SS


「今日行ったとこ美味しかったねぇ」
「だな、今度はらん誘っていくかな」
「え、いいなぁ」
「お前も誘えばいいだろ、みことなら喜んでくるだろ」

いるまちゃんとご飯に行った帰り道、今日は家に泊まるって約束だから二人でいつもの道を歩く、何時もならその辺の浮遊霊がちょっかいかけてくるんだけど、遠慮してくれてるのか近くに気配は感じるものの寄ってくる気配はしない、何時もこうなら楽なのに

「にしてもこの道、人通らねぇんだな」
「大通りからそれてるからね、昼間もあんまり人いないよ」
「ふーん、そんなもんか」

まぁ…夜に人がいないのは心霊現象が多いからなんだけどさ、いるまちゃん怖がりだし言わないけど……ん?まさかなんかいる?怖がらせに来るくせに幽霊達って臆病だから、なんか自分達より強いのがいて出てこないだけだったりする?そんなことを考えてたら、ヒールのコツコツと歩く音がする。逢魔ヶ時にこの道で女性が一人で歩くの危ないなぁ

曲がり角から長い黒髪でマスクをした女性が俺等を見てこう言った

「ねぇ私綺麗?」

……口裂け女とか…だったりする?

「は?突然何?」
「あーいるまちゃん、待って」
「なんだよ」

「ねぇ?私、綺麗?」

これ、俺が答えるべきだよねぇ…慣れてるのは俺だし、下手するといるまちゃん殺されちゃうし

「うん、綺麗だよ」
「はぁ?なに言ってんだ?」
「これでも?」

そう言って外したマスクの下は案の定、口が耳元まで裂けた顔
口裂け女だねぇ…予想通り過ぎてなんかつまんないなぁ
横では「ひぃっ」って言って俺にしがみつくいるまちゃんいるけど、うん、俺にはこんな可愛い反応できないなぁ…怖くないし

「綺麗だよ、口が裂けてるだけで切れ長な目は綺麗だし髪はサラサラでしっかり手入れしてあるしその赤い服も似合ってるよ」
「えっ…」
「ちょっすち!なに?は?」

俺の言葉に赤面する口裂け女と突然のことでパニックになるいるまちゃん、いるまちゃんってばパニックになるとキレるんだね

「お姉さんは綺麗だよ、恋人の為に綺麗になろうとしたんだもんね、大丈夫お姉さんは外見も中身も綺麗だよ」
「あ、ありがとう…私、あなたが好きよ」

マスクを元の位置に戻して俺達に踵を返し闇の中に消えた
よかったぁ…無事返ってくれた、俺だけならともかくいるまちゃんを巻き込むわけにもいかないからね穏便な方法で終わってよかったな

「…は?」
「いるまちゃん?とりあえず俺の家行くよー」
「え?なに、あれ消えた、けど?は?意味わかんなくてキレそう」
「はいはい、もうキレてるよ…ここじゃ危ないから早く帰るよ」

あんまりにも理解出来なかったのか怯えるを通り越してキレてるいるまちゃんの手を引っ張って帰宅。イライラしながらも手洗ってうがいするあたりいるまちゃん、見た目に反して良い子だよね

「で、あれなに?」
「口裂け女」
「それは、わかってる、そうじゃなくてなんで口説いた?んでなんでアイツ消えた?」
「あぁあれは口裂け女の対処法の一つだよ、本当なら彼女に綺麗って言って赤くなってる時に逃げてもよかったんだけど可哀想じゃん、だから見た目も中身も綺麗ですって返すとお礼言って消えるって聞いてたからそっちにしてみた、消えたのは怪異、だから?」
「……なんでそんなに詳しいんだよ」
「俺にとってはさ幽霊も怪異も人間も変わんないんだよね、何か問題があれば対処するし、対処方法があるなら調べておく、ただそれだけの話なんだ、彼女には何時か会うと思ってたから調べてあっただけ、ね?不思議な話じゃないでしょ?」
「不思議だが??」
「あれぇ?」

えぇ?だめ?事前の対策ってしない?テストの範囲勉強するのと変わんないと思ってたんだけど…

「そもそもな怪異だとか幽霊とか!怖え!なんであんな平然と口説いてんだ!あれが出来て、なんでみことに告白しねぇの!?」
「そ、それとこれとは話が別!」
「あぁ!もう怖え!寝れねぇじゃん!」

むりむりむりむり、あれが怪異だから言えるだけでみことちゃんに告白とかまだむり、頑張ろうとは思ってるけどまだむり!!あっつい、顔あっつい!俺がみことちゃんに好きって?言えない!まだ好きなんて言えない!絶対緊張してどもっちゃうし逃げちゃう、あぁもう怪異より厄介!好き、すき、たった二文字なのに言えない!どうやって、どうやって言えばいいんだよ

「もう!いるまちゃんのせいで俺も寝れないじゃん!」
「知らねぇよ!」
「みことちゃん……うぅどうやったら告白できるのぉ…」
「さっきみたいにさらっと口説き文句言えよ!」
「あれは!怪異だから!言えるの!みことちゃんは別なの!優しいし、格好良くて可愛いくて大好きだけど!でもそんなの本人に言えない!」
「言えよ!」
「むり!」
「アイツ男同士に偏見ねぇだろ!」
「それでも!恥ずかしいし、断られたら俺死んじゃう!」
「めんどくせぇ!!お前なら大丈夫だっての!とっとと告白しろ!」
「いるまちゃんは!らんらんと上手くいってるから言えるの!俺の幼馴染み大事にしてよね!!!泣かしたら幽霊差し向けてやる!」
「やめろ!ガチでやめろ!!」

ギャーギャー二人で騒いで、騒ぎ疲れてベッドに入ったものの俺はみことちゃんにどう告白するかで永遠と悩み、いるまちゃんは怪異を怖がり、二人して理由は違うもののなかなか寝れず、寝たのは深夜…いやあれはもう朝だった外ちょっと明るかったもん

「……まだむり…」
「…こわい、マスクの女こわい…」

今日が休みでよかった、こんな寝不足で学校行ったら授業中寝てるよ…

「おれ、もうすこしねる…」
「……おれもねる」
「「おやすみ」」

起きたものの二人してベッドに逆戻り、起きたときにはお昼を過ぎてて笑った



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