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🏹🍎SSまとめ

住んでる世界が違うのはともかく、まあお互いにお互いの生活とか色々あるわけで。
普段は割と頻繁に会えていた(というかりんごが押しかけていた)けれど、ここ数日は二人とも忙しくて、連絡を取る暇さえなかった。
一週間振り、連絡もなしに訪れたりんごに対して、サジータが思わず嬉しそうな顔をしてしまったのも、きっと恐らくはそのせいだ。
世間話もそこそこに、どちらからともなく唇を重ね、求め合ってしまったのもそのせいだ。
全部、会えていなかった時間が悪い。
「ぁ……はぁ……っ」
首筋に吸い付く、サジータの体温が熱い。
ぞわぞわとした快感が背筋から昇るのを感じながら、りんごは大きく息を吐いた。
「……服着せたままでがっついちゃってさ、やらしいんだ~?」
「淡泊なのがお好みか?」
からかうりんごの声にも、受け答えするサジータの声にも、余裕はない。
服の隙間から楽しむようにあちこちへと落とされる口づけに、りんごはもどかしそうに身じろぎする。
「……なあ、早く……」
「ん?」
「そういうんじゃなくて、もっとさ……」
「……どうされたい?」
意地悪に響く低い声に、りんごの腰が甘く疼く。
主導権を握れていないのは気に入らないが、今日に限っては脇に置いておく。
そんなことがどうでも良いと思えるくらいには、今夜は欲張って、求め合いたかった。
「もっと……もっと、痛いのとかしてよ」
優しく触れられることに嫌がる振りをして、りんごはサジータにすり寄る。
「優しくしたら駄目か?」
そんなりんごに嫌がらせをしている振りをして、サジータは服の上から優しく彼に触れる。
りんごは彼の服の袖を引っ張り、ねだるような視線を向けた。
「今日は酷くしてほしいんだって……物みたいに扱うとかさ、そういうのも、たまにはしてよ」
いつも優しくされて、溶かされて、訳がわからないままに溺れさせられる。
それが嫌じゃないという事実を認めたくないのはともかく、今日はひたすらに貪り合いたい。
訳がわからなくなるぐらい愛されるより、意識を保ったまま、お互いにお互いを。
「なあ、サジータ……」
りんごが甘えるようにして、サジータの首の後ろに手を回す。
「今日ぐらい、ちょっと酷くしてくれてもいいじゃん。お仕置きしてくれるみたいな感じでさ……」
甘えるりんごに、サジータが愛おしそうに目を細めた、その時だった。

―――ぴんぽーん♪

「……あ?」
りんごの口から、素の声が漏れる。
サジータも驚いて、思わず玄関の方を振り返った。
聞き間違いかと思ったが、二人同時に気付いていて、そんなわけもない。
間の抜けたチャイム音は、また、ぴんぽーん♪と、軽い音を立てた。
「誰だよこんな時間に~……」
「宅配便なわけないしな」
そう言って、サジータはりんごから離れようとする。
それに気付いたりんごは、信じられないという顔で引き留めた。
「え、ちょ、まさか出るわけ?」
「見てくる」
「ほっとけよ!」
どこの誰とも知らないイカだかなんだかに、せっかくの夜を邪魔されてはたまらない。
サジータは困ったような顔をして、りんごに対して優しくキスを落とす。
「見てくるだけだから、な?」
「やだ!!!」

ぴんぽーん♪

りんごが駄々をこねる間にも、チャイムは鳴り響いている。
サジータはもう一度、触れるだけの口づけをりんごの額に落としてから、宥めるように優しい声で言う。
「見てくるだけだから」
「…………」
りんごは思いっきり顔をしかめた。
「よしよし、良い子だな」
サジータはそう言って、しがみつくりんごの腕を優しく振りほどく。
「え、ちょっと、マジでお預けするつもり?」
「良い子にしてたら、あとでご褒美にイイコトしてやるよ」
「今して」
「あとで」
りんごは唇を尖らせながら、毛布を引っ被る。
散々我慢してからお預けなんて、とてもじゃないが我慢できそうにない。
一人でシて、サジータにだけお預けでも食らわせてやろうかと考えていると、玄関ののぞき穴を覗き込んだサジータが、慌てたようにドアを開ける音が聞こえた。
「……どうした?こんな夜遅くに」
普段は自分にしか聞かせないような優しい声をするサジータに、りんごは思わず怪訝そうな顔をする。
毛布を被ったまま、様子を見に行くと―――
「あ、あの……」
自分も聞き覚えのある声に、りんごは目を丸くした。
「……きゅ、急に来て……ごめんなさい……」
玄関の前で、泣きそうな顔をして立っていたのは―――リカオンだった。



***



聞けば、何やら友人と喧嘩をしてしまい、家に帰るのも嫌になってしまったらしい。
とはいえいつまでもぶらついているわけにもいかない。でも、辺りはすっかり暗くなってしまった。
行くところがなく困っていたとき、たまたまこの辺に出たので、サジータのことを思い出したのだという。
訳を聞いたサジータは、リカオンにホットミルクを出してやった。
りんごはというと、あからさまに不機嫌な表情で、毛布を被っている。
リカオンはおろおろした表情で、
「あ、あの……急に来てごめんなさい……」
「ん?気にしなくていい」
サジータはにこにこと優しく言う。
「いつでも来ていいって言ったのは俺だしな。ちゃんと困ったときに頼ってくれたのも嬉しいよ」
「で、でも……」
リカオンの視線は、毛布を引っ被ったりんごに注がれている。サジータは苦笑いしつつ、
「あいつは気にしなくていいから……」
と、リカオンのホットミルクにチョコレートのかけらを落としてやった。
ふと、りんごは悪戯を思いついたような顔をして、毛布を被ったまま顔を上げる。
「ね~二人とも〜いいこと思いついたんだけどさ~」
「うん、言わなくていいぞ」
「今から三人でしっぽり仲良くしない?」
「りんご……」
きょとんとしているリカオンに対し、サジータは呆れたような目でりんごを見やった。
「成人してたらいいんだ~」
りんごは毛布を被ったまま、ごろんとベッドに横になる。
「サジータくんてばえっち~、うさぎくんに言いつけてやろ~」
「……ごめんな、リカオン」
戸惑うばかりのリカオンに、サジータはあくまでも穏やかに話しかける。
「あっちのでっかいのは気にしなくていいからな。拗ねてるだけだから」
「えっと……」
目にいっぱい涙を溜めて、リカオンはじっとサジータを見つめる。
「帰った方がいい……?」
「家まで送るよ」
サジータの発言に、りんごは思わず毛布を撥ね除けて飛び起きた。
は?今、こいつなんて言った?
「もし友達が来てたら、俺も一緒に謝ってあげる」
サジータはそう言って、リカオンと視線の高さを合わせて微笑みかける。
「仲直りできるまで、傍についててあげるから。だから、今日は一緒に帰ろう」
「…………」
リカオンはしばらくサジータを見つめてから、こくんとうなずいた。
「……うん、頑張ってみる……」
「よし、良い子だ」
サジータは嬉しそうに笑うと、リカオンの頭を優しく撫でてやった。
「ホットミルク飲んで、落ち着いたら行こうな。車出すから」
「で、でも、りんごお兄さんが……」
「大丈夫大丈夫」
なーにが大丈夫だと言わんばかりのりんごの視線から、サジータはリカオンを遮るようにする。
「帰りに何か音楽流してやろうか。何がいい?」
「いっそリカオンくん泊まってったら~?」
りんごはベッドから降りると、サジータの肩に腕を回す……振りをして、こっそり脇腹をつねった。
「俺がイイコトしたげる~」
「りんご……」
脇腹をつねる方の手を払いのけつつ、サジータは肩をすくめてみせる。
「先寝ててもいいぞ。どうせ泊まるつもりで来てたんだろ」
「…………」
りんごは唇を尖らせると、またベッドに戻り、毛布を被って寝転んでしまう。
「さ、サジータお兄さん……」
「気にしなくていい」
どこまでも優しくそう言うサジータに、リカオンは申し訳なさそうに俯いた。



***



リカオンを助手席に載せてから、サジータはちらっとマンションの方を確かめた。
りんごがグレていなければいいが。
いや、元々グレてはいるけれど。
「シートベルト締めたか?」
「うん」
頷くリカオンを「えらいな」と褒めてから、自分も車に乗り込む。
ラジオを付けると、シオカラーズの新曲が流れてきた。
安全運転と心で唱えつつ、車を発進させる。
「あの……ごめんね」
リカオンがまた小さく謝る。
サジータはちらっと視線だけ向けてから、励ますように言った。
「りんごのことなら気にしなくていいぞ?」
「えっと、でも、」
リカオンはちょっと困ったような顔をしてから、言った。
「サジータお兄さん、りんごお兄さんといる時楽しそうだから……」
「…………」
子供ってよく見てるなぁ。
動揺を気取られないようにしつつ、サジータは「そうか?」と、聞き返してみせる。
「うん……あ、あと、りんごお兄さんも」
リカオンは思い出したように付け加えた。
「怖いお兄さんだけど、サジータお兄さんといる時は、ちょっと……可愛い、かな?って」
「…………」
「あ、い、言わないでね、りんごお兄さんには」
「言わない言わない……」
わかるとは言いそうになったけれど、何とか押し留める。
さすがに、リカオンに自分の本音は漏らせない。
「……こないだなんか、俺がリカオンと遊んでたら、割って入ってきたもんな」
話題には乗りつつ、対象を方向転換。
「リカオンを取られて、悔しかったんだろうな」
「サジータお兄さんじゃなくて?」
……何故か対象が戻ってきた。
うーん、なかなか手強いな?
「いやぁ、俺のことは別に……」
どうとも思ってないのか。
何かは思ってくれているのか。
だから今日、求めに来てくれたのか。
「……そこまでじゃないと思うぞ」
赤信号。ゆっくりと車を停止させる。
いや、別に誰でも良かったに違いない。そうに違いない。
そう思っていないと、勘違いしてしまいそうだ。
「……大丈夫?」
「え?」
「あ、ご、ごめんなさい、」
リカオンは慌てて謝った。
「えっと……寂しそうな顔してたから……」
「……そんなに顔に出るか?俺」
「う、うーん……?」
サジータに訊ねられて、リカオンは考え込むようにした。
「な、なんとなく、かなぁ……?」
「……気をつけるよ」
青信号。
車をゆっくりと走らせる。
「……ちゃんと謝れるかなぁ……」
ぽつりとリカオンが呟いた。
サジータはちょっと微笑んでみせる。
「きっと大丈夫だよ。リカオンが謝りたいなって思える相手なら、ちゃんと聞いてくれると思うぞ」
「サジータお兄さんも、誰かと喧嘩したことある?」
「あるある。特に、うちのパブロ使いとはよく喧嘩する」
「ええー……っ!?」
「でも仲が悪いわけじゃないんだ」
向こうが突っかかってくるだけなので、とは言わない。
サジータは微笑んだまま、話を続けた。
「意見が合えば協力し合ったりもするしな。だから喧嘩すること自体は、悪いことじゃないと思うぞ」
「そうなの?」
「雨降って地固まる、って言うしな。ちょっとぐらい喧嘩した方が、仲良くなったりもするんだ」
「そうなんだ……!」
感心するリカオンの様子に、サジータは少しほっとした。
これですんなり仲直りしてくれたら、一安心なのだが。
「……もう少しかかりそうだな。眠くなったら、寝ててもいいぞ」
「ううん、大丈夫だよ」
リカオンの表情が、ようやく少し明るくなる。
サジータは笑顔で頷いてから、リカオンの家に向かって、引き続き車を走らせた。



***




一時間くらい経っただろうか。
サジータの部屋の前で―――マンションの廊下で煙草をふかしながら、りんごはぼんやりと、星の見えない空を見上げていた。
「りんご」
聞き慣れた声がするが、無視。
適当に廊下の床へ灰を落としていると、煙草を無理矢理取り上げられた。
「灰皿は?」
「遅かったじゃん」
訊ねてくるサジータを引き続き無視して、りんごはつんつん足を蹴り飛ばす。
「未成年とどこでしっぽりしてきたわけ~?」
「してくるわけないだろ」
サジータは呆れ顔で携帯灰皿を取り出し、取り上げた煙草を放り込む。
「ほら、冷えるし部屋戻るぞ」
「もう帰ります~」
「……拗ねるなよ……」
そっぽを向くりんごに対し、サジータは珍しく、ちょっと困ったような顔をした。
「リカオン一人で、夜中に放り出せないだろ」
「うるさいな~……わかってるよ、そんぐらい」
サジータの困り顔を見るのは、いつもだったら楽しいのだが。
こんな時でもなければ気分が良くなるのに、今日はどうにも気に食わない。
放ったらかされたのも、リカオンを優先されたのも、煙草を取られたのも。
彼がそういうことをするやつだと、分かっていること自体も。
「ごめんって……」
「…………」
「……ほんとに帰るのか?」
おずおずと聞いてくるサジータに、りんごは思わず大きな溜め息を漏らす。
「……帰るわけないじゃん。帰るつもりならもうとっくに帰ってます~」
「ん、ごめん……」
「もういいって……」
しょげるサジータにちょっといらついて、りんごはまた軽く彼の足を蹴った。
「あ、イイコト思いついたかも」
「……聞くだけ聞いてやるよ」
りんごはサジータに向かって、挑発的な笑みを浮かべてみせる。
「ここでシてくれたら、色々帳消しにしてやってもいいけど~?」
りんごの提案に、サジータは目をちょっと見開く。
「……部屋まで我慢できないのか?」
「あんだけしといてまだ我慢させるつもり~?」
「いや、俺もめちゃくちゃ我慢してるんだが……」
サジータにそう言われ、今度はりんごが目を丸くした。
「……え、マジで?」
「逆になんでしてないと思ったんだ」
サジータは納得いかないと言いたげに、複雑な表情をしてみせる。
「今すぐ抱きたいしここでめちゃくちゃにしてやりたいし、近所迷惑にならなきゃお前の提案にもすぐ乗ってる」
「……へえ~?」
サジータの返答に、りんごは満足そうな顔をしてみせる。
「サジータくん我慢できてえらいねえ~、お兄さんとえっちなことしたいんだ~?」
「したいのはお前もだろ……」
サジータは軽く溜め息を吐くと、りんごを部屋の方向へと促す。
「ほら、部屋戻るぞ」
「ん」
不意に、りんごはサジータの目の前で両腕を広げてみせる。
唐突なりんごの行動に、サジータは思わずきょとんとした。
「ん?」
「抱っこ」
「…………」
サジータはりんごに向かって、腕をこちらに回せと指で示す。
りんごがいそいそと首の後ろに手を回したのを確かめてから、勢いよく持ち上げようとする―――が。
「おっも!!!」
「あっはははははは!!!」
なんとか横抱きに持ち上げる……が、いくら細身とはいえ、りんごも成人男性である。
サジータは何とか意地で運ぼうとするが、りんごがはしゃいで足をばたばた揺らしたり、わざと重さを感じるように力を入れたりするので、なかなか前に進まない。
「おい待てっ、わざと力入れんなって!!」
「サジータくんうるさ~い、近所迷惑~」
りんごは楽しそうにけらけらと笑い、サジータは何とか前に進む。
だが、玄関まで運ぶのが限界だった。
りんごを下ろして、玄関の鍵を閉めるサジータに、りんごは甘えるように寄りかかる。
「ねー、イイコトって何してくれんの?」
「良い子で待ってられなかっただろ」
サジータはそう言って、りんごの頭を撫でて小さく笑う。
「お仕置きで我慢しろ」
「……は~、どうせ一緒じゃん……」
「どっちも好きなくせに」
りんごはちょっとむっとしてみせてから、サジータの肩を押し、壁に押しつけた。
どちらからともなく唇を重ねたのは、今日で二度目だった。
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