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🏹🍎SSまとめ

「ね〜サジータってさ〜」
りんごの話はいつも唐突だ。
その日はもうそろそろ寝ようかという時に、サジータの腕の中でごろごろと甘えていたりんごが、突然上目遣いで聞いてきた。
「俺に、なんかして欲しいこととかないわけ?」
「……なんかとは」
思わず真顔で聞き返してしまう。
正直サジータとしては、今まさにりんごがしているように、ごろごろいちゃいちゃと甘えてくれていれば、それで大満足なのだが。
けれどりんごは不満そうに唇を尖らせながら、サジータに抱きつきつつ言った。
「なんかさ~……いっつも俺ばっかりじゃん、何かしてもらってんの」
「…………」
そうだっけ?と言いたげなサジータに、「いつも俺ばっかりじゃん」とりんごは繰り返す。
「何か、俺にもして欲しいこととかないわけ」
「……何かって言われてもなぁ……」
サジータは片手間に弄っていたタブレットを脇に置いて、りんごの背中に腕を回す。
「こんなにも愛させて貰ってるのに、」
りんごが苦しくないように、力を入れ過ぎないように。
けれどそれとわかるように、サジータは彼をぎゅっと抱き締め返した。
「それ以上求めるのは、野暮ってもんじゃないか?」
「…………」
りんごの表情は大変不服そうだった。が、耳の端が赤いので、どうやら照れているだけらしい。
「…………ばか」
りんごは辛うじてそう言うと、サジータの腕を逃れて、布団に潜り込んでしまう。
「ばーか。ばか。ばーか」
「うんうん、りんごは可愛いな」
「うるせぇ馬鹿」
割と本気の罵倒が布団の中から返ってきたが、慣れているので気にしないことにする。
こんもりとした布団を眺めながら、サジータは背中と思しき位置を、あやすように撫でた。
「……俺は、」
と、サジータは穏やかに言った。
「りんごが俺の傍にいてくれて、美味しそうにご飯食べてくれたら、それだけで十分なんだけどな」
「…………」
布団の隙間から、りんごの顔がちらっと見えた。
照れ隠しは終わったのかと思っていると、
「……じゃあ、今度からお前が疲れてそうな時に眼鏡かけたり女装したりすんのやめるわ」
「それはちょっと……」
「やって欲しいの〜?」
りんごはいつもの調子でにやにやと笑う。
「どうしてもって言うなら考えてあげなくもないけど〜」
「…………」
サジータは返事の代わりに、布団に潜った。
やめろばかくすぐったい、というりんごの声は、やがてくぐもった吐息に変わり、二人は部屋の電気を消した。
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