水曜日のランチタイム
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電気ケトルのお湯が沸いて、持参しているマイカップにコーヒーバッグを乗せる。今朝も日課のコーヒーを淹れに給湯室に来ている私は、狭い空間で自分なりの癒しの時間を過ごす。
ビニールを開けただけで深入りの香りが鼻をついて、朝の気だるい気持ちをわずかながら前へ向かせてくれる。
「よし、今日も頑張ろう」
コーヒーバッグに第一投のお湯を注ぐと、フィルターの中でふわりと豆が山になる。しばし豆を蒸らす間、また思い出すのはあの日のこと。
彼への愛おしさが溢れて、気持ちが抑えられなかった。お酒の勢いに流されたことも自覚している。胸を刺す思いの正体は、自分の欲情に倉持さんを巻き込んだことへの罪悪感だ。
身体を重ねるたび、心まで委ねてしまう。どんな願いを囁かれても、羞恥を忘れて、彼の全てを受け入れたくてたまらなかった。
倉持さんをもっと知りたいのに、私が知るのは彼の肌の熱だけ。その熱の奥にある彼の心に、いつか触れられたら――
倉持さんは後輩の面倒見が良くて、意外と無邪気に笑う人だ。笑い声は「ヒャハハ」って少し変わっていて、彼の特徴的な笑い方を職場内で知っているのは、たぶん私だけ。野球の話をする彼は生き生きとして魅力的だ。それと、ゲームと格闘技が好き。
「あと、お酒をよく飲む」
これもたぶんだけど、お酒のキャパは私と同じくらい。酔っ払うとスキンシップが増えがちだけど、それは私にだけだったらいいな、なんて思う。
日に日に倉持さんへの関心が高まっていく。
大好きな野球をしているとき、彼はどんな表情をするんだろう。どんなゲームが得意なんだろう。格闘技は、どんな競技が好きなんだろう。
倉持さんの鍛えられた身体を思い出して、熱が上がってきてしまう。ダメだ、またそういうことを考えて。
蒸らしたコーヒー豆に第二投のお湯を注ぐ。抽出されたコーヒーがカップへ落ちる小さな音に、あることを思い出す。忘れていたわけじゃない、けれど、考えることから少し逃げていた事案だ。
「ちゃんと、謝らないと」
初めて飲みに行った日、少年野球チームの試合を観に行く約束をしたものの、それを叶えることはできなかった。
身体を重ねた気まずさからホテルから逃げるように去った私は、それきり彼に謝れずにいた。
仕事中の倉持さんは変わらず優しいけれど、この後ろめたさは小さなトゲが刺さったように、じわじわと痛み続けている。
違えた約束に一歩を踏み出せないのは、あの夜をちゃんと見つめないといけないからだ。ちゃんと話したい、でも倉持さんが同じ気持ちでいてくれているのかわからない。
もし彼があの日のことを忘れたいと思っているのなら、胸の痛みをごまかし続けるうちになかったことにできるのかもしれない。
それでも私は、前に進みたいと思う。もしトゲを抜いて、その穴が塞がらなくなる可能性があるとしても。
心のどこかで「きっと大丈夫」と思えるのは、優しく抱き寄せてくれる彼の手を知っているから。余裕のない表情で甘い息を漏らす彼を知っているから。
「あ、」
考え事のせいで注いだお湯が溢れそうになり、勿体ない気持ちでシンクへコーヒーを流し捨てる。ワークトップに溢さないように、慎重に。
けれど、コーヒーの飛沫が手にかかってしまったのは「おはよ」という眠たげな声が給湯室に入ってきたからだった。
「あつ・・・!」
「わ、悪い。俺のせいか?」
慌てて水道水で手を冷やす。コーヒーくらいの温度で火傷するほど柔な手はしていないけど、彼を心配させないためのパフォーマンスみたいなものだ。
蛇口から流れる水の音を聞きながら、倉持さんに半身を向ける。
「大丈夫かよ、急に声掛けて悪かった」
「いえ、大丈夫です」
「おはようございます、倉持さん」そう言いながら、水道の蛇口を閉める。自分の鞄からハンカチを取り出そうとしたけれど、倉持さんのハンカチが出てくる方が早かった。
「あ、自分のハンカチありますから」
思わず手を伸ばそうとして、遠慮した。
「俺が声掛けたせいで火傷してたら、申し訳ないだろ」
倉持さんなりのお詫びのつもりなのかな、と不器用な優しさに胸の中をくすぐられる。
朝一番のハンカチを濡らしてしまうのは気が引けたけど、これで彼の気持ちが晴れるのならと、ありがたく借りることにする。濡れた手を改めてシンクの中で振って、男性が好みそうなタオル生地の青いハンカチを受け取った。
「ありがとうございます。火傷、してないので大丈夫ですよ」
倉持さんは「それならいいんだけど」と言って、返ってきたハンカチをスーツのポケットにしまった。ジャケットを脱いで鞄に引っ掛けると、いつも通りの格好いいベスト姿になる。
「今朝は早いですね」
「ああ、たまに電車の乗り換えうまくいくんだよ」
「そういうとき、ちょっと特別な気分になりませんか?」
「ん、まあな。会社来たら、またコーヒーの匂いしたからさ、お前いるかなって思ったんだけど」
「驚かせて悪かったな」と申し訳なさそうな倉持さんに、自分の手のひらを見せて「大丈夫ですから」と笑う。
わざわざ私に会いに来てくれたのかな、なんて自惚れかな。
「朝のコーヒーはわたしの日課なんです。いろいろ種類を取り揃えてまして」
用務のおばさんに許可をもらって、給湯室の棚に何種類かコーヒー豆を置かせてもらっている。
その日の気分に合わせて豆を選んでいる、というのはただのお洒落気取りだ。
「よかったらコーヒー淹れますよ。 砂糖とミルクもありますし、愛情込めて淹れますよ」
最後の一言は余計だったかもしれない。
「ああ、せっかくだから淹れてもらおうかな」
「えっ、はい、ぜひ! 今、お湯沸かしますね」
思いもしない倉持さんの返事に驚いてしまう。どんな風の吹き回しだろう、というのはさすがに言い過ぎかな。
倉持さんは「ちゃんと愛情込めろよ」とからかい口調だ。
コップ一杯分ともう少々の水を電気ケトルに注いで、スイッチを入れる。
「本当はマグの方が美味しいんですけど、わたしのマグしかなくて」
給湯室に常備された来客用のカップは煎茶用で、コーヒーマグとして使うには格好がつかない。「別に何でもいいぜ」と倉持さんはこだわりのない様子。
棚の奥から何とか耐熱の紙コップを見つけ出した。
「じゃ、今日はこれで」
あくまで今日は、だ。またこういう機会があったら、次は倉持さん用のマグを用意しておきたいと思った。でも、勝手に買ってきたら、さすがに気味悪がられるだろうかと思いとどまって、仕事帰りに雑貨屋に寄る用事は保留にする。
「今朝のオススメはこちらです」
そう言いながら、先ほど自分が淹れたものと同じ、深煎り豆のコーヒーバッグを倉持さんに見せた。「今朝のオススメ」だなんて言ったって、その選択理由は“私の気分”だ。
倉持さんは私の気取りを見透かしたように「はいはい」と笑った。
お湯が沸いて、コーヒー豆に第一投を注ぐ。しばし豆を蒸らす間の、わずかばかりの沈黙。
倉持さんとこうやって二人になるのは、西川さんの歓迎会以来だ。
深入り豆の芳醇な香りが狭い給湯室に広がる。
二人きりの空間で頭をよぎるのは、彼に抱きすくめられながら「洋一さん」と呼んでしまったこと。倉持さんからの返事はなくて、思い上がった女と嫌われただろうかと不安だった。
でも、二人きりになっても倉持さんは普段通りで、絞るような私の声はきっと彼には届かなかったんだと思う。
ほっとなで下ろした胸の中で、安堵と切なさが織り交ぜになる。
「砂糖とミルク、いくつ入れますか?」
給湯室の引き出しを開けながら倉持さんを見る。
彼は悩んだ表情をして、私を窺うように視線を合わせてくる。
「どっちも入れなくていいや。せっかく淹れてもらったのに、砂糖もミルクも入れたら悪いだろ」
そんな彼の気遣いが嬉しくて「光栄です」と心から笑えた気がした。
「でも、途中で入れたくなったら気にせず使ってくださいね」
言いながら、スティックシュガーとミルクポーションを2つずつ倉持さんの手に乗せる。
彼の普段の砂糖とミルクのあんばいを私は知らない。「コーヒーは苦いからいらない」と断るくらいだから、おそらく甘い方が好きなのだろう。そんな憶測から、あとで足りなくならないように多めに渡したつもりだ。
というか、そもそも倉持さんはコーヒーを飲む人なんだろうか。もしかして、私が何度も勧めるから渋々「淹れてくれ」と言わせてしまったんじゃないだろうか。
「どうぞ」と淹れ立てのコーヒーをおそるおそる手渡すと、倉持さんはその場で一口、コーヒーを口に含む。大丈夫かな、やっぱり苦くて飲めないだろうか。
頭を一巡した不安は、すぐに杞憂に終わった。
「お、うまいな。お前の淹れ方がいいのか?」
「よかった。だてに毎日淹れてないですよ」
冗談ぽく胸を叩いてみせると、倉持さんは「ちゃんと感じるぜ、お前の愛情」と茶化すように笑った。
そして、やや唐突に真剣味のある表情に切り替わった彼のせいで、私の心臓は小さく跳び上がる。
「あのさ」
な、なんだろう。倉持さんは何を言おうとしているんだろう。私は息を呑んで「はい」と返事をする。
「今日の昼、どっか食いに行かね? 一緒に」
思いもよらない倉持さんのお誘いに、驚きで声が出てこなかった。
抽出し終えたコーヒー豆をゴミ箱に捨てながら、返事の言葉を探す。「はい、ぜひ」そんな簡単な言葉すら、気が動転した人間には発せられないものなのか。
私の沈黙を拒否だと感じたのか、倉持さんはバツの悪そうな表情で「嫌ならいいんだけど」と呟く。
「い、嫌なわけないです。行きたいです、倉持さんと、お昼」
上擦った声で返事をすると、倉持さんはほっとした表情をした。
「でもお前、いつも中村と昼行くだろ」
「あっ、真由・・・それがですね、彼女、水曜日は決まった人とランチに行くようになって」
その相手が西川さんだということは、本人がいないところで言及はできない。
歓迎会後にさらに意気投合した真由と西川さん。「ごめんね凪、水曜は西川さんと約束することになったの」と彼女に手を合わされたのはつい先週のこと。
そして、今日がその水曜日。
「今日は一人ランチの予定で、倉持さんに誘ってもらえて嬉しいです」
「じゃ、決まりな」
「はい、どこに行きます? 倉持さん、食べたいものありますか」
倉持さんと一緒にランチに行けるなんて。彼の好きな食べ物、行きつけのお店を知られるチャンスかもしれない。
無意識に胸が躍ったけれど、刺さったままの小さなトゲがチクリと痛んで、浮かれた気持ちは地に着いた。
今日、あの約束のことを謝ろう。きっとこのタイミングを逃したら、次いつ機会が訪れるかわからない。
自分のコーヒーマグに口を付けて、曇りそうになる表情を誤魔化す。「どうしますか?」と首をかしげると、倉持さんは少し考えて、彼もコーヒーを一口啜った。
どこか満を持した表情で、照れくさそうに首を掻く。
「お前の好きなもの食べに行こうぜ」
**
大森からのリクエストは「前に倉持さんがよく行くって言ってたトンカツ屋さんがいいです」だった。
会社から歩いて10分ほどにあるトンカツ屋。加藤さんに連れられたカフェで大森と遭遇したとき、そういえばそんな話をしたなと思い出す。自分ですら忘れていたことをよく覚えているものだと感心して、少しばかりくすぐったい気持ちにもなった。
男ばかりが好むような店だし、ゆっくり話せる場所じゃないと言ったが、「そういうお店、わたし一人では入りにくくて。倉持さんとなら入れるかなって思ったんですけど」とシュンとされてしまい、彼女の意向を受け入れることにした。
結局のところ、ランチタイムのトンカツ屋はやはり混雑していた。男性ばかりの狭い店内、みな黙々とトンカツを口に放っており、店の雰囲気に流されるままに急いで食事を済ませ、店を後にしたのだった。
*
「お前、意外と食うの早いんだな」
「いやもう、必死でしたよ!」
ご飯を少なめにしたとはいえ、倉持の完食後すぐに手を合わせた大森は、苦しそうにお腹をさすっている。
大森の好きなものを食べに行くつもりが、色気のないトンカツ屋になり、ロクに会話もできなかったなと惜しい思いだが、「ロースじゃなくてヒレにすればよかったです」と満更でもない顔の大森を見ると、まあこれはこれでよかったかもしれない、と笑みがこぼれる。
会社までの帰り道、早食いしたおかげで昼休みの終了時間まではまだ余裕があるからと、食後の運動と称して遠回りをして戻ることにした。
自販機でそれぞれ買ったお茶を手にして、オフィス街の裏を並んで歩く。まだランチタイムの真っ最中だからか、裏道ということもあって人影は少なく静かだ。
「あの、倉持さん」
わずかな沈黙を破ったのは大森だった。さっきまでの笑顔が一転、何かを心に決めたような表情。だが、瞳の奥の揺れは隠しきれていない。
「あの時の約束、破ってしまってすみませんでした」
彼女の言う「約束」に思い当たる節が浮かばず、返す言葉が見つからない。
「野球の試合、観に行くって約束したのを破ってしまって」
付け加えられた大森の言葉に、倉持は「ああ」と言葉には出さず納得する。
初めて飲みに行った居酒屋、野球の話をするうちに浮かれた気分で「明日、練習試合だから見に来ないか」と誘った。その瞬間までは、彼女に間近で野球を見せられたら楽しいだろうと、ただ純粋な気持ちで翌日に期待した。大森の笑顔のおかげか、苦い思い出は蘇らなかった。
今思えば、急な野球観戦の誘いに乗ってくれる女性がよくいたものだなと、自分の誘いのセンスのなさに苦笑してしまう。「プロ野球の観戦チケットがあるんだけど」ならいざ知らずだ。だが、彼女は「行ってみたいです!」と目を輝かせてくれた。嬉しかった。
でも結局、お互いに絡み合った視線を解けないままに夜を過ごし、ぎこちない朝を迎えた。
「お前、それずっと悩んでたのか?」
あの日の朝、もしかしたらという思いで観戦の約束を口にしてみた。大森は驚いた顔で固まったかと思うと、表情を強ばらせて泣き崩れそうになっていた。そんな彼女をこれ以上は見ていられなくて、優しさのつもりで逃げ道を与えた。
大森は「はい」と小さく頷く。
「どこから謝ればいいか、俺もわかんねぇんだけどさ」
あんなことがあった後で、平気な顔をして休日を共に過ごせる方がどうかしてる。だからこそ、野球観戦の約束は吹っ切れていたつもりだ。
だがきっと、あの朝の重たい空気は彼女の中で残り続けていて、今日に至るまで悩み続けていたのだろう。
車通りの少ない裏道、背後から乗用車の走行音が聞こえて、歩道側に避けるように彼女の腕を引く。
「野球の約束は、俺も悪かった」
彼女の決心はその表情を見ればわかる。あの日の約束に歩み寄るというのは、つまりあの夜の出来事に向き合うということだ。
大森の手は少し震えていた。その手を握って、抱き寄せたいと思った。だが、そうしてしまっては何も前進しない。お互いに誤魔化してきた気まずさと向き合うのは、今なのかもしれない。
「あんなことがあったら、気まずい気持ちにもなるだろ。お前に約束破られたとか、俺は思ってねぇから」
「・・・よかった。わたし、ずっと謝りたくて」
「謝るのは俺の方だろ。お前じゃねぇよ」
大森と夜を過ごすお膳立てをしたのは自分だ。彼女の思いを確かめたい気持ちで「帰るなら今だけど」なんて格好つけをしてみたが、大森の返事は聞く前からわかっていた。仮に後ずさりされたとして、彼女を帰してやれる自信もなかった。
「そんなことないです。倉持さんは何も、」
きっかけを作ったのは私です、とでも言いたげな表情だ。自信なさげに倉持を見上げる大森は、ついさっきまでロースだのヒレだの言っていた明るさは鳴りを潜めてしまっている。静かなオフィス街の裏道に響くのは、一本横の大通りを走る車の音だけだ。
くそ、こんな表情させたいわけじゃねぇのに。
既成事実が足かせとなって大森の表情を曇らせる。だが裏を返せば、今こうやって並んで歩いているのは、それがあったからだ。彼女が決心してくれたように、自分も前に進む決意を固めなきゃいけない。
「じゃあ大森さ、俺の頼み聞いてくれるか?」
「頼みですか?」
「ああ、それを聞いてくれたら今回のはチャラだ」
そもそもチャラにするような事象すら倉持の中では生じていないが、彼女が踏み出してくれた一歩は、自分たちが前進するための契機だ。
「聞きます! ぜひ聞かせてください」
彼女の瞳に光が差した気がした。「何でもしますから!」といつもの調子が戻ってきた大森に「俺相手に何でもとか言うな」と諭す。
目を見開いて、しまったという表情の彼女に「変な意味じゃねぇからな」と慌てて取り繕った。
「それで、倉持さんの頼みって?」
おずおずと見上げてくる大森の目はどこか縋るようで、どこでもそうやっているんじゃないかと心配になる。
頼み事は一つだけのはずだったのに、そんな顔されたら欲が出てきそうだ。こんなことを言ったら彼女を困らせるだろうか。一抹の不安もあったが、大森ならどちらの頼みも断らないだろうという不思議な自負があった。
「来月さ、また試合があるんだよ。次こそは見に来いよ」
人ってのはこんなにもわかりやすく喜べるものなのか。大森は見るからに嬉しそうに、可愛らしい笑顔で「はいっ」と頷いた。
「それと」
「えっ、まだあるんですか」
「お前、何でもするって言ったよなー?」
からかうように口角を上げてみれば、大森は会社の後輩らしい所作で「はい、倉持さん!」と敬礼をしてみせた。その動きにはキレなんて微塵もなくて、いつもの彼女らしい行動に思わず吹き出してしまう。
「来週の水曜も、俺と一緒に昼食いに行こうぜ」
「水曜の昼は一人なんだろ」と、最もらしい理由を付け加えたのは、思い返すと格好悪かったかもしれない。
「それについては、わたしからもお願いがあります」
大森は嬉しさを噛み締めたような表情をして、言葉を続ける。
「その次も、そのまた次の水曜日も、お昼ご一緒させてもらえませんか」
彼女の表情は、昨夜、自分が見たいと願った笑顔そのものだった。「仕方ねぇな、水曜は空けといてやるよ」と強がりを口にしたのは、無意識の照れ隠しだった。
それでも彼女から視線を逸らさなかったのは、その笑顔をずっと見ていたいと心から思ったからだ。
水曜日のランチタイム 終わり
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