イリコとバトル<後編>
イリコは思わず息を飲んだ。
『アメフラシ・アーチェリー』隊長格といえば、確かウデマエXの強者揃いだと聞いている。
イリコ以外の面々―――アオは眉をしかめ、クロトガは怪訝そうな顔をし、マサバは口をあんぐり開けている。セイゴはというと、いつになくぽかんとしていた。
「私たちが今回その依頼人から受けた依頼内容は二つです」
イリコたちの反応を全く気にすることなく、ラキアは二本指を立てて見せる。
「『ウルメの妹を脅威から守ること』、そして、『ウルメの妹とそのフレンドの実力を測ること』。後者に関しては、あなたたちの同意が得られなければキャンセルでいいと言われています」
「あの……」
「あ、ちなみに依頼人についてはトップシークレットね。個人情報とかなんとかうるさいからね」
イリコが聞こうとしたことを、ラキアが先を制して言った。
それもそうかと思いつつも、イリコは何だかもやもやしてしまう。
一体、誰がそんなことを頼んだのか。それに……。
「……待ちなさい」
重苦しい声で言ったのは、アオだった。
「いくつか聞かせてほしいのだけれど……」
「なんだいアオたそ?」
ラキアは軽い口調で首を傾げてみせる。
アオは苦い表情で、
「なぜ……なぜ、イリコとわたしたちなの」
そう言ってから、彼女はいったん首を横に振り、
「いえ……どうして、イリコとそのフレンドの実力を測ろうとしているの?」
「俺らも依頼人が『何故』そうしたいかまでは知らない」
アオの質問に答えたのは、サジータだった。
「それを知るのは仕事の領域を越えるからな。俺たちはあくまで『人材派遣サービス』ってわけだ」
「…………」
アオは何か言いたげにサジータを見つめてから、無視するようにラキアに向き直った。
「……二つ目よ。なぜ、あなたたちが相手なの?」
「不満か?」
カザグルマの問いかけに、アオはすぐさま首を横に振った。
「いいえ。いいえ……でも……」
アオは小さく唇を動かしてから、とても言いづらそうな表情で、視線を落とす。
「あなたたちと、イリコでは……実力が、違い過ぎるわ。あまりにも……」
「おや?おや?おやおやおやぁ~?アオたそは、自分のお弟子さんの実力を信じてないのかにゃ?」
そう言って煽ってきたのはラキアだった。彼女はにまにまと笑いながらわざとらしい口調で、
「ウデマエXである我々4人とイリコたそを含めた自分たちが戦っても、勝ち目はな~い!!というのに、どうして戦わなきゃにゃらんのかと、そう言いたいのかにゃ~?」
「そ、れは……」
「まっ、待ってや!!!」
慌てた様子でマサバが割って入り、アオを庇うようにしながら言った。
「それ言うたら、おれかてまだS帯やぞ!?ラキアちゃんたちに立ち向かえるのなんて、この場じゃあそれこそ、アオちゃんとクロくんくらいやんけ!!」
―――この四人は、そんなに強いのか。
イリコがびっくりしていると、不意にクロトガが「……確かにな」と、口を挟んだ。
「……こいつらは……」
彼はじろりと、遠慮の無い視線でラキアたちを見回す。
「……X帯のなかでも名の知れた、指折りのトップランカーだ……それこそ、アオと同程度のな」
「……比較対象がアオなのが、やや気にくわないところではありますが」
ウベンがそう言って不愉快そうに眉をしかめる。
「まあ、実力として遜色ないことは事実でしょう」
「この場合は、アオと比較されて光栄と言った方がいいかもな?」
「サジータに同感だ」
サジータとカザグルマのコメントに、ウベンは小さく鼻を鳴らしただけだった。
「……どうして」
と。
何故か歯がゆそうな表情をして、アオはラキアを見つめた。
「どうして今、そんな話をしたの」
「だーからお仕事なんだって」
ぺろっと舌を出してみせながら、軽い口調でラキアは言う。
「別にいいんだみょ~ん?乗り気じゃないんなら断ってくれてもさ。あたしらだって、腰抜けの腑抜けと戦いたいわけじゃないし~」
「…………」
「でもでも、いい機会だとは思わな~い?」
彼女はにまにまと笑いながら、意味ありげにイリコの方を見る。
「あの『ウルコ』の元チームメイトとライバルと後輩が、その妹と直々にバトルしたいなんて……滅多にない機会だと思うけどね~」
「……『ウルコ』の妹?」
その名前が出た途端、アオはきょとんとしてから、はっとしたようにイリコを振り返った。
一瞬だけ視線が合うも、アオはすぐに、イリコから目をそらしてしまった。
「う、るこ?」
マサバが呆気にとられたように、部屋にいる面々を見渡す。
「って、あの『ウルトラハンコの女王』の『ウルコ』か?サジくんたちのチームメイトだった……」
「……まさか、マサバも知らなかったのか?」
サジータはちょっとびっくりしたように片眉をあげてみせる。
「イリコちゃんは、俺たちのチームメイトだった『ウルコ』……もとい、ウルメの妹だぞ」
「え、ええーーーーーっ!!!!!????」
「あんれま、マジで知らなかったんだ」
マサバの驚きように、ラキアが意外そうな表情をする。
「い、いやだってイリコちゃんから何も聞いてへんし……って、なんでイリコちゃんは教えてくれへんかったの!?」
「え、あ、いや、あの……」
イリコは何故マサバがそんなに驚いているのかわからないまま、わたわたと答える。
「わ、私も最近お姉ちゃんがチーム組んで活躍してたって話聞いたばっかりで……え、っていうかうちのお姉ちゃん女王とか呼ばれてたんですか??初耳なんですが……」
「……まさか、あなたウルメから何も聞いていないんですか?」
ウベンから突き刺さるような視線と言葉を差し向けられて、イリコは更に狼狽えてしまう。
「え、えと……お姉ちゃんとはバトルの話、ほとんどしなかったので……だから、その……」
「バトルの話をしなかった……?」
ウベンは信じられないと言いたげに、イリコに向かって迫ろうとする。
「あのウルメとですか?ただの一度も?」
「あ、えと、あの……」
「おい」
―――強引に流れを断ち切ったのは、クロトガだった。
彼は舌打ちをひとつしてから、ラキアに向かって顎をしゃくる。
「話が逸れてんじゃねえのか」
「おおっとそうだった!!サンキューねクロトガきゅん♡」
ラキアはばっちりウィンクを決めてから、ウベンに向かって軽く手を振ってみせる。
ウベンは何故かイリコをきつく睨んでから、引き下がるようにして後ろに下がった。
「まあなにはともあれそういうわけで、できれば今日中にお返事欲しいにゃー♡我々もそんな暇ではないからね。ぎりぎり23時59分までは受け付けるみょん♡」
「ま、待ってラキア」
アオは困惑した表情で言った。
「勝手に話を進めないで……」
「勝手に話を進めてるのはアオたその方じゃないのか~い?」
そう言って、ラキアは薄く笑う。
「私から見ると、イリコちゃんの意見も聞かずに君だけの判断で勝手に断ろうとしてるように見えるんだけど、違うかな?」
「!」
「それはちょっとお師匠さん過保護なんじゃな~い?束縛強いと嫌われちゃうぞ~?」
「な……」
「き、嫌いになんかなりませんよ!!!」
イリコは思わず立ち上がって反論した。
「私はアオさんのこと嫌いになったりしませんから!!!絶対に!!!」
「…………」
突然ラキアに食ってかかったイリコを、アオは呆気にとられたように見つめていた。
イリコはイリコで、勢いでとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったと反省しながら、ソファに座り直す。
「……ごめんね」
ラキアはというと、先ほどとは打って変わった優しい表情で、二人に向かって謝ってくれた。
「今のはちょっと意地悪だったね。私が悪かったよ」
「ら、ラキア……」
「そんじゃああらためて、私からの話はおーわり。なんか質問あるひといる?いないね?そんじゃあいったんかいさーん。あ、帰るなら一声かけてね~、おサジが車で送るから」
「…………」
何とも言えない空気のなか、一同は解散することになった。
イリコは再び目を合わせてくれなくなったアオの様子を気にかけながら、ラキアに促されるままに、いったん執務室を出ることにした。
***
「ウベン、どう見る?」
「彼女らがバトルを受けるかどうかですか?」
「いや、あの四人の実力の方」
サジータはソファに深く腰掛けながら、長い足を組んで頭の後ろに手を回す。
「俺らのなかで一番見る目があるのはお前だろ?意見を聞いときたくてな」
「はあ。嫌味で言っているなら顔面にチャクチを決めてやるところですが……」
ウベンはちょっと考えるようにしてから、首を軽く横に振ってみせる。
「まあ、どう考えても私たちとまともに戦えるのはアオぐらいのものでしょう。あのクロトガとかいうタコの実力も気にはなりますが……」
「おサジ的にはどうなのよ、あの子のチャージャー」
ラキアは再びデスクの上に胡座をかきながら、紅茶の残りを飲んでいる。
「ガチマで見かけたことあるんでしょ?どんな感じ?」
「そうだな。悪くはないが……」
サファリハットの奥で、サジータは静かに目を細める。
「……勝てる自信はある。俺ならな」
「……今の世代に、お前に勝てるチャージャー使いがいると思ってるんですか?」
呆れたように言うウベンに、サジータは嬉しそうに笑った。
「お、なんだウベン。今日は珍しく褒めてくれるな」
「事実を言ったまでですよ」
ウベンはふんと鼻を鳴らして、サジータから離れたソファへと腰掛けた。
カザグルマは二人のやりとりを不思議そうに眺めてから、ラキアの方を向く。
「ラキアはどう見る、あの面子」
「イリコちゃんは悪くはないけど、経験不足だねえ」
空いたティーカップの取ってに指をかけてくるくると回しながら、ラキアは言った。
「あと、問題はマサバっちかにゃー、やっぱ。昔は頑張ってたのに、今じゃすっかりエンジョイ勢だもんねえ」
「勿体ないことだ」
カザグルマは残念そうに言った。
「実力はあるというのに……」
「私らみたいにね、ずっとバトルに打ち込めるイカばっかりじゃないのよ、カザくん」
「どこぞのバトル馬鹿も半引退状態ですしね」
ウベンはそう言ってサジータを睨むが、サジータは聞いていないふりをしている。
「まあはっきり言ってしまうとだね」
と、ラキアは真面目な表情で言った。
「アオさえ押さえれば勝てちゃうだろうね、あの面子」
「身も蓋もない結論ですね……」
「でもさ、勝てるのが分かり切ってる試合なんて、面白くもなんともないじゃん?」
そう言って、ラキアはにんまりと笑った。
「だからね、私は期待してる」
「……期待?」
無表情だったカザグルマが、わずかに驚いたような顔をしてみせる。
ウベンも怪訝そうな顔をして、
「……何をですか?」
「さあねえ~、なんだろうねえ~」
それ以上は答えずに、ラキアははぐらかすだけだった。
カザグルマは軽く首を傾げ、ウベンは苛立ちを吐き出すように溜め息をつく。
サジータは、黙ってサファリハットのツバを下げた。
『アメフラシ・アーチェリー』隊長格といえば、確かウデマエXの強者揃いだと聞いている。
イリコ以外の面々―――アオは眉をしかめ、クロトガは怪訝そうな顔をし、マサバは口をあんぐり開けている。セイゴはというと、いつになくぽかんとしていた。
「私たちが今回その依頼人から受けた依頼内容は二つです」
イリコたちの反応を全く気にすることなく、ラキアは二本指を立てて見せる。
「『ウルメの妹を脅威から守ること』、そして、『ウルメの妹とそのフレンドの実力を測ること』。後者に関しては、あなたたちの同意が得られなければキャンセルでいいと言われています」
「あの……」
「あ、ちなみに依頼人についてはトップシークレットね。個人情報とかなんとかうるさいからね」
イリコが聞こうとしたことを、ラキアが先を制して言った。
それもそうかと思いつつも、イリコは何だかもやもやしてしまう。
一体、誰がそんなことを頼んだのか。それに……。
「……待ちなさい」
重苦しい声で言ったのは、アオだった。
「いくつか聞かせてほしいのだけれど……」
「なんだいアオたそ?」
ラキアは軽い口調で首を傾げてみせる。
アオは苦い表情で、
「なぜ……なぜ、イリコとわたしたちなの」
そう言ってから、彼女はいったん首を横に振り、
「いえ……どうして、イリコとそのフレンドの実力を測ろうとしているの?」
「俺らも依頼人が『何故』そうしたいかまでは知らない」
アオの質問に答えたのは、サジータだった。
「それを知るのは仕事の領域を越えるからな。俺たちはあくまで『人材派遣サービス』ってわけだ」
「…………」
アオは何か言いたげにサジータを見つめてから、無視するようにラキアに向き直った。
「……二つ目よ。なぜ、あなたたちが相手なの?」
「不満か?」
カザグルマの問いかけに、アオはすぐさま首を横に振った。
「いいえ。いいえ……でも……」
アオは小さく唇を動かしてから、とても言いづらそうな表情で、視線を落とす。
「あなたたちと、イリコでは……実力が、違い過ぎるわ。あまりにも……」
「おや?おや?おやおやおやぁ~?アオたそは、自分のお弟子さんの実力を信じてないのかにゃ?」
そう言って煽ってきたのはラキアだった。彼女はにまにまと笑いながらわざとらしい口調で、
「ウデマエXである我々4人とイリコたそを含めた自分たちが戦っても、勝ち目はな~い!!というのに、どうして戦わなきゃにゃらんのかと、そう言いたいのかにゃ~?」
「そ、れは……」
「まっ、待ってや!!!」
慌てた様子でマサバが割って入り、アオを庇うようにしながら言った。
「それ言うたら、おれかてまだS帯やぞ!?ラキアちゃんたちに立ち向かえるのなんて、この場じゃあそれこそ、アオちゃんとクロくんくらいやんけ!!」
―――この四人は、そんなに強いのか。
イリコがびっくりしていると、不意にクロトガが「……確かにな」と、口を挟んだ。
「……こいつらは……」
彼はじろりと、遠慮の無い視線でラキアたちを見回す。
「……X帯のなかでも名の知れた、指折りのトップランカーだ……それこそ、アオと同程度のな」
「……比較対象がアオなのが、やや気にくわないところではありますが」
ウベンがそう言って不愉快そうに眉をしかめる。
「まあ、実力として遜色ないことは事実でしょう」
「この場合は、アオと比較されて光栄と言った方がいいかもな?」
「サジータに同感だ」
サジータとカザグルマのコメントに、ウベンは小さく鼻を鳴らしただけだった。
「……どうして」
と。
何故か歯がゆそうな表情をして、アオはラキアを見つめた。
「どうして今、そんな話をしたの」
「だーからお仕事なんだって」
ぺろっと舌を出してみせながら、軽い口調でラキアは言う。
「別にいいんだみょ~ん?乗り気じゃないんなら断ってくれてもさ。あたしらだって、腰抜けの腑抜けと戦いたいわけじゃないし~」
「…………」
「でもでも、いい機会だとは思わな~い?」
彼女はにまにまと笑いながら、意味ありげにイリコの方を見る。
「あの『ウルコ』の元チームメイトとライバルと後輩が、その妹と直々にバトルしたいなんて……滅多にない機会だと思うけどね~」
「……『ウルコ』の妹?」
その名前が出た途端、アオはきょとんとしてから、はっとしたようにイリコを振り返った。
一瞬だけ視線が合うも、アオはすぐに、イリコから目をそらしてしまった。
「う、るこ?」
マサバが呆気にとられたように、部屋にいる面々を見渡す。
「って、あの『ウルトラハンコの女王』の『ウルコ』か?サジくんたちのチームメイトだった……」
「……まさか、マサバも知らなかったのか?」
サジータはちょっとびっくりしたように片眉をあげてみせる。
「イリコちゃんは、俺たちのチームメイトだった『ウルコ』……もとい、ウルメの妹だぞ」
「え、ええーーーーーっ!!!!!????」
「あんれま、マジで知らなかったんだ」
マサバの驚きように、ラキアが意外そうな表情をする。
「い、いやだってイリコちゃんから何も聞いてへんし……って、なんでイリコちゃんは教えてくれへんかったの!?」
「え、あ、いや、あの……」
イリコは何故マサバがそんなに驚いているのかわからないまま、わたわたと答える。
「わ、私も最近お姉ちゃんがチーム組んで活躍してたって話聞いたばっかりで……え、っていうかうちのお姉ちゃん女王とか呼ばれてたんですか??初耳なんですが……」
「……まさか、あなたウルメから何も聞いていないんですか?」
ウベンから突き刺さるような視線と言葉を差し向けられて、イリコは更に狼狽えてしまう。
「え、えと……お姉ちゃんとはバトルの話、ほとんどしなかったので……だから、その……」
「バトルの話をしなかった……?」
ウベンは信じられないと言いたげに、イリコに向かって迫ろうとする。
「あのウルメとですか?ただの一度も?」
「あ、えと、あの……」
「おい」
―――強引に流れを断ち切ったのは、クロトガだった。
彼は舌打ちをひとつしてから、ラキアに向かって顎をしゃくる。
「話が逸れてんじゃねえのか」
「おおっとそうだった!!サンキューねクロトガきゅん♡」
ラキアはばっちりウィンクを決めてから、ウベンに向かって軽く手を振ってみせる。
ウベンは何故かイリコをきつく睨んでから、引き下がるようにして後ろに下がった。
「まあなにはともあれそういうわけで、できれば今日中にお返事欲しいにゃー♡我々もそんな暇ではないからね。ぎりぎり23時59分までは受け付けるみょん♡」
「ま、待ってラキア」
アオは困惑した表情で言った。
「勝手に話を進めないで……」
「勝手に話を進めてるのはアオたその方じゃないのか~い?」
そう言って、ラキアは薄く笑う。
「私から見ると、イリコちゃんの意見も聞かずに君だけの判断で勝手に断ろうとしてるように見えるんだけど、違うかな?」
「!」
「それはちょっとお師匠さん過保護なんじゃな~い?束縛強いと嫌われちゃうぞ~?」
「な……」
「き、嫌いになんかなりませんよ!!!」
イリコは思わず立ち上がって反論した。
「私はアオさんのこと嫌いになったりしませんから!!!絶対に!!!」
「…………」
突然ラキアに食ってかかったイリコを、アオは呆気にとられたように見つめていた。
イリコはイリコで、勢いでとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったと反省しながら、ソファに座り直す。
「……ごめんね」
ラキアはというと、先ほどとは打って変わった優しい表情で、二人に向かって謝ってくれた。
「今のはちょっと意地悪だったね。私が悪かったよ」
「ら、ラキア……」
「そんじゃああらためて、私からの話はおーわり。なんか質問あるひといる?いないね?そんじゃあいったんかいさーん。あ、帰るなら一声かけてね~、おサジが車で送るから」
「…………」
何とも言えない空気のなか、一同は解散することになった。
イリコは再び目を合わせてくれなくなったアオの様子を気にかけながら、ラキアに促されるままに、いったん執務室を出ることにした。
***
「ウベン、どう見る?」
「彼女らがバトルを受けるかどうかですか?」
「いや、あの四人の実力の方」
サジータはソファに深く腰掛けながら、長い足を組んで頭の後ろに手を回す。
「俺らのなかで一番見る目があるのはお前だろ?意見を聞いときたくてな」
「はあ。嫌味で言っているなら顔面にチャクチを決めてやるところですが……」
ウベンはちょっと考えるようにしてから、首を軽く横に振ってみせる。
「まあ、どう考えても私たちとまともに戦えるのはアオぐらいのものでしょう。あのクロトガとかいうタコの実力も気にはなりますが……」
「おサジ的にはどうなのよ、あの子のチャージャー」
ラキアは再びデスクの上に胡座をかきながら、紅茶の残りを飲んでいる。
「ガチマで見かけたことあるんでしょ?どんな感じ?」
「そうだな。悪くはないが……」
サファリハットの奥で、サジータは静かに目を細める。
「……勝てる自信はある。俺ならな」
「……今の世代に、お前に勝てるチャージャー使いがいると思ってるんですか?」
呆れたように言うウベンに、サジータは嬉しそうに笑った。
「お、なんだウベン。今日は珍しく褒めてくれるな」
「事実を言ったまでですよ」
ウベンはふんと鼻を鳴らして、サジータから離れたソファへと腰掛けた。
カザグルマは二人のやりとりを不思議そうに眺めてから、ラキアの方を向く。
「ラキアはどう見る、あの面子」
「イリコちゃんは悪くはないけど、経験不足だねえ」
空いたティーカップの取ってに指をかけてくるくると回しながら、ラキアは言った。
「あと、問題はマサバっちかにゃー、やっぱ。昔は頑張ってたのに、今じゃすっかりエンジョイ勢だもんねえ」
「勿体ないことだ」
カザグルマは残念そうに言った。
「実力はあるというのに……」
「私らみたいにね、ずっとバトルに打ち込めるイカばっかりじゃないのよ、カザくん」
「どこぞのバトル馬鹿も半引退状態ですしね」
ウベンはそう言ってサジータを睨むが、サジータは聞いていないふりをしている。
「まあはっきり言ってしまうとだね」
と、ラキアは真面目な表情で言った。
「アオさえ押さえれば勝てちゃうだろうね、あの面子」
「身も蓋もない結論ですね……」
「でもさ、勝てるのが分かり切ってる試合なんて、面白くもなんともないじゃん?」
そう言って、ラキアはにんまりと笑った。
「だからね、私は期待してる」
「……期待?」
無表情だったカザグルマが、わずかに驚いたような顔をしてみせる。
ウベンも怪訝そうな顔をして、
「……何をですか?」
「さあねえ~、なんだろうねえ~」
それ以上は答えずに、ラキアははぐらかすだけだった。
カザグルマは軽く首を傾げ、ウベンは苛立ちを吐き出すように溜め息をつく。
サジータは、黙ってサファリハットのツバを下げた。