フェンリルは夢の中【スピンオフ、短編等】
【劇薬サクリファイス】
主人公視点
とある日の放課後、校舎裏にて数名のガラの悪い生徒に詰め寄られていた私は密かにため息を吐いた。アズール君のオーバーブロット以降、元イソギンチャクに絡まれる事が度々ある。
アズール君やリーチ兄弟は魔法の腕が立つし、普通の喧嘩も強い。そのせいか、私の事を彼らの弱点だと思っている様だ。わざわざ私が1人でいる時間を狙ってくる。一応私も教員なのだが、校則も分からないのかマジカルペンを手に持ち構える生徒達。
「ファイアショット!!」
ため息が一層深くなる。
「……シールド展開」
「!?」
私が魔法を使えないと思って油断していた連中は、跳ね返された炎の魔法に驚いている。その間に間合いを詰めて、思いっきり顔面を殴りつけ、倒れ込んだ体に蹴りを入れる。魔法を放つ暇なく、次々と倒れ伏す生徒達。何人かは鼻が折れて鼻血を出した。数人は歯が飛ぶくらい殴りつけられ、顎が歪んでいる。肋の骨が数本折れた生徒もいるかもしれない。
本来の姿ならまだしも、今は180cmの男なのだ。魔法が使えなくてもそれなりの力はある。とはいえ、魔法を使われると厄介なので、イグニハイドの生徒達に防御用シールドの魔道具を作って貰った。先程の言葉を口にするだけで、好きな時にシールドを出す事が出来る。やはりイデア君達は天才だ。
教育者の立場上、体罰はご法度なのだがやらなければこちらは火傷を負って重症だっただろう。ちょっと殴り過ぎた気はするが、過剰防衛ってやつだ。とりあえず、薬を飲ませてやる。
「それ飲んだらさっさと医務室に行け。そして二度と喧嘩を売るな。いいな?」
ドスの効いた声で忠告する。もしまた喧嘩を売られたら普通に買ってしまうし、今度は手加減出来ないかもしれない。手加減なしで喧嘩したいなら別に構わないけれど、その時は殺される覚悟で挑んで欲しい。
私の忠告に生徒達は怯えた様子で、魔法薬を一気飲みすると素早くその場を去って行った。一方的に私を痛めつけてアズール君達への憂さ晴らしをするつもりだったためか、自分が怪我する事を想定しなかった様だ。なんて愚かなんだろう。きっとこの先も彼らは社会に出てからも搾取される側であり続け、それを実感する度に誰かのせいにするんだろうな。自分のせいだとは微塵も考えない。それは思考放棄と同義だ。不良集団が去って行った方向を眺めながら、さして興味もない彼らの将来を案じた。
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《ーー 学園長室 ーー》
アズール視点
「最近妙な傷害事件が多発しています。寮長の皆さんは、寮生にくれぐれも注意する様に言ってください」
寮長会議の中議題に上がったのは最近起きている傷害事件についてだった。生徒が殴るなり蹴られるなりの外傷を負っているにも関わらず、加害者が判明しない連続傷害事件。加害者が誰か分からず、被害者はただただ怯えているばかりで誰も加害者のことを話さない。
また、その他にもおかしな点はある。彼らに魔法の痕跡がないのだ。殴る蹴るなどの物理的攻撃しか与えられていないため、魔法の痕跡は皆無。これでは魔法痕から犯人を炙り出すのは不可能。
そして、一番の謎が“魔力の痕跡のない魔法薬の投与”だ。通常魔法薬には術者が魔法をかけて、作業時間を短縮して作られる。魔力が込められていないということは、すなわち膨大な時間をかけて作られた魔法薬ということ。わざわざ傷害事件を起こした後に、手間暇かけて作った魔法薬を投与する理由が分からない。
「一体どういうことなんだい?怪我をさせた相手に薬を渡す、そんな奴がいると思うかい?」
リドルさんが疑問を投げかける。
「大体その薬自体が妙だわ。医者の見立てでは前例のない物なんですもの。それが本当なら新しい魔法薬ということになるわよ。どうしてそんな物を飲ませたのかしら」
毒薬にも詳しいヴィルさんが言うのだ。相当なのだろう。
被害者の症状はバラバラで、発熱や悪寒、吐き気、頭痛、目眩、幻覚や幻聴など多岐にわたる。他の生徒に感染していないところを見ると感染病ではなさそうだ。一体犯人は何がしたいのだろうか。
「ハッくだらねー!ただの愉快犯じゃねーか。ほっとけばソイツに喧嘩売る奴もいなくなって、ソイツも薬をばら撒かなくなるだろう。そんな奴、放置で良いんじゃねーか?」
酷くつまらない様子でレオナさんは言う。
確かに愉快犯ならばその内飽きるだろうから放置しても問題ないが、もし愉快犯じゃなかったら?そうしたら被害者は増え続けるだろう。
被害者のリストを見ていた僕はある共通点に気が付き、これは早急に対処しなければと思った。それも学園長や他の寮長が気付く前に極秘で、だ。
《ーー オクタヴィネル寮・海老原の部屋 ーー》
「最近やたらと手や足を怪我していると思っていたんですよね。階段で転んだとか言っていましたけど、まさか貴方が傷害事件の犯人だったなんて。ねぇ、アキラさん」
問い詰められたアキラさんは「うっ……」と小さく呟いてソファーの隅で縮こまっている。
「今度は何の薬を作ったんです?なぜあんな雑魚にくれてやったんですか。僕たちには教えてくれても良かったでしょう?」
僕が見つけた被害者の共通点は、元イソギンチャクであることと僕たちに逆恨みしていることだった。それだけなら僕たちを狙えば済む話なのだが、奴らはアキラさんを狙った。概ね、アキラさんが魔法を使えないからとか弱そうとかそんな理由だろう。勘違いも甚だしい。彼女は強くて賢い。だからこそ僕達に迷惑をかけまいとして自分一人で行動していたのだから。
「………意図的に病気を誘発する薬が出来ないかと思って作ったんです。いい加減絡まれるのも煩わしくて」
蚊のなく様な声でそう言った。
元いた世界の病気を再現しようとしたらしい。出来ないかなと思って作ったら出来ちゃった。そうゆうことだろう。変なところで天才肌を発揮するんだこの人は。大方、今回の事件も単純に喧嘩を売られたついでに奴らをモルモットにして遊んでいたんだろう。死なない程度の薬を与えて実験していたのだ。最近僕に絡む連中が少ないのは、彼女にモルモットにされていたかららしい。
「学園長が動き出しましたから今後は控えるように。いいですね?」
「………はぁい」
明らかにしゅんとした態度に苦笑しつつ、新薬のレシピを受け取る。
これを解析すれば解毒薬が作れるはず。そうすれば苦しんでいる生徒達や学園長に売り付けることが出来る。
さて、対価に何を要求しましょうかね。僕はひっそりとほくそ笑むのだった。
sacrifice……犠牲
主人公視点
とある日の放課後、校舎裏にて数名のガラの悪い生徒に詰め寄られていた私は密かにため息を吐いた。アズール君のオーバーブロット以降、元イソギンチャクに絡まれる事が度々ある。
アズール君やリーチ兄弟は魔法の腕が立つし、普通の喧嘩も強い。そのせいか、私の事を彼らの弱点だと思っている様だ。わざわざ私が1人でいる時間を狙ってくる。一応私も教員なのだが、校則も分からないのかマジカルペンを手に持ち構える生徒達。
「ファイアショット!!」
ため息が一層深くなる。
「……シールド展開」
「!?」
私が魔法を使えないと思って油断していた連中は、跳ね返された炎の魔法に驚いている。その間に間合いを詰めて、思いっきり顔面を殴りつけ、倒れ込んだ体に蹴りを入れる。魔法を放つ暇なく、次々と倒れ伏す生徒達。何人かは鼻が折れて鼻血を出した。数人は歯が飛ぶくらい殴りつけられ、顎が歪んでいる。肋の骨が数本折れた生徒もいるかもしれない。
本来の姿ならまだしも、今は180cmの男なのだ。魔法が使えなくてもそれなりの力はある。とはいえ、魔法を使われると厄介なので、イグニハイドの生徒達に防御用シールドの魔道具を作って貰った。先程の言葉を口にするだけで、好きな時にシールドを出す事が出来る。やはりイデア君達は天才だ。
教育者の立場上、体罰はご法度なのだがやらなければこちらは火傷を負って重症だっただろう。ちょっと殴り過ぎた気はするが、過剰防衛ってやつだ。とりあえず、薬を飲ませてやる。
「それ飲んだらさっさと医務室に行け。そして二度と喧嘩を売るな。いいな?」
ドスの効いた声で忠告する。もしまた喧嘩を売られたら普通に買ってしまうし、今度は手加減出来ないかもしれない。手加減なしで喧嘩したいなら別に構わないけれど、その時は殺される覚悟で挑んで欲しい。
私の忠告に生徒達は怯えた様子で、魔法薬を一気飲みすると素早くその場を去って行った。一方的に私を痛めつけてアズール君達への憂さ晴らしをするつもりだったためか、自分が怪我する事を想定しなかった様だ。なんて愚かなんだろう。きっとこの先も彼らは社会に出てからも搾取される側であり続け、それを実感する度に誰かのせいにするんだろうな。自分のせいだとは微塵も考えない。それは思考放棄と同義だ。不良集団が去って行った方向を眺めながら、さして興味もない彼らの将来を案じた。
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《ーー 学園長室 ーー》
アズール視点
「最近妙な傷害事件が多発しています。寮長の皆さんは、寮生にくれぐれも注意する様に言ってください」
寮長会議の中議題に上がったのは最近起きている傷害事件についてだった。生徒が殴るなり蹴られるなりの外傷を負っているにも関わらず、加害者が判明しない連続傷害事件。加害者が誰か分からず、被害者はただただ怯えているばかりで誰も加害者のことを話さない。
また、その他にもおかしな点はある。彼らに魔法の痕跡がないのだ。殴る蹴るなどの物理的攻撃しか与えられていないため、魔法の痕跡は皆無。これでは魔法痕から犯人を炙り出すのは不可能。
そして、一番の謎が“魔力の痕跡のない魔法薬の投与”だ。通常魔法薬には術者が魔法をかけて、作業時間を短縮して作られる。魔力が込められていないということは、すなわち膨大な時間をかけて作られた魔法薬ということ。わざわざ傷害事件を起こした後に、手間暇かけて作った魔法薬を投与する理由が分からない。
「一体どういうことなんだい?怪我をさせた相手に薬を渡す、そんな奴がいると思うかい?」
リドルさんが疑問を投げかける。
「大体その薬自体が妙だわ。医者の見立てでは前例のない物なんですもの。それが本当なら新しい魔法薬ということになるわよ。どうしてそんな物を飲ませたのかしら」
毒薬にも詳しいヴィルさんが言うのだ。相当なのだろう。
被害者の症状はバラバラで、発熱や悪寒、吐き気、頭痛、目眩、幻覚や幻聴など多岐にわたる。他の生徒に感染していないところを見ると感染病ではなさそうだ。一体犯人は何がしたいのだろうか。
「ハッくだらねー!ただの愉快犯じゃねーか。ほっとけばソイツに喧嘩売る奴もいなくなって、ソイツも薬をばら撒かなくなるだろう。そんな奴、放置で良いんじゃねーか?」
酷くつまらない様子でレオナさんは言う。
確かに愉快犯ならばその内飽きるだろうから放置しても問題ないが、もし愉快犯じゃなかったら?そうしたら被害者は増え続けるだろう。
被害者のリストを見ていた僕はある共通点に気が付き、これは早急に対処しなければと思った。それも学園長や他の寮長が気付く前に極秘で、だ。
《ーー オクタヴィネル寮・海老原の部屋 ーー》
「最近やたらと手や足を怪我していると思っていたんですよね。階段で転んだとか言っていましたけど、まさか貴方が傷害事件の犯人だったなんて。ねぇ、アキラさん」
問い詰められたアキラさんは「うっ……」と小さく呟いてソファーの隅で縮こまっている。
「今度は何の薬を作ったんです?なぜあんな雑魚にくれてやったんですか。僕たちには教えてくれても良かったでしょう?」
僕が見つけた被害者の共通点は、元イソギンチャクであることと僕たちに逆恨みしていることだった。それだけなら僕たちを狙えば済む話なのだが、奴らはアキラさんを狙った。概ね、アキラさんが魔法を使えないからとか弱そうとかそんな理由だろう。勘違いも甚だしい。彼女は強くて賢い。だからこそ僕達に迷惑をかけまいとして自分一人で行動していたのだから。
「………意図的に病気を誘発する薬が出来ないかと思って作ったんです。いい加減絡まれるのも煩わしくて」
蚊のなく様な声でそう言った。
元いた世界の病気を再現しようとしたらしい。出来ないかなと思って作ったら出来ちゃった。そうゆうことだろう。変なところで天才肌を発揮するんだこの人は。大方、今回の事件も単純に喧嘩を売られたついでに奴らをモルモットにして遊んでいたんだろう。死なない程度の薬を与えて実験していたのだ。最近僕に絡む連中が少ないのは、彼女にモルモットにされていたかららしい。
「学園長が動き出しましたから今後は控えるように。いいですね?」
「………はぁい」
明らかにしゅんとした態度に苦笑しつつ、新薬のレシピを受け取る。
これを解析すれば解毒薬が作れるはず。そうすれば苦しんでいる生徒達や学園長に売り付けることが出来る。
さて、対価に何を要求しましょうかね。僕はひっそりとほくそ笑むのだった。
sacrifice……犠牲