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フェンリルは夢の中

【フェンリルとグレイプニル】4話
主人公視点

アズール君がオーバーブロットしてから2日経った。未だアズール君は眠ったままだ。

オーバーブロットに関わった連中と私、そしてリドル君は学園長に呼び出され、今学園長室にいる。

学園長は全員が揃った後、リドル君に合図した。

『首をはねろ!』

リドル君のユニーク魔法が発動し、監督生達の首にハーツラビュルの様な柄の首輪が嵌められた。トラッポラとスペードが「どういう事ですか寮長!」と説明を求めるが、リドル君の代わりに答えたのは学園長だった。

「君達には1ヶ月魔法封じの首輪をつける罰を与えます。その代わり、退学処分には致しません。私優しいので!」

「ハッ……よく言う。子犬に勝てなかっただけのくせに」

学園長の言葉をクルーウェル先生が鼻で笑う。今回の件に関して学園長は事件を隠蔽する方向で動いていた。しかも、奴らには罰則を与えず、アズール君だけに罰則を与えようとしたのだ。到底認可など出来る訳がない。

「あれは戦略的撤退と言うんです。クルーウェル先生」と反論した後、学園長は今回の処分について話始める。


・彼らはリドル君の首輪を今日から1ヶ月間着ける
・アズール君と私は明日から1週間謹慎処分
・モストロ・ラウンジも明日から1週間休業
・オクタヴィネル寮も寮生以外は1週間立入禁止
・アズール君のユニーク魔法は今後校内で使用禁止となる

ザックリまとめるとこんな感じだ。

「海老原先生、貴方の言う通り彼らに首輪を着けました。これで今回の件について黙っていてくれますね?」

首輪が着いた奴らを一瞥する。

「“今日から1ヶ月、ちゃんと首輪を着けていたら”ですよ。学園長」

学園長の言葉を訂正する。
アズール君がオーバーブロットした日、学園長に取り付けた契約は『奴らが1ヶ月リドル君の首輪を嵌めて過ごさせること。もし、1ヶ月以内に首輪を外したら外部へ情報をリークし、警察へ通報・契約書の被害届も出す』というもの。退学処分に比べたら大分軽い処罰だが、実行犯に王族がいる手前退学処分には出来そうに無かった。この処罰はただの妥協点。それだけだ。

「海老原先生、ありがとうございます!」

不意に監督生が私に近づき、感謝の言葉を述べた。

「……は?」

「先生が僕達の退学処分の代わりに首輪の罰にしてくれたんですよね?」

退学処分にならなかったからお礼?
ふざけるなよ!

「お前達に首輪を着けたのは“己の罪を自覚させるため”だ!」

監督生の胸ぐらを掴んでそう答えた。

「つ、み?」

「分からないか。お前達は計画的に窃盗を行い、器物破損、殺人未遂を犯した。喩えお前達が未成年とはいえ、許される罪ではない」

窃盗?器物破損?殺人未遂?
何を言っているのか分からないという顔をしている。罪悪感すら感じていないのだ。心の底から自分は良い事をしたと信じて疑わないのだろう。

「悪どいことをやっていたから自業自得?だからアズール君がオーバーブロットが原因で死んだとしても自業自得だと?今まで必死に集めた契約書を砂に変えられても文句はないと?ふざけんじゃねぇよ!!」

「……!?」

「あの子がどれだけ努力しているかも知らずに勝手に悪人だと決めつけて、今までの努力を踏みにじったばかりか、彼の心まで破壊して正義ヅラ?何様のつもりだよ」

学園長達が狼狽え、私を止めようとするが聞いてなどやるものか。

「自分で納得してサインしておいて、いざ条件を達成出来なかったら不当だと駄々をこねる。それって商品を得たのに代金を払わないクズと何が違う?ビジネスと慈善活動の差も分からねぇ低脳に人を裁く権限なんてねぇだろうが!」

「いい事を教えてあげよう、クソ野郎共。死というものはな、想像を絶する恐怖と悲しみを与えるんだよ。本人にも周りの人間にもな」

「っ………!」

「お前達がやったことは立派な犯罪行為だ。警察に突き出せば退学どころか牢獄行きかもしれないな。前科が付いたお前達を保護者はどう思うだろう。お母さんやお父さん、ご兄弟におばあちゃんやおじいちゃんは今まで通りに接してくれるだろうか?」

冷ややかな言葉にそれぞれが反応する。
前科が付く。犯罪者になるという事は今までと同じように家族とは暮らせないかもしれない。もしかしたら、縁を切られる可能性だってある。

「でも、安心しろよ。お優しい学園長が事件ごと揉み消してくれるってさ。その首輪を1ヶ月間着ければ、今日以降俺が警察に被害届を出す事も外部にリークすることもない」

その証拠に、と学園長に向かって端末を投げた。それは私が学園から支給された携帯電話だった。

「それがなければ外部にリークすることも警察に通報することも出来ない。明日からは謹慎だし、1週間オクタヴィネル寮の外には出られない。何ならその端末を1ヶ月学園長に預けたって構わない」


「ステイ!そこまでだ。フェンリル」

未だ胸ぐらを掴んでいる私にクルーウェル先生がストップをかけた。私は手を離し、監督生は呆気なく尻餅をついた。

「俺がフェンリルならお前達は命可愛さにフェンリルを殺そうと企む愚かな神々だ。自ら右手を差し出す勇気もないくせに、な」


「せいぜい俺を縛るグレイプニルが喰い千切られないことを神サマにでも祈っていろ。愚か者共」

地の底を這うような声で忠告し、学園長室から出る。


私を縛るグレイプニルがあるとするなら、アズール・アーシェングロット、唯一人だ。

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鏡舎に向かう途中、空を見上げた。
綺麗な丸い月が夜道を照らしている。
あの日、私が死んだ日もこんな月だったと睨み付ける。

「明日の月は綺麗でしょうね」

ねぇ、監督生さん?


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《ーー オンボロ寮 ーー》
【監督生視点】

あまりの出来事の連続で碌に声も出せなかった。冷や汗は止まらず、どうやってここまで帰って来たのかも分からない。自分達がしたことは果たして正義なのか、それとも悪なのか。

渇いた喉を潤すべく、冷蔵庫を開ける。ペットボトルの水を取り出して一口飲む。グリムはあんなことがあっても気にしていない様で、ツナ缶を食べてご満悦だ。

考えていても結論には至らないので、仕方なくベッドに入った。寝付ける気はしないが、明日のことは明日考えよう。そう自分を納得させて目を閉じた。

翌日から地獄を見るとも知らずにーー



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