一緒にお風呂
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日曜日のデイゲームを終えて帰宅した夫は、ソファに横になってくつろいでいる。ぼうっとしているように見える一方で、彼の視線は今日の試合ハイライトを写すテレビ画面を向いている。
試合が終わっても野球のことを考えている洋一に、私は「あのさ、」と歯切れ悪く声を掛ける。
時刻は18時、夕ご飯の時間にも少しばかりの余裕がある。
「ん?どうした」
試合後にシャワーを浴びて帰ってきた洋一の髪はぺたんと落ち着いていて、やっぱり幼く見える。
「今日もお疲れ様。あのね、お願いがあるんだけど」
ソファに横になったまま目線だけ私に向ける洋一は、私の「お願い」という言葉に反応し、見ていた試合ハイライトを素早く消す。上半身を起き上げると、ソファの背もたれ側に立つ私に向き直る。
「なんだよ、お願いって。珍しいな」
その目はキラキラと光っていて、ご褒美を待つ子犬のよう。思わず頬を撫でてみたくなる。
「これからお風呂に入るんだけど」
「おう」
「よかったら一緒に入らない?」
「もうシャワー済んでると思うけど、」
「入る」
私の言葉に被せるように、食い気味な洋一の返事はとても簡潔だ。
プロ3年目のシーズンが始まってからの洋一は、昨シーズンに比べて出場機会も増えていた。開幕スタメンこそ逃したものの、5月から始まった交流戦ではほぼ全ての試合にショートで出場、レギュラー定着まであと一歩というところ。
平日はナイター試合の洋一と会社員の私とでは生活リズムが違うから、日曜日のデイゲームのあとは二人で過ごせる貴重な時間だ。
洋一はソファから立ち上がると私の肩に手を置く。ぐいと強めの力で引っ張られ、着替えを取りにクローゼットへ促された。
「これ、着てみようぜ」
洋一が手に取ったのは真っ白なバスローブ。入籍後の引っ越しに際して、“新婚っぽい”という理由で購入したものの恥ずかしくて一度も着ていなかったものだ。
いたずらっぽくバスローブを手に持つ洋一。いつもの私なら「恥ずかしいよ」と断っているのだが、久しぶりに洋一とゆっくり過ごせることに私の気持ちは緩んでいるようで――、
「うん、いいよ」
私が頷くと洋一は少し驚いた顔をした。きっと洋一も断られると思っていたのだろう。
「ね、洋一。明日さ、わたし仕事お休みなんだ」
「知ってる。俺も明日はオフだ」
*
脱衣所のハンガーにバスローブを引っ掛ける。初めてではないとはいえ、洋一の前で服を脱ぐのは照れくさいし、躊躇なく脱いでしまうのも妻としての品位に欠けるのではとシャツに掛けた手を止める。チラリと洋一に目をやると、彼は何の躊躇もなくTシャツを脱ぎ捨てるところ。見事に割れた腹筋に目を奪われる。
「なーに見てんだよ」
「や、別にっ」
洋一に頬を突かれる。「恥ずかしいなら脱がせてやるよ」と後ろから抱きしめられて、シャツを上に引っ張り上げられる。
「わ、ちょっと」
洋一の手に丸められた私のシャツは、情けなくポイと洗濯機に放り込まれる。下着姿で立ち尽くす私は逃げ出したい気持ちで、ジリジリと洋一に壁際に追い込まれる。
「凪が風呂入ろうって誘ってきたんだろ」
「なに今さら照れてんだよ」
あわや壁ドン、追い込まれた私の背中と壁の間に洋一の手が入り込む。音もなく下着のホックを外され、肩紐が二の腕に落ちる。
「あっ、」
こんなところで器用さを発揮しなくていいのに。胸元を押さえながら彼を見上げると「凪」と低い声で名前を呼ばれて、首筋に落とされた洋一の唇は頬、口へと続く。
「洋一・・・」
キスだけで腰が抜けそうになってしまう。洋一は口角を上げると、私の腰に大きな手を添えて優しく立ち上がらせる。
「ほら、早く入ろうぜ」
自分の足で歩こうとしたところを膝から掬われるように抱きかかえられ、まるで、いや、まさにお姫様抱っこの姿勢で持ち上げられてしまう。
「ま、待って。怪我したら大変だよ」
軽々と自分を持ち上げる洋一の力に驚きつつも、万が一の転倒が心配で「降ろして欲しい」と懇願するが洋一は聞く耳を持たない。
「凪が大人しくするのが一番安全だぜ」
「・・・バカっ」
洋一の言葉のとおりに私が大人しくなると、彼は満足そうに笑う。洋一は私を抱きかかえたまま浴室に入る。もし転んだらとヒヤヒヤする私を余所に、体も洗わないまま湯船の縁を跨いだ。
浴槽に腰を下ろすと、湯船にたっぷりと張られたお湯が外へ流れ落ちる。
「もう、洋一ってば」
「はいはい」
浴槽の中、洋一のお姫様抱っこからは解放されたものの、息つく間もなく後ろから抱きしめられる。背中に洋一の胸板を感じて、肌が触れるだけで心臓が早くなってしまう。
一人での入浴時には広く感じていた浴槽だが、二人で入ると身動きが取りにくいことに気がつく。
「浴槽、狭くねぇか?」
「洋一の体が大きいからだよ」
「ま、高校のときに比べればな」
一坪タイプのユニットバス。これ自体が狭いわけではないのだが、体の幅のある洋一と入ると狭く感じる。
頭の上から振ってくる洋一の声はいつもより少し低くて、彼の顔を見たいと振り向こうするが思うように動くことができない。その窮屈さが愛おしくて、洋一にまたお願いをしてみる。
「ね、頭撫でて。洋一に撫でられるの好きなの」
ほんの少しの間があって、「しょうがねぇな」と頭にポンと洋一の手が置かれる。つむじから首筋にかけて洋一の手にゆっくり撫でられて、その気持ちよさに目を細めてしまう。
「洋一の手、おっきいから気持ちいい」
「凪、今日はやけに甘えただな」
洋一の声は柔らかい。
「うん、今日は洋一に甘える日なんだ」
「おま・・・可愛すぎだろ」
私の頭を撫でる洋一の手が止まる。なんだろうと振り向こうとするが、顔の左右から洋一の手が伸びてくると優しく頭を掴まれ、わしゃわしゃと乱暴に髪をかき回される。
「もう!良い雰囲気だったのに!」
「悪い、思わずさ。照れ隠しだから許せよ」
素直に「照れ隠し」だなんて言われたら許すしかない。
「洋一のそういうところ好きだよ」
可愛らしくて、と付け加えたかったがきっと拗ねるだろうから言わない。「どういうところだよ」と訝しげな洋一に強く抱きしめられた。
*
「筋肉すごいね、体づくり頑張ってるんだね」
泡立てたタオルで洋一の背中を洗いながら、バスチェアに座る彼の背中の大きさに驚く。改めて間近で見るとドキドキしてしまう。
「ね、腹筋も触っていい?」
そう言いながら、本人の返事の前にお腹に手を回す。凹凸のある腹筋は硬くて、洋一の男性らしさに戸惑いさえ覚える。
「おい、くすぐってぇよ」
「ダメなの?」
「・・・いいけどよ」
彼がこちらを振り向かないのはさっきと同じ照れ隠しなのだろう。私は洋一の腹筋を撫でてみたり、腕を揉んでみたり、太ももを軽くさする。
「凪、お前覚えてろよなっ」
くすぐったさに身をよじらせる洋一は「次は俺の番」と呟くと、タオルを持つ私の手を捕まえる。体に泡がついたままの洋一はバスチェアから退くと、代わりに私をバスチェアに座らせる。
浴室内のミラー越しに目が合うと、洋一はニヤリと企み顔だ。
たっぷりに泡立てられたタオルで背中を撫でられると、気持ちいいやらくすぐったいやらでじっとしていられない。
「もう、洋一くすぐったいよ」
「さっきのお返し、じっとしてろ」
いたずらな洋一は私の腕を掴んで逃げられないようにする。肩、腕、脇腹とタオルで撫でられ、しまいには腰の辺りを指先でツツ、となぞられる。
「・・・んッ」
思わず肩が跳ね、引き絞った声が出てしまう。洋一の顔が近づいてきて、首筋に優しく口づけされる。
「凪、可愛い。もっとしてもいいか?」
愛する夫にこんな顔をされて「ダメ」だなんて言える人がいるのだろうか。私は言葉を出せずに、静かに頷くことしかできない。ミラー越しにニヤと口角を上げる洋一は嬉しそうだ。
堪らず体ごと振り返る。洋一がボディソープのポンプを2回、3回とタオルに押し下げると、みるみるうちにふわふわな泡ができあがった。何をするつもりだろうと手元を眺める。
「ほら、もっと洗ってやるよ」
洋一はたっぷりの泡を自分の人差し指につけると、私の鼻の頭にちょこんと乗せてくる。
「ヒャハハ、凪、可愛すぎっ」
鼻に続いて、頬、顎と泡を乗せる。鼻歌を歌い出しそうなほどご機嫌な洋一の姿に、その手を止める気が起きない。
「こっちもよく洗わねぇとな」
語尾の音符が見えてきそう、と呑気に構えていると洋一の泡のついた指先は首筋、鎖骨に触れる。洋一の大きな手のひらは私の胸元で止まって、ふんわりと丸い泡を優しく撫でるように伸ばされる。反射的に体がびくんと跳ねてしまい、恥ずかしさに「もう!」と拗ねたように声を上げた。
洋一の手を掴んで制止しようとするが、泡でするりと滑って簡単に抜け出されてしまう。
「凪もお返ししてみろよ」
「言ったなー?」
泡立ったタオルを手に取り、洋一の胸に撫でつける。「じっとしてて」の私の言葉に洋一は素直に従ってくれる。
「なんだよ、これ」
「ん?ハート」
彼の胸に泡で作った小さなハート。それを指さしながら、「わたしの気持ち」と照れ笑いを浮かべる。私は自慢げに「もっと欲しい?」と続ける。
虚を突かれた顔の洋一は自分の胸に描かれたハートを見て、ふっと吹き出す。
「ああ、もっとくれよ」
「もっと、たくさんな」
*
十分過ぎるくらいに体を洗い終えると、再び湯船に体を沈める。洋一は私を後ろから抱きしめながら「やっぱ二人だと狭く感じるな」と呟く。
「凪さ、広い家欲しくねぇ?」
「うん、いつか、近い将来にね」
「でも、家を買ってお風呂が広くなったら、今みたいにくっつけなくなっちゃうかな?」
冗談ぽく私が笑うと、後ろから後頭部を軽く突かれる。洋一の口が耳元に近づくのを感じる。
「バーカ、くっつくに決まってんだろ」
低い声で囁かれ、首筋にキスをされる。さっきからそうされる度に肩が跳ねてしまうのだ。お湯がちゃぷんと揺れる。
「なあ、こっち向いてみ」
さっきと同じ低い声が耳元で囁かれる。私は驚いて振り向くと、お湯の中で膝を立てた洋一が「こっち乗れよ」と自分の太ももを指さす。
彼の真剣な雰囲気に私は言葉が出ない。ただ黙って頷いて洋一の肩に手を置くと、指定する場所に跨がった。
「やっぱ凪の顔が見えた方がいいな」
洋一はそう言って頬、首筋、胸元へと唇を落としてくる。その度に震える体は、もう自分の意思ではどうすることもできない。頭に熱が上ってくるような浮き上がる感覚に包まれる。
「あ、よういち、こら」
小さく抵抗の言葉を口にするが、洋一はそんなもの歯牙にもかけない。
「凪、大好きだぜ」
「もう・・・洋一、わたしも、だいすき」
洋一の右手が背中から腰へ滑り降りてくる。ぞくぞくとした感覚に体は震えるばかりで、その度にお風呂のお湯がちゃぷんと溢れていく。
「洋一、も、だめ」
浴槽の底についた膝に力が入らなくて、上半身を洋一の胸に預ける。太ももの付け根あたりに座り込むように脱力する。
「あ、あれ、洋一?」
「なんだよ」
下半身に当たる硬い感触。慌てて体を起こして洋一の顔を見つめるが恥ずかしさに目を逸らしてしまう。
「あの、当たって、ます」
洋一は私の言葉にくくっと笑う。腰に添えられた洋一の右手に優しく引き寄せられる。
「凪と一緒にいて、こうならないわけないだろ」
もう何度目かわからない首筋への口づけ。
「今ここで・・・ダメか?」
「バカ・・・あとで」
お湯の中、洋一の左手と私の右手はどちらともなく絡み合う。
*
「ね、明日お休みだからさ、ビール飲もう。冷やしてあるんだ」
「お、いいな。最高」
準備していたバスローブの袖に腕を通しながら洋一に提案すると、彼は嬉しそうに笑った。
もともとお酒の好きな洋一だが、体が資本の仕事だからと普段は節制している。彼が飲まないならと私もお酒を飲むことは減ったが、たまにこうして一人一本までと決めて乾杯しているのだ。
私がキッチンへ向かうと、洋一は食器棚に。私は缶ビールを手に、洋一はお揃いのタンブラーを手にして二人並んでソファに腰掛けた。
「どうぞ、今日もお疲れ様でした」
私が缶ビールを手に持つと、それに合わせて洋一が自分のタンブラーを持ち上げる。ビールを注ぐときめの細かい美味しそうな泡が立った。
「サンキュ。ほら、凪も」
洋一ももう一本の缶ビールを手に持つと、カシュと小気味よい音を立ててプルタブを押し上げた。洋一に注いでもらったビールも美味しそうな泡が立ち、思わずまじまじと泡を眺めてしまう。洋一も意味ありげに泡を見ているのは、お互い黙っててもさっきのお風呂の泡と重なって見えたからだ。
「乾杯」
タンブラーをカチンと合わせる。お風呂上がりの冷えたビールが体に染みわたる。
「ぷっは、うめぇ」
「美味しすぎるっ」
「洋一、お水も飲んでね」
ビールと一緒に準備した水に手を伸ばす。さすがに少しのぼせてしまった。冷たい水もビールに劣らず美味しい。
「のぼせたか?」
「うん、ちょっとね」
「俺のせい?」
「うーん、そうかも」
そうやって笑い合って、おつまみもなしにビールを飲み進める。湯上がりのちょうど良い疲労感だけでビールが進んでしまう。
二口目、三口目と飲み進めるうちになんだか良い気持ちになってくる。ふと横にいる洋一に視線を向けると、はたと洋一と目が合った。照れくさそうに笑う洋一は私の腰に手を回して優しく体を引き寄せる。
「洋一は、のぼせてない?」
「俺はへーき」
肩と肩が触れ合う。なんだか頭が重たくて洋一の肩に頭を置いた。洋一の息づかいをすぐ近くで感じて、彼にもっと触れたくなる。洋一のバスローブの生地がふんわりと柔らかい。ああ、この柔らかさにもっと包まれたい。
「凪、もしかして酔ってんのか?」
心配するような洋一の声。私の視界はほんの少し霞んでいて、顔を覗き込んでくる洋一を引き寄せてそっと口づける。
「ふふ、久しぶりに飲んだからかな」
「洋一、耳赤いよ。酔っ払っちゃった?」
「これくらいで酔うわけねーだろ、バカ」
「酔ってんのはお前だろ」と額を優しく小突かれる。洋一の逞しい腕で抱きしめられたかと思うと、景色が反転する。天井を背景にしてこちらを見下ろす洋一の耳は、やっぱり赤い。
私の背中には柔らかなソファがあって、着慣れないバスローブがはだけていないか少し心配になる。
「凪・・・さっきの続き」
慈しむ表情の洋一に体の力が抜けてしまう。洋一の右手がバスローブの腰紐を引っ張る。
「あ、洋一・・・」
紐を引っ張る洋一の手を思わず止める。「手、どけろよ」と蕩けた声で囁かれ、小さく頷いて手を下ろす。紐が解け、バスローブの隙間から洋一のひんやりした手が入り、肌に触れるたび体がびくんと震える。
「大好きだぜ」と耳元で低く囁かれると、洋一の唇が首筋から胸元へ滑る。「んっ、」思わず漏れた熱い息に、洋一の息づかいも荒くなり、唇が再び上がってきて口を塞がれる。深く絡み合うキスに体は熱く疼き、私は洋一の首に腕を回して強く引き寄せた。
洋一の大きな手が腰から背中を這い上がり、肩を掴んでソファに押し付ける。バスローブがはだけ、肌が露わになる。
「凪、やばいな・・・」
首筋から鎖骨へ唇を這わせる。「洋一・・・熱い」と声を漏らすと洋一は「我慢できねえ」と胸元に手を滑らせ、柔らかく触れてくる。
「洋一、お願い・・・あっち」
縋るように洋一を見上げて、寝室のドアに目をやる。
「続きは寝室で、ってことでいいか?」
「バカ…聞かないでよ」
強がってみせても、私の気持ちはぜんぶ洋一に透けて見えている。この身をすべて預けるつもりで私は洋一を抱きしめた。
おわり
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