隣のクラスの倉持くん

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 授業終わりに新発売のお菓子を買いにコンビニへ立ち寄ったら、いつもの電車に乗り遅れそうになってしまった。小走りで改札をくぐり駅のホームへ出ると、ちょうど新宿行きの電車が到着したところ。ホームで停止した電車のドアが開き、ホームで待っていた人々が電車へ乗り込んでいく。私もそれに続き、乗り遅れまいと駆け足で電車へ飛び乗る。セーフだ。
 手に持ったままのお菓子とレシートを制服のポケットに詰め込んだ。

 放課後の時間帯の西国分寺駅は青道高校の生徒が多く乗り込むためか、車内は少し騒がしくなる。「電車内では静かにするように」と、数ヶ月に一度は学校側からのお達しが出るほどだ。
 私が乗り込んだ車両もご多分に漏れずで、複数人の男子生徒がたむろしては下品な笑いを響かせる。背後でドアの閉まる音がして、ゆっくりと電車は再発進する。
 ああ、同じ制服を着ているのが恥ずかしい。私はこの場を離れるように隣の車両へ移動することにした。

 電車の連結スペースのドアを開ける。後方の車両へ移動すると、青道高校の生徒はほとんど乗車しておらず静かなものである。
 選び放題の座席を吟味していると、見たことのある男子生徒が座席に座っているのが目に入った。ええと、そうだ、野球部の倉持くんだ。クラスメイトの川上くんに教科書を借りに何度か自分らのクラスに来ていたっけ。

 西東京の名門と言われる野球部には独特な雰囲気を感じており、近寄りがたい印象を私は持っていた。そこに座っている、えっと倉持くん、彼もなんだか顔つきが怖いんじゃないかと思う。クラスメイトの川上くんは野球部の中でも穏やかな性格だから、クラスでもよく話すのだけれど。

 野球部といえば多くの部員が野球推薦で、寮での生活をしているはず。通いの部員もいるようだけれど、放課後すぐの時間に野球部員が電車に乗っている姿は珍しい。

「あのさ」

 未だ座席にもつかず立ち尽くしていると、くだんの人物から声がかかる。座席に座った倉持くんがこちらを見ている。まずい、考えごとをしながら無意識に彼を眺め続けてしまっていたかもしれない。

「俺の顔に、なんかついてる?」

 座席からこちらを見上げる倉持くんは怪訝そうだ。それもそうだ、自分にとっては顔くらいは見知っている相手だが、倉持くんは私のことをまったく知らないかもしれない。そんな人物に無言で眺められては、心中穏やかでないのは当然である。

「あっ、いえ、ごめんなさい」

 私は咄嗟に倉持くんの座席の前に駆け寄り、頭を下げる。

「野球部の、倉持くんだよね?」

 倉持くんは自分の名前を呼ばれたことに驚いたのか、目を丸くする。

「・・・ああ、ども」

 困惑した様子で小さく頭を下げる倉持くん。ああ、もしかして引かれている?名前を間違えて覚えていなくてよかったけれど、「なんで俺の名前を知ってんだよ」って不気味に思われてしまっただろうか。
 倉持くんは自分の目の前に立ち尽くす私をまた怪訝そうに見上げる。「いつまでそこに立っているんだ」と言いたげな表情だ。

「わたしA組の大森です。一応、同級生」
「ああ、知ってる。ノリの友達だろ」

 さっきから敬語を使われないのは、私が同級生であると倉持くんが知っていたからのようだ。

「ノリ?」
「あ、川上のこと。野球部ではノリって呼ぶやつが多いんだ」

 そういえば白州くんが川上くんのことをノリって呼んでいた気がする。なるほど、野球部って競争のイメージがあって仲悪いのかと思っていたけど、そうでもないのかもしれない。

「つーか、席空いてるし座れば」

 倉持くんに促され、私は彼の隣に腰掛けた。スクールバッグを膝の上に乗せる。首を倉持くんに振り向けると、あれ、どうしてまた目を丸くしているんだろうか。

「・・・ん?」
「いや、隣に座ってくるとは思わなかったから」

 苦笑う倉持くんにハッとする。

「ごめん、迷惑だったかな、わたし思わず」

 私は口元に手を当てて、少しだけ退く。不快にさせてしまったのではと、膝に乗せたスクールバッグを持ち直して立ち上がろうとする。

「別にいいけど」

 ぶっきらぼうな言い方は彼の特徴なのだろうか。やっぱり野球部の人は近寄りがたいなと思いながらも、せっかく隣に座る許可をもらったのだからと私は倉持くんの隣に座り直す。

「野球部さんが電車に乗ってるの、珍しいね」
「ああ、ちょっと用事。グローブの修理に行くところ」

 そう言いながら、倉持くんは足下に置いてある鞄からグローブを取り出す。聞いたところ今日はオフ日なんだとか。

「ここ、紐がだいぶ摩耗しちまってて」

 グローブの人差し指と中指の間にあたる部分を指さす。大切そうにグローブを眺める倉持くん。横顔を近くで見ると、とても端正な顔立ちをしていることに気がつく。さっきは顔つきが怖いだなんて思ってごめんなさい。

「このグローブ、すごく丁寧に手入れしているんだね」
「お、わかるか?」

 私の言葉に倉持くんの声色が高くなる。長い期間使われてきたであろうそのグローブは、経年こそ感じるが艶があり、まったくへたれていない。

「うん、大事に使っているんだなって見てわかるよ」

 倉持くんの彼女はこれくらい大事にしてもらえるのかな、なんてふいに浮かんできた邪念を慌てて振り捨てる。初めて話す相手に何を考えているんだ。

「そうなんだよ、相棒みたいなもんだからな」

 グローブを眺める倉持くんの視線は、まるで愛おしい人に向けるそれみたいだ。

「三鷹にグローブの修理がうまいスポーツショップがあってさ」
「これからそこに行くんだ?」
「そう」

 ついでにマネージャーから買い出しも頼まれた、と倉持くんはポケットから買い物メモを取り出す。メモには女の子の文字でテーピング、ロージンなど消耗品の名称が並んでいる。そういえば、川上くんが幸ちゃんたちに買い出しを頼まれている姿を見たことがあったな。

大森は家に帰るところか?」
「うん、西荻窪まで」

 大森、と呼び捨てにされてその距離感に少しドキリとする。

「わたし帰宅部だから、放課後は暇で」

 毎日練習に明け暮れる野球部のみんなとは正反対で、これといって頑張っていることも得意と胸を張れることもない。青道高校への入学を決めたのも、自宅からそう遠くなかったことと校舎が綺麗だったからという程度。15歳という年齢で、野球をするため一人で上京してくるような覚悟も決心も私にはない。

「倉持くんはすごいね」
「なにが?」
「寮で生活していて、寂しくなったりしないの?」

 純粋な質問だった。私だったらホームシックになってしまう日もあるかもしれない。青道の野球部の練習は相当にキツいと聞くし。

「それはないな。俺、野球すげー好きだからさ」

 倉持くんは真っ直ぐな目でそう答える。ああ、格好良いな。なんて一目惚れみたいに思ってしまう。

「野球があれば他には何もいらないって感じだね」
「そんな大層なもんじゃねーけどさ」
「そうかな、すごく格好いいと思うよ」

「あっ、よかったらこれ、食べる?」

 野球に一途な倉持くんに見惚れてしまいそうになって、気持ちを切り替えるように電車に乗る前に買ったお菓子をポケットから取り出す。「新発売だよ」と袋を開けて中身を差し出すと、倉持くんはまた目を丸くして、ふ、と笑って私からお菓子を受け取ってくれた。

大森って、突拍子のないやつだな」
「え、そうかなぁ、あまりそんなつもりないんだけど」

 ――次の駅は三鷹、三鷹。お出口は右側です。

 車内アナウンスが会話を途切れさせる。西国分寺から10分少々、トキメキの時間の終わりはあっけない。電車は停車準備のため速度を落とす。
 倉持くんは鞄にグローブを丁寧にしまい、肩に掛けながら立ち上がる。

「じゃな、お菓子ごちそうさん」

 電車が停車しドアが開くと、倉持くんはドアの方へ歩いて行ってしまう。私は名残惜しさを握りしめる。ここで見送ってしまっては、せっかくのトキメキをみすみす放り投げてしまうようだ。そんなことを考えている間にも、倉持くんは電車を降りてしまう。
 私は立ち上がり、閉まりかけのドアから勢いよく飛び出した。数歩先にいる倉持くんは驚いてこちらを見る。あ、また目を丸くしている。

「倉持くん、グローブの修理、わたしもついて行ってもいいかな?」
「・・・は?」
「買い物、手伝うからさ」



 グローブの修理は1時間ほどでできるようで、修理を待っている間に倉持くんがマネージャーさんから頼まれた買い物を済ませることにする。

 倉持くんが電車を降りたあと、私も彼を追って降車した。「そこまでされたら断りにくいだろうが」と倉持くんは頭を掻いて、小さく溜息――嫌がっているようには見えなかった、少なくとも私には――をついて、私の同行を了承してくれた。

「野球部の消耗品って、かなりあるんだね」

 買い物カゴには私の想像よりもはるかにたくさんの消耗品が投げ込まれている。これをいつも幸ちゃんや唯ちゃんはやっているのか。みんなすごいなぁ。

「部員も多いからな。今日は俺が電車だから最低限にしてもらった」

 普段は副部長の高島先生に車を出してもらって買い出しをしているらしい。

「会計してくるから、ちょっと待ってろ」

 倉持くんは重たそうな買い物カゴを軽々と持ち、レジへ向かう。私はその背中を見送りながら、先ほどの自分の勇気に賞賛を送る。無理やりだったかもしれないけれど、電車を降りてよかった。こうやって倉持くんと過ごせるのは、なんだか楽しい。


 会計を済ませた倉持くんがこちらへ戻ってくる。買い物袋を持っているかと思いきや手ぶらである。

「グローブの修理が終わるまで預かってくれるって」
「そっか。まだ30分くらい時間があるね」
「ああ、修理が終わったら電話掛かってくる」

 買い物の最中はずっと倉持くんの野球の話を聞いていた。消耗品を手にしながら、これはケガしたときに使うものだとか、投手が球を投げるときの滑り止めに使うものだとか。野球の話をする倉持くんの顔は輝いていた。よほど野球が好きなんだなと、話している表情を見るだけでわかるほどだ。まだまだ彼の話を聞いてみたい。

「よかったら、グローブの修理が終わるまでお茶しない?」

 デートの誘いをするような緊張が走る。「おすすめのカフェがあるから」と付け加えて、さらに「倉持くんの話、もっと聞きたいなって、思って」最後は尻すぼみになってしまう。
 倉持くんは人懐こく微笑むと、「いいぜ」と同意を示してくれた。第一印象の顔が怖い人というのは、もうどこかに吹き飛んでいた。



 甘いものが好きだという倉持くんは、アイスココアを飲みながら私に野球部の話をしてくれる。
沢村くんという寮で同じ部屋の後輩がいてお調子者だけど努力家なんだぜ、とか、3年生の先輩の小湊さんは口は悪いけど守備がとても上手で尊敬できる先輩なんだぜ、とか、小湊さんの弟くんも野球部に入部してなかなかセンスがいいんだぜ、とか。
 チームメイトの話をする倉持くんの目は無邪気に輝いている。彼の表情を見ているだけで、倉持くんがどれだけ野球やチームメイトのことが好きなのかが伝わってくる。

「本当に倉持くんは野球が好きなんだね」
「あ、わりぃ、俺ばっかり喋ってたよな」

 倉持くんはハッとして、申し訳なさそうに声を萎ませた。

「ううん、聞いていてすごく楽しいよ」

 注文したカフェラテに口を付ける。「変なやつ」と苦笑する倉持くんもココアに口を付けた。
 この時間がずっと続いて欲しいな。グローブの修理、明日まで延長にならないかな。ああ、でもそれでは倉持くんが困ってしまう。

「野球部の人ってみんな近寄りがたい印象があったんだけど」
「そうか?」
「うん、みんな怖い顔してるんだもの。倉持くんも怖そうな人だなって思ってた」

 倉持くんはココアの入ったコップを手に持ちながら、私の話に耳を傾ける。

「でも、そんなことないね。倉持くんは、」

 ――優しくて、一途な人なんだね。そう言いかけたところで、倉持くんのスマホが揺れる。きっとグローブの修理が終了した連絡だろう。倉持くんは「わりぃ」と一言、耳にスマホを当てて通話を開始する。「はい、ありがとうございます。これから受け取りに行きます」そんなやりとりに、トキメキの時間はここで本当に終わってしまったんだと理解する。

「修理、終わったって?」
「おう。行くか」

 私からお茶に誘った手前もあって、「お会計してくるね」と言い残して足早に席を立つ。あまりモタモタしていると倉持くんに気を遣わせてしまうかもしれない。背後から「おい、」と声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして会計を済ませた。



 修理を終えた倉持くんのグローブは、革紐が新調され引き締まった面構えをして返ってきた。もとの革紐から色を変えたようで、修理前に見させてもらったグローブとは雰囲気が変わっていた。
 倉持くんは左手にグローブを嵌めて感触を確かめ、修理を担当してくれた店員さんへ「ありがとうございます。すっげー良いです」と頭を下げた。

「よく手入れされたグローブだね。また何かあったらいつでもおいで」
「はい、ありがとうございました」

 倉持くんはもう一度頭を下げ、グローブを鞄にしまうと「じゃ、行くか」と私に視線を向けた。


 スポーツショップから三鷹駅までは目と鼻の先だ。駅の改札をくぐってしまえば、倉持くんは西国分寺へ戻る下り電車、私は上り電車へ乗ることになる。クラスの違う彼と今日みたいに話せる機会なんて、もう二度と訪れないかもしれない。わざわざ隣のクラスまで赴いて倉持くんを呼びつけるなんて、だいぶハードルが高い。

「今日はありがとな。いろいろとご馳走になったし」
「そんな、私こそ無理やりついてきちゃってごめんね」

 名残惜しさでいっぱいで、まるで今生こんじょうの別れのようにさえ感じる。たかが隣のクラス、されど隣のクラス。なんて考えているうちにもう改札口は目の前だ。
 ICカードを順番にタッチして改札をくぐる。電車の乗り口は反対だ、もうここで、お別れなんだ。

「倉持くんと話せて楽しかった。野球、頑張ってね」
「おう。今度は大森の話も聞かせろよな」

 倉持くんは小さく手を振ると、下り電車の乗り場へ降りるためのエスカレーターへ向かってう。私は彼の背中を見送る。いや、このまま見送ってもいいのか、私。倉持くんの「今度は・・・」という言葉が私の背中を押す。

「あの、倉持くんっ」

 彼の名前を呼ぶ。エスカレーターに乗る前に足を止めてくれた倉持くんに駆け寄る。「間もなく下り電車が参ります」駅のアナウンスが流れる。これ以上は彼を足止めできない。それなら、せめて――

 私はスクールバッグからボールペンを取り出す。何か書くもの、と鞄をまさぐるがメモ帳なんて気の利いたものは持っていない。そういえば、とポケットに詰め込んだお菓子のレシートを取り出した。

「もし嫌じゃなかったら、これ。連絡くれると嬉しいな」

 焦りからなのか緊張からなのかはわからないけれど、私は震える手でラインのIDをレシートの裏に書いた。半ば押しつけるように倉持くんにレシートを手渡すと、やっぱり彼は目を丸くしていた。

「ごめん、もう電車来ちゃうね。またね」
「あ、サンキュ、またな」

 さすがの倉持くんも電車の到着に慌てたのか短く返事をすると、駅の階段を駆け下りていった。


**

 入浴を済ませた倉持は、寮の廊下を歩きながら賑やかな一日・・・・・・だったなと今日を振り返っていた。顔と名前を知っている程度の女子生徒と、ほぼ初対面ながら買い物に同行してもらい、カフェでお茶をしながら談笑をしただなんて。まるでデートのようだった、と頭によぎるがすぐに振り払う。
聞き上手な彼女に乗せられて――大森は乗せたつもりはないんだろうが――、つい自分の話ばかりしてしまった。
 帰り際に大森から渡されたレシートをスウェットのポケットから取り出すと、乱雑に書かれた彼女の連絡先を眺めて倉持は溜息をついた。

 ――このID、間違ってんじゃねぇか。

 寮へ帰ってすぐ、彼女へ今日のお礼を伝えようと受け取ったラインIDを登録しようとした。しかし、何度検索し直しても大森のアカウントは出てこなかった。
 からかわれたのだろうか。いや、彼女の表情からしてそんなはずはない。本人が自覚していたか定かではないが、覚悟を決めたようなあの表情が、俺をからかっているだなんて思えない。だからこそ、すぐに連絡をしようと思ったのに。

 倉持は寮の階段を上がると、ある部屋のドアをノックする。室内から「はーい」と声が聞こえて、目的の人物の在室を確認する。

「ノリ、ちょっといいか」
「うん、倉持どうしたの?」

 部屋のドアを開けると、耳に付けたイヤホンを取り外す川上に迎えられる。運が良い、今は部屋には彼一人のようだ。

「あー、ノリさ・・・」

 言い淀んでしまう。大森と同じクラスの川上なら彼女の連絡先を知っているのではと思い足を運んだのだが、ここに来て倉持は冷静になる。わざわざ川上から大森の連絡先を聞いたら、川上にあらぬ疑いを抱かれるのではないかと。
 しかし、ここで保身に入るのはかなりダサい。俺の目的は大森に今日のお礼を伝えることだ。やましい考えなんてない。

大森ってA組にいるだろ。連絡先、知ってるか?」

 川上は倉持の口から女子生徒・・・・の名前が出てきたことに驚いた顔をすると、すぐに口元を緩ませた。やめろよな、その反応。

「うん、知ってるけど。なに、どうしたの倉持」
「何でもねぇから、何も聞かずに大森の連絡先を教えてくれ」

 倉持は川上から視線を外しながら懇願するが、倉持の思いとは裏腹に川上の目は興味ありげに輝いてしまう。

「何も聞かないのはさすがに無理でしょ。ねえ何があったの」

 普段の穏やかな川上なら何も聞かずに頷いてくれそうなものだが、たまに顔を出す強情さは投手特有の我の強さの現れなのだろうか。川上は他言するようなやつではないだろうと、倉持は観念したように今日あったことを川上に話すのであった。


**


 お風呂上がり、スマホを手にすると見慣れないアカウントからラインメッセージの通知が来ていることに気がつく。「誰だろう」と思うより先にメッセージの送り主が倉持くんだとわかったのは、アイコンが見覚えのあるグローブの写真だったからだ。

 まさか今日のうちに連絡をくれるだなんて思ってもみなかった。純粋に嬉しくて、少し手が震える。

 ――倉持です。今日はいろいろとありがとう。今度、昼でも奢る。

 彼らしいメッセージに思わず笑ってしまう。ぶっきらぼうなようで、芯の優しい倉持くんそのままの文章だ。

 ――大森です。こちらこそありがとう。倉持くんから連絡もらえて嬉しい。よかったら明日お昼食べよう!

 かなり攻めた返事に我ながらに肩をすくめてしまう。私はスマホを胸に抱いて、自室のベッドに飛び込んだ。明日はお昼にお菓子を買っていこう。倉持くん、甘いものが好きって言っていたっけ。



おわり
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