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金木犀の香りがする頃俺は決まって思い出すんだ、あの飾られていた1枚の絵画を
なんとなく、そうなんとなく入った美術館、名前も知らない画家の展覧会で俺は1枚の絵画に目を引かれたんだ、椅子に座る男の人の絵、見た瞬間に綺麗だと思った笑っているのにどこか悲しそうな表情をしてるその男性を、申し訳ないけど展示されていた絵には特に何も思わなかった、ただ上手いなぁと展覧会やるくらいだしそりゃあそうやよねとしか思わなかったのにその絵は特別だった、この男の人誰やろ?モデルさんがいるなら会ってみたいと思った。変だと思うけど俺は絵画の男に一目惚れしたんやと思う。
「これ…タイトルなんやろ」
先程までは一切気にしていなかった作品のタイトル、絵から視線を額縁の下に、そこに書かれたタイトルは
"待ち人"
誰か、待ってる人の絵なんか?だから悲しげなんかな…?俺はその絵の前に数十分いたんやと思う、途中から警備員の人の視線が気になってその場を離れた、そしてあればと思ってポストカードがあるか見にいったものの俺が見ていた絵画のはないらしかった、残念やなぁ…と思いつつその日は家に帰った
次の日美術館の前を通ったら、展覧会は昨日が最終日だったらしく、あの絵画はなかった
絵画に恋をしてから数年、もう一度見たいと思って何度かあの展覧会の画家の名前を調べても検索にヒットすらせず俺が見たのは幻だったか、名前を覚え間違ってたのかと考えてた頃、あの絵画の飾られていた美術館で探していた画家の展覧会が行われるのを知った、それを知ったとき俺は喜んだ、また会えるとまたあの絵に会えると嬉しくなって友達に
「やっと会えるんや!」と言えば、「はいはい…よかったな、本当みことはその絵好きなんだな」少し呆れたように言われた
展覧会初日、待ちに待ったその日は大雨が降っていた、それでも俺は美術館に行ってあの絵を探した
「……あった…」
飾られている作品の中の一番端に飾られた絵画、あの時と変わらない絵にまた目を奪われる
「誰を待ってるんやろ…」
俺はその絵を見ながらそう呟いたら外から大きな雷の落ちる音がして窓の外がピカっと光り驚いて声を上げてしまった
「うわぁ!!」
他にお客さんおらんかったよね?と思ってぐるりと視線を回せば、一人の男性がこちらを見ていたから慌てて謝った
「あ、すいません!」
「ふふっいいよ、ねぇさっき誰を待ってるんだろうって言ってたよね?」
「うぇ…聞かれとった…」
「答え、教えてあげよっか?」
「へ?」
そう言った男性の顔を見れば、それは俺が先程まで見ていた絵画の男性にそっくりで、気づいたら俺はその男性に腕を掴まれていて
「それはね、君だよ」
その言葉を最後に俺の意識はなくなった
平和な町の小さな新聞に一人の行方不明者の記事が載った、美術館に行ったのを最後に行方が知れないと、友人の一人が緑谷すちと言う画家の展覧会に行く、と言っていたと証言しているが、そんなものは存在せず向かったと思われる美術館も数年前に閉鎖されており謎が深まるばかりだった
独りでここにいるのは寂しい、いつまで待ったって現れない待ち人を待つのはもう疲れた、だから俺は君を、俺を見ることが出来た君を待ち人に決めた、数年待てば君はまた俺の前に現れたからもう逃さないとその腕を掴んだ、これでもう独りじゃない