短編集
置いていくのは俺だと思ってたのに、すち君は俺に1つの呪いをかけてこの世から去ったんだ
すち君と初めて会ったのは俺が新米の冒険者で初めての討伐依頼をした時だった、その時すち君は監督役として俺についてくれたんだ
「納品依頼ね…はい、確認したよこれ報酬」
「ありがとうございます!これでやっと討伐依頼できるんやね!」
「そうね、一応もう受けられるけど…貴方誰か知り合いに冒険者いる?」
「おらへんよ?」
「一番最初はC級以上か3年以上冒険者やってる人に監督してもらわなきゃいけないのよねぇ」
「ギルド側で手配できんの?」
「できるわよ時間かかるけど、いいかしら」
「うぇ…早く行きたいんに…」
そうやってギルドで受付のお姉さんとお話してるとギルドの戸が開いてこの辺では珍しいエルフの男性が入ってきた
「あら、おかえりなさい、依頼の報告ね」
「ただいまぁ…これ書類…はぁ俺しばらく護衛なんてやらない…ねぇ簡単な依頼とか残ってない?」
「……ならこの子の監督やらない?」
「ん?」
受付のお姉さんと話始めたその男性と目が合った、綺麗な赤の瞳がじっとこっちを見つめてくるエルフって美人さん多いって聞くけどほんまなんやなぁ…
「珍しーこのギルドに新人!いいよ行ってあげる」
「貴方ラッキーね、この人うちのギルドの最強よ」
「うぇええ!!ええの!そんな人に監督してもらうとか!」
「いいの、いいの俺長いこと生きてるだけだからそんなに強いわけじゃないし、たまにはこういうことしなきゃねぇ、君名前なんていうの?」
「俺みことって言います!」
「みこと、みこと…みことちゃんね、俺はすち、よろしくね」
ニッコリと微笑みながら手を差し出してきてくれたその手に俺はそっと手を合わせて握手をした
「じゃ依頼ちょうだい」
「はいこれゴブリン討伐任務いってらしゃい」
「うぇ!もういくん!?」
「いくよー」
そのままの流れで討伐依頼に向かいボロボロになった俺とそんな俺を笑いながらも回復魔法をかけてくれるすちさん
「あははっ!みことちゃん剣使うの下手、最初からそれなら剣は向かないよ」
「えぇ!そんなこと言わんでくださいよ!」
「みことちゃんはねぇ盾のがいいよ」
「へ…?たて?」
「そう、盾使ってみなよ……んっと俺持ってたっけ…」
ガサゴソと鞄の中を漁るすちさん、あれマジックバックか…ええなぁいっぱい物入るんかな
「あ、あったこれあげるよ俺使えないし」
そうやって渡された物は明らかに初心者の俺にはもったいないであろう高価そうな盾
「受け取れませんっ!絶対それ高い」
「んー?俺が持ってても宝の持ち腐れだし…そうだなぁじゃあ出世払いってことでこれ使い熟せるくらい強くなって俺とパーティでも組もうよ、ソロ飽きてきたんだよねぇ他の人達は既にパーティ組んでるし既存パーティに入るのは面倒事ありそうで嫌だからさ」
てことで、はいあげるっと盾を渡される…それって俺にパーティ組まずに盾で強くなれってこと…無理やない?
「……すちさん、俺のこと強くしてくれん…?」
「それは面倒だから嫌、まぁたまに依頼手伝ってあげる
からその時にアドバイスしてあげる」
「とりあえず使い方教えてください…」
「それぐらいならいいよ、あと俺に敬語とかいらないからね、みことちゃん敬語苦手でしょ」
「う、バレとった…」
俺とすち君の出会いは偶然的だった、あの時あの場所で会わなかったら俺は剣をずっと使っていただろうし盾を使おうなんて思わなかった、剣は向かないと言われ押し付けるように渡された盾は本当に高価で成長した今でも使えるレベルの性能があった、だから今も変わらず使い続けてる、守りきれなかったくせに
俺はすち君と出会って盾を渡され少しづつ強くなっていった、順調にランクをあげ時折すち君と依頼受けてアドバイスをもらい強くなった、そして俺がすち君の隣立てるようになるには10年はかかった、10年かけてようやくそばで戦えるようになって更に数年かかって前衛を任せてくれるようになった
「みことちゃん強くなったねぇ…」
「すち君がスパルタやったからね」
「そう?」
「そうだよ!アドバイスしかくれへんのに強くなれって大変だったよ!それに盾でソロってキツイんよ!」
「はは!ごめんねぇあの頃は本当にパーティ組んでくれるとは思ってなかったんだもん」
ケラケラと笑うすち君は可愛らしい俺よりずいぶんと歳上なのに笑う時は子供のように無邪気な笑みを浮かべてる、俺はそんなすち君が好きだった恋愛感情としてすち君のことが好きだった、でもそれを伝えることはしないと決めていた。だって俺は人間ですち君はエルフだ、もし想いが通じ合っても俺は置いていってしまうから、そう思っていたのに
「みこと!!」
「うわぁ!!なんでこんなとこにドラゴンなんおるん!!!」
「知らないよ!!どうにかして倒すよ!もう!本当になんでこんな浅い階層にいるの!」
ダンジョンの浅い、初心者も来るような階で突然現れたドラゴン、何の準備をしないで倒すのは難しくてお互いに増える傷やっとのことでドラゴン追い詰めて最後の一撃、すち君の魔法でドラゴンの首が落とされて、緊張の糸が切れた
「はぁ…はぁ…やっと終わった」
「お疲れみことちゃん」
「すち君もお疲れ様、今日はもう帰ろっか」
予定を変更して帰ろうとしていれば
「みこと!!」
すち君の俺の名を呼ぶ声に振り返れば、すち君の胸に突き刺さる剣とその後ろに見えた黒い影
「、大丈夫?みことちゃん」
「何言ってんの!!俺より自分のことやろ!!」
「はは…咄嗟に動いちゃったなぁ…シャドウアサシンとか…久々に見たよ…ちゃんと殺せたかな…」
その言葉に周囲を確認すれば消失していく黒い影、そして消失とともに消えていく突き刺さった剣、剣が消えたことによってそこから血が溢れ出す
「黒い影やったら消失してる」
「…、そっか…なら大丈夫だね…」
「すち君、治療しよ」
「むり、だよ…魔力空っぽなんだ…それに回復薬も、ない、」
「なら上まで俺が」
「もたないよ、あぁ…ヘマしたなぁ……こんなつもりじゃなかったんだけど」
胸を抑えながら立ってるのが辛いのか座り込むすち君は弱々しい仕草で手招きするから近づいて同じようにしゃがみ込む
「……ねぇみこと」
「なぁに…すち君」
「、すき、だよ」
「え…」
「いわないで、しぬのはいやだったから…」
「俺も好きだよ」
そう言えば驚いたように目を見開いてから顔に笑みを浮かべた
「うれし、いな…もっ、と、はやくいっておけば、よかった」
「すち君…今なら間に合うかもしれんから…上まで連れて」
「だめ、あい、つのけんどくあるんだ…おぼえ、ときな」
「…」
「へん、じ、」
「…っわかった」
「いいこ、っ、カハッ」
「すち君!!」
「……はぁ、はぁ、みこ、と」
血を吐いて倒れるように俺にもたれかかったすち君は俺の耳元で掠れた声で囁いて息を止めた
「ほんま、ひどいなぁ…」
すち君を抱えて地上に上がり浅い階層でのドラゴンとシャドウアサシン出現と討伐完了の報告をして、その後はあまり覚えてない、気づいたら全て終わっていた、棺桶で眠るすち君を見てこれで最後なんだとこの顔を見ることが出来るのは最後…そう考えて目から涙がこぼれ落ちてようやくすち君が死んだんだと頭が理解した、その日は涙が枯れるまで泣いた
「俺がいくまでまっとってね…」
自分でも残酷なことを言ったと思う、置いていかれる辛さを知りながらも彼に
「自殺したら許さない」
ってそう言ったんだ、追いかけて来ちゃいそうだったから、俺は長いこと生きたから良いけれどまだみことちゃんは若い、辛いかもしれないけど生きていてほしい、色んなことを物を見てほしい、俺の墓の前で泣きそうな目をして花束を持ったみことちゃんを見ながらそう思うんだ
俺はそばにいるから
ちゃんと待ってるから
ゆっくりでいいよ
だから…また会えたときにはもう一度この想いを伝えさせてね