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フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】

【報復デッドエンド】

※ 圧倒的BAD END ※色々捏造
※誰も幸せにならない。もしもアズールがオバブロ後、目を覚まさなかったら?なif話です。

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絶叫が響き渡る。高かったり低かったりする「助けてくれ」の声と錆び付いた鉄のような血の臭いが遥か上空まで舞い上がり、空間を絶望一色に染め上げる。
その光景を屋根の上から見つめる影が一つ。眼下には逃げ惑い、無慈悲にも死んでいく生徒の姿。彼女はそれらに冷ややかな目を向け、何も言わずにただ観察していた。

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《ーー 数時間前 ーー》
いつも通りの賑やかな放課後だった。部活へ向かう者、寮に帰る者、教室で友人と談笑する者。皆思い思いに時間を過ごしていた。そんな時だった。小型のロボットが複数体様々な場所に現れ、そして……殺戮を開始した。


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《ーー 校舎・屋根の上 ーー》

生徒の中には、襲われる者と襲われない者がおり、ロボットの判定基準が分からず、現場はパニック状態。魔法で撃退しようにも魔法無効化の術式が組み込まれているのか、ロボットには傷一つ付かなかった。教師達の魔法も弾かれてしまい、いよいよ生徒達は安全な場所を探して隠れるしかなくなった。教師達はロボットを壊すのを諦め、生徒が襲われる判定基準を洗い出しながら防衛魔法を放つ。しかし、防衛魔法は効かず、ロボットに搭載されている機関銃の弾丸が生徒達を次々と貫いて行く。為す術もなく殺される彼らとロボットの鬼ごっこを上空から眺める。


「あーあ…イグニハイドのロボットじゃないのに。魔法と科学の違いも分からないなんて、どいつもこいつも馬鹿ばかりね」

クスリと笑みを浮かべてイグニハイド寮生とその他の寮生が口論している姿を見つける。ここからは聞き取れないが、おそらくロボットの判定基準でも問い詰めているんだろう。彼らが作った訳ではないから分かるはずないのに、だ。
口論している間にロボットが音もなくやって来て、イグニハイド生に文句を言っている生徒の後頭部を撃ち抜いた。

「残念。時間切れよ」

一人を射殺したロボットはぐるっと体の向きを変えて、別の方向へと向かって行った。残された生徒達は声なき声をあげて、それぞれの寮に向かって走り去る。

「……つまらないな」

ポツリとそう呟いて、手元の携帯端末に視線を落とす。液晶画面には数件の不在着信とメッセージが簡潔に表示されている。一応確認するが目的の人物からはメッセージも着信もなかった。端末の電源を落とし、そっと目を閉じる。聞こえて来るのは悲鳴と銃声、そして弾丸が肉体を貫く音だけだ。

「ホントつまらない」

もう一度同じセリフを呟いて瞼を開く。先程より濃くなった血と火薬の臭いに包まれた世界は、酷く退屈でモノクロに見えた。

「……アズール君がいたらきっと何でも楽しいのに」

右も左も分からないどころか、魔法さえ使えない私を傍で支えてくれていたのは、アズール君を始めとするオクタヴィネル寮のメンバーだ。そんな彼らにとっても私にとってもアズール君は大切で、唯一無二のかけがえのない存在だった。
彼を奪っておいて何食わぬ顔でのうのうと生きる元イソギンチャク共。己の思慮の浅さを棚に上げ、他人の努力を想像さえしない愚かな生き物。そんなヤツらが口を揃えて言うのだ。「オーバーブロットは自業自得だ」、「バチが当たったのだ」等と。

「何も……彼の事を何も知らないくせに!!」

被害者は自分の方だと信じて疑わないヤツらを私は許せなかった。だから彼と同じ目に遭わせてあげる。せいぜい死の恐怖に怯えながら逃げ惑いなさい。

「でも、オーバーブロットを引き起こす原因となった彼らは銃弾1発じゃ全然足りないわ。もっと苦しみ悶えながら罪を償って貰わなくちゃいけないわね」

AIを搭載したロボットがデータに基づいて元イソギンチャク共を射殺して行く。まるで流れ作業の様に必要最低限の動きで放たれる弾丸に意図も容易く貫かれて、一人また一人と血の海に沈んで行く。血で赤く染まる服はやがて乾き、赤黒く変色して固まっていく。その様子を遠巻きに眺めながらどうしたらアイツらを苦しめられるのかを考えていた。


「ふふふッ…嗚呼、とっても良い作戦を思いついたわ!名残惜しいけれど、次の作戦の為にも雑魚狩りはこの辺りでお終いにしないとね」

ロボット達を遠隔操作で鏡の間へ移動させ、鏡を使って外へ出す。ロボットが移動し始めるのを見た生徒達は標的が自分ではなくなったと思い込んで安堵し、そのまま力なく地面に倒れ込む。NRCの生徒の被害はこれ以上増える事はなく、ロボット襲撃事件は幕を閉じた。現場に残されたのは、血の中に倒れ伏す生徒と死の香りだけ。悪夢のような数時間は、鈴のような声と共に唐突に終わりを告げた。


《ーー 数日後・海辺の街 ーー》
【夕焼けの草原では王族と家臣が全員惨殺された状態で発見されました。それと同日、スラム街でも老婆の殺人事件が起きました。二つの事件はいずれも深夜に起きたと思われ、目撃者もおらず捜査は難航している模様です】

ニュースキャスターが忙しなく殺人事件の原稿を読み上げる。

【たった今入って来たニュースです。薔薇の王国でも殺人事件が発生しました。被害者は、トラッポラ家の長男と見られる男性。そして、スペードさんと思われる女性の遺体がそれぞれの自宅で発見されました。どちらも凶器は50口径の機関銃で、警察は事件の関連を調べています】

相次ぐ殺人事件のニュースが流れる。いつもならば賑わっている食堂では、事件の関係者の生徒が泣き崩れたり、怒りを顕にしたりしている。彼らの絶望に染まった顔を画面越しに確認した私は、静かにパソコンを閉じた。
ロボット襲撃事件の後、食堂に隠しカメラを設置し、海辺の街で状況を監視していた。学園に戻るつもりはなく、携帯の電源は切ったまま。小さな部屋を借りて数日を過ごしていた。

「眼には眼を歯には歯を……
悪にはそれ相応の報復を」

大切な人を奪われたならば、貴方達の大切な人を奪って差し上げましょう。それが等価交換というものです。
しかし、貴方達だけは殺さない。大切な人が“自分のせいで亡くなった”という絶望を抱きながら、貴方達はこれからも生きて行くのよ。
それは、さぞかし辛い道のりでしょう。何故なら、貴方達は幸せな時間の中でも心に罪悪感という重石を抱えながら過ごさなければならないのだから。

ふふっなんて哀れな人達でしょう。親しい人を亡くしても自殺なんて怖くて出来ないでしょ?大した度胸も無ければ罪を背負う覚悟もない小心者ですもんね。

「人間が作った罰からは逃れられても、人を殺した罪悪感からは逃れられない。貴方達も、そして私もよ」

私はアズール君ほど優しくないので、貴方達を助けませんよ。絶対に、ね。


《ーー 海辺の街・崖の上 ーー》
崖の上にある廃屋となった古びた教会。その祭壇の前でブルートパーズのネックレスを握りながら懺悔する。

「私は許されざる者です。多くの人間を殺めました。けれど、どうか…どうか彼だけは生かして欲しいのです」

願わくばどうか、アズール君が目を覚まして幸せに暮らせますように。

「願いを聞き入れてくださるのならば、私はどうなろうと構いません。代償が必要ならば私の命を捧げましょう」


“通行料には対価を”
それがこの世の理でしょう?カミサマ


潮風を受けつつ、教会の外へ出る。
波が激しく崖にぶつかり、水飛沫を上げる。

「今までありがとう。元気でね」

教会に向かう際に街の花屋で買った1本の白百合と共に身を投げる。手にしていた白百合は途中で波にさらわれて、遠くに流されて行く。海水の中に漂う一輪の白百合が光を受けてキラキラと輝き、やがて仄暗い海底へと沈んで行ったのか見えなくなった。
冬が近付く肌寒いこの時期に海に来る人間は他に居らず、私の最期を見た者は誰もいなかった。




《ーー end ーー》


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※もしもアズールがオバブロ後目を覚まさなかったら?なifルート話でした。夢主は元々サイコパスな部分がありますが、アズールがいない間は発狂してマッドサイエンティストと化します。今回は科学と禁術を組み合わせて殺戮マシンを作り、目的の人物を殺害出来た段階で自殺します。ルートの分岐は以下の通りです。

①オバブロ→アズが数日後目覚める→本編へ(Normal end)

②オバブロ→2週間以上目覚めない→イソギンチャク等殺戮→海辺の街で携帯の電源入れる→アズが目覚めた事を知る→自殺中止→警察に出頭→死刑か無期懲役になる(Merry bad end)

③大体②と同じ→携帯の電源入れない→自殺(Bad & dead end)※今回のお話

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※以下読まなくても良い設定
・人を殺す事に対して躊躇しない主人公
→精神的支柱だったアズールが目を覚まさない為に精神が不安定。遣る瀬無い激情をイソギンチャク達に報復する事で紛らわそうとしている。

・殺戮マシン
→主人公が独自開発した小型ロボット。禁術クラスの護符が付けられていたり、50口径の機関銃が装備されていたりと割とゴツめなロボ。AI搭載で遠隔操作も可能。

・眼には眼を歯には歯を…
→説明必要?なくらい有名な言葉。本来は「悪には悪を」なのだが、「相応の報復を」にした。「悪には相応しい罰則を与えるべきである」と主人公は自分も含めて言っている。

・「人間が作った罰からは逃れられても、人を殺した罪悪感からは逃れられない」
→ドストエフスキー『罪と罰』を私的解釈。
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