短編集
俺がすち君にあったのは学校の帰り道だった、満月が綺麗に輝く夜道で座り込んでいるのを見つけたのが最初、あんまり人も通らない道やったから体調悪くしとって動けんなら救急車呼んだほうがええかな?って思って声をかけたんよね
「えっと大丈夫ですか?」
「おれ…?」
「はい、顔色も悪いし救急車呼んだほうがいいですか?」
「……お腹すいただけなんでだいじょうぶです」
「お腹すいた…?」
「……いい香りする…美味しそう……いただきます」
ぼんやりとした瞳をした彼は話し掛けるためにしゃがみこんだ俺に抱きつき首すじにカプリッと噛みついて尖った歯が食い込んで肌を破って血が出てるのがわかったけど、痛いと思うより先に必死に血を吸っている声が耳元でして
「んぐっん、ん…」
「声、えっち……」
「っ…は…おいし…勝手に吸って悪いと思うけど第一声がそれ…?」
「せやね…?あれ…?痛くない」
「まぁ…俺の牙は発達してないしすぐ治るから…」
「あれ…ほんまや…」
噛まれたあたりを手でさすれば傷がある様子はなく、指先に少し血がついて血が出てたんだなとわかるくらい
「浅黄君、勝手に吸ってごめんなさい、助かりました。」
「えっと…どういたしまして?…ん?俺名前言ったっけ?」
「気づいてなかった…?俺隣のクラスなんだけど…?言わなきゃよかった…」
確かに良く見れば俺と同じ制服着てるし、見覚えがある顔で…んーと確か緑谷君だっけ…?クラスの女子が緑谷君、格好いいよね!って言ってた気するな…
「間違っとったらごめんやけど、緑谷すち君で合ってる?」
「合ってるよ、なんだ知ってるじゃん…」
「一応?遠目では見たことあったし、女子が格好いいー!って言うとったからね、そんでさ聞きたいねんけど、緑谷君って吸血鬼てやつ?」
「…俺は吸血鬼もどきだよ」
「もどき?」
「今日は満月だから牙があるだけで普段はほぼ人間と変わらない血を飲まないとお腹はすくけどね」
「なるほど…?それでお腹空いて座り込んだったの?」
「まぁそうだね…で、相談なんだけど今日のこと忘れてくれない?」
「うわぁ!」
顔色が少し悪い緑谷君はそう言って俺に体重をかけてきて俺は身体を支えきれずに尻もちをついた
「忘れてくれないなら、…血吸いつくすよ」
「な、なにそれ…」
「情報ばらまかれたら困るからね、それで忘れてくれるのかどうか答えて?」
首を傾げてニッコリと笑う緑谷君、血を飲んだからなのかは分からないけどどこか色っぽく誘われてるように感じてまう、それにさっきのを忘れるのは勿体なく感じる
「忘れないかん…?」
「うん、死にたくないなら」
「緑谷君ってお腹空いてるんだよね?」
「…?うん、滅多に飲まないからお腹は空いてる」
「なら、忘れんかわりに定期的に俺の血吸わん?」
ふと思いついた提案、俺は忘れんでいい、緑谷君はお腹を満たせる、winwinの関係やと思うんよね
「なんで…?」
「忘れんの勿体ないなって思ったから」
「なにそれ?俺は助かるけど…浅黄君美味しかったし…」
「そうなん?ならそうせん?」
「いいけど…」
若干納得がいっていないのか首を傾げている緑谷君に
「よし、決まり!なぁ緑谷君、すち君って呼んでもええ?」
「…食べれるならいっか……いいよ好きな呼び方して」
「好きに呼ぶ!俺のこともすち君の好きな呼び方してええよ」
「なら俺はみことちゃんって呼ぼうかな」
夜の誰もいない道での出会いと約束が俺とすち君のはじめまして、この時は学校を卒業してからも続くような関係になるとは思っていなかったし餌と捕食者の関係からこんな関係になるとは思っていなかった
「みことちゃん、頂戴」
「ええよ、今日はどうする?」
「手首からでいい?」
「ええよ、ナイフ貸して」
「はい」
俺はすち君の希望通りにナイフを使って手首を切れば傷口に唇を寄せてじわじわと溢れる血液を一生懸命に吸うすち君は吸血鬼としては不完全で能力はあるのに血を吸うための牙が成長せずに若干尖っているだけで普段は傷をつけるのが難しい、あの日の夜のように満月であれば血が濃くなる影響で能力があがるらしく牙で傷がつけれるらしいけど…まぁだから普段はこうやってナイフで切って血を飲んでる
「ん、ん、ちゅっ」
コクコクと血を飲むすち君は正直エロい、うっとりとした瞳で唇を赤く染めて、満足すれば傷口を舐めて治してくれるんやけど、またその舐め方もエロいから見てると目に毒だ
「みこと、このまましよ…?」
「飲んだらしたなったの?」
「うん、いいでしょ…」
唇についた血を赤い舌で舐め取って笑うすち君は色っぽい
「その前に」
「キス?」
「そう、してええ?」
「いいよ……みこと好きだよ」
「うぇ…うぅ…あー突然言うんは恥ずかしいからやめてよ…」
「なんか言いたくなったんだよね、顔真っ赤ー可愛い」
「うぅ俺は可愛くなぁい!」
「ははっねぇみことは?」
「俺も好きだよすち」
気づいたら好きになっててそばにいないと落ち着かなくなって、自然と付き合おうかって話してた、出会いは少しおかしなものだったけど今はそれで良かったんかなって思う、そうじゃなきゃ俺はすち君と話すことはなかっただろうから
「すち俺の事食べてくれてありがとうね」
「突然どうしたの?」
「んーあの時会わんかったらこうなってなかったなぁって思って」
「……俺は、あの日より前からみことのこと好きだったよ」
「……まじ…?」
「どっちだと思う?」
「えぇ!!なんでぼかすん!?」
「そっちのが面白そうだから」
「えぇ!教えてよ!」
そうやって言えばすち君は俺の頬を両手で包んで、ちゅっとキスをしてこう言った
「教えない、知りたいなら言わせてみなよ」
それを聞いて俺は絶対に言わせてやることを決めて、今度は俺がすち君の唇を塞いだ