短編集



あれは暑い夏の日の事だった

体育館裏で3年の先輩に告白された

私は迷うことなく付き合うことを決めた。だって私も好きだったから両思いだったんだって嬉しかった、先輩は格好良かったし学校でも人気者だったから付き合うなんて無理だろうと思ってた。でもそれが叶って叫びだしたいくらいに嬉しかった

私は初めての彼氏で浮かれてた、彼が望んだからできるだけ一緒にいたし、ショートのほうが好きだって言ったから髪も切った少ないけれどいた男の友達にもあまり話さないようにした、でもある時友達に

「ねぇ、聞きたくないだろうけどさ…あの先輩…悪い噂あるから気をつけてね?」

て心配そうな声色で言われた。私はそれになんて答えたんだっけ…"気をつけるね"だったかな、その時の私は優しい先輩に限ってそんなことはないよ、と思いながらそう答えた気がする

先輩は3年だったから卒業したら寂しくなるなぁ嫌だなぁて私はそう思ってたし直接伝えた。先輩の家で勉強を教えてもらって休憩してる時に伝えたんだ 

「学校、先輩がいないと寂しくなるなぁ…」
「お前そういうとこ可愛いよなぁ」
「そういうとこってなんですか!」
「なぁ、すち」
「なんですか?」
「お前って頭良いのに馬鹿だよなぁ」

そう言って先輩は笑って私の肩を押した、この時に気づいてたら、いや私は気づいてたんだ信じたくなかっただけ、なんとか見てもらおうとそばにいようとしたしわかりやすく寂しがった、あまり乗り気じゃなかったけど先輩がしたいって言ったから身体を許した、初めての時は痛いし苦しいしで良いことなんてなかった、でもこういうものなんだなって思ったんだ、だって他なんて知らなかったから

先輩が卒業する前に私達の関係は終った、わかってた私は本命じゃない先輩の行くあの大学に行ったあの人が好き、気づいてたよ、先輩はロングが好きで歳下じゃなくて歳上が好き、私みたいに暗い子じゃなくて明るい子が好き、先輩は私のことなんて好きじゃない、全部気づいてた

先輩に呼ばれて体育館裏で「別れてくれないか」と言われた時にあぁ言われちゃった、と冷静に受け止めた自分にびっくりした

「…いいですよ」
「随分物分かりがいいんだな」
「知ってましたから、それで先輩の後ろにいる人達は噂の、ですか?」
「俺の友達だよ、お前寂しがり屋だろ相手してくれるってよ」
「…信じたかったのに先輩の馬鹿」

体育館裏なんて誰も来ない、数人の男子生徒に囲まれて女の私が逃げることなんて出来なかった、あぁ言われてたのにね知ってたのにね、先輩が良い人じゃないことなんてわかってた

「あぁ可哀想、捨てられちゃったね」
「この子美人なのに勿体ねぇ」
「君、これからどうするの?俺等が可愛がってあげよっか?」

どうしようか、本当は別れたくなんてなかった、好きだって言ってほしかった、付き合い始めてから一度も言われなかった、好きだと言ったのは私だけ、嘘でもいいから言ってほしかった、あなた達は言ってくれる?

「可愛がってくれるんですか?」
「お、乗り気じゃん」

馬鹿だな言ってくれるわけないじゃん、だってこの人達はヤりたいだけだもの、でもいいか、どうでもいいや先輩の代わりに抱いてくれれば

先輩達が卒業するまで時々呼び出されて、抱かれて心が軋む音が聞こえてそれを痛みで誤魔化した、先輩と付き合ってる時にも同じ事をした、先輩の気持ちに気づくたびに増えてった、気づいてくれないかな、心配してくれないかなってわざとらしく包帯を巻いた、でも今は隠すのも面倒で赤くなった手首を放置してる、どこかでナニか言われた気がしたけど無視をした、どうせ叶わない

先輩達が卒業して呼ばれることもなくなり淡々と日々を過ごした、手首の赤は消えることはない薄くなった頃に自分で増やすから、そんな私を友達は心配そうに見て「大丈夫?」と言うけれどそれに私は「だいじょうぶ」と返して心の中で、放っておいてと言った

立入禁止と書かれた札を無視して取っ手に手をかける、ここに鍵はついてるけど平日は閉まってないと先輩が教えてくれた場所、防犯的にどうなんだろと思いつつ扉を開く、夕陽に染まる学校の屋上、私はスカートが汚れるのも気にせず座り込む

「私何がしたいんだろ……何もわかんないな…」

スマホに残る先輩の名前、連絡くることなんてないのに消すことが出来なくてずっと残ってる、未練たらたらでずっと引きづってる、しばらくそこでぼうっとして立ち上がりスカートの汚れを払って一人家路につく

帰り道の踏切、カンカンと鳴り響く音が耳に残る、このまま飛び込んじゃえば楽になるかなという考えが頭をよぎるけど実行する勇気は私にはなかった


夏休みに入る前に告白された。後輩に「俺と付き合ってください!!」と大きな声で言われた、以前の私なら「考えさせて」て言ったと思うけど、私はその告白に「ごめんね、私誰とも付き合う気ないの」そう返して後輩の横を通り過ぎた

だってもう私にはその気持ちに応えてあげられない、"好き"が良くわからない、あの頃の純粋に先輩が好きだった気持ち、ぐるぐるとずっと考えてたらわからなくなった、それに何も知らなさそうな後輩に私と関わって欲しくなかった

夏休みが終わってからまた後輩に告白された、当然断った。
何度か告白されたけど全て断った、告白されるたびにこんな純粋な子が私なんかと、私じゃ駄目だと思ったの

そして何度目かの彼の告白に私は「いい加減にして、私はもう誰とも付き合わない!」と言って逃げ出した、やめて、私は一人でいい!一人でいいの!

君が何と言おうと私は一人でいいの、最初から一人ならそれなら悲しい思いなんてしない"死にたい"なんて思わない、"助けて"ほしいなんて考えてない"愛して"欲しいなんて考えない、だから

「私は一人で生きていく」





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