このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

🏹🍎SSまとめ

「ねえ〜サジータくんってさ、嫉妬深いタイプ?」
りんごの問いかけに対して、サジータは銀の瞳に不思議そうな色を浮かべた。
「どうした、急に」
「別に〜何となく〜」
そういうタイプだったら、色々面倒臭そうだと思っただけだ……とは言わない。
目の前にいる物分かりの良さそうな男は、面白がるような表情をしてりんごを見返した。
「そう言うりんごはどうなんだよ」
「俺?」
りんごは思わず鼻で笑った。
「嫉妬とかするわけないじゃ〜ん、めんどくさ〜い」
「へえ?」
「大体そういうのって、自分に自信がなくて相手を僻むことしか出来ない奴がやることでしょ〜?」
そう言ってけらりと笑うりんごに、サジータは軽く眉を上げてみせるだけだ。
「俺は全然そんな要素ないですし〜。嫉妬するような相手もいないからさ〜?」
「ふーん」
「……なに」
さっきからいちいちサジータの返答が癪に障る。りんごがきつめに相手を睨んでも、彼はただいつものように優しく笑っていた。
「いや、別に?」
「…………」
腹が立つ。りんごが軽く小突いても、サジータはそれをあっさり受け流すのだった。



***



腹が立つ。当時あんなことを宣った自分に腹が立つ。
視線の先には営業スマイルを浮かべているサジータと、わざとらしくスキンシップを取ろうとする厚化粧の女。
今日はサジータの仕事が終わったら一緒に食事でも行こうと話をしていて、りんごがいそいそと迎えに来てやったらこれである。
明らかに面白くない顔をしているりんごの顔を見て、ミカドが軽く肩をすくめた。
「やありんご。良いとこに来たね」
「あの女誰……」
「君もよーく知ってる有名ブランドの社長令嬢」
ミカドは片手に書類、片手にコーヒーカップを持ったまま、何でもないことのように言った。
「以前からサジータにご執心でね。恋人がいると公表してもあれだよ」
「…………」
「割って入ってきたら?」
ミカドはしれっと言ってのけた。
「すいませんうちの恋人が〜ってさ。そしたら相手も引くでしょ」
「だ〜れがわざわざそんなこと……」
とはいえ、面白くないことは面白くない。
サジータもさっさと振り払って来ればいいものを、わざわざ相手をしてやっているのが面白くない。
りんごが憮然とした表情で彼らを睨んでいると―――サジータが、りんごに気がついた。
あっ、というような顔をしてから、りんごにしか見せない笑顔で、小さく笑う。
りんごが思わず眉間の皺を緩めた時だった。
「すみません、恋人が迎えに来たので俺はこれで。お話ありがとうございました」
失礼します、とサファリハットをとり、形ばかりの会釈をしてから、サジータはさっさとりんごの方に歩いてきた。
「ごめん、待たせたなりんご」
「え……あ、う、うん……?」
「ミカド、後任せていいか?」
「いいよ。お疲れ様」
ミカドは書類の束をばさばさと振ってから、さっと営業スマイルに切り替えて、例の社長令嬢の方へと歩いていった。
彼女はというと、ただ呆然とサジータの背中を見つめるばかりだ。
「帰ろう、りんご」
サジータの優しい声が―――自分にだけ向けられる優しい声が降ってきて、りんごは思わず顔をしかめた。
「……りんご?」
「……後で埋め合わせしろよな」
そう言ってりんごが小突いても、サジータは避けもしない。不思議そうな表情を浮かべてから、ふと何かを思いついたように、いたずらっぽく笑った。
「もしかして、妬いた?」
「…………」
りんごが思い切り足を踏んづけると、サジータが小さく呻いて、苦笑いした。
12/20ページ