタウロスだったのかと思っちゃいましたよ」
「あははっ」

脱力する俺と照れ笑いするノノハに、先輩は明るい笑い声で答えた。



「やぁカイト、と皆。久しぶり!…あれ?」
「あ、モジャモジャオバケが来たんだな」
「ルーク、空気読みなよ…」
「せっかく来たのに皆僕に対しての第一声ひどくない!?」

脱力モードの空気を読まずに明るく登場したのはルーク。フリーセルたちが来るのに合わせてルークたちも呼ぼうとノノハが誘っていたのだ。
来て早々アナとキュービックから辛辣な感想を言われたルークは、アナの言葉通り白いオバケの帽子をかぶっていた。…それだけならまだいいのだが、どういうわけかその帽子は毛足の長いファー素材で、当然のごとくギャモンが反応する。

「白玉がプードルに仮装した!?」
「そもそも白玉じゃないし仮装したのはオバケだよ、失礼だな!さっきのモジャモジャも余計だけど!」
「ほぇ」
「いや、プードルがプードルに仮装したんだろ」

俺も悪ノリすると、ルークは反論するかと思いきや俺のほうを見てなぜかキラキラと目を輝かせる。

「カイト、その白い帽子なんだか似ているね!やっぱり僕たちは離れていても以心伝心だ!」
「いや、これノノハが選んだんだけど」
「それじゃあカイト、お近づきの印に…Trick or Treat」
「人の話聞けよ…」

普段は冷静で大人びているルークだが、ハロウィンパーティーのように皆で楽しむ経験が少ないせいかテンションが上がりきっている。そんなルークに呆れ半分、微笑ましさ半分で、その流暢な決まり文句にかごの中のお菓子を一つ返す。

「くっ、カイトにイタズラするつもりだったのに…!でもありがとう」
「抜け駆けはダメだよルーク。カイトには僕がイタズラするんだから。ほら、そのための装置も作ってきた」
「アナもカイトにイタズラするー!」

…おい、ルークの残念そうな声の後に何やら物騒な発言が聞こえたぞ。さすがに巻き込まれたくないので、キュービックとアナにも先手を打ってお菓子を渡す。ノノハがジャック・オ・ランタンのかごを俺に持たせた意味がようやく分かった気がした。

「ははっ、カイト君は人気者だなぁ」
「!」

仮面を頭の横につけた軸川先輩が笑って話に入ってくると、それを見たルークは珍しくぎょっとした表情になった。

「え、ソウジ君…!?」
「ご無沙汰してます、ルーク管理官」
「その格好は…」
「あぁ、ミノタウロスの『仮装』ですよ。似合ってます?」
「あっ…あぁ。そうなんだ。仮装…。うん、似合うよ、本物みたいだ」

何かを悟ったようにそれ以上は話さないルーク。ようやく落ち着いた空気になったところでちらりとノノハの様子を伺うと…彼女は俺に持たせたかごの効力などまったく気にせずに準備を再開していた。それを手伝うのはギャモン、イワシミズ、そしてルークと一緒に来たであろうエクソシストの格好をしたビショップ。

「ノノハさん、お茶の用意が整いました」
「ありがとうございます、ビショップさん。茶葉の差し入れもいただいて…」
「いえ。イギリスからいらっしゃる彼らをもてなすには、やはりティーパーティーでないと」
「ふふっ、やっぱりビショップさんに相談しておいてよかった」

ノノハの笑顔。くそ、なんだかむかむかする。それに目ざとく気付いたアナが体を曲げてひょっこりと俺の顔を覗き込む。

「カイト、どうしたのー?」

分かっていないようですべて分かっていそうな目。アナの視線から逃げるように俺はルークに話を振る。

「……。なぁルーク」
「なんだい?カイト」
「ビショップってさぁ」
「うん」
「お前を退治すんのか?」
「うん…えっ?」
「ほら、お前はオバケだしビショップは首から十字架提げてるし」
「…あああぁぁっ!!」
「いや、衣装用意した時点で気付こうよ…」

俺の代わりにキュービックがツッコミを入れた。



…本当は俺も分かっていた。
ノノハとビショップが話していたのは今日の主役、オルペウス・オーダーの衣装に基づいたもてなしのことで、余計な心配は無用だということ。実際、ノノハはフリーセルたちがどんな格好で来るかを俺にも事前に教えていたし、ビショップが『ティーパーティー』と言った意味も分かる。そりゃあ、その件について何も聞かされていないアナやキュービックやギャモンにとっては何のことだか分からない秘密の会話に見えるだろうが、俺にとってはノノハとビショップの会話は秘密のものでもなければパズルのような暗号も無い。すなわちパズルよりも簡単なはず…なのに。
パズルを解く鍵が見つからない時のようなモヤモヤが心に残る。

「ノノハ、こっちは全部並べたぞ」
「あっ、ありがとうギャモン君。じゃあ次はこのカップケーキもお願いできる?」

俺の気持ちなどお構いなしに、準備は着々と進められていく。

「僕たちも手伝いにいこうか。アナ、ふざけるのは無しだよ?」
「おーっ!」
「…不安しかないんだけど」
「ありがとう、キューちゃん、アナ。じゃあイワシミズ君と一緒に部屋の飾り付けに回ってもらってもいい?」
「よしっ、それじゃ僕も…」
「ルーク様は黙って見ていてください!」
「ビショップ…僕だって準備の手伝いくらいできるから」
「お皿は落としたら割れるんですよ!?ケーキをひっくり返したり熱いお茶がかかったりしたらどうするんですか!?部屋の装飾だってうっかり壊してしまったら…!」

…本当に、俺の気持ちとは何だったのか。ルークに対しては異常なほど過保護になるビショップを見ると、なんだか憎めないよなぁと思う。ルークはそれでも手伝いたそうにしていたが、軸川先輩が二人の間に入って両者をなだめ、結局ルークは招かれる側だからという方向で落ち着いた。

「うーん、何か足りないんだな…。壁を紫に塗ってみよっかなー?」
「アナ、ストップストップ!パーティーが終わったら戻さなきゃいけないんだよ!?」
「大丈夫、塗り直せばオールオッケーなんだな」
「塗リ直シ、手伝ウヨ」
「そういう問題じゃなくて!ノノハ助けてー!」
「えっ!?えーっと…あっ、そこの袋に暗幕があったはず!それなら雰囲気変わるかもよ?」
「暗幕に落書きはー?」
「しちゃダメー!」

どったんばったん。正直ルークよりもトラブルメーカーになりそうなアナとイワシミズを、必死で止めるキュービックの叫び声が響く。そして時折指示を飛ばすノノハの声も。
そんな中、さっきから妙におとなしい奴が一人。いや、基本うるさいから静かになったのなら別に構わないのだが、問題は…

「おーいギャモン、さっきから進んでねぇぞ」

まぁ準備にあまり積極的でない俺が言うのもあれだが。ギャモンのことだからそのことを逆に指摘して突っかかってきそうだな、と身構えたのも束の間。

「おい、これ…どういう意味だ…!?」

ゆっくりとこちらを向いたギャモンの顔は、心なしか赤い。そして彼の手元には先程ノノハから頼まれたカップケーキ…にチョコレートで描かれた『EAT ME』の文字。

「お前、こんな簡単な英語もできねぇのかよ」
「そういうことじゃねぇよ!…これ、ノノハが作ったんだよな。ってことは…」

一人悶々とするミイラ男に、本日一番盛大なため息をついてみせる。もちろん「それはないだろう」とバカにする意味を込めて。



「お邪魔しまーす」

わいわいがやがや、賑やかな声がテラスに向かって上ってくるのが聞こえる。このパーティーの主役の登場だ。

「ほら、あいつらの服装。それ見れば分かるだろ」
「ん?」

ギャモンが階段に目を向けたのと、フリーセル率いるオルペウス・オーダーが天才テラスに到着したのはほぼ同時だった。

「皆、元気そうだね」
「ハロウィンパーティーも悪くないですこと」
「パズルの差し入れも持ってきたよ」
「私たちまで呼んでもらって…」
「お招き、感謝する」

順番に白いウサギの耳を付けたフリーセル、水色のエプロンドレスに身を包んだメランコリィ、『10/6』のタグが付いた大きな帽子をかぶったピノクル、ピンク色の猫耳のミゼルカ、不釣り合いとも言えそうな茶色のウサギの耳のダウト。全員揃うと『不思議の国のアリス』の仮装だ。
彼らの来訪にノノハたちも気付いて手を止める。

「いらっしゃい、フリーセル君」
「わーっ、フリフリ、ウサ耳だー!」
「えへへっ…メランコリィに仮装の相談をしたら、皆でテーマを統一しようって話になってね」
「ふふっ、私は童話のアリスと違ってそう簡単には逃がしませんわよ?」

いつかマスターブレインとして立ちふさがった時のように、妖しげに微笑むメランコリィ。しかしその前のフリーセルの話からは、皆と和解しようとする彼女の様子がうかがえる。彼らから少し離れたところで、ノノハの眼差しが優しいものになった。そのまま視線をこちらに向けられて、思わず心臓がドキリとする。「うまくいってるみたいでよかったね、カイト」というアイコンタクトのはず…だろうけど…。
ノノハはそのまま視線を落とすと、何事も無かったかのように残りのノノハスイーツを並べていく。持ってきた箱はあと少しで空になるところだった。

「へーぇ、お菓子も凝ってるね。アリスの世界に出てきそうだ」

いつのまに寄ってきていたのか、ピノクルが先程話題になったカップケーキを覗き込む。俺の横でギャモンがばつの悪そうな顔をした。

「作ったのはやっぱりノノハちゃんかい?」
「あぁ。あいつはこういうの、張り切るからな」
「へぇ…」

ピノクルの含みを持たせたような返事と沈黙。つい何も考えず思ったままを言ってしまったことを、どこか気恥ずかしく思う自分がいた。

「できたーっ!」

突然、アナとキュービックの達成感に溢れた声が耳に届く。暗幕を使った飾り付けも順調に終わったらしい。幸い、暗幕に絵の具は付いていなかった。高い所での作業用に乗っていたイワシミズから降りて、二人が駆け寄ってくる。

「ノノハー、そろそろ始めようぜ!」

ノノハの手が止まったのを見計らって声を上げる。
しかし、ノノハから返ってきたのは予想外の返事だった。

「あ…ごめん、もう少し待ってくれる?まだ全員揃ってないんだ」
「他にまだ誰か来んのかよ?」

ギャモンが投げかけた疑問は、俺と同じものだった。事前の準備の過程で色々聞かされていた俺も、フリーセルやルーク以外のメンバーについては聞いていなかったからだ。

「うん。エレナにお世話を頼んでたんだけど…」
「お待たせ。遅くなって悪かったわ」

強気な声と共に天才テラスへ上ってきたのは、背丈ほどもある大きなホウキを後ろ手に携えた魔女の姿のエレナ。いかにもコスプレになりそうな衣装だが、そこはさすがアイドル、堂々と着こなしている。
そんな彼女の元へノノハは駆け寄ると、ホウキのさらに後ろを覗き込んでにっこりと笑った。
そして。

「じゃじゃーん!本日のスペシャルゲストとして、可愛い黒猫たちにも来てもらいましたー!!」

ノノハが大きな声で言うと、エレナがその身を一歩横にずらす。
エレナと大きなホウキの後ろに隠れていたのは、



「…レイツェル!?」



驚きの声を上げたのはフリーセルだった。それもそうだろう、レイツェルは今フリーセルやピノクルと同じクロスフィールド学院にいるのだから。

「どうして君がここに…。僕たちが誘った時には行けないって言ってたのに」

フリーセルが純粋に浮かんだ疑問を口にすると、黒い猫耳と尻尾を付けたレイツェルは申し訳なさそうに告げる。

「ごめんなさい。私はオルペウス・オーダーじゃないから、悪いと思って」
「そんなこと…」
「そうだよ、言ってくれれば一緒に来たのに」
「まぁ、そんな素直じゃないところもあなたらしいですけど」

フリーセルの言葉を補うように続けるピノクルと、レイツェルを自分と重ねてフォローするメランコリィ。どちらもタイプは違えど決してレイツェルを責める口調ではなく、優しく受け入れようとしている。
レイツェルのすぐ隣にいたノノハが、そっと手を差し出した。

「レイツェル。皆、あなたの仲間だよ」

ジンはいないけれど、でも一人じゃない。俺も頷いてみせる。

「…レイレイ」

アナの優しい声に背中を押されて、レイツェルはそっとノノハの手をとった。レイツェルと一緒に来ていたらしいオッドアイの黒猫も、彼女の足元で喉を鳴らした。
ノノハのアイコンタクトがそっと俺に投げられる。言うことは決まっていた。



「よし、それじゃあ…パーティータイムの始まりだ!」



fin.

2015/10/31 公開
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