フェンリルは夢の中
【取引パニッシュメント】2話
※アズール視点
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『私と取引して下さい』
彼女はハッキリと言った。迷いも絶望もその瞳には宿っていない。彼女は覚悟を決めたように毅然とした態度で学園長と向き合っている。
「……取引の内容は?」
「このパソコンを元いた世界のインターネットに接続出来るようにすることと、闇の鏡をしばらく借りる権利」
異世界に干渉するのは禁術に近い。違法ではないが、対価は高いだろうなとアズールは推察した。海老原は「代償は……」と続ける。
「…代償は私の魂。もしくは肉体。人体実験でも何でもお好きにどうぞ」
さらっと告げられる内容にその場にいた全員が面を食らう。彼女は取引には対価が必須であることをよく理解している様だ。禁術クラスの対価としては相応しいかも知れないが、些か度が過ぎている。
「ここは魔法士専門の学校。その学園長となればかなりの実力者であるはず。難しいとはいえ貴方なら可能ではありませんか?それとも私は貴方を買い被り過ぎているのでしょうか。その程度なんて心底ガッカリですね」
交渉相手に断る隙を与えずに彼女は畳み掛けた。相手を褒めてから分かりやすい挑発を混ぜ、肩を落とす仕草をした。学園長は「出来るに決まっているでしょう!?」と思わず叫び、自分が何を言ったのか理解したのだろう。しどろもどろに「あ、いえ。今のはその〜」と弁明しようとしている。
だが、彼女が行動する方が早かった。白衣を翻し床に正座すると、上体を倒して額を床に付けた。土下座の姿勢のまま「無理は重々承知しております。どうかお力添えをお願い致します」と懇願する彼女に学園長も教師陣も慌てて頭を上げるように言う。
土下座の姿勢は足に体重が乗り、負荷がかかる。ふくらはぎを負傷している彼女には辛い体勢だろうに学園長が渋々了承するまで彼女は姿勢を崩さなかった。
「自分の死後に起きた事に何故お前が犠牲を払うのか」というクルーウェル先生の疑問に対して、彼女は他人事の様に淡々と語る。
「アレは元々私が開発したもので、当時の私は愚かにもこれで世界が平和になるのだと本気で信じていました。周りの国の脅威に怯える事はなく、ミサイルが飛ばされる事のない空をようやく好きになれる。そう思っていました。でも、違ったんです。他国の手に渡れば脅威でしかない私の発明はいとも簡単に戦争を引き起こしました。これは単なる私のエゴです。自分で撒いた種を潰したいだけ、未練を断ち切りたいだけなんですよ」
それに……と彼女は続けた。
「どんなに足掻いても過去を消すことは出来ないし、私の罪は消えないけれど…異世界にいるからだとか、死んだ後だからと言って罪のない人々を見殺しにして良い理由にはならないでしょ?」
そう言うと彼女はパソコンのセットを始めた。
僕の両隣にいる双子は先程まで「飽きた。帰りたい」と言っていたのに、取引が始まると「あの子面白いね〜」「何とかしてオクタヴィネル寮に入れたいですね」と手のひらを返した。面白いことが大好きなのは相変わらずの様だ。とはいえ、自分も彼女の考え方や異世界の技術に興味がある。双子に同意しつつ、最悪学園長を脅して彼女を引き込めば良いかと思案した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
正直に言おう。彼女の技術力を舐めていた。
彼女が生前開発していたのは、人工衛星を使いミサイルやロケット弾などのGPSを瞬時に分析し、落下地点の情報を書き換えるものだった。つまり、いくらミサイルを撃っても落下地点を書き換えられてしまう為、弾が当たらないのだ。イデアさん風に言うなら「チート」である。そんなとんでもない代物の劣化版が彼女の死後、敵国の手に渡り戦争が勃発。彼女の国の攻撃は当たらず、防戦ばかりであの無惨な状況に陥っていた。
タイピングのスピードも然る事乍ら、一般人には理解不能なコードと数字が次々に打ち込まれていく。まるで何かに取り憑かれたかの様に無言で手を動かす彼女は、どこか神々しく見える。彼女の世界に魔法はないはずなのに、こちらの世界で最新の技術力を持つイグニハイド寮の寮長イデアさんでも息を呑むほどの卓越した技術の持ち主だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結論から言うと、彼女の国が勝利し戦争は終わった。彼女がしたのは、劣化版システムのハッキング。相手のミサイルを外させ無効化し、自国の攻撃を100%命中するようにコントロールした。
軍事施設2つを壊滅させ、戦闘機10機を撃墜。軍艦3隻を海に沈めた。終戦宣言が行われ、協定が結ばれると大きく息を吐いた彼女は身体から力を抜いた。もちろん劣化版のシステムも二度と作れないように完全にデータを破壊した後である。
時間にしておよそ2時間。僅か2時間で戦況を引っくり返し、敗戦寸前だった祖国を救った者がまさか死んでいる、それも異世界にいる人間とは誰も思うまい。
彼女が現世に残したバカデカい未練は、本人の手によってこの世から消えた。ようやく安堵した表情を浮かべ、視線を闇の鏡から学園長に移している。彼女は自身の願いを叶えたお礼と巻き込んでしまった事への謝罪の言葉を口にした。
「対価は私の魂でしたね。どうぞお取りください」
とお辞儀をした彼女の頭を学園長が撫でる。驚き、キョトンとした顔で学園長を見上げると彼は惚けた様子でこう語る。
「おや?私はそんな約束はしていませんよ」
「……え?」
「確かに貴方のお願い通り、パソコンを異世界のネットへ繋げました。でも、【対価が貴方の魂である】とは言っていません」
「は?」
「そうですね〜対価…どうしましょうね。ああ、そういえばクルーウェル先生、助手が欲しいと仰っていましたね。彼女を助手にしたら如何です?」
「はぁ?」
「そうだな。魔法は使えない様だが、それを差し引いても充分優秀な様だ。この子犬は俺が躾て立派な助手にしてやろう」
「はぁあ?!」
「……という訳で、海老原さんはクルーウェル先生の助手として我が校で働いてもらいます!」
当人が納得していないのに進められて行く会話に海老原が待ったをかけた。
「いやいやいや、待って下さい!」
「何かご不満ですか?心配しなくても衣食住は保証しますし、給料もちゃんとお支払いしますよ?私優しいので」
「違います。根本的に違います!さっきの見てましたよね?私の祖国の人間も、敵国の人間も私の発明品のせいで、かなりの人数が死んだんですよ?敵国の人間は私の意思で殺したようなものなんですよ?推定でも数億人以上負傷しているんです!私は大罪人なんです。分かってますか!危険人物ですよ!?」
「確かにそうかも知れませんね」
「だったら……!」
「でも、それは向こうの世界の出来事であって、こちらの世界には関係のない事でしょう?貴方は確かに危険人物です。頭の回転は早いし、目覚めて間もなく私を脅して協力させましたし?」
笑いながら言う学園長に海老原は返す言葉が見当たらない様だった。
「罪を償いたいと思うならば、この世界で生きて貴方の技術を役立てて下さい。ね?」
「…………分かりました」
完全に納得がいかないという顔だったが一応了承した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、彼女をどの寮の保護下に置くか、変身薬で男性にするか又は男装させるか等で揉めに揉めた。結果、オクタヴィネル寮の客室を使う代わりにモストロラウンジのバイトをする事や異世界の技術を提供することなどが決まった。
強い変身薬は身体に負担がかかるのと、ポムフィオーレ寮長のヴィルさんの1日くらい元の姿に戻してあげたいという主張で月曜日の朝〜土曜日の夜中まで男性に変わる程度の変身薬を週一で飲む事になった。日曜日は元の女性の姿に戻るため、学園長の許可なしにオクタヴィネル寮の外には出られない等の制約がかかった。
ヴィルさんは単純に整った容姿の彼女を愛でたいだけだろうなと思ったので、日曜日に彼女の部屋に遊びに来る代わりに貴重な毒草や植物を分けてもらう契約をしておいた。「ホントにアンタは抜け目ないわね」と一種の褒め言葉を頂いた。
平日と土曜日は男性の姿とはいえ、日曜日はか弱い女性なのだ。当然彼女の秘密は今日この場に集まった人間しか知らない。外部に漏らさぬよう先生方から釘を刺された。
細かい事が決まり、会議はようやく終了した。僕の横でつまらなそうにしていたフロイドは会議が終わった途端走り出して海老原先生を抱きかかえた。突然のことに咄嗟に反応出来なかった彼女はパソコンを持ったまま、ビックリしてフロイドの腕の中で固まっている。
「ねぇ、もうお話終わったでしょ〜?エビちゃん先生連れて帰ろうよ〜アズール」
「フロイドの言う通りですよ、アズール。海老原先生は怪我もしていますし、寮に戻ったらもう一度包帯を巻かなくては…」
フロイドが提案し、ジェイドが援護する。これ以上ここにいる必要もないので学園長たちに挨拶をし、既に出入口にいる双子の方へ向かう。
「そうですね。かなり無茶をした様ですし、今日は早くお休みした方が良さそうですね」
「……あの、私自分で歩けます。降ろして下さい」
生徒に抱きかかえられている状態が耐えられないのだろう彼女が降ろすように指示する。が、この双子は素直に聞くような良い子ではない。
「「ダメです/だよぉ〜」」
「この学校人の話聞かねー奴ばっかかよ」
当然のように却下された申し出に半ば諦めたように文句を言われた。彼女、素の状態だと案外口が悪いのかもしれない。これから楽しくなりそうだなとアズールは双子と海老原を連れて、今後の生活を想像しながら寮へ向かって歩くのだった。
※アズール視点
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『私と取引して下さい』
彼女はハッキリと言った。迷いも絶望もその瞳には宿っていない。彼女は覚悟を決めたように毅然とした態度で学園長と向き合っている。
「……取引の内容は?」
「このパソコンを元いた世界のインターネットに接続出来るようにすることと、闇の鏡をしばらく借りる権利」
異世界に干渉するのは禁術に近い。違法ではないが、対価は高いだろうなとアズールは推察した。海老原は「代償は……」と続ける。
「…代償は私の魂。もしくは肉体。人体実験でも何でもお好きにどうぞ」
さらっと告げられる内容にその場にいた全員が面を食らう。彼女は取引には対価が必須であることをよく理解している様だ。禁術クラスの対価としては相応しいかも知れないが、些か度が過ぎている。
「ここは魔法士専門の学校。その学園長となればかなりの実力者であるはず。難しいとはいえ貴方なら可能ではありませんか?それとも私は貴方を買い被り過ぎているのでしょうか。その程度なんて心底ガッカリですね」
交渉相手に断る隙を与えずに彼女は畳み掛けた。相手を褒めてから分かりやすい挑発を混ぜ、肩を落とす仕草をした。学園長は「出来るに決まっているでしょう!?」と思わず叫び、自分が何を言ったのか理解したのだろう。しどろもどろに「あ、いえ。今のはその〜」と弁明しようとしている。
だが、彼女が行動する方が早かった。白衣を翻し床に正座すると、上体を倒して額を床に付けた。土下座の姿勢のまま「無理は重々承知しております。どうかお力添えをお願い致します」と懇願する彼女に学園長も教師陣も慌てて頭を上げるように言う。
土下座の姿勢は足に体重が乗り、負荷がかかる。ふくらはぎを負傷している彼女には辛い体勢だろうに学園長が渋々了承するまで彼女は姿勢を崩さなかった。
「自分の死後に起きた事に何故お前が犠牲を払うのか」というクルーウェル先生の疑問に対して、彼女は他人事の様に淡々と語る。
「アレは元々私が開発したもので、当時の私は愚かにもこれで世界が平和になるのだと本気で信じていました。周りの国の脅威に怯える事はなく、ミサイルが飛ばされる事のない空をようやく好きになれる。そう思っていました。でも、違ったんです。他国の手に渡れば脅威でしかない私の発明はいとも簡単に戦争を引き起こしました。これは単なる私のエゴです。自分で撒いた種を潰したいだけ、未練を断ち切りたいだけなんですよ」
それに……と彼女は続けた。
「どんなに足掻いても過去を消すことは出来ないし、私の罪は消えないけれど…異世界にいるからだとか、死んだ後だからと言って罪のない人々を見殺しにして良い理由にはならないでしょ?」
そう言うと彼女はパソコンのセットを始めた。
僕の両隣にいる双子は先程まで「飽きた。帰りたい」と言っていたのに、取引が始まると「あの子面白いね〜」「何とかしてオクタヴィネル寮に入れたいですね」と手のひらを返した。面白いことが大好きなのは相変わらずの様だ。とはいえ、自分も彼女の考え方や異世界の技術に興味がある。双子に同意しつつ、最悪学園長を脅して彼女を引き込めば良いかと思案した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
正直に言おう。彼女の技術力を舐めていた。
彼女が生前開発していたのは、人工衛星を使いミサイルやロケット弾などのGPSを瞬時に分析し、落下地点の情報を書き換えるものだった。つまり、いくらミサイルを撃っても落下地点を書き換えられてしまう為、弾が当たらないのだ。イデアさん風に言うなら「チート」である。そんなとんでもない代物の劣化版が彼女の死後、敵国の手に渡り戦争が勃発。彼女の国の攻撃は当たらず、防戦ばかりであの無惨な状況に陥っていた。
タイピングのスピードも然る事乍ら、一般人には理解不能なコードと数字が次々に打ち込まれていく。まるで何かに取り憑かれたかの様に無言で手を動かす彼女は、どこか神々しく見える。彼女の世界に魔法はないはずなのに、こちらの世界で最新の技術力を持つイグニハイド寮の寮長イデアさんでも息を呑むほどの卓越した技術の持ち主だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結論から言うと、彼女の国が勝利し戦争は終わった。彼女がしたのは、劣化版システムのハッキング。相手のミサイルを外させ無効化し、自国の攻撃を100%命中するようにコントロールした。
軍事施設2つを壊滅させ、戦闘機10機を撃墜。軍艦3隻を海に沈めた。終戦宣言が行われ、協定が結ばれると大きく息を吐いた彼女は身体から力を抜いた。もちろん劣化版のシステムも二度と作れないように完全にデータを破壊した後である。
時間にしておよそ2時間。僅か2時間で戦況を引っくり返し、敗戦寸前だった祖国を救った者がまさか死んでいる、それも異世界にいる人間とは誰も思うまい。
彼女が現世に残したバカデカい未練は、本人の手によってこの世から消えた。ようやく安堵した表情を浮かべ、視線を闇の鏡から学園長に移している。彼女は自身の願いを叶えたお礼と巻き込んでしまった事への謝罪の言葉を口にした。
「対価は私の魂でしたね。どうぞお取りください」
とお辞儀をした彼女の頭を学園長が撫でる。驚き、キョトンとした顔で学園長を見上げると彼は惚けた様子でこう語る。
「おや?私はそんな約束はしていませんよ」
「……え?」
「確かに貴方のお願い通り、パソコンを異世界のネットへ繋げました。でも、【対価が貴方の魂である】とは言っていません」
「は?」
「そうですね〜対価…どうしましょうね。ああ、そういえばクルーウェル先生、助手が欲しいと仰っていましたね。彼女を助手にしたら如何です?」
「はぁ?」
「そうだな。魔法は使えない様だが、それを差し引いても充分優秀な様だ。この子犬は俺が躾て立派な助手にしてやろう」
「はぁあ?!」
「……という訳で、海老原さんはクルーウェル先生の助手として我が校で働いてもらいます!」
当人が納得していないのに進められて行く会話に海老原が待ったをかけた。
「いやいやいや、待って下さい!」
「何かご不満ですか?心配しなくても衣食住は保証しますし、給料もちゃんとお支払いしますよ?私優しいので」
「違います。根本的に違います!さっきの見てましたよね?私の祖国の人間も、敵国の人間も私の発明品のせいで、かなりの人数が死んだんですよ?敵国の人間は私の意思で殺したようなものなんですよ?推定でも数億人以上負傷しているんです!私は大罪人なんです。分かってますか!危険人物ですよ!?」
「確かにそうかも知れませんね」
「だったら……!」
「でも、それは向こうの世界の出来事であって、こちらの世界には関係のない事でしょう?貴方は確かに危険人物です。頭の回転は早いし、目覚めて間もなく私を脅して協力させましたし?」
笑いながら言う学園長に海老原は返す言葉が見当たらない様だった。
「罪を償いたいと思うならば、この世界で生きて貴方の技術を役立てて下さい。ね?」
「…………分かりました」
完全に納得がいかないという顔だったが一応了承した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、彼女をどの寮の保護下に置くか、変身薬で男性にするか又は男装させるか等で揉めに揉めた。結果、オクタヴィネル寮の客室を使う代わりにモストロラウンジのバイトをする事や異世界の技術を提供することなどが決まった。
強い変身薬は身体に負担がかかるのと、ポムフィオーレ寮長のヴィルさんの1日くらい元の姿に戻してあげたいという主張で月曜日の朝〜土曜日の夜中まで男性に変わる程度の変身薬を週一で飲む事になった。日曜日は元の女性の姿に戻るため、学園長の許可なしにオクタヴィネル寮の外には出られない等の制約がかかった。
ヴィルさんは単純に整った容姿の彼女を愛でたいだけだろうなと思ったので、日曜日に彼女の部屋に遊びに来る代わりに貴重な毒草や植物を分けてもらう契約をしておいた。「ホントにアンタは抜け目ないわね」と一種の褒め言葉を頂いた。
平日と土曜日は男性の姿とはいえ、日曜日はか弱い女性なのだ。当然彼女の秘密は今日この場に集まった人間しか知らない。外部に漏らさぬよう先生方から釘を刺された。
細かい事が決まり、会議はようやく終了した。僕の横でつまらなそうにしていたフロイドは会議が終わった途端走り出して海老原先生を抱きかかえた。突然のことに咄嗟に反応出来なかった彼女はパソコンを持ったまま、ビックリしてフロイドの腕の中で固まっている。
「ねぇ、もうお話終わったでしょ〜?エビちゃん先生連れて帰ろうよ〜アズール」
「フロイドの言う通りですよ、アズール。海老原先生は怪我もしていますし、寮に戻ったらもう一度包帯を巻かなくては…」
フロイドが提案し、ジェイドが援護する。これ以上ここにいる必要もないので学園長たちに挨拶をし、既に出入口にいる双子の方へ向かう。
「そうですね。かなり無茶をした様ですし、今日は早くお休みした方が良さそうですね」
「……あの、私自分で歩けます。降ろして下さい」
生徒に抱きかかえられている状態が耐えられないのだろう彼女が降ろすように指示する。が、この双子は素直に聞くような良い子ではない。
「「ダメです/だよぉ〜」」
「この学校人の話聞かねー奴ばっかかよ」
当然のように却下された申し出に半ば諦めたように文句を言われた。彼女、素の状態だと案外口が悪いのかもしれない。これから楽しくなりそうだなとアズールは双子と海老原を連れて、今後の生活を想像しながら寮へ向かって歩くのだった。