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💚🐬💚SSまとめ

待ち合わせの時からやけにそわそわしているとは思ったし、妙な大きさの紙袋を持っているなとは思った。
いつも通り『デートの行き先』と称してみどりを連れ込んだ高級ホテルで、彼からその中身を明かされて、キトラは思わず意外そうな表情を浮かべてしまった。
「ハイヒール?」
「いやあのっ、聞いて!」
嫌がられると思ったのだろうか。みどりは差し出した箱を慌てて横に避けながら、「実はさ!」と、片手で握りこぶしを作りながら力説し始める。
「シャチさんって脚めっちゃ綺麗じゃん!」
「え?」
思わず素の声が出た。
「あ、あー……そうかな?」
ベッドに腰掛けたまま、キトラは片脚を伸ばしてみせる。
見目には自信がある方だったが、脚。脚……脚か。
なるほど。
「……それで?」
とりあえず、みどりの言い分を聞くことにした。
みどりは一瞬キトラの足に見とれていたようだが、慌てて「あっ、だ、だからね、」と、言い訳を続けた。
「ハイヒールとか、似合いそうだな〜って思って……」
「わざわざ買ってきてくれたの?」
「えーっと……」
みどりはリブニットを外しながら、おずおずとキトラ……いや、彼にとっては『シャチ』の顔を見る。
「い、嫌だった……?」
「いや……あ、ううん。そういうわけじゃなくてね」
嫌というか、なんというか。
正直、なんでそんなもん買ってきたんだという思いが強い。
だが、恐らく彼の言う通り、「シャチに似合いそうだから」買ってきたのだろう……単純に。
本当に、単純だ。
キトラは小さく息を吐いて、不安そうに自分を見つめるみどりに、そっと微笑みかけてやった。
「嫌じゃないよ。びっくりしただけ」
「ほ、ほんと?」
「ほんとだって。お礼言うの遅くなってごめんね?」
そう言って、キトラは『シャチ』として、みどりの頬にキスをする。
「ありがと、みどりくん」
みどりに向かって、嬉しそうに見えるように、微笑んでみせる。
「オレのために買ってくれたんでしょ、これ」
「うん……」
「高かったんじゃない?」
「あ、えーと……大丈夫、バイトでお金あったし……」
キトラがハイヒールの箱を自分の方に引き寄せると、みどりはようやくほっとしたような顔をして、いそいそと『シャチ』の隣に座り直した。
キトラはハイヒールを箱から取り出して、眺める。
緑色の、ハイヒール。
色はともかく、サイズはちょうど良さそうだ。いつの間に確かめたんだか。
「みどりくんの色だ」
みどりが喜びそうな台詞を吐いてやると、案の定、彼は照れくさそうな顔をした。
「シャチさんなら紫かなぁって思ったんだけど」
と、みどりは言った。
「緑も悪くないかなーって……」
「ふーん?」
……相手を自分色に染めたいという、独占欲めいたものは、まあ嫌いではない。
むしろこの少年にそんな積極的な感情があったのかと、キトラは内心で感心していた―――まあ、そんなことは、どうでもいい。
今は『シャチ』として、みどりが悦ぶようなことを、してやるだけだ。
「ねえ、みどりくん」
キトラは履いていたクツを脱いで、床に放り出す。
きょとんとしているみどりの目の前に、ハイヒールを突き出してやった。
「履かせて」
「え?」
「オレのために、買ってくれたんでしょ」
キトラはみどりに向かって、妖艶に微笑んでみせる。
「なら、みどりくんが履かせてよ。オレにさ」
「え、あ……わ、わかった……!」
みどりは戸惑いながらも素直に頷いて、ハイヒールを受け取った。
それから、ベッドから降り、キトラの足先の前にと跪く。
キトラはベッドに腰掛けたまま、黙って足を差し出した。
「えと、履かせるね」
「みどりくん、詰め物ちゃんと出した?」
「えっ……あ、ごめん!ちょっと待って……」
みどりの手際が悪いのはいつものことだ。
キトラが足を揺らして待っていると、みどりがようやく「は、履かせるね!」と、声を掛けてきた。
「ん、お願い」
まずは、右足から。
キトラの足先が、緑のハイヒールの中に、すっぽり収まる。サイズはぴったりだ。
次に、左足。
当然、こちらもサイズはぴったりだった。
「ありがと……」
キトラは礼を言ってから、足を軽く揺らして、靴が脱げないことを確かめる。
それからおもむろに、立とうとしてみた……のだが。
「ん、これ……慣れないときついね」
立ち上がることは出来たが、足に負担が大きい。
世の女性はよくこんなものが履けるなと、感心してしまった。
「だ、大丈夫?」
普段よりも、目線が高くなる。
ふらつきそうになるキトラを、みどりは慌てて支えようとした。
「いつもよりキスしにくいかな」
思ったことを感想として述べると、みどりは「確かに?」と納得してから、
「俺も上げ底履こうかな」
と言い出した。
「みどりくんは履かないの?ハイヒール」
「ええ?俺?」
悪戯っぽく言った『シャチ』に、「似合うかなぁ」とみどりはこぼす。
「俺、シャチさんみたいな綺麗さはなくない?」
「んー」
なんと言えば悦ぶのだろう。
なんと言っても喜ぶのだが。
「……紫のハイヒールにしてあげる」
『シャチ』の言葉に、みどりはきょとんとした表情を浮かべた。
「それ履いたまま、二人でセックスしようよ」
そう言って笑うキトラに、みどりの顔が耳まで赤くなる。
「うん、そうしよ。今度買ってきてあげる」
「え、ええー……?」
「やだ?」
「嫌じゃ、無いけど……」
照れ臭そうなみどりに、身を屈めてキスをしてやる。
みどりは軽く目を見開くと、自分から唇を押し付けてきた。
やっぱり、キスがしにくい。
キトラはいったん唇を離して、ベッドに座り直す。
みどりは追い掛けるようにして、また口付けをしてきた。
しばらく互いの唇を貪り合っていると、息継ぎの合間に、みどりが熱の篭った瞳で囁いた。
「……今日も、履かせたままで、していい?」
「…………」
普段は、何も知らない子供みたいな顔をしているくせに。
こういう時だけ、欲を知った男の顔をする。
まあ、正直……嫌いでは、ない。
「……いいよ」
キトラは囁き声で返事をした。
「みどりくんの、好きにして」
みどりは目をいっぱいに見開くと、『シャチ』をベッドに押し倒した。





***




「キトラサマ」
帰宅後、キトラが預けた荷物を確かめた部下が、おずおずと声を掛けてきた。
「コチラハ、イカガナサイマスカ」
「あ?」
眼鏡を放り出し、ジャケットを脱ぎ捨てる。
動きやすいタコゾネス専用ギアに着替えながら、キトラはおざなりに視線を向けた。
視線の先には、部下の手に載せられた、緑色のハイヒール。
キトラは、不機嫌そうに眉をしかめた。
「捨てておけ……あーいや……」
すぐに頭を振って、言い直す。
「……俺がすぐわかる場所に仕舞っとけ。『シャチ』のギアが入ってるとこに、突っ込んどきゃいい」
「カシコマリマシタ」
部下は一礼して下がって行った。
脱ぎ散らかしたギアを足で隅に寄せながら、キトラは昨夜、みどりと交わした会話を思い出していた。

『ね、またプレゼント買ってきていい?』
『いいけど、今度は何買ってくれるの?』
『えっと、シャチさんに似合いそうなフクとか、アクセとか……』
『また緑色で買ってきてくれるんでしょ』
『えっ!?な、なんでわかったの?!』

「…………」
わからねえわけあるか。
子供じみた独占欲だが、ヒーロー様のお優しい性格の中にそれを植え付けさせてやったのは、まあ、悪くない気分でもある。
「……紫色の首輪でも買ってやろうかな」
キトラの呟きに、部下のタコゾネスたちは、不思議そうに顔を見合わせていた。
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