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フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】

【深海エンカウント】

※幼少期等色々捏造

《設定》
アキラ・オルキヌス・・・夢主。シャチの人魚。魔法も使える。めっちゃ強い(物理)


アズール視点

海水を通して差し込む光が、波に揺られてキラキラと輝く。人魚の子供たちが通うエレメンタリースクールの周りには小魚が多く棲息していて、海の中では比較的安全な場所にある。

そこは“みんな”にとっての安全な場所であり、“僕”にとっては苦痛を強いられる場所であった。身体的特徴の一つである鰭を持たず、8本の触手と反射的に出る墨は、“みんな”から仲間はずれにされるのに打って付けの理由となった。

今日も昨日と同じで、暇を持て余した人魚の子供たちにからかわれ、心無い言葉を投げかけられた。教師は相変わらず見て見ぬふり。昨日と何一つ変わらない歪な日常が繰り返され、放課後になった。

全部グズでのろまなタコな僕が悪いんだと、無理矢理自分を納得させながら海底を歩く。

ようやく辿り着いたお気に入りの蛸壺の中で、せめて勉強だけは頑張ろうと魔術書の書き取りを始めた。いつか僕を馬鹿にしたアイツらを見返せる日を夢見て……



たくさん書き取りをして、低級魔法を少しだが使えるようになった。回復魔法も出せるようになってきた。もっと上級の魔法や魔法薬を使いたくて、海にある素材を集めるようになった。

素材を集める事に夢中で、僕はいつの間にか光を通さない、漆黒の危険な世界へ足を踏み入れた事に気が付かなかった。

沈没船の辺りは、ホオジロザメがよくいるから気をつけるようにと忠告されていたのに!
よく目を凝らして見れば、数十メートル先にそのホオジロザメがいるではないか!

僕は慌てながら必死で来た道を戻るが、タコとサメでは泳ぐ速度が違い過ぎる。あっという間に追いつかれ、そして……

タコ足を1本喰い千切られた。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!?」

あまりの痛みに声も出せない。
それでも、巨大なサメから少しでも距離を取ろうと懸命に他の7本の足を動かす。


口を大きく開けたホオジロザメが、再び襲いかかって来た。死を覚悟したその刹那、視界の端に黒い影が映った。

突然現れた黒い影に蹴り飛ばされる形で、巨大なホオジロザメは沈没船に激突する。バラバラと老朽化した船板が崩れ落ち、船の原型がなくなった。サメはかなりのダメージを負ったようで、血の匂いが充満している。

「ねぇ、君うるさいよ。狩りなら他所でやってくれない?」

凛とした声が響く。深海の水温と同じくらい冷ややかだが、確かな憤りを感じさせる声色だった。
その言葉はどうやら僕ではなく、ホオジロザメに向けられているらしい。心底嫌そうに美しいかんばせを歪めて、サメを睨みつけている。

彼女の圧に負けたのか、それとも怪我のためか、ホオジロザメはピクリとも動かない。


「はぁ…………ここ、静かで好きだったんだけどな」

彼女はため息と共にそう呟き、徐に僕の方に振り向くと僕の腕を掴む。

「え?!ちょっと!離してください!!」

暴れる僕をものともせず、「口開けてると舌噛むよ〜」と緊張感のない声で注意する。
その声と同時に、凄い勢いで引っ張られ、飛ぶように景色が変わっていく。やがて見慣れた蛸壺の辺りに辿り着き、彼女が手を離す。
舌を噛む事はなかったが、視界がぐるぐるして落ち着かない。

「うーん……ガブッといかれちゃってるね。これ治せるのかな」

僕が揺らぐ視界と格闘している間に、彼女はサメに喰い千切られた僕の足を確認していた。
僕の視界もようやく落ち着き、「そのうち生えるので大丈夫です」と弱々しく口にした。
なぜ弱々しいかというと、目の前にいる彼女がシャチの人魚だからだ。サメをも凌駕する圧倒的強者。それがシャチだ。

「へぇ、便利な体だね。良いなぁ」とタコ足を興味深そうに眺めている。食べようとしているのだろうか?正直、痛いのは嫌だが、彼女にはサメから助けて貰った恩がある。タコ足はあげられないが、他に何かお礼になるものを…と蛸壺の中を漁る。

すると蛸壺の入口の方から「ねぇ、タコちゃん!」と呼ぶ声がする。何事かと思い、入口から顔を出すと、貝殻を手にした彼女が目を輝かせていた。

「これ凄いね!こんなにたくさん魔法が書かれてるの初めてみた」

「!それは…ただの書き取りですよ。大したものじゃない。待ってて下さい、今何かお礼になるものを持ってきますから」

「お礼って何のお礼?」

彼女はキョトンとして、首を傾げた。

「ホオジロザメから助けて貰ったお礼です。命を救って貰ったんですから対価がなければ」

「あー……あれはサメがうるさかったから撃退しただけというか、うたた寝の邪魔された八つ当たりみたいな?そんな感じだから、別にタコちゃんを助けるためではなかったのよね。だから対価とか要らないよ」

「そういう訳にはいきません!例え貴方にとっては人命救助じゃなくても、結果的に僕は救われました。だから対価を考えて下さい!」

「えぇ……そんな押し売りみたいにやらなくても良くない?」

僕が納得出来ないのだというと、彼女は渋々対価について考え始めた。しばらく頭を悩ませた後、彼女は「タコちゃんの名前が知りたい」と言った。

「僕の、名前?」

「そう。ずっとタコちゃん呼びなのも何か嫌だし…………教えてくれる?」

僕の名前なんて知ってどうするのだろうか。他の連中と同じく、僕をからかうために情報が知りたいのか?というか、果たしてそれは対価として釣り合うのか?
ぐるぐると自問自答を繰り返した結果、教えることにした。

「……アズール・アーシェングロットです」

「!私はアキラ・オルキヌス。よろしくね、アズール」

美しいかんばせを綻ばせて微笑む彼女からは、悪意の欠片さえ見当たらなかった。
同級生にもほとんど名前で呼ばれたことが無かったから、何だかむず痒い気持ちだった。

「ねぇ、アズール。また、こっちに遊びに来ても良い?」

「え?えぇ、まぁ。たまになら良いですよ」

「ふふっありがと」

たまにならと意地悪く言ったが、彼女は気にすることなく、ほとんど毎日遊びに来た。稀に沈没船から盗んで来た宝石や人間の道具を僕にくれたり、サメの歯や深海にしかない植物をお土産として渡されたりと、僕は貰ってばかりいる。
それはミドルスクールに上がり、ジェイドやフロイドとつるむようになってからも続いた。
何かお返しをと言うと、彼女は決まって「アズールを見てるだけで楽しいから要らない」と言う。僕にはその気持ちが分からなかったが、リーチ兄弟は「あぁ、なんとなく分かる」とか「アズールを観察するのは面白いですよね」と彼女に共感していた。


彼女は学校には通って居らず、日中はシャチの人魚の仲間と共に狩りをして過ごしているらしい。巨大なサメを回し蹴りで倒せる程度には強いので、魔法なんて別に使えなくても支障はない様だった。とはいえ、学がないよりはあった方が良いだろうと、勝手なお節介で彼女に勉強を教えている。

彼女は飲み込みが早く、あっという間に僕達と同じレベルまで追いついた。ミドルスクールに通うのも後わずかで、ナイトレイブンカレッジに入学が決まっている僕は、今からでもどこかの学園に入ったらどうか?と彼女に勧めた。彼女のような才女が学問の道に進まないのは惜しいと思ったからだ。

僕の問に彼女は首を振る。

「残念だけど、そろそろ珊瑚の海を離れて別の狩場に移動するんだ。アズールと勉強するのも、一緒に遊ぶのも楽しかったけど、お別れなんだ。陸の学校でも頑張ってね、アズール」

そう言われて、愕然とした。彼女はシャチの人魚だ。シャチは泳ぎが得意で、1日に何キロも泳ぐ事ができる。今ここで別れたら、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと涙が止まらなかった。こうして情けなくも僕の初恋は告げられずに終わった。


な・の・に!!

ナイトレイブンカレッジに入学して2年目。忌々しいオーバーブロットから2ヶ月程して、ようやく調子を戻しつつある僕の前に再びアキラさんが現れた。数年に一度行われる他校との交流。その他校の内の一校、ローレライ魔術学院の生徒として、それも生徒会長として、壇上で挨拶をしている。一瞬幻覚を疑ったが隣にいるジェイドが「おや、アキラさんですね」と、フロイドも「あれシャチちゃんじゃね?」と言っているので、僕の目は正常の様だ。


「どういう事ですか!?」

人魚である彼女は海中にあるオクタヴィネル寮が預かることになった。
学園同士の挨拶も終わり、アキラさんを寮まで案内しながら問い詰める。

「えぇ〜久しぶりに会ったのに第一声がそれ?もっと他にあるでしょ。久しぶり元気だった?とか、会いたかった!とかさぁ」

アキラさんは「アズールは情緒がない」と呆れているが、知ったことか。聞かなければならない事が多すぎる。

「なぜ陸にいるんですか!!貴方進学はしないと言ってましたよね!?大体生徒会長ってなんです?猫かぶりですか!」

「わぁー見事な質問責め。そして、最後のやつは完璧に喧嘩売ってるよね?買い取ってあげようか?」

クスクスと悪戯が成功した子どものように笑う彼女は、濡れ羽色の長い髪と真っ白な肌を持つ美女に成長していた。その美しさはすれ違う生徒全員が立ち止まり、思わず見惚れてしまうほどだ。


「何で陸の学校に進学する事、言ってくれなかったんですか?」

少しだけ不満気な声が出てしまった。
彼女は少し先で立ち止まると、僕の方を振り返る。

「ごめんね。ただ、アズールを驚かせたかっただけなの」

「僕を?」

「そうだよ。アズールのおかげで勉強出来るようになったし、必死で勉強していたら生徒会長に選ばれたんだよ。凄くない?」

彼女は微笑んで、「それにね」と続ける。

「海では魔法なんて使えなくても大丈夫だったけど、陸で生きていくならそれじゃダメだって気付いたんだ」

「…………陸に上がってまでやりたい事があるんですか?」

シャチは帰属意識が非常に強い。単独行動は大きなストレスがかかるため、群れで行動するのが鉄則だ。それなのに、仲間を捨ててまで陸に上がる理由は何だろう。御伽噺のお姫様のように王子様に恋したから?もしそうだとしたら、僕にとっては到底聞きたくない話だ。話題の選択を間違えた。何か別の話題を、と僕が思案するより先に彼女が答えた。

「アズールと対等でいたいから」

「え?対等?」

ポツリと呟かれた、僕にとって都合の良すぎる言葉に、反射的に聞き返してしまった。

「だから、アズールに相応しい人になりたいの!」

「は!?」

今度は聞き逃させないためか、大きめの声で言われた。

「え、ちょっと待って下さい。つまり、僕と対等でいるために勉強して陸に上がり、生徒会長にまでなったと?仲間と海まで捨てて?」

「そうだよ。アズールの鈍感!私結構貢ぎものしてたのに、全然気付かないんだもん。挙句の果てに、ナイトレイブンカレッジに入学?絶対海に戻る気ないじゃん!」

「……だから、追いかけて陸に来たと?」

「あまりシャチの執着心を舐めない方がいいよ、アズール。海も陸も関係ない。獲物は必ず捕まえる」

「覚悟しててね、アズール」

彼女は女神のように美しく、しかし捕食者の瞳でにっこりと微笑み、宣戦布告をした。

そんな宣言しなくても、とっくの昔から対等だし、何なら僕より上手だと思っている。その証拠に今、僕の顔は耳辺りまで真っ赤だ。だって仕方ないじゃないか。初恋の人に再会しただけじゃなく、熱烈な告白までされたのだから。
叶わないと諦めていた初恋が再び熱を持って、僕の心を焼いていく。

思わずしゃがみこんで赤くなった顔を隠す。

「アズール茹でダコみたい」

クスクスと笑いながら、しゃがみこんだ僕の頭をつんつんと指でつつく。

うるさい!今に見てろ。
必ず完璧なプロポーズをしてやる!

そう心に誓うのだった。





《ーー作者あとがきーー》

主人公が異世界人じゃなくて、アズールと同い年の人魚だったら?なif話。

元々物理的に強い夢主が、アズールと出会い、魔法を勉強して魔術的にも強くなって再会するお話でした。海も仲間も捨てて、アズールを追いかける人魚姫な夢主が書きたかったので、満足です。それと、夢主に熱烈な告白をされて、タジタジなアズールが見たかった。解釈違いだったらごめんなさい。どうしても「茹でダコ」ってワードを使いたかったんです。


Q.1)アズールのプロポーズは上手くいくのか?

ゴスマリのプロポーズを夢主が受けたら、おそらく爆笑しながら「いいよ」って言うと思います。夢主にとっては、かっこ良くても悪くてもどちらのアズールでも大好きだから。


Q.2)ローレライ魔術学院って何?

ローレライ魔術学院は架空の学校で、書き忘れましたが女子校です。ローレライっていう人魚伝説の岩が名前の由来です。NRCと同じく実力主義的な部分があり、生徒会長に選ばれるのはかなりの実力者じゃないと不可能です。そんな学院で、夢主は1年生の時から生徒会長を務めています。つまり、めっちゃ強い(語彙力)



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