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フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】

【悪戯ツインズ】
フロイド視点


朝から気分が乗らない日だった。
サボって昼寝でもしようとしていたら運悪く金魚ちゃんに見つかって、説教された。1限のトレインの授業では、居眠りする度に指された。2限はサボった。3限と4限はジェイドと一緒に魔法薬学だからサボらない。ジェイドは1~2限飛行術だったらしく、バルガスに厳しく指導されたらしかった。


オレ達は双子という理由でよく比べられる。今日も金魚ちゃんに「なぜジェイドみたいに出来ないんだ!」って言われたし、ジェイドはジェイドでバルガスに「リーチ弟を見習え」と言われたらしい。幼馴染のアズールはそんな事言わないし、オレがサボってもあまり注意しない。でも他の連中は違う。双子は二人で一人みたいな認識なのだ。その事に腹を立てたオレ達は連中のお望み通り、それぞれ「ジェイドらしく」、「フロイドらしく」過ごすことに決めた。

制服をきちんと着て、一房だけ黒い髪を左側に流す。ピアスも左耳に付け替えて、言葉遣いも丁寧にする。黒い手袋を嵌めたら、ジェイドに変身だ。ジェイドは逆に制服を着崩して、ピアスと髪の位置を変え、手袋を外した。口調もオレそっくりにしている。どこから見てもいつものオレがそこにいる。案の定、小魚達はオレがジェイド、ジェイドがオレだと信じ込んでいる。入れ替わり大成功!こんなのも見抜けないなんてバカじゃね?


《3~4限目 魔法薬学》
3限目の授業が始まる。イシダイ先生とエビちゃん先生の授業は楽しい。予想外のことが起きたり、アズールが好きそうな石を作ることが出来るし、ちゃんと作ったら先生達は褒めてくれる。
イシダイ先生は「リーチ兄」「リーチ弟」とオレ達を呼ぶけど、エビちゃん先生はちゃんとオレ達を名前で呼ぶ。でも、今日は入れ替わっているからエビちゃん先生でも分からないかも。そう思うと期待半分、不安半分だ。

イシダイ先生がエビちゃん先生に薬品の材料を配るように指示した。順番に材料を配るエビちゃん先生。オレ達の所に来た時に、オレの姿をしたジェイドが仕掛けた。

「ありがと〜エビちゃんせんせー」
「ありがとうございます。海老原先生」

オレもジェイドの振りをして、エビちゃん先生にお礼を言う。エビちゃん先生は一瞬戸惑ったように動きを止めたが、次の班に配るためにさっさと離れて行ってしまう。オレはジェイドに小声で話しかける。

「ねぇ、ジェイド。エビちゃん先生気がついたと思う?」
「どうでしょうね。もう少し様子をみましょうか」

実験が始まり、イシダイ先生が指示を飛ばす。魔法薬はエビちゃん先生の得意分野だ。イシダイ先生の補助をしながら他の生徒の様子も観察している。イシダイ先生が「リーチ兄にこれを渡せ」とエビちゃん先生に材料を持たせた。リーチ兄とはジェイドのことだ。つまり、今外見がジェイドのオレの所に持って来る。そう思っていた。

「ジェイド君、これを………あ」

「何している仔犬、そっちはリーチ弟だろう!寝ぼけているのか?」

「すみません。“ジェイド君”これ次の工程で使う材料です」

エビちゃん先生はオレの姿をしたジェイドの元に材料を持って行ってしまった。イシダイ先生が間違えたエビちゃん先生を叱る。オレ達的にはエビちゃん先生が正解なのだが、周りにはそれが分からない。叱られたエビちゃん先生はすぐに材料をオレに渡した。
これは確定だ。エビちゃん先生はオレ達の入れ替わりに気付いている。その事実に知らず知らずの内に口角が上がる。

「ジェイド。エビちゃん先生気付いてるね」
「ええ、フロイド。確実に気付いていますね」
「次の授業どうする?」
「そうですね。敢えて戻ってみますか?」
「あはっそれ良い!」

昼休み明けの授業もジェイドと合同だ。科目は錬金術。エビちゃん先生の反応が楽しみだ。オレ達は嫌な事も忘れてすっかり上機嫌。早く昼休みが終わらないだろうかと思うのは初めてだ。


《5限目 錬金術》
5時限目の錬金術の授業が始まる前、エビちゃん先生に「ああ、戻ったんですね。今日はそういう気分なのかと思いましたよ。まあ、個人的にはややこしいので助かりました」と言われ、ジェイドと同時に抱き着いた。

「やめろ!暑苦しい!!」とすぐに離されてしまったが、エビちゃん先生にオレ達の感動は分からないだろう。この人はちゃんとオレ達を個人として認識した上で、オレ達の自由にさせてくれていたのだ。それがどれ程稀で、どれだけ嬉しい事なのか。理解できない分、後でたくさんギューってして教えてあげよう。


《放課後》
その日の授業終わり、オレはエビちゃん先生の資料運びを手伝った。ジェイドは飛行術の補習らしく、またバルガスの所に行かなければいけなかった。他人からは分かりにくいが、せっかく回復した機嫌が若干損なわれてしまっていた。

「そういえばどうしてオレ達が入れ替わってる事に気付いたの?オレら結構そっくりだったよね?」

自分でも結構似ていると思っていたのに、あっさりと見破られたのだ。何か目に見える違いがあったのか気になって質問してみる。

「特にどこがって言われると困るんだけど、強いて言うなら雰囲気?何か違うな〜って違和感があるような。その程度だよ、見た目は完璧だった。違いが分かるのなんてアズール君くらいじゃない?」

確かに昼休みに会ったアズールは「またやってるんですか。よく飽きないですね」と苦笑いしていた。

「やっぱり何となくとしか言いようがないな」

ふ〜ん、そういうもんなのか。長時間一緒にいるからこそ分かるのかも。そう思うと悪い気はしない。

「エビちゃん先生はさぁ、双子は二人で一つだと思う?」

何気なく質問したら、エビちゃん先生が固まった。手に持っていた資料がバサバサと音を立てて落ちていく。資料を掻き集めるのを手伝ってあげると、「誰に言われた?」と問われる。

「誰にって訳じゃないけど、皆ジェイドみたいに大人しく出来ないのかって言うの」

困っちゃうよね〜オレはジェイドじゃないのに。とオレが笑うと、エビちゃん先生は顔を歪めて怒った。

「はぁ?双子だろうが三つ子だろうが人である以上、それは個人として扱われるべきだろ。同一視してんじゃねーよ。同じ環境で同時に生まれたからって全部同じなわけないだろ。そもそもが別の個体で別の頭脳なんだから違っていて当然だろ。バカかよ」

資料を拾いながら捲し立てている。エビちゃん先生は怒ると結構口が悪い。そこも面白いけど。

「大体、フロイド君のムラっ気だって個性じゃん。別に無理に変える必要ないだろ。ってか、他人が口出しして良い話じゃないだろ」

すっごい不愉快って顔に書いてある。怒った時やご飯食べてる時のエビちゃん先生は案外何を考えているのか分かりやすい。

「ふ、あはは!エビちゃん先生やっぱ面白い」

あ、今の顔は「何で笑ってんだよ。何が面白いの?」って顔だ。分かりやすくて、でもたまに分かりにくい彼女の表情は見ていて飽きない。

「ねぇ、エビちゃん先生。さっきの話、ジェイドにもしてあげてね?きっと喜ぶから」

「はぁー…よく分からないけど、喜ぶならいくらでも言ってやるよ」

一つ大きなため息をつくと、ジェイドにも話をしてくれると約束した。


《余談》
その日のモストロ・ラウンジは、上機嫌のオレと話を聞いたらしいジェイドの活躍で売上が倍になり、アズールから褒められた。エビちゃん先生にも報告したら、また褒められた。

「真面目に働いてオレえら〜い!」


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