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彼は俺の執事だけれど時々休みをとって何処へ消える
何処へ行ってるのと聞いても決して教えてくれなくて「秘密、ですよ」と悲しげに微笑むから追求なんてできなくて、でも気になってしまう。だからひっそりと後を追ってみることにした、休みと言っても彼も忙しいから休むのは大抵午後だけで今日もそうだった。私服に着替えた彼は屋敷を出て街に降りていく、すれ違う人に声を掛けられ「あの時はありがとね」「いいえ、困った時はお互い様ですよ」なんて会話が複数回、人助けするのは彼らしいなぁと思いながら、いつ?ほぼ俺のそばにいるのに不思議…
彼は街を歩き、途中で花を買って街のはずれへ向かう、あっちには廃墟しかなかった気がするんやけどな、何しにいくんやろ
主が後ろから俺の後を追ってきているのは気づいていた、いつかするだろうとは思っていたから、あぁついにかと思いつつわかりやすいように歩き何時も通り花を買って、廃墟となってしまった我が家と帰る、元々俺は貴族だった幼い頃に母が亡くなって父が宗教に嵌り狂ってしまいそこからは転げ落ちるように我が家は没落した、行き場のなくなった俺に父の古くからの友人であった主の父親に「息子の面倒をみてくれないか?」と声をかけられた、行き場もなかったし彼が良い人なのは知っていたから「私で良ければ」と引き受けてそれからは主のそばにずっといる、最初は勉強やマナーを教える予定だったのが気づけば専属執事になっていて、難しいと言いつつも一生懸命に勉強して「こんなにたくさんのことしっててすごいね!」「おれがんばるから、上手く出来たらほめて!」と無邪気に俺に伝えてくれて「いつもありがとね!」「だいすきだよ!」なんてストレートに感謝や愛を伝えてくれる貴方が好きになっていた、男同士で身分も違う叶わない恋
たどり着いた我が家、ギィっという音がなって開く門、かつて綺麗だった荒れた庭を歩きひっそりとある墓に手に持った花を供えて屋敷の中にはいってくるりとふり返って「みことちゃん隠れてないで出ておいで」と言った
「……バレてたの?」
「何年みことちゃんの執事してると思ってるの、主の行動ぐらいお見通しだよ」
「恥ずかしい!」
「ねぇ、みことちゃんここで俺と踊ってくれない?」
「え、ここで?」
ここはかつての玄関ホール、床はボロボロだしどこかに穴があるのか天井からは光が漏れている、これは俺の我が儘1つの思い出が欲しかった、誰もいないここで彼を独り占めしたかった
「うん」
「なんかわかんないけどええよ」
「ありがとう」
そう言って彼の手を取ってステップを踏む、何度だって彼と練習のために踊ったけれど今日は特別、ステップを踏む音と隙間から差し込んだ夕日でキラキラと輝く瞳、俺だけを見ている蜂蜜色した瞳、夢のようなひととき一生続けばいいのに
空が暗くなったからステップをやめて「帰ろっか」と言って微笑めば
「楽しかった!また踊ろうねすち君」
「うん、また踊ってね」
笑ってそう言ってくれる君にまた俺は惹かれるんだ、貴方を愛しています、叶わない恋だけど秘めた想いはここにおいていくからそばにいることは許してね