短編集



透き通るような海、青くどこまでも続くような空そんな景色を崖の上から眺める

「ここ景色綺麗だねぇ」
「そうやね」
「ここどうだと思う?」
「ここは人が多すぎひん?」
「あぁ確かに…人に迷惑はかけたくないなぁ…」
「せやろ?違うとこにしよ?」
「じゃあ……次はここいこ」
「ええよ行こか」

観光者がたくさんいるここでは色んな人に迷惑をかける、そう言って視線を景色から俺に視線を向ける、そしてスマホで次の場所を検索して俺に見せてくれる、その様子は普段と変わらない

何があったかは正直わからない、ある日突然すち君と連絡が取れなくなった、2、3日であれば忙しいんやろうなと思ったけど一週間経っても連絡がつかなかったから流石に心配になってすち君の家へ向かった、すち君の家の前、チャイムを鳴らすものの反応がないから家の中で倒れてるんやないかと思って慌てて家の中へ入る

「……すちくん?おる?」

なかから返事はなくて悪いと思いつつ緊急事態やからと部屋の中に入ればソファで座るすち君

「すち君…?」
「……」
「すち?」
「……、っみことちゃん…?」
「勝手に入ってごめんな、大丈夫?」
「…だいじょうぶじゃない」
「何があったん?」
「いいたくない、でももう…しにたいんだ、つかれた、もうやだ」
「死にたいの?」
「うん」
「ほんまに?」
「うん、もういきたくない、さみしいから」
「そっか、ならどっか出掛けよっか?」
「……?なんで?」
「えっと……どうせ死ぬんなら綺麗なとこいかへん?」

自分でも何を言ってるかわからなかったとにかくすち君を生かしたいと少しでも気を逸らせないかと思ってその時は多分言った

「……そうだ、ね」
「せやろ?」

そうして俺とすち君の二人旅が始まった。すち君は死ぬために俺はなんとかしてすち君を生かすために

色んなところ、海や山、川にも行った眺めがいいと言われる場所に行った、その度に理由をつけて死ぬのを止めた、人がいるここだと死にきれない、この場所はすぐに助けがきちゃうよと無い頭をひねって必死に止めた

「結局いいとこ見つからないなぁ…」
「なぁすち君」
「なぁにみことちゃん?」

ぽやんとした表情で首を傾げるすち君、あの日からすち君は笑顔は見せないし表情が変わるかと思えば口元が引き攣るだけで上手く表情が作れてない

「俺のそばはあかんの?」
「みことちゃんの…」
「もうちょっと生きてて欲しいけど俺のそばなら誰にも迷惑かからんよ?」
「みことちゃんには迷惑かけるじゃん」
「俺?俺ならいいよすち君が俺のそばにずっとおってくれるなら」
「……おれは死のうとするよ?」
「ええよ、その代わりその度に俺が止めるけど」
「うん、知ってた…みことちゃんは俺に死んでほしくないんでしょ?」
「そりゃあ当然やろ恋人には生きててほしいやんか」

そう言えばすち君は瞳に涙をためて泣き出してしまった

「ずるい、先に俺を置いてったのみことちゃんなのに…なんで、なんで俺のこと置いてったの連れてってくれればよかったのに、連れてってくれると思ったのになんで俺の前にでてきたの、抱きしめてよ、キスしてよ、頭撫でてよ、なんで死んじゃったの」




最初から気づいてた、目の前にいるみことちゃんは生きてない俺が見てる幻覚なんだと思った幻覚でもいいみことちゃんといれるなら、だから誘われるままに色んなところにいった、死のうとすればみことちゃんが止めるあの頃と変わらない声と表情で

「もう、無理だよ、苦しいの…もうそこにみことちゃんがいると思い込むのは無理だよ、だって触れない、こんなに近くにいるのに、死なせてよみことのそばに逝かせて」
「……俺死んどったんやね…変やと思ったんよ…撫でようとしても撫でれへんし、声もすち君にしか聞こえとらんみたいだったし」
「もういないのみことちゃんはあの日死んだの!即死だったの!俺の助ける暇もなく!暴走した車に跳ねられたのっ」

目の前で跳ねられた君を見た、何が起こったかわからなかった騒がしい音が響いて悲鳴が聞こえて倒れてるのがみことちゃんだと上手く認識出来なくて

「ごめんな」
「謝んないでよ!!みことちゃんは悪くないんだから!俺が現実を何時までたっても受け入れることが出来ないだけ!寂しいの隣にみことちゃんがいないの嫌だ、もうやだっ連れてってよ…」
「それは…」
「嫌なんでしょ、俺のこと生かしたいでしょ…でももう頑張ったんだよ知ってる?みことちゃんが死んで3年経ってるんだ、それでも忘れないの好きだって愛してるって言うみことちゃんの声…ずっとずっと耳に残ってるの……ねぇ…みことぉ…ころして、もうみことがいないのたえられないの」

頑張ったんだ、なんとか立ち直ろうとして生活したものの色んなところにみことちゃんの影が見えて、間違えて2人分の料理作ってたり、そこには誰もいないのにみことちゃんと呼んでしまったり、俺の生活からみことちゃんは消えてくれなかった忘れることが出来なかった、好きな人を覚えていられるのは嬉しいけどそれ以上に心への負担が大きすぎて耐えきれなかった

「もうね、ご飯もね食べても全部吐いちゃうの、だから食べるのやめたのそしたらお腹空かなくなったの、たまに誰か来て無理矢理食べさせてくれたけどそれがなきゃ俺は餓死してたんじゃないかな、でもそれでもよかった…同じとこにいけないかもしれないけどもう辛くないならそれで」
「すち君…わかった」
「みこと…?」
「最初に行った海いこ」
「うん」

夜の海、何もかも飲み込んでしまいそうな黒、月が照らす道をゆっくりと歩いて一番景色の良いところに

「すち君、ごめんな…置いてって」
「許さない」
「許さんでええよ」
「早くみことのそばに連れてってよ」

崖の上、地面のないところに浮かぶみことが腕を広げて俺を呼ぶ

「おいで……すち、愛してるよ」
「俺もみことのこと愛してる」

なにもないとこに、みことの胸に飛び込むように身を投げる、触れはしないすり抜けてしまったけどどこか暖かい気がした

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