短編集
俺はしがないギルドの受付だった、毎日代わり映えのしない依頼を機械的に処理して、たまに起こるイレギュラーに対応して疲れて仲間と飲みに行って愚痴ってから帰ったりするような普通の生活を送っていた、それが少しずつ変わっていったのはあの人に出会ってからだった
「すち君今日もお疲れ様〜これ依頼完了したよ」
「はい、ありがとうございます。こちら報酬です。」
「ありがとう、ねぇこの後飲みに行かない?俺奢るからさぁ」
「すいません、今日は」
「えぇ予定あるの?あぁそっか夜店で好きな物が今売ってるんだよね、いいよそっちでも」
「えっとちょっと今日は用事がありまして」
「そっかぁじゃあしょうがないか、また今度ご飯行こうね」
他の街から応援としてきていた高ランカーの冒険者、俺のどこが気に入ったのかはわからないが「この子気に入ったから俺こっちの街に移住する!!」と宣言して次の日にはこの街の住人になっていた、俺も最初は悪い気はしなかった、気に入ってくれた理由が対応がよかったとか仕事の仕方が好きだとかそういう理由だと思っていたから、でも違った。俺を見る目が触れてくる手が欲を孕んでることに気づいてしまった、手を握って"すち君って可愛いよね"という言葉に、この人が俺をどんな風に見てるかが分かってしまった………違うな、多分俺は気付かされた、わざとそうしたんだと思う。だってその日から俺の持ち物が無くなり始めたから、気に入って使っていた愛用のペン、机に置いてあったハンカチ、ロッカーにしまってあった歯ブラシあげればもっとあるけど俺の私物が少しずつ消えていった、そしてその度に彼から似たような物をプレゼントされた、お世話になってるから、俺があげたいから、買ったけど使わなくなっちゃったから、何かと理由をつけてプレゼントされた。それもギルド内で人が見てる前であまりにも無くしたものとプレゼントしてくるものが同じで俺が気持ち悪く感じていても拒否がしにくいところで渡してくるから受け取るしかなかった。
1回、中身をあけることなくプレゼントを捨てたこともあった、そしたら次の日笑顔で言ったんだ
「あれ似合うと思ったんだけどなぁ」
俺は驚いて言葉が上手く出せなかった、ゴミ箱に捨てただけだから家の外には出してないのにだから誰も知らないはずなのに、なんで?
「また似合うの買ってあげるから今度は使ってね」
「え……」
「あ、これ今日受ける依頼、受付お願いしてもいい?」
「は、はい……」
「ありがとう、じゃあいってきまーす!」
「…ぃってらっしゃいませ」
いつも通りに受付をして手を振って依頼に向かう彼に俺は恐怖した、俺の行動は監視されてる……?そう考えたら鳥肌が立って、気持ち悪くて慌ててトイレに駆け込んで吐いた、彼が俺の欲しいものを的確に把握していて、通勤時たまに会うのも、休日に偶然出会っていたのも、たまにお土産だといって配るお菓子が俺が好きなものだったのも全部知ってたからだと、そう感じてしまったんだ
受付に戻った俺は同僚に「顔色悪いけど大丈夫?今日は仕事多くないし早退する?」と聞かれ申し訳ないと思いつつ早退させてもらい、家にあった彼にもらったものを全て1つの袋にまとめて俺の視界に入らないように物置にしまい、次のゴミ回収の時に捨てることを決めて家に閉じこもった
そしてその日から俺の絶望の日常が始まった
家を出れば彼がいて
「おはよう、せっかく会ったし一緒にギルド行かない?」
と言われ、それが嫌で出勤時間をずらしても彼はそこにいて一緒に行こうと誘ってくる。帰りは会うことはないけれど後ろから誰かがついてくる気配が音がする、高ランカーであれば隠すことだって出来るのに俺が聞こえるようにわざと隠していないのだ、俺が彼を意識するように
俺は彼をなんとも思ってなかった、強い人で街の為に戦ってくれる人でしかなかった、今ではただ怖い自分に異常な感情を向けてくる人で恐怖の対象でしかなかった、でもそれを他人に相談することなんて出来なかった、だって彼は"良い人"だったから
どんな小さい依頼でも必要ならばと受けてくれ
孤児院で炊き出しの手伝いをしていたり
伸び悩んでる後輩がいれば指導をかってでる
困っている人がいれば積極的に助ける
そんな人が俺にストーカーしてて私物を盗んでるなんて考えもしないだろう、きっと周りからは彼が"良い人"だから本当に俺の事を気に入って可愛がってるのだろうと思ってたに違いない、そうじゃなきゃ俺は……
休日の昼下がり、ご飯を食べる気力もなくて家にいても外出しても彼が見てるから変わらない、部屋にいても気分が沈むだけだから外にでれば、彼がいたから
「あの!」
「なぁに?すち君」
「いい加減にしてください、帰りだってずっとつけてきて気持ち悪いんです、もういやなんです、俺のこと」
「ストーカーしないでって?」
「そ、そうです!!」
「じゃあそれを警備隊にいえばいいよ」
「そんなのっ!」
「信じてくれないだろうね、俺は悪人じゃないからね、ただすち君を愛してるだけだよ」
彼の手が頬を撫でて光の灯らない目でそう言った、それが本当に気持ち悪くて早く離れて欲しくて思いっきり突き飛ばした、そしたら抵抗もせずに突き飛ばされて、なんでだろう、俺は運がないんだろうな丸太の尖った柵が突き飛ばした先にあってそれが彼に刺さるのが見えた、しまったと思った時には遅かった、近所の人が叫ぶ声、ザワザワと騒がしく人がどんどん集まってくる、目の前で血を流してるそれをみてやってしまったと頭が理解する前に口からは
「……ころし、ちゃった…?」
とそう呟いていた、そして俺が現実を受け入れる頃には両手には縄がかかっていて見た事のない場所にいて、なんであんなことをした?と聞かれた
「なんで?わかんない」
「いやだっただけ、だから突き飛ばした、そしたら、そしたら?ころしちゃった……」
「ははっ俺、殺しちゃった?あいつ死んだ?やっと、解放されたんだ……もうみられない?ははっやったぁ」
俺の様子を異常だと感じたんだろう、調査をすることになって何故か自宅に帰された、俺は殺人犯ではないのか?それなら牢屋行きではないのかとそう思っていたが自宅に戻されて次の日チャイムの音で起こされて、何故待機するのが牢屋ではなく自宅だったのか理解した。警備隊の中に意地悪い人がいたんだろうな牢屋にいた方がきっと、安全だった。扉越しに「なにか御用でしょうか?」と言えば
「どうして殺したんですか?」
と言う声、それに続けざまに
「なんであの人を殺したの!」
「良い人だったのになんで殺したの!謝ってよ!」
「そうだ、なんであんな良い人を!」
「謝罪しろ」
とそう聞こえた、そんな質問に答えられるわけなく黙って聞こえないふりした
毎日絶え間なく
何があったかを聞いてくる声
俺を責める声
謝罪を求める声
扉をあけて入ってくるわけではない、ただ俺を責めるだけ、謝罪を要求するだけ
「もう、いやだ、おれが、わるいの?やだ、やだ、わるいからおれが悪かったから、もうやめて、いわないで、いやだ、ごめんなさい」
おれがわるいから、あやまるから、やめて、もうせめないで、はやく、はやく、もういいからはやく、おれがわるいって、つかまえてよ、ろうやにいれて
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっごめんなさいおれがわるいこだったから」
「もういやだ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
もう嫌だ、何も考えたくない……なら、どうしたらいい?
あ、そうだ……なんだ簡単なことじゃん
そうだよ、簡単だ
俺は荷物をまとめるために持っていた紐を手に取って
椅子に乗って天井の梁に紐をかけて
外れないようしっかりと結んで
綺麗につくった輪っかに手をかけて
足元の椅子を蹴飛ばした
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