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🏹🍎SSまとめ

彼からの連絡は、いつだって突然だ。
『もしもし~?』
間延びした呼び出しに、サジータはちょっと肩をすくめてみせる。
「りんご?どうした急に……」
『ミズクサ通りの角ね』
「へ?」
『あとよろしく~』
言うだけ言って、りんごは電話を切ってしまう。
黙ってイカフォンの画面を見つめるサジータに、傍でデスクワークをしていたラキアが顔を上げた。
「りんごくん~?」
「まあそうなんだが……」
なんなんだ、と言いたいのを堪えて、サジータはサファリハットを被り直した。
「俺先に上がるわ。お前もほどほどにな」
「はいほ~い、よろしく言っといてね~」
ラキアは深くは聞かずに、ひらひらと手を振って見送ってくれた。

***

「あ~来た来た、早かったね~」
助手席に当たり前のように乗り込んでくるりんごに、サジータは軽く溜め息を吐いてみせる。
「お前、俺のことタクシーか何かだと思ってないか?」
「え~、違うの?」
へらりと笑う彼は、珍しく眼鏡をかけていた。
似合う。可愛い。
思ったが、口に出さない。照れてふて腐れたら、降りると言い出しかねない。
「今日は怪我とかしてないな?」
「大丈夫だって~、血で車汚したりしないから」
「別にそれはいいんだよ」
お前が無事なら。
喉まで出かかった言葉を押し込めて、エンジンをふかす。
りんごはすっかりくつろいだ様子で、煙草を取り出し火をつける。
「ていうかさ~、タクシー扱いされたくなきゃ電話一本で来なきゃいーじゃん」
「来るって分かってるから呼ぶんだろ……」
「まあね~、サジータくん優し~♡」
「……シートベルト、締めろよ」
「ちゃんと締めたってば」
そう言って、りんごは勝手に車の窓を開け、外を眺め始めた。
サジータの運転中、りんごはあまり喋らない。
煙草を咥えたまま、黙って窓の外を眺めていることの方が多い。
その横顔が好きだと言ったら、彼はすぐにでも車から降りていくのだろうか。
「……ていうか、お前ん家まででいいんだよな?」
そういえば目的地を聞いていなかったと思いながら、サジータは口を開いた。
「んー」
りんごは外を眺めたまま、煙草の先をぴょこぴょこと上下させる。
「チャーハン食べたい」
「…………」
会話になっていない。
こういう時は、大抵。
「……家行っていいのか?」
今まで、りんごの家に入れて貰ったことはなかった。
その照れ隠しかと思って、確かめるように訊ねると、りんごは煙を吐き出しながら、
「俺んち中華鍋ないし~」
「いや、フライパンさえあれば作れる……」
「あと中華スープ食べたーい」
「……普通に鍋あれば」
「台所片付けるの面倒~」
「…………」
「……何」
黙ってしまったサジータを、りんごはじろりと睨み付けた。
「早く車出して」
「……いや」
顔がにやけそうになるのを必死に堪えながら、サジータは言った。
「俺の部屋に行きたいって、素直に言えばいい……」
「あーあーあー聞こえませーん!!運転手さん、早く車出してもらえます~?」
「はいはい……」
サジータは、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
チャーハンと、中華スープ。
必要な材料と、現在の冷蔵庫の中身を思い出しながら、サジータはりんごに確かめる。
「帰りにスーパー寄っていいか?卵買わないとないかも」
「好きにすればぁ……」
窓を眺める彼の耳の端が少し赤く染まっているのが、ちらりと見えた。
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