Phi-Brain
当たり前の特別
微睡みの中で、ぱたぱたと小さく響く足音をぼんやりと聞く。廊下を通り俺の部屋へと近付くそれは、毎朝恒例の音。そろそろ起きなければ。アラームだってさっき止めたのだから。そうは思いながらもやはり二度寝の快楽には勝てず、ノノハが来るギリギリまで寝ていたくなってしまう。これも毎朝恒例。
だが今日のノノハの第一声は、毎朝恒例のものではなかった。
「カイト、誕生日おめでとーっ!!」
朝から元気な幼馴染みはそう言うと、しかしいつものように容赦なく布団を引き剥がす。
「う、わっ!?」
幸い関節技での目覚めではなかったが、あまりに勢いがよすぎて、俺は結局床に転がり落ちる形となった。誕生日と言いつつ、これでは結局普段通りである。
「いってーな…今日は起きてたっつーの。祝ってんのかそうじゃないのかどっちだよ」
「起きてても布団の中にいたんじゃまた寝るでしょ?誕生日プレゼントもちゃんと持ってきたんだから、さっさと準備する!」
「誕生日プレゼント?」
伸ばしっぱなしの襟足を一つに結いながら何気なく聞き返すと、ノノハはプレゼントやらを丁寧に取り出し始めた。彼女の鞄から見えた、透明な袋の端とピンク色のリボン。特別な日に限らず何度も見ているから、ピンと来た。
「ノノハスイーツか?」
「あ、やっぱりバレバレ?」
中身を見る前に当てられてノノハは一瞬表情を固くしたけれど、すぐに笑顔を取り戻してプレゼントを差し出す。
「でも、今日のはバースデースペシャル!はい、カイト!」
バースデースペシャルと呼ばれたそれは、ワッフルにたくあんと昆布茶クリームをトッピングした特製ノノハスイーツ。
以前、ノノハが俺の好きな食べ物を合わせてスイーツにして誕生日に贈った、おそらく彼女の初めての創作料理。もっとも当時の俺はノノハスイーツ自体苦手で、これを美味しく食べた記憶は無いけれど。
ノノハは普段よく作るクッキーでもマドレーヌでもなく、あえてこれを選んだようだった。その証拠に、彼女はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「ルーク君を救う時、皆への暗号だとしてもカイトがこのワッフルのことを覚えててくれたのが、私、嬉しかったんだ。カイト、いつもありがとう」
その眼差しは昔と変わらず、まっすぐに俺を見つめていて。
「俺のほうこそ…サンキューな、ノノハ」
手を伸ばしてプレゼントを受け取り、早速リボンをほどいてワッフルを袋から出す。今でも苦い記憶はあるけれど、不思議と嫌悪感は湧かないし拒否反応も起こらない。
そのまま口に運んで、ぱくり。まずは一口、続いて二口、三口。
「…美味しい。うん、美味しいぜ」
思わず出た呟きをノノハに対して確信として言い直すと、ノノハも嬉しそうに頷いた。
fin.
2014/04/27 公開
微睡みの中で、ぱたぱたと小さく響く足音をぼんやりと聞く。廊下を通り俺の部屋へと近付くそれは、毎朝恒例の音。そろそろ起きなければ。アラームだってさっき止めたのだから。そうは思いながらもやはり二度寝の快楽には勝てず、ノノハが来るギリギリまで寝ていたくなってしまう。これも毎朝恒例。
だが今日のノノハの第一声は、毎朝恒例のものではなかった。
「カイト、誕生日おめでとーっ!!」
朝から元気な幼馴染みはそう言うと、しかしいつものように容赦なく布団を引き剥がす。
「う、わっ!?」
幸い関節技での目覚めではなかったが、あまりに勢いがよすぎて、俺は結局床に転がり落ちる形となった。誕生日と言いつつ、これでは結局普段通りである。
「いってーな…今日は起きてたっつーの。祝ってんのかそうじゃないのかどっちだよ」
「起きてても布団の中にいたんじゃまた寝るでしょ?誕生日プレゼントもちゃんと持ってきたんだから、さっさと準備する!」
「誕生日プレゼント?」
伸ばしっぱなしの襟足を一つに結いながら何気なく聞き返すと、ノノハはプレゼントやらを丁寧に取り出し始めた。彼女の鞄から見えた、透明な袋の端とピンク色のリボン。特別な日に限らず何度も見ているから、ピンと来た。
「ノノハスイーツか?」
「あ、やっぱりバレバレ?」
中身を見る前に当てられてノノハは一瞬表情を固くしたけれど、すぐに笑顔を取り戻してプレゼントを差し出す。
「でも、今日のはバースデースペシャル!はい、カイト!」
バースデースペシャルと呼ばれたそれは、ワッフルにたくあんと昆布茶クリームをトッピングした特製ノノハスイーツ。
以前、ノノハが俺の好きな食べ物を合わせてスイーツにして誕生日に贈った、おそらく彼女の初めての創作料理。もっとも当時の俺はノノハスイーツ自体苦手で、これを美味しく食べた記憶は無いけれど。
ノノハは普段よく作るクッキーでもマドレーヌでもなく、あえてこれを選んだようだった。その証拠に、彼女はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「ルーク君を救う時、皆への暗号だとしてもカイトがこのワッフルのことを覚えててくれたのが、私、嬉しかったんだ。カイト、いつもありがとう」
その眼差しは昔と変わらず、まっすぐに俺を見つめていて。
「俺のほうこそ…サンキューな、ノノハ」
手を伸ばしてプレゼントを受け取り、早速リボンをほどいてワッフルを袋から出す。今でも苦い記憶はあるけれど、不思議と嫌悪感は湧かないし拒否反応も起こらない。
そのまま口に運んで、ぱくり。まずは一口、続いて二口、三口。
「…美味しい。うん、美味しいぜ」
思わず出た呟きをノノハに対して確信として言い直すと、ノノハも嬉しそうに頷いた。
fin.
2014/04/27 公開
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