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イリコとバトル<前編>

ミントやチョコとの会話はとても楽しくて、気付けばイリコたちのテーブルは大いに盛り上がっていた。
彼女たちの話によると、二人ともナワバリバトルには積極的に参加しているらしい。
一緒にバトルに行こうとイリコが誘うと、二人とも快くフレンドコードを交換してくれた。
「ミントってばすっごいんだよ!塗りポイントで2000とか塗っちゃうの!」
「えーっ!?それはすごいね……」
「す、すごくないよ……たまたまチョーシ良かっただけだし」
ミントは慌てたようにそう言って、左右に首を振る。
「私、塗りしか取り柄ないから……キルなんて全然取れないし」
「でもでも、ミントが塗ってくれるから安心して前線出れるっていうか!」
チョコはにこにことそう言った。
「ナワバリでもバイトでもヤバいくらい足場確保してくれるからちょー助かる!いつもありがと!」
「もう、チョコちゃん……」
仲の良さそうな二人の様子に、イリコはふふっと微笑んだ。
「二人とも仲良いんだね」
「え?あ、う、うん……」
「そーなの!!!あたしらちょーマブだから!!!」
おどおどとうなずくミントに対し、チョコは勢い良く彼女の肩を抱き寄せる。
ミントは驚いた表情を見せつつも、チョコの満面の笑みに、悪い気はしていないようだった。
「いいなぁ、仲良くて」
思わずイリコがそう言ってしまうと、チョコははっとしたように、
「あっ、ご、ごめーん!イリコっちの方がミントと先に仲良かったんだもんね?!なんかあたし間に入った形になっちゃったかも」
「あ!違うの違うの、そうじゃなくて」
イリコは慌てて顔の前で両手を振ってから、照れくさそうに笑う。
「私もね、仲良しです!って紹介したいフレンドさんがいるんだけど、そのひとがそう言うの、許してくれるかなぁって……」
「どんなひと?」
ミントに訊かれて、イリコはちょっと考えた。
「えっと、クールビューティーって感じなんだけど、すごい可愛いっていうか……あと、バトルがすっごい強いの!全ルールでウデマエX!」
「え、すごーい!!マジ強じゃん!!」
「……イリちゃんがそういうの遠慮するのって、なんか珍しいね」
そう言って軽く首を傾げるミントに、イリコは苦笑いを浮かべてみせた。
「うーん……遠慮っていうか……そのひとに私が、釣り合ってるのかなーって気になっちゃって」
「釣り合ってる??」
「うん……」
飲みかけのストローカップを弄りながら、イリコはひとつ頷いた。
「すっごい綺麗なひとですっごい強くて……バトルの教え方も上手いし、とにかく凄いひとなんだ。私にとっては先生でもあるから、友達って言っていいのかなーって時々心配になっちゃって」
「……その気持ち、ちょっとわかるかも」
ミントがひとつうなずいて、チョコを見る。
「私もチョコちゃんと仲良くなった時、チョコちゃんが友達って言ってくれるまで、そう言っていいかわからなかったし」
「え?!マジで!?あたし最初っからミントは友達だと思ってたよ!?」
「……チョコちゃんがこういう子だから、最近は少しずつ遠慮しなくなってるんだけど」
ミントはイリコの方に向き直って、小さく微笑む。
「イリちゃんも、そのひとに友達って言って貰えたら自信持てるかもね。どういうひとなのか、私は知らないけど……」
「……そうだったらいいな」
ありがとう、と、イリコはミントに笑い返した。
「私、そのひとの最初のフレンドだから……フレンドっていう機能の話じゃなくて、普通にお友達として紹介できたらなー、なんて思ってて」
「ちなみになんていうコ~?」
「アオさんっていうんだ」
チョコに訊かれて、イリコは素直に答えた―――のだが。
「……アオさん?」
アオの名前を聞いた途端、ミントは目を丸くする。
「アオさんって、もしかしてあの、シャープマーカーネオ使いのアオさん?」
「え?うん、そうだけど……」
「ミント、知ってるの?」
「知ってるも何も、スクエアでは有名なイカだよ……!」
ミントはそう言って慌てたようにイカフォンを取り出し、何かを検索し始める。
それから二人に向かって、イカフォンの画面を見せてくれた。
「ほら、これ……」
ミントが表示しているのは、ウデマエXのトップランカーたちが並ぶランキングだった。
そこにはアオの名前と、シャープマーカーネオの画像が映っている―――それも、かなりの上位で。
「わ!すごい!」
「すごいウデマエなのに、チームにも所属しないで、ずっとソロでバトルしてるんだよね……」
ミントはそう言いながら、イカフォンの画面を閉じた。
「他の凄いひとたちからのフレ申もチーム勧誘も、全部断ってるって聞いたけど……イリちゃん、どうやってあのアオさんとフレンドになったの……?」
「どうやってっていうか……」
別に、イリコが特別なことをしたわけではない。
というかむしろ、フレンド申請はアオから申し出てくれたのだし。
イリコはちょっと悩んでから、二人にアオとの出会いを話して聞かせることにした。
「特別なことしたとか、そういうんじゃないんだよ。ただたまたま一緒にバトルしたあと、アオさんが私ともう一度戦ってみたいって言ってくれて……それでプラベでバトルしたんだ」
「どっちが勝ったの!?」
目をきらきらさせながら訊いてくるチョコに、イリコはちょっと微笑んだ。
「アオさんだよ。あの時は私、バトル始めたばっかりだったし……」
「バトル始めたばっかりでアオさんとバトルしたの?!」
ミントが驚いたように声をあげ、イリコはうなずいてみせる。
「うん!すっごく楽しかった。そのあと、アオさんにバトルを色々教えて欲しいって頼んだら、アオさんからフレンドにならないかって誘って貰ったんだ」
「…………」
「それからずっとアオさんにバトル教えて貰ってるんだ。……最近は、あんまり一緒にバトルできてないけど」
「へえ~!なんかそういうのっていいね!」
そう言ってチョコがにこにこ笑う。
「イリコっち、なんかかっこいい!向こうからフレンドになりたいって言ってもらったんでしょ?それもうマブだと思うな~!いいじゃんそういうの!」
「そ、そうかな……」
「……イリちゃんって凄いね」
ミントは感心したように、ほうっと息を吐いた。
「きっと才能あるってアオさんに認めて貰えたんだろうな……私だったら絶対無理だもん」
「う、うーん……私に才能あるかはわかんないけど……」
イリコはちょっと返答に悩んでから、素直に言うことにした。
「……アオさんが、私と一緒にバトルしたいって思ってくれたのは事実だから……そのことは大事にしたいなーって思ってるよ」
「……そっか」
イリコの答えに、ミントは微笑んでうなずいた。
「イリちゃんがそう思ってるんなら、いいと思うな」
「うん!」
「あーっ!」
突然チョコが声を上げ、ガタッと椅子から立ち上がる。
「ねえねえ、せっかくだから今からナワバリ行かない!?イリコっちの実力も見たいし!!」
「え?!唐突だね、チョコちゃん……」
「あ!!行きたい行きたい!!」
イリコもすぐに立ち上がって、傍に置いていたブキケースの取っ手を掴んだ。
「今ってステージどこだっけ?もみじで塗れるとこだといいな~」
「えっとねー、コンブと海女美!ね、ミントも行くよね!?」
「……もう、しょうがないなぁ……」
ミントはそう言いながら立ち上がり、椅子に立てかけていたブキケースを持ち上げる。
「じゃあ、片付けたらロビー行こっか」
「やったー!!」
「ミンちゃんとチョコちゃんと戦うの楽しみ!!」
三人はテーブルの上を手早く片付けると、ステージが変わる前にと、デカ・タワーへ急いで向かうことにした。



***



「3号を探してる……って、そのタコは言ったんね?」
「ええ、そうよ」
ホタルの言葉に、アオはうなずく。
「4号、じゃないんだ?あえての3号ってカンジ?」
「なしてよりによってアオちゃんが……」
アオリは首を傾げ、マサバは眉をしかめている。
―――タコツボキャニオン、シオカラ亭。
その日は『New!カラストンビ部隊』の1号から4号までが、そこに集まっていた。
「うーん……なんか最近、ミョーなところでタコらの行動が活発になってきたね」
ホタルは何とも言えない顔でお茶を啜る。
「今までと違うアプローチ?っていうか、なんていうか……」
「3号的にそのタコボーイくんどうなの?話聞いてると、なんかヤバそーなんだけど……」
アオリにそう訊ねられたアオは、「問題ないわ」とさらりと言ってのけた。
「わたしが3号だと気付いても、恐らく闇討ちを仕掛けてくるような性格ではないわ。味方が近くにいるわけでもないようだし……だから当分は、様子を見るつもりでいたのだけど」
「ほんまに大丈夫なんか、アオちゃ……3号」
マサバが眉をしかめたまま言い直す。
「アオちゃ……ああもうごめん、3号が強いんはおれも知っとるけど、相手が何を目的として3号を探しに来たのか、まだわからんのやろ?そのまんま傍に置いとくのは危険な気しかせぇへんのやけど」
「大丈夫よ」
アオはまたさらりと答える。
「あなたもハチもいるのだし、イリコもいるわ。あの子を巻き込みたくはないけれど……少なくとも、抑止力にはなるでしょう」
「えっ」
「……えっ?」
素っ頓狂な声をあげるマサバに、アオもまた意外そうな声を上げる。
「ええと……ごめんなさい。やっぱり、イリコを頼りにするのはまずいかしら……?」
「あ、いや、ええと、そうやなくて……」
マサバはぽりぽりと頬をかきながら、何とも言えない表情で、
「おれも一緒にいてええんやな~って……」
「? 何か問題があるかしら? だって最近は……」
そこまで言いかけて、アオは「……あ」と小さく声を上げる。
「……ごめんなさい」
アオに謝られて、マサバは思わず身構える。
「あなたにフレンドになって貰ってからは、ずっと行動を共にしていたから……あなたがいてくれる前提で、勝手に話を進めてしまっていたわね……ごめんなさい」
「いやいやいやそのままの前提でいてくださいぜひお願いしますから頼む」
「4号必死過ぎ~」
アオリが苦笑いすると、ホタルも「あんましつこくせんようにね」とやんわり窘めた。
「でもまあ、確かに4号も一緒にいてくれるんなら安心やね。そのタコボーイが何を目的としてるかわからない以上、警戒しとくにこしたこはないし」
「……そうね」
「…………」
「でもさー、そのタコボーイにもシオカラ節聞かせたら、ハチみたいに友達になってくれたりしないかな?」
アオリがそう言って、元気良く両手を広げる。
「歌って踊ったら、みんな仲良くなれたりするかなーって!」
「アオリちゃんが言うと、な~んかちょっと違う意味に聞こえるっていうか……」
「えっちょっ、ホタルちゃんそれどーいうイミ!?」
慌てるアオリに対し、ホタルはからかうように笑った。
仲の良い二人のやりとりに、アオとマサバは思わず微笑んでしまう。
シオカラーズはやっぱり二人で一つのコンビだ。彼女たちのやりとりを見るたびに、そう感じさせられる。
「……なんにせよ、あのボーイに関してはわたしたちが様子を見ておくわ」
アオは真面目な表情を取り繕って言った。
「何かあったらまた報告するわね」
「うん、じゃあそういうことで。イカヨロシク~」
「4号頑張ってね~、色々と!」
「アオリちゃんのそのざっくりとした応援はなんなん!?」
その後は最近の状況などを報告しあって、四人はいったん解散することになった。
今日はパトロールの予定もない。アオがこの後どうしようか考えていると、
「あ、アオちゃん。この後時間ある?」
「……?」
マサバに声を掛けられて、アオは小さく首を振る。
「いいえ。特に、予定はないけれど……」
「じゃあ、ちょっと時間もろていいかな」
マサバは頬をぽりぽりとかきながらも、真面目な顔で言った。
「クロトガくんのことで、ちょっと聞きたいことあってな」
「……わかったわ」
アオは少し眉をしかめてから、小さくうなずいた。
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