フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】
【魅惑ショービジネス】
アズール視点
モストロ・ラウンジは超満員だった。外には待機列が長い蛇のように出来上がり、待機時間は数時間に及んだ。何故なら今日は月一で開催されるモストロ・ラウンジの一般開放日だからだ。外部からのお客様が多く訪れる。もちろん学園の生徒も利用出来るが、今日は8割方一般のお客様だった。特に女性客が多く、男子校のナイトレイブンカレッジには珍しく甲高い声が響いていた。
「5番テーブルの料理出来たよ〜」
「7番テーブル片付け終わりました。次のお客様をお通しします」
ラウンジ内を従業員達が忙しなく動き、客を捌く。フロイドもジェイドもしっかり働いているし、他の従業員もちゃんと動いていますね。
ふと、モストロ・ラウンジの水槽を見上げると、水中にいる彼女と目が合う。彼女がこちらに気付いてニコリと微笑むと、水槽付近の客から歓声が上がる。艶やかで美しい髪と大きな瞳を持ち、黒く長い尾鰭で優雅に泳ぐオルカの人魚はガラスに近寄ってファンサービスをしている。
「ふふっ、あれだけ嫌がっていたのにもう順応しているなんて…流石アキラさんですね」
客寄せの為に「人魚の姿で水槽を泳ぐ」という案が出され、誰が泳ぐのかを従業員の投票で決めた。その結果は僕、ジェイド、フロイド、アキラさんの4人が同票。更にコイントスを何度か行い、最終的にアキラさんに決まったのだ。心底嫌そうな顔をしていたが、最終的には仕方ないなと渋々了承してくれた。
『キャンディーが食べたい』
人魚化薬を飲んで客寄せをする代わりに提示された対価は、購買部で買えるキャンディーだった。彼女が甘党という理由もあるが、恐らく人魚化薬の苦味を少しでも緩和しようと考えたのだろう。
ただ、そのまま与えるのも勿体ないので、購買部で買ったキャンディーに様々なリボンを付け、客からのプレゼントとして与えることにした。購買部で1つ100マドルのキャンディーが、リボン付きで1000マドルで客に売られている。お菓子にしては高いが、その分キャンディーを与えた客に対するアキラさんのファンサービスが凄まじく、キャンディーは飛ぶように売れた。ガラス越しに客と一緒に写真を撮ったり、バブルリングを作ったり、手を振ってくれたり客によって様々なことをしている。素晴らしい神対応っぷりだ。
「あはっ!アキちゃんせんせーノリノリじゃん」
「おかげで限定メニューよりもキャンディーの方が売れていますね」
「全くです。1500マドルのフード付きドリンクの方がポイントが付くのに、それより人気とは…僕としたことが設定金額を見誤りましたね」
今彼女は新しく与えられたキャンディーの包装紙に軽くキスをして、可愛らしく笑ってみせた。男性客だけではなく、女性客まで黄色い声を上げる。変装の為に付けたカラーコンタクトの金色が神々しさに拍車をかけ、客は口々に「可愛い」「天使」「美しい」「女神」などと称賛する。サメでさえ太刀打ち出来ない獰猛な捕食者をよくもまあ「天使」などと喩えたものだ。陸の人間は随分楽観的な生き物らしい。彼女の仲間を傷付けようもんなら世にも恐ろしい報復が待っているとも知らずに…
「おやおや、随分と可愛らしく振る舞うじゃありませんか」
「アズールが愛想良くしろ、なんて言うからですよ。僕達だってまだあんな事して貰えないのに不愉快です」
「ね〜もう良いんじゃない?これ以上アキちゃんせんせーを雑魚に見せる必要ある?閉店しよーよ」
「ダメに決まってるだろう!」
本格的にダラけ始めたフロイドを止める。このまま機嫌が悪化すれば、店の料理に関わる。それだけは何としても阻止しなければならない。
そんなこと知ってか知らずか、アキラさんはクルクルと泳いで水中に投げられるキャンディーを集めている。色彩やかな包装紙とリボンが巻かれたキャンディーは水槽内にある宝箱に集められ、キラキラと輝く。まるで宝石を山積みにしたかのような宝箱を見て、客の一人が言った。「人魚姫のようだ」と。
深海の歴史にも登場する伝説の人魚姫。人間に一目惚れし、海を捨てて陸に上がったお姫様には収集癖があった。海の中に落ちているフォークを髪すきとして20本も集めて箱に入れていたらしい。他にも本や玩具など様々なものを集めていた。
「泡になって消える人魚姫……か」
小さく呟いてみたが、僕には彼女が人魚姫だとは全く思えなかった。元々が人間だと分かっているからか、それとも彼女の本性を知っているからか ーーーー ともあれ、
「貴方が消えるなんて絶対に許さない」
水中を自由に泳ぐ黄金の瞳がこちらを向いて、小さく細められた気がした。
《ーー 閉店後 モストロ・ラウンジ ーー》
「宣伝ありがとうございました。ケイトさん、ヴィルさん」
「どういたしましてぇ〜アズール君のおかげで俺の写真もバズったし、こっちも感謝って感じ〜!ありがとね!」
「アンタが礼を言うなんてちょっと不気味ね。でも、まぁ良かったんじゃない?あの子のファンサービスっぷりも見られたし、アタシも満足よ」
そう言ってヴィルさんは水槽を見つめる。
閉店後も未だ薬の効果が切れないアキラさんは人魚のままだ。ヴィルさん達に挨拶に来たのか、ガラス越しに手を振っている。
「それにしても付け焼き刃とはいえ、あそこまで出来るなんてね。あの子モデルに向いているんじゃない?芸能事務所紹介しようかしら」
「お言葉ですが、ヴィルさん。彼女は芸能に興味ないと思いますよ」
ヴィルさんに紅茶を差し出したジェイドが言う。
「どうかしらね。あの子に直接聞いてみないと分からないわよ?それともアンタ達があの子を手放したくないから断っているのかしら」
男の嫉妬は見苦しいわよ?とヴィルさんは微笑み、優雅にカップを傾ける。実際、ヴィルさんの指摘通りなので僕達は何も言えない。無言の僕達にヴィルさんは「まあ、考えておきなさい」と伝えて、ラウンジを後にした。
しばらくして、アキラさんと写真を撮っていたケイトさんが質問する。
「ねぇねぇ、アズール君。次はいつやるの?来月の一般開放日もショーやる?」
「……残念ですが、今回限りで終了です。来月からは別の企画にしますから楽しみにしていて下さい」
「えぇっ!?せっかくバズったのにな〜」
歴代最高の売上をもたらした今回のショーが出来ないのは痛手だが、今後も彼女の姿を見せるのは単純に嫌だった。
ケイトさんは携帯を弄り、「#モストロ・ラウンジ #幻のマーメイドショー #今後開催予定なし #今日見れた人は超ラッキー」とタグを付けてマジカメに写真をアップした。
「またやる事があったら呼んでね!じゃあ、皆バイバーイ」
そういうとケイトさんは大きく手を振りながらラウンジを後にする。ジェイドとフロイド、僕、そしてアキラさん以外は客も従業員もいなくなった。閑散としたラウンジにコツンという音が聞こえ、音のする方ーーー水槽の方へ振り向く。
「お疲れ様、アズール君」
「アズールおつかれ〜」
「ああ、お疲れ様です。……ってフロイド!お前居ないと思ったらそんな所に」
閉店後から姿を見かけなかったフロイドは、人魚の姿で水槽の中にいた。アキラさんが客に貰ったキャンディーをバリバリと食べている。
「おやおや、フロイドだけ狡いです」
「あはっジェイドも来れば〜?」
「もちろん、行きます!」
フロイドの誘いに即答し、ジェイドは水槽の上部へ繋がる従業員通路を走って行く。やがて、元の姿に戻ったジェイドが二人と合流する。
楽しそうに談笑するオルカとウツボ達を写真に収めて、モストロ・ラウンジのアカウントで投稿した。
『#モストロ・ラウンジ #魅惑のマーメイド #これにて終了 #今後の開催は未定 #またのお越しをお待ちしております』
《ーー 余談 ーー》
モストロ・ラウンジのアカウントで投稿された写真は、瞬く間に数万件以上のハートがついた。
「なんで私達だけ?アズール君も一緒に写れば良かったのに」
「流石に人魚の姿の僕は人前に出られるような物じゃありませんから」
「えー…海の魔女みたいで綺麗なのになぁ」
残念そうにしょぼくれるアキラさんを見て、若干の罪悪感を覚えた。人間の姿に戻った彼女は、ガシガシと乱暴にタオルで髪を拭いている。「あ、そうだ」と何かを思い出したかのように立ち上がった彼女は、携帯を片手にジェイドとフロイドを呼ぶ。呼ばれた二人もまだ生乾きの髪のままだったが、彼女の意図を察したのか素早く僕の隣に来た。全員が僕の周りを陣取るとアキラさんの携帯を持ったジェイドが、内カメにして写真を撮る。
「ふふ、アズール目を閉じてしまっていますよ」
「あはっ!ホントだ〜アズール駄目じゃん!ちゃんと目開けてカメラ見ないと〜」
「あらら、撮り直しだね」
「ちょっとお前達!何なんですかいきなり!」
僕の質問に彼らはキョトンとしながら答えた。
「「「何って、思い出作り??」」」
「はぁ!?」
「だって、アズール君は人魚の姿で写真を撮るのは嫌なんでしょ?」
「人間の姿ならアズールも写真撮れますよね?」
「今までオレ達あんま写真撮った事ねぇーじゃん?だから記念に1枚撮ろ〜アズール!」
それもそうだ。過去の写真で残っているのはアトランティカ記念博物館の1枚だけなんだから。今まで自ら率先して写真に写ることはなかった。
「仕方ありませんね。1枚だけですよ」
僕が了承するとたくさんシャッターが切られた。1枚だけのはずだった記念写真は数枚に及び、後日その内の1枚を携帯の待ち受けにした。待ち受け画面を眺めながら小さく呟く。
「黄金は僕のもの」
アズール視点
モストロ・ラウンジは超満員だった。外には待機列が長い蛇のように出来上がり、待機時間は数時間に及んだ。何故なら今日は月一で開催されるモストロ・ラウンジの一般開放日だからだ。外部からのお客様が多く訪れる。もちろん学園の生徒も利用出来るが、今日は8割方一般のお客様だった。特に女性客が多く、男子校のナイトレイブンカレッジには珍しく甲高い声が響いていた。
「5番テーブルの料理出来たよ〜」
「7番テーブル片付け終わりました。次のお客様をお通しします」
ラウンジ内を従業員達が忙しなく動き、客を捌く。フロイドもジェイドもしっかり働いているし、他の従業員もちゃんと動いていますね。
ふと、モストロ・ラウンジの水槽を見上げると、水中にいる彼女と目が合う。彼女がこちらに気付いてニコリと微笑むと、水槽付近の客から歓声が上がる。艶やかで美しい髪と大きな瞳を持ち、黒く長い尾鰭で優雅に泳ぐオルカの人魚はガラスに近寄ってファンサービスをしている。
「ふふっ、あれだけ嫌がっていたのにもう順応しているなんて…流石アキラさんですね」
客寄せの為に「人魚の姿で水槽を泳ぐ」という案が出され、誰が泳ぐのかを従業員の投票で決めた。その結果は僕、ジェイド、フロイド、アキラさんの4人が同票。更にコイントスを何度か行い、最終的にアキラさんに決まったのだ。心底嫌そうな顔をしていたが、最終的には仕方ないなと渋々了承してくれた。
『キャンディーが食べたい』
人魚化薬を飲んで客寄せをする代わりに提示された対価は、購買部で買えるキャンディーだった。彼女が甘党という理由もあるが、恐らく人魚化薬の苦味を少しでも緩和しようと考えたのだろう。
ただ、そのまま与えるのも勿体ないので、購買部で買ったキャンディーに様々なリボンを付け、客からのプレゼントとして与えることにした。購買部で1つ100マドルのキャンディーが、リボン付きで1000マドルで客に売られている。お菓子にしては高いが、その分キャンディーを与えた客に対するアキラさんのファンサービスが凄まじく、キャンディーは飛ぶように売れた。ガラス越しに客と一緒に写真を撮ったり、バブルリングを作ったり、手を振ってくれたり客によって様々なことをしている。素晴らしい神対応っぷりだ。
「あはっ!アキちゃんせんせーノリノリじゃん」
「おかげで限定メニューよりもキャンディーの方が売れていますね」
「全くです。1500マドルのフード付きドリンクの方がポイントが付くのに、それより人気とは…僕としたことが設定金額を見誤りましたね」
今彼女は新しく与えられたキャンディーの包装紙に軽くキスをして、可愛らしく笑ってみせた。男性客だけではなく、女性客まで黄色い声を上げる。変装の為に付けたカラーコンタクトの金色が神々しさに拍車をかけ、客は口々に「可愛い」「天使」「美しい」「女神」などと称賛する。サメでさえ太刀打ち出来ない獰猛な捕食者をよくもまあ「天使」などと喩えたものだ。陸の人間は随分楽観的な生き物らしい。彼女の仲間を傷付けようもんなら世にも恐ろしい報復が待っているとも知らずに…
「おやおや、随分と可愛らしく振る舞うじゃありませんか」
「アズールが愛想良くしろ、なんて言うからですよ。僕達だってまだあんな事して貰えないのに不愉快です」
「ね〜もう良いんじゃない?これ以上アキちゃんせんせーを雑魚に見せる必要ある?閉店しよーよ」
「ダメに決まってるだろう!」
本格的にダラけ始めたフロイドを止める。このまま機嫌が悪化すれば、店の料理に関わる。それだけは何としても阻止しなければならない。
そんなこと知ってか知らずか、アキラさんはクルクルと泳いで水中に投げられるキャンディーを集めている。色彩やかな包装紙とリボンが巻かれたキャンディーは水槽内にある宝箱に集められ、キラキラと輝く。まるで宝石を山積みにしたかのような宝箱を見て、客の一人が言った。「人魚姫のようだ」と。
深海の歴史にも登場する伝説の人魚姫。人間に一目惚れし、海を捨てて陸に上がったお姫様には収集癖があった。海の中に落ちているフォークを髪すきとして20本も集めて箱に入れていたらしい。他にも本や玩具など様々なものを集めていた。
「泡になって消える人魚姫……か」
小さく呟いてみたが、僕には彼女が人魚姫だとは全く思えなかった。元々が人間だと分かっているからか、それとも彼女の本性を知っているからか ーーーー ともあれ、
「貴方が消えるなんて絶対に許さない」
水中を自由に泳ぐ黄金の瞳がこちらを向いて、小さく細められた気がした。
《ーー 閉店後 モストロ・ラウンジ ーー》
「宣伝ありがとうございました。ケイトさん、ヴィルさん」
「どういたしましてぇ〜アズール君のおかげで俺の写真もバズったし、こっちも感謝って感じ〜!ありがとね!」
「アンタが礼を言うなんてちょっと不気味ね。でも、まぁ良かったんじゃない?あの子のファンサービスっぷりも見られたし、アタシも満足よ」
そう言ってヴィルさんは水槽を見つめる。
閉店後も未だ薬の効果が切れないアキラさんは人魚のままだ。ヴィルさん達に挨拶に来たのか、ガラス越しに手を振っている。
「それにしても付け焼き刃とはいえ、あそこまで出来るなんてね。あの子モデルに向いているんじゃない?芸能事務所紹介しようかしら」
「お言葉ですが、ヴィルさん。彼女は芸能に興味ないと思いますよ」
ヴィルさんに紅茶を差し出したジェイドが言う。
「どうかしらね。あの子に直接聞いてみないと分からないわよ?それともアンタ達があの子を手放したくないから断っているのかしら」
男の嫉妬は見苦しいわよ?とヴィルさんは微笑み、優雅にカップを傾ける。実際、ヴィルさんの指摘通りなので僕達は何も言えない。無言の僕達にヴィルさんは「まあ、考えておきなさい」と伝えて、ラウンジを後にした。
しばらくして、アキラさんと写真を撮っていたケイトさんが質問する。
「ねぇねぇ、アズール君。次はいつやるの?来月の一般開放日もショーやる?」
「……残念ですが、今回限りで終了です。来月からは別の企画にしますから楽しみにしていて下さい」
「えぇっ!?せっかくバズったのにな〜」
歴代最高の売上をもたらした今回のショーが出来ないのは痛手だが、今後も彼女の姿を見せるのは単純に嫌だった。
ケイトさんは携帯を弄り、「#モストロ・ラウンジ #幻のマーメイドショー #今後開催予定なし #今日見れた人は超ラッキー」とタグを付けてマジカメに写真をアップした。
「またやる事があったら呼んでね!じゃあ、皆バイバーイ」
そういうとケイトさんは大きく手を振りながらラウンジを後にする。ジェイドとフロイド、僕、そしてアキラさん以外は客も従業員もいなくなった。閑散としたラウンジにコツンという音が聞こえ、音のする方ーーー水槽の方へ振り向く。
「お疲れ様、アズール君」
「アズールおつかれ〜」
「ああ、お疲れ様です。……ってフロイド!お前居ないと思ったらそんな所に」
閉店後から姿を見かけなかったフロイドは、人魚の姿で水槽の中にいた。アキラさんが客に貰ったキャンディーをバリバリと食べている。
「おやおや、フロイドだけ狡いです」
「あはっジェイドも来れば〜?」
「もちろん、行きます!」
フロイドの誘いに即答し、ジェイドは水槽の上部へ繋がる従業員通路を走って行く。やがて、元の姿に戻ったジェイドが二人と合流する。
楽しそうに談笑するオルカとウツボ達を写真に収めて、モストロ・ラウンジのアカウントで投稿した。
『#モストロ・ラウンジ #魅惑のマーメイド #これにて終了 #今後の開催は未定 #またのお越しをお待ちしております』
《ーー 余談 ーー》
モストロ・ラウンジのアカウントで投稿された写真は、瞬く間に数万件以上のハートがついた。
「なんで私達だけ?アズール君も一緒に写れば良かったのに」
「流石に人魚の姿の僕は人前に出られるような物じゃありませんから」
「えー…海の魔女みたいで綺麗なのになぁ」
残念そうにしょぼくれるアキラさんを見て、若干の罪悪感を覚えた。人間の姿に戻った彼女は、ガシガシと乱暴にタオルで髪を拭いている。「あ、そうだ」と何かを思い出したかのように立ち上がった彼女は、携帯を片手にジェイドとフロイドを呼ぶ。呼ばれた二人もまだ生乾きの髪のままだったが、彼女の意図を察したのか素早く僕の隣に来た。全員が僕の周りを陣取るとアキラさんの携帯を持ったジェイドが、内カメにして写真を撮る。
「ふふ、アズール目を閉じてしまっていますよ」
「あはっ!ホントだ〜アズール駄目じゃん!ちゃんと目開けてカメラ見ないと〜」
「あらら、撮り直しだね」
「ちょっとお前達!何なんですかいきなり!」
僕の質問に彼らはキョトンとしながら答えた。
「「「何って、思い出作り??」」」
「はぁ!?」
「だって、アズール君は人魚の姿で写真を撮るのは嫌なんでしょ?」
「人間の姿ならアズールも写真撮れますよね?」
「今までオレ達あんま写真撮った事ねぇーじゃん?だから記念に1枚撮ろ〜アズール!」
それもそうだ。過去の写真で残っているのはアトランティカ記念博物館の1枚だけなんだから。今まで自ら率先して写真に写ることはなかった。
「仕方ありませんね。1枚だけですよ」
僕が了承するとたくさんシャッターが切られた。1枚だけのはずだった記念写真は数枚に及び、後日その内の1枚を携帯の待ち受けにした。待ち受け画面を眺めながら小さく呟く。
「黄金は僕のもの」