フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】
【願い事シューティングスター】
主人公視点
全校生徒が集められた講堂。ザワつく生徒達の前に学園長が出てくる。学園長からイベントの内容説明はなく、例年通りスターゲイザーの選定をすると言う。学園長のセリフに更に生徒達がザワつく。
そりゃあ全校生徒から3人しか選ばれず、選定方法がデタラメな星占いじゃ不満だよね。選ばれた3人は完全にパシリだし、演舞とかもう公開処刑じゃん。可哀想と思う反面、教員が選ばれる事が無いと知り、私は密かに胸を撫で下ろしている。
ほとんどの生徒がやる気をなくすのは仕方ないと思う。むしろ、なぜこの生徒数の願い星を3人で手分けするのか。あまりにも効率が悪すぎる。“伝統だから”というにも無理があるだろ。変えられる所は改善すべきでは?と一応進言したが、学園長は「我が校の伝統なのです!」の一点張り。正直、抗議するのも面倒だったのでそのまま放置してしまった。
舞台袖でぼぉ〜っと今年のスターゲイザーが選ばれて行く様子を眺める。トレイ・クローバーとデュース・スペード。そして、イグニハイド寮の寮長イデア君が抜擢されてしまった。
「〜〜〜〜!?………やっっっっば!!」
面白すぎる。何そのメンバー!カオス過ぎて笑いを堪えられない。
サイエンス部の実はヤバいクローバーと、昔ヤンキーやってたスペードと、ほぼ全ての授業をタブレットで受ける引きこもりのイデア君?何この組み合わせ。個性の闇鍋なの?
舞台袖で口を手で押さえて、必死に笑いを堪える私にクルーウェル先生の鋭い視線が突き刺さる。いや無理ですよ、師匠。だって、イデア君ですよ?この講堂の中で誰よりも選ばれない事を祈っていたはずなのに選ばれちゃうなんて…!某お姫様の件といい、本当に運が良いのか悪いのか分からない子だな。
スターゲイザーの指名が終わったので、他の先生達と願い星を生徒に配る。願い星は一人につき一つ。今はまだ光が灯っていないが、願い事を言うと光るらしい。しかも、願い事をスターゲイザーの前で言わなければいけないというオプション付き。大変だなスターゲイザーも生徒達も。
でも、アズール君なら率先してスターゲイザー役をやりそうだな。他人の願い=弱みを合法的に握れるわけだし。あ、もしかして学園長が伝統にこだわってたのは、オクタヴィネル寮生を除外するため?3人なら確率低いし、占星術の結果は学園長しか見ないからどうとでも出来る。うっわ、汚いけど学園長なら有り得るわ~
願い星が生徒全員に行き渡り、集会はお開きになった。ぞろぞろと各寮へと戻って行く生徒達。講堂に残ったのは先生達だけだ。
「はい。これは海老原先生の分です」
「え…これ私も参加するんですか?」
「勿論です!今回は取材も入っているんですから!少しでも多くの願い星を飾らなくてはイベントが盛り上がらないでしょう!?」
私優しいので〜って言うのかと思いきや、完全に学園長の都合だった。どうせ学園の宣伝取材は建前で、寄付金の増額が目的なんだろうけど。まぁ、貰えるものは貰っておこうかな。
《ーー オクタヴィネル寮 ーー》
海老原アキラは選択を迫られていた。
というのも、今私の部屋にいるスターゲイザーことイデア君(タブレット)とオルト君に願い星を渡さなければいけないからだ。なぜ渡すのに手こずっているのかというと、私に叶えたい願い事がないからである。
「学園長から伝言です。《成仏や貴方の生死、存在に関わる願い事》は禁止、だそうです」
「はぁ!?」
「ふふ、学園長に先手を打たれましたね」
「あっは!エビちゃん先生、悔しそ~」
部屋のドアを開けるなり告げられた願い事の禁止事項。たかが願い事に禁止事項とか…マジか学園長
「というか、うっかりスルーしたけど何で皆私の部屋にいるの?」
「え〜一々答えるのめんど〜じゃん?だからオレ達の願い事を纏めて渡そーって思ってエビちゃん先生来んの待ってた。けど、エビちゃん先生おせーからオレらは先に願い事言っちゃった」
どうやら皆で一斉に済ませるつもりで私のことを待っていたらしい。彼らはもう願い事を済ませたので、各々寛いでいる。願い事を言っていないのは私だけだ。
「フヒッ…さぁ、海老原先生。願い事を決めてくだされ」
「ああ、ごめん。考えるからちょっと待って」
考えるが先程禁止事項にされた内容くらいしか思いつかない。他に願い事…ないな。
「……参考までに皆は何をお願いしたの?」
「オレは新しい靴〜!テネーブルの!」
「僕はモストロ・ラウンジの繁盛です」
「僕はフロイドとアズールと海老原先生の願いを叶えられますように」
「へぇ〜意外。てっきりキノコ関連かと思ったのに」
「ああ、《1ヶ月ずっとキノコ料理を賄いにしたい》というお願いでも良かったですね!」
ふふ、勿体ない事をしました。と笑うジェイド君に、フロイド君とアズール君の顔が引き攣る。1ヶ月もキノコ料理はしんどい。余計な事を言ってしまったかもしれない。
「うーん…特に欲しい物はないし、食べたい物もないな」
「ん〜?海老原先生は物欲が少ないのかな?普段からあまり装飾品を身につけていないよね」
オルト君の指摘通り、私は腕時計も着けないレベルで装飾品が苦手だ。腕時計って実験の時邪魔だし、左手が重く感じるから嫌いだ。今身につけている装飾品はアズール君から貰ったネックレスだけだし、そのネックレスも服の中に入れているのであまり装飾品の役割を果たしていない。
「うーん…何かこうなりたいとか、こうしたいとかはないでござるか?」
「そんな事言われても……………あ」
あるにはある。でも、これは願い事と呼べるのか……?
「願い事ってほどじゃないけど、
《皆の役に立つ事が出来ますように》」
ポワァっと光が灯った。
ちゃんと願い事としてカウントされたらしい。
「海老原先生のは願い事というより目標な気がするけど、願い星は受け取ったでござる」
「じゃあ、僕と兄さんはこれで失礼します!ご協力ありがとうございました。オクタヴィネルの皆さん!」
オルト君はお礼を言うと、願い星を抱えて部屋から出て行った。
「……で?あの願い事は本心ですか?」
「ふふふ、僕が他人に弱みを見せるとお思いですか?モストロ・ラウンジの繁盛は星に願うまでもなく、自分で達成してみせますよ」
「オレも〜!ちゃんと自分でお金貯めて買うんだ〜」
「おやおや、僕は本心だったのですが…」
「ジェイド嘘くさ〜」
「貴方さっきキノコ料理で揺らいだじゃないですか!」
「信用されてなくて悲しいです。シクシク」
己の願い事は明かさず、星に願うよりも実力行使で叶えに行く精神が彼ららしいと思った。
《ーー 星送りイベント2日前 ーー》
星送りのイベント当日は生憎土砂降りの雨らしい。ここ1週間天気予報を欠かさず確認していたが、結果は変わらず雷雨の予報だった。せめて綺麗な状態の木を撮影しておこうと思い、会場となる願い星の木へ向かうと今日も願い星の飾り付けが行われていた。以前見かけた時よりたくさんの星が飾られている。
「あ、海老原先生!見に来てくれたんですね」
「うん。練習の方はどう?」
「舞はほぼ完成です。デュースがよく頑張ってくれました。でも、当日の天気が悪くてこのままだと中止になってしまうかもしれません」
「学園長には当日まで様子を見て欲しいってお願いしたっす!あとは当日晴れてくれさえすれば…!」
残念だが祈るだけで天気が変わる様なら、この世の天気は荒れ狂っているだろう。晴れを願う人もいれば、雨を願う人もいるからな。このままだと予報通り雷雨で中止だろうな…
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!?」
「うるさッ!!何急に!?」
「これ、シュラウド先輩の声っすか?」
「みたいだな。イデアに何かあったのか?」
「兄さん!?急に大声出してどうしたの?」
いきなりタブレットから凄い声量で叫ばれた。
イデア君どうしたんだろう。セーブデータでも消えたの?
「そうだよ!海老原先生がいるじゃん!!」
「え?さっきからいますけど?」
それが何か?と問う前にイデア君はオルト君に指示を出した。
「オルト!海老原先生を至急イグニハイドに連れてきて!!」
「よく分からないけど、海老原先生を連れて行けば良いんだね?兄さん」
「え、すこぶる嫌な予感なんですけど…」
悲しきかな。こういう時の勘はよく当たる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ーー 星送りイベント当日 ーー》
トレイ視点
学園裏の大樹の前にはデュースと俺、そして監督生とグリムが集まっていた。イデアの姿はまだ見えない。デュースはイデアがバックレたのでは?と疑っていたが、正直どうなるか俺も分からない。空が曇り始めた頃、イデアが小さな悲鳴を上げながら走って来た。
「遅れてごめん。ちょっと調整に時間掛かっちゃって」
「“調整”?」
オルトのメンテナンスの類だろうか。でも、肝心のオルトはどこにいるんだ?いつも一緒のイメージがあったが、今日は一緒じゃないのか見当たらない。
メンバーも揃ったし、晴れている内に儀式を始めようとした時だった。遠くから雷鳴が轟き、閃光で目が眩む。学園長が慌てて中止を言い渡し、取材記者達へ説明しに行ってしまう。悔しがるデュース。その気持ちが痛いほど分かる。たくさん練習したのに披露する事もなく終わりだなんて…と悔しさで俯いているとイデアがデュースを煽って言った。
「星が宙に届かないなら、こっちから届けに行けばいい!」
いや、どんな理屈だよ!と突っ込む間もなく、空中にはいつの間にかオルトとオルトに抱き抱えられた海老原先生がいた。
「最終調整終わったよ、イデア君」
ふぁ〜眠いと言って海老原先生は欠伸をしつつ、オルトの腕の中から地面へと降りた。
彼らが言うには大気圏を突破して雨雲を蹴散らし、雲の上へ願い星を持っていく作戦を実行するらしい。
「それ、オルトは危険じゃないのか?」
大気圏を突破するには、体に相応の負担がかかるはずだ。質問されたオルトは自信満々に答えた。
「兄さんが設計して、海老原先生が調整してくれたんだ。それにたくさんテスト飛行したから大丈夫だよ」
それじゃあ、僕は発射地点に移動するね。と言ってオルトは願い星を持ってグラウンドへ向かった。俺たちの様子に気がついた学園長がこちらへ戻って「貴方達一体何をするつもりですか?」と問う。その質問に答える前に先程までここにいなかった海老原先生を見て、学園長の視線は彼に移された。
「あ、海老原先生!私の番号をシュラウド君に教えたのは貴方ですか!?もしかして、私のPCを遠隔操作したのも貴方じゃないでしょうね!?」
「さぁ、どうだろうな?」
海老原先生は含みを持たせた言い方でクスクスと笑い、上空を指さす。
「ほら、始まるぞ。今夜限りの流星群だ!見逃すなよ」
分厚い雲はなくなり、宙からはたくさんの星が流れた。
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《ーー 余談・ボードゲーム部 ーー》
主人公視点
「全く。私の願い事を使って脅すなんて卑怯だと思わない?」
「いやいや、海老原先生が言ったんですぞ?《皆の役に立つ事が出来ますように》って。拙者は願い事通り、役に立って貰おうとしただけでござる」
「フンッ……それで?少しはお役に立てたのかしら?」
「フヒッ…もちろん。拙者は大満足ですぞ!スターローグの続編も決定しましたし!」
「あら、そう。おめでとう」
スターローグの続編ねぇ。イデア君がハマるくらいのゲームだし、私もやってみようかな。
「ところで、イデアさん。何かお忘れでは?」
「え、何。アズール氏、顔怖いよ?」
「…貴方、うちの海老原先生を2日も拉致したんですよ?その対価がまだですよね。モストロ・ラウンジのシフトにも穴が開きましたし、その上彼女に徹夜させたでしょう?それ相応の対価を支払って頂かなくてはなりませんね!」
「ヒェェ…!!」
私はイベント2日前にイグニハイドへと連行され、授業以外の時間はオルト君のバージョンアップとテスト飛行を徹夜でやっていた。もちろん、アズール君に連絡は入れていたけど、この様子じゃ許可はしていないらしい。
ボードゲーム部の部室にしばらくイデア君の情けない悲鳴が響き渡った。
主人公視点
全校生徒が集められた講堂。ザワつく生徒達の前に学園長が出てくる。学園長からイベントの内容説明はなく、例年通りスターゲイザーの選定をすると言う。学園長のセリフに更に生徒達がザワつく。
そりゃあ全校生徒から3人しか選ばれず、選定方法がデタラメな星占いじゃ不満だよね。選ばれた3人は完全にパシリだし、演舞とかもう公開処刑じゃん。可哀想と思う反面、教員が選ばれる事が無いと知り、私は密かに胸を撫で下ろしている。
ほとんどの生徒がやる気をなくすのは仕方ないと思う。むしろ、なぜこの生徒数の願い星を3人で手分けするのか。あまりにも効率が悪すぎる。“伝統だから”というにも無理があるだろ。変えられる所は改善すべきでは?と一応進言したが、学園長は「我が校の伝統なのです!」の一点張り。正直、抗議するのも面倒だったのでそのまま放置してしまった。
舞台袖でぼぉ〜っと今年のスターゲイザーが選ばれて行く様子を眺める。トレイ・クローバーとデュース・スペード。そして、イグニハイド寮の寮長イデア君が抜擢されてしまった。
「〜〜〜〜!?………やっっっっば!!」
面白すぎる。何そのメンバー!カオス過ぎて笑いを堪えられない。
サイエンス部の実はヤバいクローバーと、昔ヤンキーやってたスペードと、ほぼ全ての授業をタブレットで受ける引きこもりのイデア君?何この組み合わせ。個性の闇鍋なの?
舞台袖で口を手で押さえて、必死に笑いを堪える私にクルーウェル先生の鋭い視線が突き刺さる。いや無理ですよ、師匠。だって、イデア君ですよ?この講堂の中で誰よりも選ばれない事を祈っていたはずなのに選ばれちゃうなんて…!某お姫様の件といい、本当に運が良いのか悪いのか分からない子だな。
スターゲイザーの指名が終わったので、他の先生達と願い星を生徒に配る。願い星は一人につき一つ。今はまだ光が灯っていないが、願い事を言うと光るらしい。しかも、願い事をスターゲイザーの前で言わなければいけないというオプション付き。大変だなスターゲイザーも生徒達も。
でも、アズール君なら率先してスターゲイザー役をやりそうだな。他人の願い=弱みを合法的に握れるわけだし。あ、もしかして学園長が伝統にこだわってたのは、オクタヴィネル寮生を除外するため?3人なら確率低いし、占星術の結果は学園長しか見ないからどうとでも出来る。うっわ、汚いけど学園長なら有り得るわ~
願い星が生徒全員に行き渡り、集会はお開きになった。ぞろぞろと各寮へと戻って行く生徒達。講堂に残ったのは先生達だけだ。
「はい。これは海老原先生の分です」
「え…これ私も参加するんですか?」
「勿論です!今回は取材も入っているんですから!少しでも多くの願い星を飾らなくてはイベントが盛り上がらないでしょう!?」
私優しいので〜って言うのかと思いきや、完全に学園長の都合だった。どうせ学園の宣伝取材は建前で、寄付金の増額が目的なんだろうけど。まぁ、貰えるものは貰っておこうかな。
《ーー オクタヴィネル寮 ーー》
海老原アキラは選択を迫られていた。
というのも、今私の部屋にいるスターゲイザーことイデア君(タブレット)とオルト君に願い星を渡さなければいけないからだ。なぜ渡すのに手こずっているのかというと、私に叶えたい願い事がないからである。
「学園長から伝言です。《成仏や貴方の生死、存在に関わる願い事》は禁止、だそうです」
「はぁ!?」
「ふふ、学園長に先手を打たれましたね」
「あっは!エビちゃん先生、悔しそ~」
部屋のドアを開けるなり告げられた願い事の禁止事項。たかが願い事に禁止事項とか…マジか学園長
「というか、うっかりスルーしたけど何で皆私の部屋にいるの?」
「え〜一々答えるのめんど〜じゃん?だからオレ達の願い事を纏めて渡そーって思ってエビちゃん先生来んの待ってた。けど、エビちゃん先生おせーからオレらは先に願い事言っちゃった」
どうやら皆で一斉に済ませるつもりで私のことを待っていたらしい。彼らはもう願い事を済ませたので、各々寛いでいる。願い事を言っていないのは私だけだ。
「フヒッ…さぁ、海老原先生。願い事を決めてくだされ」
「ああ、ごめん。考えるからちょっと待って」
考えるが先程禁止事項にされた内容くらいしか思いつかない。他に願い事…ないな。
「……参考までに皆は何をお願いしたの?」
「オレは新しい靴〜!テネーブルの!」
「僕はモストロ・ラウンジの繁盛です」
「僕はフロイドとアズールと海老原先生の願いを叶えられますように」
「へぇ〜意外。てっきりキノコ関連かと思ったのに」
「ああ、《1ヶ月ずっとキノコ料理を賄いにしたい》というお願いでも良かったですね!」
ふふ、勿体ない事をしました。と笑うジェイド君に、フロイド君とアズール君の顔が引き攣る。1ヶ月もキノコ料理はしんどい。余計な事を言ってしまったかもしれない。
「うーん…特に欲しい物はないし、食べたい物もないな」
「ん〜?海老原先生は物欲が少ないのかな?普段からあまり装飾品を身につけていないよね」
オルト君の指摘通り、私は腕時計も着けないレベルで装飾品が苦手だ。腕時計って実験の時邪魔だし、左手が重く感じるから嫌いだ。今身につけている装飾品はアズール君から貰ったネックレスだけだし、そのネックレスも服の中に入れているのであまり装飾品の役割を果たしていない。
「うーん…何かこうなりたいとか、こうしたいとかはないでござるか?」
「そんな事言われても……………あ」
あるにはある。でも、これは願い事と呼べるのか……?
「願い事ってほどじゃないけど、
《皆の役に立つ事が出来ますように》」
ポワァっと光が灯った。
ちゃんと願い事としてカウントされたらしい。
「海老原先生のは願い事というより目標な気がするけど、願い星は受け取ったでござる」
「じゃあ、僕と兄さんはこれで失礼します!ご協力ありがとうございました。オクタヴィネルの皆さん!」
オルト君はお礼を言うと、願い星を抱えて部屋から出て行った。
「……で?あの願い事は本心ですか?」
「ふふふ、僕が他人に弱みを見せるとお思いですか?モストロ・ラウンジの繁盛は星に願うまでもなく、自分で達成してみせますよ」
「オレも〜!ちゃんと自分でお金貯めて買うんだ〜」
「おやおや、僕は本心だったのですが…」
「ジェイド嘘くさ〜」
「貴方さっきキノコ料理で揺らいだじゃないですか!」
「信用されてなくて悲しいです。シクシク」
己の願い事は明かさず、星に願うよりも実力行使で叶えに行く精神が彼ららしいと思った。
《ーー 星送りイベント2日前 ーー》
星送りのイベント当日は生憎土砂降りの雨らしい。ここ1週間天気予報を欠かさず確認していたが、結果は変わらず雷雨の予報だった。せめて綺麗な状態の木を撮影しておこうと思い、会場となる願い星の木へ向かうと今日も願い星の飾り付けが行われていた。以前見かけた時よりたくさんの星が飾られている。
「あ、海老原先生!見に来てくれたんですね」
「うん。練習の方はどう?」
「舞はほぼ完成です。デュースがよく頑張ってくれました。でも、当日の天気が悪くてこのままだと中止になってしまうかもしれません」
「学園長には当日まで様子を見て欲しいってお願いしたっす!あとは当日晴れてくれさえすれば…!」
残念だが祈るだけで天気が変わる様なら、この世の天気は荒れ狂っているだろう。晴れを願う人もいれば、雨を願う人もいるからな。このままだと予報通り雷雨で中止だろうな…
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!?」
「うるさッ!!何急に!?」
「これ、シュラウド先輩の声っすか?」
「みたいだな。イデアに何かあったのか?」
「兄さん!?急に大声出してどうしたの?」
いきなりタブレットから凄い声量で叫ばれた。
イデア君どうしたんだろう。セーブデータでも消えたの?
「そうだよ!海老原先生がいるじゃん!!」
「え?さっきからいますけど?」
それが何か?と問う前にイデア君はオルト君に指示を出した。
「オルト!海老原先生を至急イグニハイドに連れてきて!!」
「よく分からないけど、海老原先生を連れて行けば良いんだね?兄さん」
「え、すこぶる嫌な予感なんですけど…」
悲しきかな。こういう時の勘はよく当たる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ーー 星送りイベント当日 ーー》
トレイ視点
学園裏の大樹の前にはデュースと俺、そして監督生とグリムが集まっていた。イデアの姿はまだ見えない。デュースはイデアがバックレたのでは?と疑っていたが、正直どうなるか俺も分からない。空が曇り始めた頃、イデアが小さな悲鳴を上げながら走って来た。
「遅れてごめん。ちょっと調整に時間掛かっちゃって」
「“調整”?」
オルトのメンテナンスの類だろうか。でも、肝心のオルトはどこにいるんだ?いつも一緒のイメージがあったが、今日は一緒じゃないのか見当たらない。
メンバーも揃ったし、晴れている内に儀式を始めようとした時だった。遠くから雷鳴が轟き、閃光で目が眩む。学園長が慌てて中止を言い渡し、取材記者達へ説明しに行ってしまう。悔しがるデュース。その気持ちが痛いほど分かる。たくさん練習したのに披露する事もなく終わりだなんて…と悔しさで俯いているとイデアがデュースを煽って言った。
「星が宙に届かないなら、こっちから届けに行けばいい!」
いや、どんな理屈だよ!と突っ込む間もなく、空中にはいつの間にかオルトとオルトに抱き抱えられた海老原先生がいた。
「最終調整終わったよ、イデア君」
ふぁ〜眠いと言って海老原先生は欠伸をしつつ、オルトの腕の中から地面へと降りた。
彼らが言うには大気圏を突破して雨雲を蹴散らし、雲の上へ願い星を持っていく作戦を実行するらしい。
「それ、オルトは危険じゃないのか?」
大気圏を突破するには、体に相応の負担がかかるはずだ。質問されたオルトは自信満々に答えた。
「兄さんが設計して、海老原先生が調整してくれたんだ。それにたくさんテスト飛行したから大丈夫だよ」
それじゃあ、僕は発射地点に移動するね。と言ってオルトは願い星を持ってグラウンドへ向かった。俺たちの様子に気がついた学園長がこちらへ戻って「貴方達一体何をするつもりですか?」と問う。その質問に答える前に先程までここにいなかった海老原先生を見て、学園長の視線は彼に移された。
「あ、海老原先生!私の番号をシュラウド君に教えたのは貴方ですか!?もしかして、私のPCを遠隔操作したのも貴方じゃないでしょうね!?」
「さぁ、どうだろうな?」
海老原先生は含みを持たせた言い方でクスクスと笑い、上空を指さす。
「ほら、始まるぞ。今夜限りの流星群だ!見逃すなよ」
分厚い雲はなくなり、宙からはたくさんの星が流れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ーー 余談・ボードゲーム部 ーー》
主人公視点
「全く。私の願い事を使って脅すなんて卑怯だと思わない?」
「いやいや、海老原先生が言ったんですぞ?《皆の役に立つ事が出来ますように》って。拙者は願い事通り、役に立って貰おうとしただけでござる」
「フンッ……それで?少しはお役に立てたのかしら?」
「フヒッ…もちろん。拙者は大満足ですぞ!スターローグの続編も決定しましたし!」
「あら、そう。おめでとう」
スターローグの続編ねぇ。イデア君がハマるくらいのゲームだし、私もやってみようかな。
「ところで、イデアさん。何かお忘れでは?」
「え、何。アズール氏、顔怖いよ?」
「…貴方、うちの海老原先生を2日も拉致したんですよ?その対価がまだですよね。モストロ・ラウンジのシフトにも穴が開きましたし、その上彼女に徹夜させたでしょう?それ相応の対価を支払って頂かなくてはなりませんね!」
「ヒェェ…!!」
私はイベント2日前にイグニハイドへと連行され、授業以外の時間はオルト君のバージョンアップとテスト飛行を徹夜でやっていた。もちろん、アズール君に連絡は入れていたけど、この様子じゃ許可はしていないらしい。
ボードゲーム部の部室にしばらくイデア君の情けない悲鳴が響き渡った。