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🏹🍎SSまとめ

「サジ、あんた最近語尾がりんごくんに似てきてる」
ラキアの指摘に、サジータは思わず目を丸くする。
アメアリ本部執務室。
今部屋には、二人しかいない。
「……マジで?」
「別にいいけど、セイゴがしょっぱい顔するから気をつけたげて」
書類に淡々と線を引きながら、ラキアは言った。
「しかしあれだね、あんたたちも面白いね……いや、面白いのはサジの方か」
「どういう意味だよ?」
「いや……」
ラキアは書類から顔を上げて、なんとも言えない顔をしてみせる。
「もう好きな人なんて、作らないのかと思ってた」
「…………」
「どういう宗旨替え?」
ラキアの問いかけに、サジータは眉をしかめてみせる。
「……好きになるかどうかなんて、その時になってみないとわかんないだろ」
「あはは、そらま〜そうだわ」
けらりと笑ってから、ラキアはまた書類に目を落とす。
「ま、いいんだけどね。私は応援してるよん」
「……サンキュ」
無理し過ぎるなよ、とラキアの頭を撫でてから、サジータは執務室を出ていく。
ラキアは返事がわりに、ひらひら片手を振った。



愛とかなんとかって、一体どこから湧いて出てくるのだろう。



「来ちゃった☆」
「いらっしゃ〜……あー……」
可愛こぶってみせるりんごを玄関出迎えながら、サジータは思わず天井を仰ぐ。
「なに〜?俺が可愛過ぎて卒倒しちゃった?」
「そういうことにしとく……」
語尾がりんごに似てきたと指摘された話をしたら、お前は嫌がるのかな。
そんなことを考えながら、サジータが視線を戻すと、りんごは「これあげる〜」と上機嫌で何かを押し付けた。
「なんだこれ」
「赤ワイン〜」
渡された紙袋には、確かに高そうなワインが2本入っている。
りんごは荷物が片付いたとでも言いたげに、遠慮なしにサジータの家へと上がり込む。
「お腹空いた〜!ね〜サジータく〜ん、なんかおつまみ作って〜」
「適当でいいか?」
「美味しいやつがいい〜」
いつも美味しいという感想しか聞いていない気がするのだが、それを指摘するのは、流石に野暮だろう。
我が物顔でソファを占領するりんごを放っておいて、ワインを片手にキッチンへ。
持ってきたのがワインだというのなら、恐らくつまみは洋風っぽいものがいいのだろう。
冷凍のシーフードミックスがあったので、フリッターにすることにする。これなら量もあるし、飽きずに食べられる。
サジータが料理をしている間、りんごはソファーに寝転がりながら、イカフォンを片手に話しかけてきた。
「それさ〜こないだ借金のカタに強請ってきたやつなんだけどさ〜、結構いいやつなんだって〜」
「…………」
「料理とかにもいいらしいよ〜、知らないけど〜」
興味無さそうな口ぶりの振りをしているが、こちらをからかうために持ち込んできたのだけははっきりわかる。
たまには乗ってやるかと、サジータは呆れ顔で視線を向けた。
「アシついてんじゃないだろな……共犯になるのは流石にごめんだぞ」
「え〜知らな〜い」
きゃたきゃたと、嬉しそうにりんごは笑う。
「でもサジータくんもう受け取っちゃったし〜?俺と一緒に飲むしかないんじゃな〜い?」
「……ま、そういうことにしとくか」
今夜は一本空けて、もう一本はりんごの言う通り、料理にでも使うことにしよう。
借金がありながら高級ワインを抱え込んでいた当たり、多分ろくでもないやつの持ち物だったんだろうな、とは思うが、とりあえず忘れることにする。ワインに罪はない。
「何作んの〜」
「フリッターと……ベーコンのチーズ巻きでも作るか」
サジータの返事に、りんごが怪訝そうな顔をする。
「チーズ食べないじゃん」
「誰のために買って置いてると思ってる?」
サジータが小さく笑うと、りんごはおもしろくなさそうな顔をしてから、溜め息と共にソファに沈み込んだ。
……俺がチーズ食べないって覚えてたのか。
妙な感動を覚えつつ、サジータは料理の手を進める。
りんごを退屈させると、何をされるかわからない。料理は手早くやるに限る。
宣言通りシーフードフリッターとベーコンのチーズ巻き、それから野菜スティックをちょっとばかり運んでいく。
「はいお通し〜。ソフトドリンクは?」
「いらな〜い」
運ばれた料理に嬉しそうな顔をしつつ、りんごがテーブルの前に座る。
赤ワインとグラスを運んできて注いでやると、りんごはやけに上機嫌に笑った。
「サービスいいじゃん?」
「一流ホテルだからな」
サジータの軽口に、りんごがまた笑う。
少し、心配になるほどの機嫌の良さだった。



サジータの不安が的中したのは、ワインを大分飲み進めてからだった。
普段よりも酒のペースが遅いことに気付き、声をかけようとすると、りんごがおもむろに寄りかかってきた。
「りんご?」
「……んふふふ」
にへにへと笑いながら、りんごが腕に絡みついてくる。
「ね〜、ちゅーしよ♡」
「……お前、酔ってるな?」
しかも、大分悪い酔い方をしている。
来る前に何かあったなと思いつつ、気付いてやれなかったことを、内心で悔やんだ。
サジータが反省していることを気にもせず、りんごはぐりぐりと頬を押し付けてくる。
「なんだよ〜もお〜、いつもみたいにちゅーしてくれよお」
「お前が水飲んだらな」
……とは言ったものの、りんごが離してくれないので、水を汲みに行けない。
サジータがどうするか考えていると、
「じゃあ俺からしちゃお♡」
ちゅー!と言いながら、りんごはサジータの頬に吸い付いた。
「…………」
「あ♡サジータくんびっくりしてる〜!可愛いなぁ〜♡♡♡」
「……お前、明日後悔しても知らないぞ……」
「しないもぉん!」
いや、覚えてたら絶対すると思う。
酒で記憶が飛んでるといいな、と思いながら、サジータもりんごの額にキスしてやった。
「ん……へへへ」
「……水持ってくるから、離してくれよ」
「やだぁ」
ますますしがみつきながら、りんごはサジータの腕を引っ張る。
「ね、きもちいいことしよ」
りんごはそう言いながら、サジータの手を掴み、自分の太ももに運ぼうとした。
「えっちなことしよ……?」
「しーまーせーん」
「なーんーでー?」
手を引っ込めてしまったサジータに対し、りんごは悲しそうな顔をしてみせる。
「俺のこと嫌い?」
「……き」
嫌いなわけ。
嫌いなわけが、ない。
こんなにも。
こんなにも。
こんなにも。
今、自分の心臓は、早鐘のように打ち付けているのに。
「……嫌いなわけ、ないだろ」
「ほんとぉ?」
りんごはへらりと笑った。
「えっちなことしないのに?」
変なのぉ。
そう言って、声を上げて、けたけたとりんごは笑う。楽しそうに笑う。
楽しそうに見えないのに、楽しそうに笑う。
「……大事だから」
言葉を絞り出すようにして、サジータは言った。
「しないことも、ある」
「俺のこと好きなの?」

―――答えられない。

答えられない。
サジータには、答えられない。
「なわけないよなぁ」
言葉に詰まるサジータに対し、りんごはまた声を上げて笑った。
「だってぇ俺、好きになってもらったことなんかないしぃ……」
あはははははははは!
「お前もさあ、本当は俺のこと嫌いなんでしょ?」
「ち、ちが……」
「みんな俺のこと嫌いだからぁ……」
「りんご……」
「だからね、誰も俺に味方しないしぃ……」
「ちがう……」
「俺なんか、死んだっていい……」
「違うっ!!!!!!!」
思わず声を張り上げたサジータに、りんごの身体はびくりと震えた。
けれど、まだ酔いは醒めないようで、彼の瞳はとろんとしたまま、焦点が合わないままにサジータを見つめる。
「俺は、……」

好きだよ。
お前が好きだよ。
誰よりも好きだよ。

「お前が、」

でも。
お前が俺のこと、愛してないだろ。

「……嫌いじゃ、ないよ……」
震える声で、それだけが何とか言えた。
りんごはしばらくきょとんとしたあと、へらりと笑って、
「……サジータは可愛いなぁ」
そう言って、彼はふらふらと膝で立つと、ぎゅっとサジータの頭を抱き締めた。
「可愛い可愛い、よしよし」
「りんご……」
「俺さぁ〜、弟がいるんだぁ……」
サジータの頭をわしゃわしゃ撫でながら、りんごはぼんやりした口調で言う。
「可愛かったなぁ〜……」
「…………」
「……サジータも、」
毒の色をした瞳が、寂しそうな色をする。
「いつか、俺を嫌いになるんでしょ?」
「……ならないよ」
泣きたくなりながら、サジータは言った。
「約束するよ。俺は、お前を嫌いにならない」
りんごは、咎めるように目を細めた。
「……嘘つき」
「嘘じゃないよ」
言い聞かせるように、サジータは応える。
「本当だ」
「……本当に?」
「うん」
「嫌いにならない?」
「うん」
「何しても?」
「うん」
「犯罪やっても?」
「うん」
「誰か殺しても?」
「うん」
「刑務所入っても?」
「うん」
「……俺が死んでも?」
「ならないよ……」
でも、と、サジータは祈るように言った。
「長生きは、してほしい」
「…………」
りんごの瞳が、揺れる。
ゆらゆらと揺れてから、彼はおもむろに、サジータの首に抱きついた。
「…………」
「りんご?」
「……話、して」
サジータの胸に顔を押し付け、怖い夢を見て甘える子供のように、彼は言った。
「サジータの話、して……」
「……いいよ」
りんごを膝に座らせて、サジータは静かに、自分の話をし始めた。



***



「あったまいてぇ……」
「一人でワイン1瓶空ければそりゃあな」
翌朝。
二日酔いに苦しむりんごのためにしじみの味噌汁を作ってやりながら、サジータは肩をすくめる。
「昨夜のこと覚えてるか?」
「ぁあ?覚えてねえよ……」
りんごは毒づくようにサジータを睨んだ。
良かった、と、内心で胸を撫で下ろす。
記憶にあると言われたら、正直物凄く困る。
それはまあ、さておき。
「……不機嫌なお前、ちょっとそそるな……」
「うるせえ、さっさと仕事行……」
りんごは言いかけて、一瞬考え、嫌そうに眉をしかめる。
「……今日休み?」
「よく知ってるな」
とは言いつつも、りんごが自分のスケジュールを把握しているのは知っている。ラキアが横流ししてるって言ってたし。
「はー……マジかよ……」
「嬉しそうだな」
「嬉しくありませーん……」
すっかり不貞腐れている。
昨夜飲み過ぎたのが、そんなに悔しいのだろうか。
ちょっと考えてから、味噌汁の火を止めて、りんごの傍に行く。
「りんご〜」
「なに……」
不意打ちでキス。
軽く触れるだけの、一瞬の感触に、りんごの眉がしかめられる。
「……え、マジで何?」
サジータはしれっとした顔で、
「痛み和らぐかなぁと」
「……なら、もっとちゃんとやれよ……」
りんごは不機嫌そうに言うと、サジータの胸ぐらを掴み、乱暴にキスする。
「ん……りんご、味噌汁冷める……」
「そっちから先に手ぇ出したんじゃん……」
サジータをベッドに引きずり込みながら、りんごは拗ねたように言った。
「……満足させてくれなきゃやなんだけど」
「…………」
サジータはちょっと笑ってから、静かにりんごをベッドに押し倒した。



***



「あーげる」
りんごはラキアの目の前に紙袋を差し出す。
「こないだはどーもぉ〜」
「わー!!ありがとーりんごくん!!何これ!!」
アメアリ本部執務室。
今部屋には、二人しかいない。
「ワイン美味しかった〜?」
無邪気に紙袋を開くラキアに対し、りんごは肩をすくめてみせる。
「クッソ悪酔いしたんだけど……なんか仕込んだ〜?」
「なわけないじゃ〜ん」
紙袋の中身はチーズケーキ。ラキアの好物だ。
「うわ、これめちゃくちゃ美味しいやつじゃんやった〜」
「喜んでくれて何より〜」
ラキアには、色々世話になっている。
恩を感じての行動というより、今後も機嫌良く仕事をしてもらうための対価だ。
そう思っての差し入れだったが。
「……ん?何?」
ラキアから視線を感じ、りんごはちょっと眉をひそめる。
「あたしの機嫌取り方分かってるなぁって」
ラキアはにまにまと笑った。
「りんごくん、最近おサジに似てきたんじゃない?」
「…………」
ラキアのからかいに、りんごは思いっきり嫌そうな顔をしてみせた。
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