SS
沈む、深く深く…水底に…
身体の重さで自然と落ちていくのをただ流れに身を任せて沈んでゆらゆらと揺蕩う
人間と人魚とのハーフ、身体は人間のようだけど性質は人魚、だから海の中でも息ができるし生活ができるけれど、代わりに暑さに弱くて陸上では暑すぎて長いこと生きていけない、人のような足がある俺は仲間の中では半端者で差別されてるわけではないけど疎外感があって、それが辛くなって自分から離れた、それからはただ海を漂って、誰もいない海でただ歌って、歌って歌って声が枯れるまで、声が枯れれば海を漂って、変わらない日々を過ごしていた
ある日、海を漂ってれば、俺のいたところとは別の人魚の集落を見かけた、人を惑わして船を沈めるのが好き、らしい。俺の歌を聞いてたのか「貴方、脚は変だけどいい声ね、一緒にどう?」っなんて誘ってきたから「俺は趣味じゃないから遠慮するよ」って言って断れば「あら、そうなの?貴方なら簡単に惑わせそうなのに残念、気が向いてたら一緒に歌いましょうね」「うん、気が向いたらね」って彼女らは基本同種には温厚だから、そう言って離れることができた、あぁ人と敵対するようなことをするなんて馬鹿だなぁ討伐対象になって殺されるだけだろうにだって俺達には惑わすことしかできないんだから
しばらく彼女らのいるこの海域で揺蕩ってれば小さな一隻の船を見かけた、船の上で楽しげにしている人達、その中でひと際目立っていた金の髪と蜜色の瞳に一瞬で恋に落ちた、自分でもびっくりした本当に恋に落ちるのって一瞬なんだね…
だから船に近寄って声をかけたんだ
「ねぇ、君たち早くここから離れたほうがいいよ」
突然声をかけたから全員驚いたのだろう戦闘態勢をとったが、すぐに解除してこう言った
「見つけた!翡翠の人魚!」
「え?誰?」
「あんたのことだよ」
「ん?俺のこと、なの?」
聞けば俺は探されていたらしい、いつかはわからないけど何処かで歌っていたところを見られてそれに惚れた王子が探していた、らしい
「じゃあ俺のこと何処か連れてく?」
「本人そこにいるしアイツに聞いて」
「おいっ!ボケッとしてんなお前が探すって言ったんだろ!」
「そうだよ!早くいきなよ!」
「おぁ、だって、昔見た時よりも綺麗になってんやもん!」
「「しるか!いけ!」」
「いい蹴りはいったなぁ…」
バッシャーっンと海に落っこちてきたその人は今まさに俺が恋に落ちた人で、溺れないように慌てて近寄って支えれば顔の近さに顔が熱くなる
「ありがとうね人魚さん」
「え、どういたしまして…」
「あの俺、みことって言います。俺と結婚を前提に付き合ってくれへん?」
「俺はすちっていいます……ん?俺、いま告白……された?えっ…と種族違うけど」
「気にしない」
「俺…地上で数時間しかいれないけど」
「家に専用の場所作るから大丈夫」
「……本気?」
「本気やよ?」
「ならいっか、俺も好きになったところだし末永くよろしくね?人魚の愛は重たいよ?」
「やった!!重たいの大歓迎、すち君!ずっと一緒にいようね!」
「ずっと一緒、だからね」
惚れやすいけど、人魚は一途だよ?昔話のように相手のことを幸せにするために泡になるのを躊躇わないくらいにね、だからずっとそばにいて愛し続けてね